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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

未熟児網膜症事件・診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準

 

 

              損害賠償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/平成4年(オ)第200号

【判決日付】      平成7年6月9日

【判示事項】      一 診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準

             二 昭和四九年一二月に出生した未熟児が未熟児網膜症にり患した場合につきその診療に当たった医療機関に当時の医療水準を前提とした注意義務違反があるとはいえないとした原審の判断に違法があるとされた事例

【判決要旨】      一 新規の治療法の存在を前提にして検査・診断・治療等に当たることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては、当該医療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであり、右治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており、当該医療機関において右知見を有することを期待することが相当と認められる場合には、特段の事情がない限り、右知見は当該医療機関にとっての医療水準であるというべきである。

             二 昭和四九年一二月に出生した未熟児が未熟児網膜症にり患した場合につき、その診療に当たった甲病院においては、昭和四八年一〇月ころから、光凝固法の存在を知っていた小児科医が中心になって、未熟児網膜症の発見と治療を意識して小児科と眼科とが連携する体制をとり、小児科医が患児の全身状態から眼科検診に耐え得ると判断した時期に眼科医に依頼して眼底検査を行い、その結果未熟児網膜症の発生が疑われる場合には、光凝固法を実施することのできる乙病院に転医をさせることにしていたなど判示の事実関係の下において、甲病院の医療機関としての性格、右未熟児が診療を受けた当時の甲病院の所有する県及びその周辺の各種医療機関における光凝固法に関する知見の普及の程度等の諸般の事情について十分に検討することなく、光凝固法の治療基準について一応の統一的な指針が得られたのが厚生省研究班の報告が医学雑誌に掲載された昭和五〇年八月以降であるということのみから、甲病院に当時の医療水準を前提とした注意義務違反があるとはいえないとした原審の判断には、診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準についての解釈適用を誤った違法がある。

【参照条文】      民法415

             民法709

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集49巻6号1499頁

 

 

民法

(債務不履行による損害賠償)

第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。

一 債務の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

 

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

いわゆる囮捜査はこれによつて犯意を誘発された者の犯罪の成否に影響するか

 

 

麻薬取締法違反被告事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和27年(あ)第5727号

【判決日付】      昭和29年11月5日

【判示事項】      いわゆる囮捜査はこれによつて犯意を誘発された者の犯罪の成否に影響するか

【判決要旨】      いわゆる囮捜査は、これによつて犯意を誘発された者の犯罪構成要件該当性、責任性若しくは違法性を阻却するものではない。

【参照条文】      麻薬取締法3-1

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集8巻11号1715頁

 

 

麻薬及び向精神薬取締法

(免許)

第三条 麻薬輸入業者、麻薬輸出業者、麻薬製造業者、麻薬製剤業者、家庭麻薬製造業者又は麻薬元卸売業者の免許は厚生労働大臣が、麻薬卸売業者、麻薬小売業者、麻薬施用者、麻薬管理者又は麻薬研究者の免許は都道府県知事が、それぞれ麻薬業務所ごとに行う。

2 次に掲げる者でなければ、免許を受けることができない。

一 麻薬輸入業者の免許については、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号。以下「医薬品医療機器等法」という。)の規定により医薬品の製造販売業の許可を受けている者

二 麻薬輸出業者の免許については、医薬品医療機器等法の規定により医薬品の製造販売業又は販売業の許可を受けている者であつて、自ら薬剤師であるか又は薬剤師を使用しているもの

三 麻薬製造業者又は麻薬製剤業者の免許については、医薬品医療機器等法の規定により医薬品の製造販売業及び製造業の許可を受けている者

四 家庭麻薬製造業者の免許については、医薬品医療機器等法の規定により医薬品の製造業の許可を受けている者

五 麻薬元卸売業者又は麻薬卸売業者の免許については、医薬品医療機器等法の規定により薬局開設の許可を受けている者又は医薬品医療機器等法の規定により医薬品の販売業の許可を受けている者であつて、自ら薬剤師であるか若しくは薬剤師を使用しているもの

