はじめての方、ようこそ。再来、応援してくださっている方にありがとうございます。ハクジュと申します。集団ストーカー被害記録と、趣味のファンタジーといろんなジャンル書いてます。ご興味のある方はこちら。
 
ファンタジー過去作品はこちら。お時間のない方は作詞シリーズが短くてお手頃かと思います。

 

 

ファンタジー作品です。本筋については完結しました。
 
あらすじ。
 
北川澪は二十五歳。“友の会”に騒音で攻撃されていた。会には二十八歳のコーデリア賞学者、高崎真理がいた。
 
澪はハーメルンの梶涼子の出現によって救われ、真理とその一団は同じハーメルンの第三部隊が摘発した。
 
ハーメルンは福祉や警察の警察などの役割を果たす組織である。搭吉郎率いる第三部隊の中に、若手の帝凪(ミカド・ナギ)がいた。
 
[音⑤ーエピローグー]
 
澪は涼子に救われたあと、ハーメルン本部に顔を出した。受付嬢と短いやりとりをすると、受付と入れ代わりに涼子が出てきてくれた。
「会いに来てくれたんですか?」
「はい」
澪はやって来てからまごついてしまった。本題に入る前に言わなければならないことがある。
「あの、涼子さん」
「はい?」
「帽子かぶってていいですか?」
澪は屋外用の帽子をかぶっていた。申し訳ないからといって屋内用の帽子では華美すぎる。今の彼女にはかぶれなかった。
 
涼子は気を悪くしなかった。首をかしげる。
「いいですよ? どうして?」
澪は帽子のつばをぎゅっと下に引っ張った。
「アトピーになっちゃったんです。顔が……」
涼子は合点したようだった。
「大変ですね。ストレスですか」
澪は説明した。
「確かにストレスですが、どちらかというと、安心した途端に……」
「アトピーってそういうのもあるんですか?」
「はい」
涼子は優しく笑った。
「じゃあ、これ以上悪くなりません。もう恐いことはありませんよ」
澪は母親にほめられた姉娘のような気分になった。しっかりしなければと思うのに、嬉しくて頬がゆるんでしまう。彼女は気を取り直して手土産を出した。
「お礼させてください。これ、おまんじゅうです。皆さんで食べていただきたくて」
「ありがとうございます。では、お気持ちだけ。ハーメルンはいただきものは受け取れないのですよ」
「そうですか」
澪は丁寧な断りを聞いて手土産を引っ込めた。涼子は言った。
「甘い物は心身を励ましてくれます。適度に食べればアトピーにもいいものではありませんか?」
「実はそうです」
涼子が微笑んだので、澪も嬉しくなって笑った。もっと甘えたかったが照れくさかった。
 
凪は三番窓口でお使いを頼まれ、十四番窓口に向かうため、総合待合室を横切っているところだった。今日窓口担当でない涼子が窓口に出て、誰かと親しそうに話している。彼は興味がわいて話しかけた。
「涼子さん、お身内ですか」
「いいえ、友の会の被害者の方です」
凪は見知らぬ女性にピンときた。
「もしかして北川さん?」
「そうです」涼子は自分の客に言った。「澪さん、紹介しますね。彼は職員の帝君です」
「はじめまして。北川澪です」
「帝凪です」
凪は澪と会釈しあったあと、微笑みかけた。
「がんばりましたね」
「ありがとうございます」
凪はじーっと澪を見つめた。涼子は理由がわかって付け加えた。
「彼女の帽子は肌トラブルです。見逃してあげてください」
「なるほど、肌トラブル」
凪はぐいんと右に身体をかしげた。澪は左にそっぽをむいた。
「……。」
「……。」
凪はぎゅーんと左に上体を倒した。澪は右にそっぽをむいた。
「……。」
「……。」
凪は体勢を元に戻して片手で相手の帽子の先っちょをつまんだ。好奇心で口がとんがってしまう。「帝君」涼子の声を聞かずに、ぺろっと1センチめくってしまった。すると澪はガバッと両手で帽子をおさえた。そのまま顔面を隠し、紙袋を持ったまま一目散に駆け出す。凪は脊椎で追いかけていた。
 
