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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

第14章 親会社による子会社の株式等の譲渡

子会社株式等の全部または一部を譲渡した結果、①譲渡対象となる株式等の帳簿価額が譲渡会社の5分の1を超え、②譲渡の効力発生日において、子会社の過半数の議決権を失うこととなる場合には、株主総会の特別決議による承認が必要となりました(67条2の2)。 

親会社が、子会社株式等を譲渡することにより、当該子会社の事業に対する支配を失う場合には、事業譲渡と実質的に変わらない影響があることから、事業譲渡に関する定め(467条)と同様に株主総会の決議を求めたものです。

 

堕胎により出生させた未熟児を放置した医師につき保護者遺棄致死罪が成立するとされた事例

 

 

業務上堕胎、保護者遺棄致死、死体遺棄被告事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷決定/昭和59年(あ)第588号

【判決日付】      昭和63年1月19日

【判示事項】      堕胎により出生させた未熟児を放置した医師につき保護者遺棄致死罪が成立するとされた事例

【判決要旨】      妊婦の依頼を受け、妊娠第26週に入った胎児の堕胎を行った産婦人科医師が、右堕胎により出生した未熟児に適切な医療を受けさせれば生育する可能性のあることを認識し、かつ、そのための措置をとることが迅速容易にできたにもかかわらず、同児を自己の医院内に放置して約54時間後に死亡するに至らせたときは、業務上堕胎罪に併せて保護者遺棄致死罪が成立する。

【参照条文】      刑法45

             刑法214

             刑法218-1

             刑法219

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集42巻1号1頁

 

 

刑法

(併合罪)

第四十五条 確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。

 

(業務上堕胎及び同致死傷)

第二百十四条 医師、助産師、薬剤師又は医薬品販売業者が女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させたときは、三月以上五年以下の懲役に処する。よって女子を死傷させたときは、六月以上七年以下の懲役に処する。

(不同意堕胎)

第二百十五条 女子の嘱託を受けないで、又はその承諾を得ないで堕胎させた者は、六月以上七年以下の懲役に処する。

2 前項の罪の未遂は、罰する。

(不同意堕胎致死傷)

 

(保護責任者遺棄等)

第二百十八条 老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、三月以上五年以下の懲役に処する。

(遺棄等致死傷)

第二百十九条 前二条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

 

貸金業者の債務者に対する取引履歴の開示義務の有無

 

最高裁判所第3小法廷判決/平成16年(受)第965号

平成17年7月19日

過払金等請求事件

【判示事項】    貸金業者の債務者に対する取引履歴の開示義務の有無

【判決要旨】  貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業の規制等に関する法律の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,その業務に関する帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負う。

【参照条文】    民法1-2

          民法587

          民法709

          貸金業の規制等に関する法律19

          貸金業の規制等に関する法律施行規則16

【掲載誌】     最高裁判所民事判例集59巻6号1783頁

 

民法

(基本原則)

第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3 権利の濫用は、これを許さない。

 

(消費貸借)

第五百八十七条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

 

 (不当利得の返還義務)

第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

 

貸金業法

(帳簿の備付け)

第十九条 貸金業者は、内閣府令で定めるところにより、その営業所又は事務所ごとに、その業務に関する帳簿を備え、債務者ごとに貸付けの契約について契約年月日、貸付けの金額、受領金額その他内閣府令で定める事項を記載し、これを保存しなければならない。

 

(帳簿の備付け)

第十六条 法第十九条に規定する内閣府令で定める事項は、次に掲げる事項とする。

一 法第十七条第一項第四号から第八号までに掲げる事項(第十三条第一項第一号イ、ホ、ト及びヨからソまで(手形の割引にあつてはイ、レ及びソに限り、売渡担保にあつてはイ及びタからソまでに限り、金銭の貸借の媒介にあつてはイ、ヨ、レ及びソに限る。)に掲げる事項を除き、極度方式貸付けに係る契約にあつては次号に掲げる事項と同一の内容のものを除く。)