六 麻薬小売業者の免許については、医薬品医療機器等法の規定により薬局開設の許可を受けている者

七 麻薬施用者の免許については、医師、歯科医師又は獣医師

八 麻薬管理者の免許については、医師、歯科医師、獣医師又は薬剤師

九 麻薬研究者の免許については、学術研究上麻薬原料植物を栽培し、麻薬を製造し、又は麻薬、あへん若しくはけしがらを使用することを必要とする者

3 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことができる。

一 第五十一条第一項の規定により免許を取り消され、取消しの日から三年を経過していない者

二 罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた後、三年を経過していない者

三 前二号に該当する者を除くほか、この法律、大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)、あへん法、薬剤師法(昭和三十五年法律第百四十六号)、医薬品医療機器等法、医師法(昭和二十三年法律第二百一号)、医療法その他薬事若しくは医事に関する法令又はこれらに基づく処分に違反し、その違反行為があつた日から二年を経過していない者

四 心身の障害により麻薬取扱者の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの

五 麻薬中毒者又は覚醒剤の中毒者

六 法人又は団体であつて、その業務を行う役員のうちに前各号のいずれかに該当する者があるもの

 

 

 

       主   文

 

 原判決並びに第一審判決を破棄する。

 本件を横浜地方裁判所に差戻す。

 

       理   由

 

 東京高等検察庁検事長花井忠の上告趣意について。

 いわゆる囮捜査は、これによつて犯意を誘発された者の犯罪構成要件該当性、責任性若しくは違法性を阻却するものでないことは、既に、当裁判所の判例とするところである。(昭和二七年(あ)第五四七〇号同二八年三月五日第一小法廷決定)。とすれば、本件被告人の麻薬所持の行為をもつて、いわゆる囮捜査にもとづくものであるが故に犯罪行為としての反社会的危険性を欠くものとして、被告人に対し無罪を言渡した第一審判決を維持した原判決は法令の解釈を誤り、前示当裁判所の判例に違反するものと云わなければならない。論旨は結局理由あり、原判決及び第一審判決は破棄を免れないものである。

 よつて刑訴四一〇条四一三条を適用し、全裁判官一致の意見をもつて主文のとおり判決する。

 検察官 安平政吉出席

  昭和二九年一一月五日

     最高裁判所第二小法廷

 新株発行が著しく不公正な方法により発行されたものであったとしても新株発行の無効原因とはならないとされた事例

 

東京高等裁判所判決/平成18年(ネ)第5429号

平成19年3月29日

新株発行無効請求控訴事件

【判示事項】    新株発行が著しく不公正な方法により発行されたものであったとしても新株発行の無効原因とはならないとされた事例

【判決要旨】    新株発行について、適法に官報公告がされている以上、仮に著しく不公正な方法により発行されたものであったとしても、無効原因にはならない。

【参照条文】    旧商法280の3

          会社法201-3

          会社法201-4

          旧商法280の15

          会社法828

【掲載誌】     金融・商事判例1266号16頁

 

 

会社法

(公開会社における募集事項の決定の特則)

第二百一条 第百九十九条第三項に規定する場合を除き、公開会社における同条第二項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条の規定は、適用しない。

2 前項の規定により読み替えて適用する第百九十九条第二項の取締役会の決議によって募集事項を定める場合において、市場価格のある株式を引き受ける者の募集をするときは、同条第一項第二号に掲げる事項に代えて、公正な価額による払込みを実現するために適当な払込金額の決定の方法を定めることができる。

3 公開会社は、第一項の規定により読み替えて適用する第百九十九条第二項の取締役会の決議によって募集事項を定めたときは、同条第一項第四号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては、その期間の初日)の二週間前までに、株主に対し、当該募集事項(前項の規定により払込金額の決定の方法を定めた場合にあっては、その方法を含む。以下この節において同じ。)を通知しなければならない。

4 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

5 第三項の規定は、株式会社が募集事項について同項に規定する期日の二週間前までに金融商品取引法第四条第一項から第三項までの届出をしている場合その他の株主の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合には、適用しない。

 

(官庁等の法務大臣に対する通知義務)

第八百二十六条 裁判所その他の官庁、検察官又は吏員は、その職務上第八百二十四条第一項の申立て又は同項第三号の警告をすべき事由があることを知ったときは、法務大臣にその旨を通知しなければならない。

 

第26章 今後の検討課題

(1)2018年改正法の衆参両院の附帯決議では、専門調査会報告書で今後の検討課題とされた諸論点を引き続き検討すべきことが規定されました。特に専門調査会報告書で立法提言されながら立法に至らなかった9条1号の改正(平均的損害の立証責任の負担軽減)、および、内閣府消費者委員会の答申書で喫緊の課題とされた「つけ込み型不当勧誘取消権」の創設については、2018年改正法の成立後2年以内に必要な措置を講ずべきことが規定されました*。