澪はハーメルン本館の長い廊下を走った。一般の通行人のどよめく声。澪は手土産をなくしたことに気がついたが、もう考えようとは思わなかった。
 
彼女の後ろからゴロゴロ音がして、ある瞬間、目の前に何かが飛来した。スケボーでジャンプを披露した凪だ。終わってもまだゴロゴロ乗りこなしている。
「他にスノボも出来るよ」
「キャアァァァァァァ!」
澪は方向転換して逃げた。しばらくすると背後で「北川さーん」。凪が宙返って上から降ってきた。
「おれ、こんなのも出来るよ」
「キャアァァァァァァ!」
澪は更に方向転換した。しばらく走ってると、後ろから凪が追い越して来た。カップ麺食べ食べたずねてくる。
「どうしていちいち悲鳴あげるの?」
「キャアァァァァァァ!」
澪は手近な相談室があったので飛び込んだ。内から鍵を閉める。空室だ。ここなら大丈夫。そう思って室内を見回すと、同じ部屋で凪が床に頭をつけて逆さでスピンする、あのダンスを披露していた。
「キャアァァァァァァ!」
澪は相談室を飛び出した。通行人をかき分け通路を走り、中庭に脱出した。背後で気配。振り返ると凪が際限なくバク転して澪を追いかけてくる。
「キャーッ! キャーッ!」
彼女は何メートルも逃げたのちにとうとう追いつめられて泣いていた。
 
「見えないから見たくなって、逃げたから追いかけただあ? 犬かおまえは!」
その後、凪は搭吉郎にしぼられていた。タイル張りの中庭に搭吉郎が周到に用意した座布団が敷かれ、二人が膝と膝を付き合わせた形。
 
澪は近くの白いベンチに涼子と座り、彼女の腕の中でギャンギャン泣いていた。帽子は乗せているが、顔が見えてる。澪は肌荒れを隠すことはとうに忘れているようだった。
 
ハーメルンは医療とも連携している。晴天に恵まれた日の中庭は、療養空間として解放されていた。地面はタイル張りだが緑の木と草花があふれている。
 
あちこちにボランティアのアーティスト、補助犬、セラピー犬の姿がある。リハビリ中の女性子供にとって、元気なセラピー犬は人気者だった。
 
凪は搭吉郎に言った。
「ちゃんとサービスもしたんだ」
「おまえの求愛のダンスは、男に面白くて女性にコワいんだ!」
「バク転、カッコ良かろ?」
「ありゃちょっとやるから憧れの的なんだ。20メートルも30メートルもバク転で女性を追いかける男は頭の中まで筋肉みたいでコワいんだよ!」
「ギエェェェェェ!」
説教は長いわ、澪の泣き声は盛大だわ、凪は弱り果ててしまった。
「帝君、安心して」その時涼子が言った。「彼女恐がってるんじゃないの。マジギレして泣いてるの」
「そうなんですか?」
「ギエェェェェェ!」
凪は見た目をほめられることはあるが、気になる娘の機嫌はいまひとつ取れなかった。
 
ハーメルン本部中庭に澪の怒りの泣き声がとどろいた。
 
(エピローグ終わり)
 
[後書き]
 
仕事人としてハーメルンが登場する話はよく書くのですが、各エピソードがどうしても縦に進みません。横に広がる一方です。
 
クライマックスもご用意できません。無理矢理終わるとしたら、アニメのご長寿番組のラストのようになります。いつでも第二シーズン始められますよってアレです。
 
長編シリーズとして成立したら誰かに読んでもらおうと思っていたのですが、無理だとわかりました。私は短編しか書けません。
 
自分の限界を知るのもいいものです。これらの事情から、ハーメルンはエピソード毎にキャラ、組織、舞台設定が微妙に変わってきます。レギュラーキャラだけはいつも出てきます。
 
よく知らないのですが、こういうのをスター制度とか聞いたことがあります。でもスター制度のストーリーにもクライマックスはありますから、厳密には違うかもしれません。
 
失礼いたします。読んでくださってありがとうございます。