二 法第十七条第二項第二号から第七号までに掲げる事項(第十三条第三項第一号イ、ホ、ト及びカからソまで(手形の割引にあつてはイ、レ及びソに限り、売渡担保にあつてはイ及びヨからソまでに限り、金銭の貸借の媒介にあつてはイ、カ及びタからソまでに限る。)並びに第二号ハに掲げる事項を除く。)

三 貸付けに係る契約について保証契約を締結したときは、法第十七条第三項に掲げる事項(第十二条の二第六項第七号及び第十二号から第十四号までに掲げる事項を除く。)

四 貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは、各回の弁済に係る法第十八条第一項第四号及び第五号並びに前条第一項第五号(金銭の貸借の媒介にあつては、法第十八条第一項第五号に限る。)に掲げる事項

五 貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部が弁済以外の事由により消滅したときは、その事由及び年月日並びに残存債権の額

六 貸付けの契約に基づく債権を他人に譲渡したときは、その者の商号、名称又は氏名及び住所、譲渡年月日並びに当該債権の額

七 貸付けの契約に基づく債権に関する債務者等その他の者との交渉の経過の記録

八 日賦貸金業者である場合にあつては、次に掲げる事項

イ 貸付けの相手方が主として営む業種

ロ 貸付けの相手方が常時使用する従業員の数

ハ 返済金を貸付けの相手方の営業所又は住所において貸金業者が自ら取り立てるため訪問した年月日

2 第十一条第四項の規定は、貸金業者が法第十九条の帳簿を作成する場合について準用する。

3 貸金業者は、法第十九条の帳簿を作成するときは、当該帳簿を保存すべき営業所等ごとに次の各号に掲げる書面の写しを保存することをもつて、当該各号に定める事項の記載に代えることができる。

一 法第十七条第一項の規定により交付すべき書面 第一項第一号に掲げる事項

二 法第十七条第二項の規定により交付すべき書面 第一項第二号に掲げる事項

三 法第十七条第三項の規定により交付すべき書面 第一項第三号に掲げる事項

四 法第十七条第六項に規定する内閣府令で定める書面 第一項第一号に掲げる事項(当該書面に記載された一定期間に締結した極度方式貸付けに係る契約に係る部分に限る。)

五 貸付けの契約に基づく債権の譲渡契約の書面(第一項第六号に掲げる事項を記載したものに限る。) 同号に掲げる事項

 

『体系経済刑法: 経済活動における罪と罰』 2022/3/10

佐久間 修 (著)

 

¥5,500

 

複数の法領域にまたがり企業犯罪についての罰則を規定する経済刑法。主要な法令を幅広く射程とし、日常業務での疑問点に対応すべく重要判例・主要条文を紹介しつつ解説する。

 

出版社 ‏ : ‎ 中央経済社 (2022/3/10)

発売日 ‏ : ‎ 2022/3/10

言語 ‏ : ‎ 日本語

単行本 ‏ : ‎ 405ページ

 

 

コメント

経済刑法:の法律について、網羅的。

 

第13章 株式会社とその親会社等との取引

当該株式会社とその親会社等との一定の利益相反取引のうち、当該事業年度に係る個別注記表において関連当事者取引注記を要するものについて、事業報告において以下を記載します(施行規則118条第5項)。

 

① 当該取引をするに当たり当該株式会社の利益を害さないように留意した事項(当該事項がない場合にあっては、その旨)

 

② 当該取引が当該株式会社の利益を害さないかどうかについての当該株式会社の取締役会の判断及びその理由

 

③ 社外取締役を置く株式会社において②の取締役会の判断が社外取締役の意見と異なる場合には、その意見

 

親子会社に関する規律等の整備を図ることの一つとして、株式会社とその親会社等との取引が、新たに事業報告に記載する事項として追加されました。

 

他人の子を実子として届出た者の代諾による養子縁組の追認の許否


    養子縁組無効確認請求事件
【事件番号】    最高裁判所第2小法廷判決/昭和24年(オ)第229号
【判決日付】    昭和27年10月3日
【判示事項】    他人の子を実子として届出た者の代諾による養子縁組の追認の許否
【判決要旨】    他人の子を実子として届出た者の代諾による養子縁組は、養子が満15才に達した後これを追認することにより、当初に遡り有効とすることができる。
【参照条文】    旧民法843
          民法797
【掲載誌】     最高裁判所民事判例集6巻9号753頁