(2)上記の附帯決議を受けて、消費者庁で2019年2月から「消費者契約法改正に向けた専門技術的側面の研究会」が始動しています。

附帯決議とさらなる法改正に向けた動き

* 

消費者契約法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(2018年6月6日参議院消費者問題に関する特別委員会)

https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/196/f421_060601.pd

 

ファッションショー事件・被控訴人Y1は,同Y2の従業員を介し,控訴人らが開催したファッションショーの映像の一部をテレビ番組で放送し,控訴人会社X1の著作権(公衆送信権)・著作隣接権(放送権)を,控訴人X2の著作権・人格権(氏名表示権)を各侵害したとして,共同不法行為責任に基づく損害賠償を求めた事案。

 

 

損害賠償請求控訴事件

【事件番号】      知的財産高等裁判所判決/平成25年(ネ)第10068号

【判決日付】      平成26年8月28日

【判示事項】      被控訴人Y1は,同Y2の従業員を介し,控訴人らが開催したファッションショーの映像の一部をテレビ番組で放送し,控訴人会社X1の著作権(公衆送信権)・著作隣接権(放送権)を,控訴人X2の著作権・人格権(氏名表示権)を各侵害したとして,共同不法行為責任に基づく損害賠償を求めたところ,原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却したため,控訴人らが控訴した事案。

控訴審は,本件ファッションショーのうち本件影像部分に表れた部分において,控訴人らが著作権者であるとは認めらない等とし,同部分の放送が「その実演」(著作権法92条1項)を公衆に提供・放送する場合に当たらない等として,各控訴をいずれも棄却した事例

【掲載誌】        判例時報2238号91頁

 

 

著作権法

(定義)

第二条1項 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

 

九の六 特定入力型自動公衆送信 放送を受信して同時に、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することにより行う自動公衆送信(当該自動公衆送信のために行う送信可能化を含む。)をいう。

九の七 放送同時配信等 放送番組又は有線放送番組の自動公衆送信(当該自動公衆送信のために行う送信可能化を含む。以下この号において同じ。)のうち、次のイからハまでに掲げる要件を備えるもの(著作権者、出版権者若しくは著作隣接権者(以下「著作権者等」という。)の利益を不当に害するおそれがあるもの又は広く国民が容易に視聴することが困難なものとして文化庁長官が総務大臣と協議して定めるもの及び特定入力型自動公衆送信を除く。)をいう。

イ 放送番組の放送又は有線放送番組の有線放送が行われた日から一週間以内(当該放送番組又は有線放送番組が同一の名称の下に一定の間隔で連続して放送され、又は有線放送されるものであつてその間隔が一週間を超えるものである場合には、一月以内でその間隔に応じて文化庁長官が定める期間内)に行われるもの(当該放送又は有線放送が行われるより前に行われるものを除く。)であること。

ロ 放送番組又は有線放送番組の内容を変更しないで行われるもの(著作権者等から当該自動公衆送信に係る許諾が得られていない部分を表示しないことその他のやむを得ない事情により変更されたものを除く。)であること。

ハ 当該自動公衆送信を受信して行う放送番組又は有線放送番組のデジタル方式の複製を防止し、又は抑止するための措置として文部科学省令で定めるものが講じられているものであること。

 

(氏名表示権)

第十九条 著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。

2 著作物を利用する者は、その著作者の別段の意思表示がない限り、その著作物につきすでに著作者が表示しているところに従つて著作者名を表示することができる。

3 著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる。

4 第一項の規定は、次の各号のいずれかに該当するときは、適用しない。

一 行政機関情報公開法、独立行政法人等情報公開法又は情報公開条例の規定により行政機関の長、独立行政法人等又は地方公共団体の機関若しくは地方独立行政法人が著作物を公衆に提供し、又は提示する場合において、当該著作物につき既にその著作者が表示しているところに従つて著作者名を表示するとき。

二 行政機関情報公開法第六条第二項の規定、独立行政法人等情報公開法第六条第二項の規定又は情報公開条例の規定で行政機関情報公開法第六条第二項の規定に相当するものにより行政機関の長、独立行政法人等又は地方公共団体の機関若しくは地方独立行政法人が著作物を公衆に提供し、又は提示する場合において、当該著作物の著作者名の表示を省略することとなるとき。

