請負人が材料全部を提供して建築した建物が完成と同時に注文者の所有に帰するものと認められた事例 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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請負人が材料全部を提供して建築した建物が完成と同時に注文者の所有に帰するものと認められた事例

 

 

所有権確認等請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和45年(オ)第1117号

【判決日付】      昭和46年3月5日

【判示事項】      請負人が材料全部を提供して建築した建物が完成と同時に注文者の所有に帰するものと認められた事例

【判決要旨】      注文者の所有または使用する土地の上に請負人が材料全部を提供して建物を建築した場合において、請負契約は分譲を目的とする建物6棟の建築につき一括してなされたものであって、その内3棟は注文者ないしこれから分譲を受けた入居者らに異議なく引き渡されており、請負人は、注文者から請負代金の全額につきその支払のための手形を受領し、その際、6棟の建物についての建築確認通知書を注文者に交付したなど、原判示(原判決理由参照)の事実関係があるときは、右確認通知書交付にあたり、6棟の建物全部につき完成と同時に注文者にその所有権を帰属させる旨の合意がなされたものであり、したがって、いまだ引渡しのなされていない建物も完成と同時に注文者の所有に帰したものと認めることができる。

【参照条文】      民法176

             民法633

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事102号219頁

 

 

事案の概要

 建物建築の請負契約における建物所有権の帰属については、請負人が自己の材料をもって注文者の土地の上に建物を建築した場合には、請負人が建物を注文者に引き渡したときに、その所有権が請負人から注文者に移転すると解するのが判例多数説である(大判明治三七・六・二二民録一〇輯八六一頁、同大正三・一二・二六民録二〇輯一二〇八頁、同大正四・五・二四民録二一輯八〇三頁、最高判三小昭和四〇・五・二五裁集民七九号一七五頁、我妻栄・債権各論中巻二・六一七頁、浅井清信「請負契約における所有権の移転」総合判例研究叢書民法(23)六三頁等)。

 もっとも、特約により引渡前に注文者が所有権を取得しうることはいうまでもなく(大判大正五・一二・一三民録二二輯二四一七頁。船舶建造につき同旨大判大正五・五・六民録二二輯九〇九頁)。請負代金全額の支払はその特約の存在を推認させる(大判昭和一八・七・二〇民集二二巻六六〇頁)。

 しかし、判例多数説によっても、契約後の別の合意によって、引渡、登記または代金支払の罰に、そのいずれとも切り離して注文者に所有権を帰属させることは妨げられないものと解され、本判決はこのような立場をとるものと思われる。

本件は、請負人の受領したた手形はのちに全部不渡りになっていて、請負代金の支払もない事案であるが、ともかくいったん手形か交付されたことに加え、一部の建物は引渡がなされていること、注文者が所有権保存登記をするのに必要な書類である建築確認通知書が交付されたことなどの事情を総合して、所有権帰属に関する少なくとも暗黙の合意がなされたものと認定され、その合意に従い注文者が所有権を取得したものと認めることを妨げないとされたものと解される。請負契約における所有権の帰属の認定につき参考となる一事例といえよう。

 

 

民法

(物権の設定及び移転)

第百七十六条 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。

 

(請負)

第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人中野富次男、同木川恵章の上告理由について。

 上告人と訴外株式会社三伸との間の請負契約において、代金の支払と引換えに建物所有権を移転する旨の約定がなされたものとは認められないとした原判決の事実認定は、証拠関係に照らして肯認することができる。そして、建物建築の請負契約において、注文者の所有または使用する土地の上に請負人が材料全部を提供して建築した建物の所有権は、建物引渡の時に請負人から注文者に移転するのを原則とするが、これと異なる特約が許されないものではなく、明示または黙示の合意により、引渡および請負代金完済の前においても、建物の完成と同時に注文者が建物所有権を取得するものと認めることは、なんら妨げられるものではないと解されるところ、本件請負契約は分譲を目的とする建物六棟の建築につき一括してなされたものであって、その内三棟については、上告人は訴外会社ないしこれから分譲を受けた入居者らに異議なくその引渡を了しており、本件建物を完成後ただちに引き渡さなかったのも、右三棟と別異に取り扱う趣旨ではなく、いまだ入居者がなかったためにすぎなかったこと、上告人は請負代金の全額につきその支払のための手形を受領しており、それについての訴外会社の支払能力に疑いを抱いていなかったこと、上告人は、右手形全部の交付を受けた機会に、さきに訴外会社の代理人として受領していた右六棟の建物についての建築確認通知書を訴外会社に交付したことなど、原判決の確定した事実関係のもとにおいては、右確認通知書交付にあたり、本件各建物を含む六棟の建物につきその完成と同時に訴外会社にその所有権を帰属させる旨の合意がなされたものと認められ、したがって、本件建物はその完成と同時に訴外会社の所有に帰したものであるとする趣旨の原判決の認定・判断は、正当として是認することができないものではない。論旨引用の判例は、右のような合意の認められる本件とは事案を異にし、適切でなく、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。