民法
(養子が未成年者である場合の無許可縁組の取消し)
第八百七条 第七百九十八条の規定に違反した縁組は、養子、その実方の親族又は養子に代わって縁組の承諾をした者から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、養子が、成年に達した後六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。

(未成年者を養子とする縁組)
第七百九十八条 未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は、この限りでない。

 

被控訴人兼附帯控訴人(一審原告)X社の社会的評価を低下させるビラを配布したり,横断幕を常時一般の目に触れるようにしたほか,区長,筆頭株主会社,取引銀行,主要取引先,同業者組合員会社,商工会議所に要請書を送付した控訴人兼附帯被控訴人(一審被告)Yらの一連の行動は,正当な団体行動としての範疇を超えているとの評価もやむを得ないとされた例

東京高等裁判所判決/平成28年(ネ)第1598号、平成28年(ネ)第1768号
平成28年7月4日
損害賠償請求控訴,同附帯控訴事件
【判示事項】    1 一般に,労働条件は,使用者を取り巻いて現実に存する社会,経済その他の要因によって大きく左右され得るものであり,そのような実質を考えると,労働組合が労働条件の改善を目的として行う団体行動である限りは,それが直接労使関係に立つ者の間の団体交渉に関係する行為ではなくても,憲法28条の保障の対象に含まれ得るが,争議行為と異なり,自ずから限界があるものというべきで,団体行動を受ける者の有する権利,利益を侵害することは許されないものと解するのが相当であるから,これを行う主体,目的,態様等の諸般の事情を考慮して,社会通念上相当と認められる行為に限り,その正当性を肯定すべきであるとされた例
2 被控訴人兼附帯控訴人(一審原告)X社の社会的評価を低下させるビラを配布したり,横断幕を常時一般の目に触れるようにしたほか,区長,筆頭株主会社,取引銀行,主要取引先,同業者組合員会社,商工会議所に要請書を送付した控訴人兼附帯被控訴人(一審被告)Yらの一連の行動は,正当な団体行動としての範疇を超えているとの評価もやむを得ないとされた例
3 X社の信用毀損による損害として,Yらについて,連帯して350万円の損害賠償を命じた一審判決が維持された例
【掲載誌】     労働判例1149号16頁
 

第12章 株主代表訴訟の原告適格の拡大等

 

 (1) 旧株主による責任追及等の訴え

 

  ① 株式交換等の効力が生じた日の6箇月前から当該日まで引き続き株式会社の株主であった者(旧株主)は、当該株式会社の株主でなくなった場合であっても、株式交換等により完全親会社の株式を取得し、引き続き当該株式を有するときは、責任追及等の訴え(当該株式交換等の効力が生じた時までにその原因となった事実が生じた責任又は義務に係るものに限る。)の提起を請求することができる。(第847条の2第1項・第3項~第5項関係)

 

  ② 公開会社でない株式会社における①についての規定の適用、旧株主による責任追及等の訴えの提起及び不提訴理由の通知について、第847条第2項から第5項までに相当する規定を置く。(第847条の2第2項・第6項~第8項関係)

 

  ③ 適格旧株主(①の請求をすることができることとなる旧株主をいう。)がある場合において、①の責任又は義務を免除するときにおける規定を設ける。(第847条の2第9項関係)

 

 (2) 最終完全親会社等の株主による責任追及の訴え

 

  ① 6箇月前から引き続き株式会社の最終完全親会社等(当該株式会社の完全親会社等であって、その完全親会社等がないものをいう。)の総株主の議決権の100分の1以上の議決権等を有する株主は、当該株式会社に対し、特定責任に係る責任追及等の訴え(特定責任追及の訴え)の提起を請求することができる。(第847条の3第1項~第3項関係)

 

  ② ①の「特定責任」とは、当該株式会社の発起人等(発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等又は清算人をいう。)の責任の原因となった事実が生じた日において当該株式会社の株式の帳簿価額が当該最終完全親会社等の総資産額の5分の1を超える場合における当該発起人等の責任をいう。(第847条の3第4項関係)