三 公文書管理法第十六条第一項の規定又は公文書管理条例の規定(同項の規定に相当する規定に限る。)により国立公文書館等の長又は地方公文書館等の長が著作物を公衆に提供し、又は提示する場合において、当該著作物につき既にその著作者が表示しているところに従つて著作者名を表示するとき。

 

(放送権及び有線放送権)

第九十二条 実演家は、その実演を放送し、又は有線放送する権利を専有する。

2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。

一 放送される実演を有線放送する場合

二 次に掲げる実演を放送し、又は有線放送する場合

イ 前条第一項に規定する権利を有する者の許諾を得て録音され、又は録画されている実演

ロ 前条第二項の実演で同項の録音物以外の物に録音され、又は録画されているもの

 

 

 

 

       主   文

 

 1 控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。

 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 控訴の趣旨

 1 控訴人有限会社マックスアヴェール

  (1) 原判決中控訴人有限会社マックスアヴェールに関する部分を取り消す。

  (2) 被控訴人らは,控訴人有限会社マックスアヴェールに対し,連帯して943万4790円及びこれに対する平成21年6月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 2 控訴人X

  (1) 原判決中控訴人Xに関する部分を取り消す。

  (2) 被控訴人らは,控訴人Xに対し,連帯して110万円及びこれに対する平成21年6月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

 1 本件は,控訴人らが,被控訴人日本放送協会(以下「被控訴人NHK」という。)は,被控訴人株式会社ワグ(以下「被控訴人ワグ」という。)従業員を介して,控訴人らの開催したファッションショーの映像の提供を受け,上記映像の一部である原判決別紙映像目録記載の映像(以下「本件映像部分」という。)をそのテレビ番組において放送し,これにより,控訴人有限会社マックスアヴェール(以下「控訴人会社」という。)の著作権(公衆送信権)及び著作隣接権(放送権)並びに控訴人X(以下「控訴人X」という。)の著作者及び実演家としての人格権(氏名表示権)を侵害したと主張し,被控訴人らに対し,著作権,著作隣接権,著作者人格権及び実演家人格権侵害の共同不法行為責任(被控訴人ワグについては使用者責任)に基づく損害賠償として,控訴人会社につき943万4790円,控訴人Xにつき110万円(附帯請求として,これらに対する平成21年6月12日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払を求める事案である。

新聞社の新聞販売店に対する見本紙の供給は私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和28年改正前)第2条第6項第5号の「経済上の利益の供給」にあたるか

 

 

              審決取消請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和30年(オ)第261号

【判決日付】      昭和36年1月26日

【判示事項】      1、公正取引委員会が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第20条(昭和28年法律第259号による改正前)により不公正な競争方法と認定するに際し行為の外観にあらわれていない意図を考慮することの可否

             2、新聞社の新聞販売店に対する見本紙の供給は私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和28年法律第259号による改正前)第2条第6項第5号の「経済上の利益の供給」にあたるか

【判決要旨】      1、公正取引委員会が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第20条(昭和28年法律第259号による改正前)により不公正な競争方法であるかどうかを認定するにあたつては、単にその行為の外観にのみとらわれることなく、かかる行為の行われた客観的情勢をも勘案し、その行為の意図とするところをも考慮すべきである。

             2、新聞社の新聞販売店に対する見本紙の供給は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和28年法律第259号による改正前)第2条第6項第5号の「経済上の利益の供給」にあたる。

【参照条文】      私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律20(昭和28年法律第259号による改正前のもの)

             私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律2-6

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集15巻1号116頁

 

 

昭和二十二年法律第五十四号(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)

第二条 この法律において「事業者」とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう。事業者の利益のためにする行為を行う役員、従業員、代理人その他の者は、次項又は第三章の規定の適用については、これを事業者とみなす。

 

⑨ この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。

一 正当な理由がないのに、競争者と共同して、次のいずれかに該当する行為をすること。

イ ある事業者に対し、供給を拒絶し、又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限すること。

ロ 他の事業者に、ある事業者に対する供給を拒絶させ、又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限させること。

二 不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品又は役務を継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの

三 正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの

四 自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、次のいずれかに掲げる拘束の条件を付けて、当該商品を供給すること。

イ 相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。

ロ 相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。

五 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。

イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。

ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。

ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

六 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの

イ 不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。

ロ 不当な対価をもつて取引すること。

ハ 不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制すること。

ニ 相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること。

ホ 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。

ヘ 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し、又は当該事業者が会社である場合において、その会社の株主若しくは役員をその会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、唆し、若しくは強制すること。

 

