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私の記事の紹介です。内容の振れ幅が大きいのでご興味を持たれた方はこちらをどうぞ。


あらすじ

ハーメルンは集団ストーカーをしていた精神科はるひの丘病院を制圧した。凪は直美といいムードになったが、実はライブ参加した影響であって、素に戻ると彼女から逃げてしまった。

組織

ハーメルン……主に福祉を扱い、武力を持ち、憲法に擁護されている。警察より上に位置する。

登場人物

醍醐直美……24歳。ADHDで統合失調の診断を受け、精神科はるひの丘病院にかかっている。病院側の攻撃に苦しんでいた。

帝凪(ミカド・ナギ)
若鷺仁(ワカサギ・ジン)
……共にハーメルン第三部隊員。今回は奥内班。

雨風塔吉郎(アマカゼ・トウキチロウ)
……第三部隊長

竜神……人気バンド。ハーメルンに協力。

【ロビー3−2】

 塔吉郎は病院玄関前でハーメルンの送迎車を確認した。冬の日照時間は短い。暗くなるまで何分もかからないだろう。そして朝は枯れ草の上に繊細な氷の結晶がきらめくのだ。
 「直美さんお迎え着きました。“竜神”のみなさんはマネージャーさんがあと30分との連絡です」
 “竜神”メンバーがめいめいガッツポーズ。塔吉郎はそばの直美を促した。彼女はハーメルンの貸し出したノイズキャンセリングヘッドホンを外して、鞄の中のお守りにしている。そして何か考えている。
 「直美さん?」
 「15分ください!」
 彼女は塔吉郎を置いて“竜神”の方に駆け寄る。

 仁は一度院外に送り出した彼女が帰って来たので面食らった。彼女が楽器を肩にかけている。
 「直美さん、それ」
 「借りました」
 彼女はきりりと答えた。その足で凪の前に進み出る。凪は動転している。
 「いや、あの、えっと、その」
 頼りないうわ言を発音している。その彼を、直美がじっと見つめる。
 「だから、えっと、ブクッ、ブクッ」
 こういうのをバブリングと言うらしい。
 「固まってますね。でもこれは好きでしょ?」
 直美はギターを弾き始めた。凪が刺激されてロボットのようにピキンピキン反応している。
 「凪、踊って!」
 「わあい!」
 凪は歓声をあげ、篭から放たれた野鳥のように踊り始めた。ステージの後、“役に入ってしまった”つまり自分ではなかったと主張するが、翼を広げている凪は女性におどおどする凪より本物に見えた。凪と直美は誰に見せるでもなく、楽しい時間を終えた。
 「いい汗かいたね!」
 「そうだね!」
 凪と直美はハツラツと笑顔をかわした。彼女は言った。
 「私、ハローワーク行くんだ」
 「そうなの?」
 「ADHDにも仕事あるかもしれないね」
 「もちろんだよ。ギターも作詞もできるもんね!」
 「私を送り出して」
 「いいよ」
 凪と直美は握手をかわした。仁は凛々しい直美が戦士のように見えた。直美の差し出した誓いの剣に凪が剣を重ねているようだ。送り出す凪はさっきまでの頼りなさはなく、剣のスピリットのような輝きを放っていた。直美が凪にたずねる。
 「また会える?」
 「会えるよ」
 「それじゃあね。凪、ありがとう。大好き」
 「ありがとう、直美さん。応援してる。おれも大好き」
 直美は仁にも会釈をしてきびすをかえした。そして颯爽と病院を去っていった。

 ハーメルン居残り組は“竜神”を病院から送り出したあと、医療部隊と護衛だけ残して本部に引き上げた。すっかり暗い時刻だ。本部の周りは桜の木も植えてあるが、今の季節は冬に咲く“吹雪の君”が満開で、白い花が隊員を迎えた。
 仁は仲間と詰所に戻り、帰り支度中、言った。
 「凪、角の肉まん屋、今日特売だ」
 「やった」
 「一緒によってこう」
 「OK」
 二人で本部から出ようとして中庭前にさしかかった。“吹雪の君”の名所のひとつで、この時間は夜桜のようになる。その中に凪は何か見つけた。
 「ゴールデンレトリバーだ」
 「幸太郎じゃないか。こんな時間に」
 幸太郎はセラピー犬の調教師で、仁たちと同世代である。灰色とボルドーのコートを着こんで大型犬をつれていた。仁は凪に続いて中庭に入った。
 「幸太郎、何してんだ」
 「凪と仁か。タケシは今日お手柄だったんだ。ご褒美に遊んでるんだよ」
 凪が張り切る。
 「よっしゃ、おれも遊ぶ!」
 「凪、肉まん」
 「わあい、待て待て」
 仁が声をかけるも、凪は犬と走り回って聞いてない。幸太郎が呼ぶとレトリバーが主のもとに帰る。凪はそこでも犬とじゃれあった。
 「ナオミ、こいつめ」
 「タケシだよ」
 「ナオミー」
 凪が幸太郎の抗議を聞かず、犬を愛でまくる。仁はたずねた。
 「凪、幸せか」
 「うん、すごく」
 仁は凪の子供っぽさにぷっと吹いた。「じゃあまあいいか」やれやれと空を見上げる。

 ベールのような薄い雲が月を撫でてゆき、“吹雪の君”が花を散らしている。辺り一面に舞う花びらは、風景画の上に絵師が飛ばす純白の絵の具のしぶきのようだ。
 仁はしばらくして凪を見た。ボルドーが流行しているただ中で、パステルブルーのトップスを着こなす凪が浮世離れして妖狐のように見える。また女性とキスして後から驚いて飛んでゆきそうだ。
 仁は人間でないものに規律を守らせるのに、隊長も自分も苦労するだろうなと思った。でも悪い相手ではないし、互いに折り合いをつけるのも少し面白そうだ。
(本編終わり)

【感謝】

劇中歌は「忠臣」の記事でご覧ください。ボルドー③で何か呟くかもしれません。ロビー⑨まで追いかけてくださった読者様方、ありがとうございました! よいお年を!


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ハーメルンが登場する前作はこちら。ファンタジーです。

だいごなおみ先生については「山の王様②」の後書きで説明しています。