 

  ③ 公開会社でない最終完全親会社等における①についての規定の適用、最終完全親会社等の株主による特定責任追及の訴えの提起及び不提訴理由の通知について、第847条第2項から第5項までに相当する規定を置く。(第847条の3第6項~第9項関係)

 

  ④ 株式会社に最終完全親会社等がある場合において、特定責任を免除するときにおける規定を設ける。(第847条の3第10項関係)

 

 (3) (1)①の完全親会社等又は最終完全親会社等による責任追及等の訴えの提起等におけるこれらの会社の代表

 

  ① (1)①の完全親会社等又は最終完全親会社等である監査役設置会社が一定の責任追及等の訴えを提起する場合等には、監査役が監査役設置会社を代表する。(第386条関係)

 

  ② 監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社についても、①と同様の規定を設ける。(第399条の7、第408条関係)

 

 (4) 適格旧株主等の権利の行使に関する利益の供与の禁止

 

  株式会社は、何人に対しても、適格旧株主の権利又は最終完全親会社等の株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならない。(第120条第1項、第968条第1項、第970条第1項・第3項関係)

 

村長が保証の趣旨で村のため約束手形を振り出した行為が民法第44条第1項の職務行為にあたるとされた事例

 

 

              約束手形金請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和34年(オ)第1027号

【判決日付】      昭和37年9月7日

【判示事項】      村長が保証の趣旨で村のため約束手形を振り出した行為が民法第44条第1項の職務行為にあたるとされた事例

【判決要旨】      村長が保証の趣旨で村のため主債務者と共同で約束手形を振り出した場合、右振出につき村議会の議決がなく、かつ法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律第3条に違反するとしても、村長が村を代表して手形の振出をなすこと自体は外見上村長の職務行為とみられるから、右振出は、民法第44条1項の職務行為にあたる。

【参照条文】      民法44-1

             法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集16巻9号1888頁

 

 

平成十八年法律第四十八号

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律

(代表者の行為についての損害賠償責任)

第七十八条 一般社団法人は、代表理事その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

 

 

地方自治法

第百四十九条 普通地方公共団体の長は、概ね左に掲げる事務を担任する。

一 普通地方公共団体の議会の議決を経べき事件につきその議案を提出すること。

二 予算を調製し、及びこれを執行すること。

三 地方税を賦課徴収し、分担金、使用料、加入金又は手数料を徴収し、及び過料を科すること。

四 決算を普通地方公共団体の議会の認定に付すること。

五 会計を監督すること。

六 財産を取得し、管理し、及び処分すること。

七 公の施設を設置し、管理し、及び廃止すること。

八 証書及び公文書類を保管すること。

九 前各号に定めるものを除く外、当該普通地方公共団体の事務を執行すること。

 

 

法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律

第三条 政府又は地方公共団体は、会社その他の法人の債務については、保証契約をすることができない。ただし、財務大臣(地方公共団体のする保証契約にあつては、総務大臣)の指定する会社その他の法人の債務については、この限りでない。

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人江口繁、同内田清治の上告理由第一、二点について。

 所論手形振出行為が村議会の議決がないため、または所論法律に違反するため、無効または違法であるとしても、村長が村を代表して手形の振出をなすこと自体は、外見上村長の職務行為とみられるから、民法四四条の適用なしということはできない。従つて原判決が、民法四四条一項における「職務ヲ行フニ付キ」とは、当該行為の外見上法定代理人または代表者の職務行為とみられる行為であれば足り、その行為が法人の有効または適法な行為であることを要しないとして、上告町の前身たるa村村長Aの判示約束手形二通の振出行為は右職務行為に該当し、上告町に本件不法行為上的責任がある旨判示したことは相当である。所論大審院判例は、後に同院判例(大審院昭和九年(オ)第五三三号、同年一〇月五日第二民事部判決、同昭和一四年(オ)第八一八号、同一五年二月二七日判決、民集一九巻四四一頁参照)によつて変更きれといるところであり、所論大審院判例を引用して上告人が主張する見解は、採用できない。論旨は、ひつきよう独自の見解に立脚して原判決を攻撃するに帰し、原判決に所論の違法は存せず、論旨は採るを得ない。