第二十条 前条の規定に違反する行為があるときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、事業者に対し、当該行為の差止め、契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。

② 第七条第二項の規定は、前条の規定に違反する行為に準用する。

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人弁護士長野潔、同長野法夫の上告理由第一点について。

 論旨は、原判決は、公正取引委員会がした本件審決について、実質的証拠の有無を判断するに止まらず、その限度を超え、事実審として事実を認定した違法があるというのである。

 しかし、所論(1)大多数の販売店が上告人の行為により、上告人の意向にそうような行動をとるに至つた事実、(2)各販売店がタイムス本紙不配の決意をするに至つたのは自発的な意思によるものではなく外部からの影響の結果であつた事実について、原判決は推認、推測できる旨を述べているけれども、被上告人がした本件審決が右事実につき同趣旨の推認をしており、原判決は、審決の認定した事実が実質的証拠に基いており、その推認が正当であることを説明しているのであつて、自ら新な事実を認定したものではない。それゆえ論旨は理由がない。

 同第二点について。

 しかし、所論(1)タイムス社が一四販売店の不配地域に専売店を設置したとの主張事実は、審決が認めなかつた事実であり、原判決が「その認定をしないことのあやまりであるゆえんを見出し難い」と判示しているのは、審決が上告人主張事実を認定しなかつたのを正当とする趣旨であることが明らかである。また所論(2)A、Bらがタイムス社の専売店に移行準備中であつたとの主張事実は、審決が認定しなかつた事実であるのみならず、原判決も説明するように、かりに所論の事実があつたとしても、それが上告人の行為に基因するものと認められる以上、よつて上告人の行為を正当とすることはできず、この点について、本件審決及びこれを是認した原判決を違法ということはできない。それゆえ論旨は理由がない。

 同第三点について。

 論旨は、上告人の行為は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二八年法律第二五九号による改正前、以下単に法と略称する)二条六項五号に該当せず不当ではない旨を主張するのであるが、原判決が実質的証拠によつて立証されているとした審決の認定事実と違つた事実を前提としているから、論旨は採用することができない。

 同第四点について。

 論旨は、違憲をいうが、実質は、いわゆる八社声明は、声明自体に違法性はないから、その撤回を命じた本件審決は違法であり、これを維持した原判決も違法である旨を主張するのである。しかし、公正取引委員会が法二〇条に基いて不公正な取引方法の差止を命ずるについては、単にその行為の外観にのみとらわれることなく、かかる行為が行われた客観的情勢をも勘案し、その行為の意図するところをも考慮すべきことは、同法制定の趣旨からも当然のことといわなければならない。本件の場合、いわゆる八社声明は、他社との連名をもつて合売制度維持の立場に立ち、販売店が一社の専売店になつた場合のことを述べただけであつて、それ自体当然のことを述べたに過ぎない外観を呈しているけれども、審決が認定した前後の事情によれば、要するに、タイムスを取り扱う限り自紙は取り扱わせないとする意図の表明と見ることができるのであつて、審決が撤回を命じたことをもつて違法ということはできず、また、右審決を是認した原判決を違法ということもできない。所論違憲の主張は、実質上、単なる法令違背の主張であつて、違憲に名を籍りるに過ぎないものというべく論旨は採用することができない。

 同第五点について。

 論旨は、販売店に対する見本紙の供給は販売店にとつては迷惑であり、法二条六項五号にいう経済上の利益の供給にあたらないというのである。

 しかしながら、見本紙の供給が個々の販売店にとつて迷惑を生ずることがあるとしても、一般的にいうならば、販売店が見本紙の供給を受けて販売紙数を増加することができれば、それだけ利益であり、見本紙の供与をもつて経済上の利益の供給に該当しないということはできない。そして見本紙の供給が、取引の内容をなすものであることはいうをまたない。

 されば、上告人が、販売店が自紙を取り扱う条件としてタイムス社から見本紙の供給を受けないことを条件としたのを不公正な取引の手段と解した審決及び原判決は正当であつて論旨は理由がない。

 同第六点について。

 論旨は、審決主文第二項が、広く「新聞販売店」と自社と競争関係にある他の新聞社から見本紙または本紙の供給を受けないことを条件として取引してはならないとした結果、上告人が専売店を設けた場合にも適用されることになり違法であるというのである。

 しかし、所論審決主文第二項が、合売制の行われる限りにおいて適用されるものであつて、専売制を予想していないことは、その理由に徴し明らかである。あるいは、審決主文において、所論のように、合売制新聞販売店に関する旨を明言した方が妥当であるともいえるであろうが、専売制が一般的に行われていなかつた本件審決当時において、審決主文が合売制販売店との取引を対象とする旨を明記しなかつたからといつて、審決の趣旨が不明確であるということはできず、よつて本件審決を違法ということはできない。さればこれを是認した原判決は正当であつて論旨は理由がない。

 同第七点について。

 論旨は、審決主文第二項は、その内容がきわめて抽象的であり、本来公正取引委員会の専権に属する不公正な競争手段にあたるかどうかの判断権を審決違反の有無を判断する裁判所の認定に委す結果を来し、違法であるというのである。

 しかし、審決主文第二項は決して抽象的な不明確なものではなく、将来のいかなる行為を禁止したかは審決自体で明らかである。本件審決は、主文第二項のような取引をもつて不公正な競争手段とし、そのあらわれとも見るべき主文第一項掲記の行為の撤回を命じ、将来において、右不公正な競争手段の繰り返しを禁じたのあつて、何等違法とすべき点はなく、これを是認した原判決も違法とすべき理由はない。

 以上説明のように、論旨はすべて理由がないから、本件上告は棄却すべきものとし、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

     最高裁判所第一小法廷

在日米国大使館に勤務する日本人職員の給与についての米国の源泉徴収義務の有無(消極)

 

東京高等裁判所/平成16年(行コ)第184号

平成16年11月30日

所得税更正処分等取消請求控訴事件

【判示事項】    1 在日米国大使館に勤務する日本人職員の給与についての米国の源泉徴収義務の有無(消極)

2 米国大使館に勤務する職員が実際に支給を受けた給与の1部を除外して申告していた行為が,国税通則法70条5項にいう「偽りその他不正の行為」に当たるとされた事例

【判決要旨】    (1) 国際社会を構成する各国家は、それぞれ主権を有し、法的には相互に平等であり、国家が他の国家に一定の行為を強制することは国家間に合意があって初めてできるものであるから、当該合意がなければ国際法における否定を待つまでもなく、国家が他の国家に一定の行為を強制することはできないものであり、課税権についても、国家が他の国家の課税権に服するのは条約その他の合意がある場合に限られ、国家が他の国家に対して、1方的に課税権を行使することは原則としてできないとするのが、国際法上の法原理というべきである。

          (2)・(3) 省略

          (4) 国税通則法70条5項(国税の更正、決定等の期間制限)にいう「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいうものと解すべきである。そうすると、単なる不申告行為はこれに含まないものの、納税者が真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避する意思の下に、所得額をことさらに過少にした内容虚偽の所得税確定申告書を提出することにより、納付すべき税額を過少にして、本来納付すべき税額との差額を免れようとするような態様の過少申告行為も、単なる不申告に止まらず、偽りの工作的不正行為ということができるから、「偽りその他不正の行為」に該当するものというべきである。

          (5) 省略

          (6) 国税通則法65条4項(過少申告加算税)の「正当な理由」とは、申告した税額に不足が生じたことについて、通常の状態において納税者が知り得ることができなかった場合や、納税者の責めに帰すことができない事情等、真にやむ得ない理由があると認められる場合を指すものと解される。

【参照条文】    所得税法183-1

          国税通則法70-5

【掲載誌】     訟務月報51巻9号2512頁

          税務訴訟資料254号順号9841

 

所得税法

(源泉徴収義務)

第百八十三条 居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。

2 法人の法人税法第二条第十五号(定義)に規定する役員に対する賞与については、支払の確定した日から一年を経過した日までにその支払がされない場合には、その一年を経過した日においてその支払があつたものとみなして、前項の規定を適用する。

 

 

国税通則法

(納税の告知)

第三十六条 税務署長は、国税に関する法律の規定により次に掲げる国税(その滞納処分費を除く。次条において同じ。)を徴収しようとするときは、納税の告知をしなければならない。

一 賦課課税方式による国税(過少申告加算税、無申告加算税及び前条第三項に規定する重加算税を除く。)

二 源泉徴収等による国税でその法定納期限までに納付されなかつたもの

三 自動車重量税でその法定納期限までに納付されなかつたもの

四 登録免許税でその法定納期限までに納付されなかつたもの

2 前項の規定による納税の告知は、税務署長が、政令で定めるところにより、納付すべき税額、納期限及び納付場所を記載した納税告知書を送達して行う。ただし、担保として提供された金銭をもつて消費税等を納付させる場合その他政令で定める場合には、納税告知書の送達に代え、当該職員に口頭で当該告知をさせることができる。