 同第三、四点について。

 原判決が本件損害額について、被上告人にも判示の如き一半の原因があるとして右過失を斟酌し、上告人が支払うべき損害額は金百万円が相当である旨判断したことは、原判決認定の事実関係からこれを是認できるところである。論旨はひつきよう独自の見解に立脚して原判決を攻撃するに帰し、原判決に所論の違法は存せず、論旨は採用できない。

 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

    最高裁判所第二小法廷

大学専任教員の65歳定年後の再雇用に関し、被控訴人兼控訴人(一審原告)Xが、①控訴人兼被控訴人(一審被告)Y法人との間で満70歳を定年とする旨の合意が存在すること、②Y法人には満70歳を定年とする労使慣行が存在すること、③Y法人がXとの間で再雇用契約を締結しないことが権限濫用に当たることを主張したものの、いずれも認容できないとされた例

 

東京高判平成29年3月9日労判1180号89頁 [学校法人尚美学園 (尚美学園大学)事件]

1 大学専任教員の65歳定年後の再雇用に関し、被控訴人兼控訴人(一審原告)Xが、①控訴人兼被控訴人(一審被告)Y法人との間で満70歳を定年とする旨の合意が存在すること、②Y法人には満70歳を定年とする労使慣行が存在すること、③Y法人がXとの間で再雇用契約を締結しないことが権限濫用に当たることを主張したものの、いずれも認容できないとされた例

2 専任教員の勤務内規は、定年に達する専任教員が勤務の委嘱の申請をした場合に学部長の審査権および上申書の提出権限を認めているが、その一方で、専任教員の勤務の委嘱にかかる決定権限が理事長にある旨を規定しており、当該上申書は、理事会の議決および理事長の決定を拘束するものではなく、その意思決定についての資料となるにとどまり、もとより当該内規は勤務の委嘱を義務付ける内容のものでもないから、そうした勤務内規に関する状況は、再雇用契約の締結を期待させる事情としては薄弱とされた例

3 本件大学では、平成12年4月の開学時から平成26年3月までの間、X同様65歳未満で採用されて定年に達し、引き続き勤務を委嘱されて満70歳以上で退職した者は6名にすぎず、定年後の再雇用の実績はわずかな例があるにすぎないから、そうした実績は、再雇用契約の締結を期待させる事情としては薄弱とされた例

4 仮に、採用面接の際に満70歳までの継続雇用の保障について説明があったとしても、当時Xは、他大学の専任教員として勤務しており、またその勤務経験も長く、大学教員の選任に関する事務にも通じていたものと推認されるから、採用面接の担当教授が教務的観点から専任教員の選考および面接をしていたことを認識していたはずであり、同教授がY法人を代表して労働条件を合意する権限を有するものと信頼したとは考えられず、また、同教授の説明は、あくまで本件就業規則の枠組みのなかでの継続雇用の可能性に関するその主観的認識を述べたものと認めるほかなく、Y法人による本件就業規則の定めに反する労働条件の提示とみることはできず、さらに、Xとしても、自身の定年は8年後であるから、それまでに定年後の再雇用について従前とは異なる運用がされ得ることは認識してしかるべきなどとされた例

5 教授会としては、いったんXの任用を承認したが、それは必ずしも積極的なものではなく、学長の意向や理事会での審議の結果等を踏まえ、理事会におけるXの再雇用の拒否の判断を受け入れたものと認められるから、教授会でXの再雇用が一時承認された経緯があるからといって、Xが再雇用契約の締結を期待するのは合理的とはいえないとされた例

6 信義則上、Y法人がXによる定年後の再雇用の申込みを承諾すべき義務があるか否かを判断するに当たり、労働契約法19条2号の趣旨を考慮することは許されるが、本件就業規則の定めからは、満70歳までの継続雇用を期待することはできないとして、一審判断が変更された例

 

労働契約法

(有期労働契約の更新等)

第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。