 

 

外交関係に関するウィーン条約

前文

この条約の当事国は、

 すべての国の国民が古くから外交官の地位を承認してきたことを想起し、

 国の主権平等、国際の平和及び安全の維持並びに諸国間の友好関係の促進に関する国際連合憲章の目的及び原則に留意し、

 外交関係並びに外交上の特権及び免除に関する国際条約が、国家組織及び社会制度の相違にかかわらず、諸国間の友好関係の発展に貢献するであろうことを信じ、

 このような特権及び免除の目的が、個人に利益を与えることにあるのではなく、国を代表する外交使節団の任務の能率的な遂行を確保することにあることを認め、

 この条約の規定により明示的に規制されていない問題については、引き続き国際慣習法の諸規則によるべきことを確認して、

 次のとおり協定した。

 

池上 彰『歴史で読み解く!世界情勢のきほん 』(ポプラ新書 247)  2023/10/2

 

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私たちは、どれだけ世界のことを理解しているのか。ロシアのウクライナ侵攻、イギリスのEU離脱など、大勢の人が予測を外す出来事が続いている。尊敬するピョートル大帝を手本に領土拡大を目指すプーチン大統領。習近平総書記の野望は、毛沢東が実現できなかった台湾奪還。それぞれの国家や国民意識が生まれた歴史をひもとくと、世界が見えてくる!

 

◎目次

第1章 「我が国は世界最大の民主主義国だ」世界一の人口を誇るIT大国インド

 

第2章 「我が国が世界の中心だ」 中華思想を国名にした中国

 

第3章 「もっと我々に敬意を払うべきだ」 領土をふたたび拡大したいロシア

 

第4章 「人権がなにより大切」  揺らぐ移民大国フランス

 

第5章 「我が国はヨーロッパではない」 新しい同盟関係を模索するイギリス

 

第6章 「EUを支えるのは我が国だ」 戦争を反省し欧州のリーダーとなったドイツ

 

第7章 「我々は我々の道を行く」 世界を動かすグローバルサウス

 

第8章 「もはやアメリカの裏庭ではない」 日本と縁の深い南米の大国ブラジル

 

第9章 「我々は神の国だ」  世界一を自負するアメリカ

 

◎池上 彰

プロフィール

1950年、長野県生まれ。73年にNHK入局。記者として、さまざまな事件、災害、教育問題、消費者問題などを担当する。94年から11年間にわたり「週刊こどもニュース」のお父さん役として活躍。2005年に独立。名城大学教授、東京工業大学特命教授など、6大学で教鞭をとる。著書に「知らないと恥をかく世界の大問題」シリーズ、「池上彰の世界の見方」シリーズ、『聖書がわかれば世界が見える』など多数ある。また増田ユリヤとの共著に『歴史と宗教がわかる!世界の歩き方』などがある。ここに文字を入力してください

 

 

 

出版社 ‏ : ‎ ポプラ社 (2023/10/2)

発売日 ‏ : ‎ 2023/10/2

言語 ‏ : ‎ 日本語

新書 ‏ : ‎ 289ページ

 

 

コメント

若干の異論もありますが、著者の見解は、傾聴に値します。

 

第25章 適格消費者団体・特定適格消費者団体とは

不特定かつ多数の消費者の利益を擁護するために差止請求権を行使するために必要な適格性を有する消費者団体として内閣総理大臣の認定を受けた法人を「適格消費者団体」といいます。全国に21団体あります。なお、これまで適格消費者団体による差止請求訴訟は、74事業者に対して提起されています。

また、適格消費者団体のうちから新たな認定要件を満たす団体として内閣総理大臣の認定を受けた法人を「特定適格消費者団体」といいます。全国に3団体あります。なお、これまで特定適格消費者団体による共通義務確認訴訟は、5事業者に対して提起されています。

 

請負人が材料全部を提供して建築した建物が完成と同時に注文者の所有に帰するものと認められた事例

 

 

所有権確認等請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和45年(オ)第1117号

【判決日付】      昭和46年3月5日

【判示事項】      請負人が材料全部を提供して建築した建物が完成と同時に注文者の所有に帰するものと認められた事例

【判決要旨】      注文者の所有または使用する土地の上に請負人が材料全部を提供して建物を建築した場合において、請負契約は分譲を目的とする建物6棟の建築につき一括してなされたものであって、その内3棟は注文者ないしこれから分譲を受けた入居者らに異議なく引き渡されており、請負人は、注文者から請負代金の全額につきその支払のための手形を受領し、その際、6棟の建物についての建築確認通知書を注文者に交付したなど、原判示(原判決理由参照)の事実関係があるときは、右確認通知書交付にあたり、6棟の建物全部につき完成と同時に注文者にその所有権を帰属させる旨の合意がなされたものであり、したがって、いまだ引渡しのなされていない建物も完成と同時に注文者の所有に帰したものと認めることができる。

【参照条文】      民法176

             民法633

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事102号219頁

 

 

事案の概要

 建物建築の請負契約における建物所有権の帰属については、請負人が自己の材料をもって注文者の土地の上に建物を建築した場合には、請負人が建物を注文者に引き渡したときに、その所有権が請負人から注文者に移転すると解するのが判例多数説である(大判明治三七・六・二二民録一〇輯八六一頁、同大正三・一二・二六民録二〇輯一二〇八頁、同大正四・五・二四民録二一輯八〇三頁、最高判三小昭和四〇・五・二五裁集民七九号一七五頁、我妻栄・債権各論中巻二・六一七頁、浅井清信「請負契約における所有権の移転」総合判例研究叢書民法(23)六三頁等)。

 もっとも、特約により引渡前に注文者が所有権を取得しうることはいうまでもなく(大判大正五・一二・一三民録二二輯二四一七頁。船舶建造につき同旨大判大正五・五・六民録二二輯九〇九頁)。請負代金全額の支払はその特約の存在を推認させる(大判昭和一八・七・二〇民集二二巻六六〇頁)。

 しかし、判例多数説によっても、契約後の別の合意によって、引渡、登記または代金支払の罰に、そのいずれとも切り離して注文者に所有権を帰属させることは妨げられないものと解され、本判決はこのような立場をとるものと思われる。

本件は、請負人の受領したた手形はのちに全部不渡りになっていて、請負代金の支払もない事案であるが、ともかくいったん手形か交付されたことに加え、一部の建物は引渡がなされていること、注文者が所有権保存登記をするのに必要な書類である建築確認通知書が交付されたことなどの事情を総合して、所有権帰属に関する少なくとも暗黙の合意がなされたものと認定され、その合意に従い注文者が所有権を取得したものと認めることを妨げないとされたものと解される。請負契約における所有権の帰属の認定につき参考となる一事例といえよう。

 

 

民法

(物権の設定及び移転)

第百七十六条 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。

 

(請負)

第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人中野富次男、同木川恵章の上告理由について。

 上告人と訴外株式会社三伸との間の請負契約において、代金の支払と引換えに建物所有権を移転する旨の約定がなされたものとは認められないとした原判決の事実認定は、証拠関係に照らして肯認することができる。そして、建物建築の請負契約において、注文者の所有または使用する土地の上に請負人が材料全部を提供して建築した建物の所有権は、建物引渡の時に請負人から注文者に移転するのを原則とするが、これと異なる特約が許されないものではなく、明示または黙示の合意により、引渡および請負代金完済の前においても、建物の完成と同時に注文者が建物所有権を取得するものと認めることは、なんら妨げられるものではないと解されるところ、本件請負契約は分譲を目的とする建物六棟の建築につき一括してなされたものであって、その内三棟については、上告人は訴外会社ないしこれから分譲を受けた入居者らに異議なくその引渡を了しており、本件建物を完成後ただちに引き渡さなかったのも、右三棟と別異に取り扱う趣旨ではなく、いまだ入居者がなかったためにすぎなかったこと、上告人は請負代金の全額につきその支払のための手形を受領しており、それについての訴外会社の支払能力に疑いを抱いていなかったこと、上告人は、右手形全部の交付を受けた機会に、さきに訴外会社の代理人として受領していた右六棟の建物についての建築確認通知書を訴外会社に交付したことなど、原判決の確定した事実関係のもとにおいては、右確認通知書交付にあたり、本件各建物を含む六棟の建物につきその完成と同時に訴外会社にその所有権を帰属させる旨の合意がなされたものと認められ、したがって、本件建物はその完成と同時に訴外会社の所有に帰したものであるとする趣旨の原判決の認定・判断は、正当として是認することができないものではない。論旨引用の判例は、右のような合意の認められる本件とは事案を異にし、適切でなく、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。