はじめての方、ようこそ。再来、応援してくださっている方にありがとうございます。ハクジュと申します。集団ストーカー被害記録と、趣味のファンタジーといろんなジャンル書いてます。ご興味のある方はこちら。
 
ファンタジー過去作品はこちら。お時間のない方は作詞シリーズが短くてお手頃かと思います。
 
前回の話はこちら。
あらすじ。
北川澪は二十五歳。“友の会”に騒音で攻撃されていた。会には二十八歳のコーデリア賞学者、高崎真理がいたーー。
 

[音②]

 
翌週、澪は玄関を開けた。
「じゃあ、今日だけお願いします。北川です」
「はい、私は町田と申します」
彼女は淡い紫のワンピースが似合う女性だった。澪は町田が何歳かわからなかった。年上だとは思うが、年齢不詳の女性ってたまに見かける。町田は言った。
「急にごめんなさいね。川西さんが抜けてしまって」
「いいえ、お子さんが発熱なら仕方がありません。あがってください」
「おじゃまします」
町田はヘルプの看護師だった。
 
澪は訪問看護の時間中、やはり騒音攻撃を受けた。町田は何ともない。澪は両耳を押さえて歯をくいしばった。
「どうしたの」
「具合が悪いんです。帰ってください」
町田は鞄から携帯を出すと、腰を上げて澪の耳にかざした。
「何ですか」
「じっとしててください」
町田はもう片手の腕時計を確認している。
ーー新型の血圧計かも。
澪は内心そう判断した。看護師は必ず脈や血圧ーーバイタルを取って帰る。しばらくすると町田は時計から目を上げた。
「具合が悪いのでは仕方がありませんね。私は帰る準備をしますから、待っててくれますか?」
「はい」
町田はもう一度腰かけて、澪に背中を向けた。ノートパソコンをたたき始める。
「北川さん、悪いですが、ケータイの電源切ってくれませんか」
「どうしてですか」
「パソコンの調子が悪いです。電波干渉してるかもしれません」
「よくわかりませんが……」
澪は機械に弱い。町田が言うならそうなのだろう。澪がその通りにすると町田はさらにパソコンを操作した。
「ありがとう。電波つながりました」
「そうなんですか?」
町田はパソコンを閉じて、鞄から紙切れを何枚か出した。
「手品して帰るから、見ててください」
町田が立ったので澪も続いた。そして騒音攻撃はいろいろなパターンがあるが、一点集中型の場合、移動してればかわせる。澪はかろうじて楽になった。
 
町田は澪の部屋のあちこちにシールを貼った。家具や家電ーー。賃貸だとシールを嫌う人もいるが、手品なら後から剥がせるもののはず。澪は町田の行為を不思議に思って、うしろをチョロチョロついて回った。
 
町田は作業を終えると笑顔で振り返った。
「はい、盗撮盗聴機は封じました。電磁波攻撃の証拠も取れましたよ。あなた統合失調ではありません」
澪は奇跡に言葉を失った。突然の来訪者には後光がさしていた。
「私はハーメルンの梶涼子。黙っててごめんなさい。看護師ではありません」
 
“友の会”監視団はこの程度のことで動揺しなかった。
「カメラ全て封じられました」
「会話も拾えません」
「ターゲットの味方が現れたかもしれません。先生、次の指示をお願いします」
よくある展開だ。真理はむしろ面白かった。
「協力関係になんかさせない。味方も孤立させましょう。統合失調工作すればいいの。バカな女でしたね」
団員の一人が真理を称賛した。
「さすが先生です」
「でしょ」
「はい」
彼女が目をつけた青年だ。またポイントが上がった。彼女は攻略するのが楽しくなった。
 
彼が立ち上がり、懐から拳銃を出した。友の会員SPは銃を携帯してるが、彼は違う。真理は一瞬、虚を突かれた。
「緒方君、そんな危ないもの」
彼は制止を聞かずに突然監視装置に発砲した。彼女は目を疑った。
「気でも狂ったの? その装置が何億すると」
「狂ってるのはあんただ」
緒方は監視装置に銃を乱射した。真理と団員は全員声を上げて床に伏せた。装置は破損箇所から唸りを上げて放電した。
「SP、何をしてるの」
彼女の声に反応する者はいなかった。かといって彼女は敵に囲まれているとは思えない。長い付き合いの団長は彼女と同じに応援を呼んでいるし、結婚できて喜んでいた宮本も震え上がっている。それに、乱心した緒方だって、警戒して監視団に銃を突きつけている。いや、警戒してるか?
「真理さん、それからこんなのがあるよ」
緒方は銃をかざしながら、空いてる手で壊れた監視装置の下から大きな物体を引きずり出した。小銃を収めて物体を担ぎ上げる。
「そんなもの、いつから」
「二ヶ月前からあったよ」緒方は真理にケロリと答えた。「みんなどのくらいターゲットに熱心か、よくわかった」
彼は監視装置に的を絞って、堂々と団員に背中を向けた。真理は動揺するより、冗談かと思った。
「ちょっと、それはやり過ぎじゃ」
「今日も元気にいってみよう」
友の会の監視装置はバズーカーで風通しが良くなり、その名残すらも見渡す限りのクレーターと化した。人間は標的ではなかったため、団員は生き残ることができた。真理は立ちつくした。
「緒方君」
彼は笑って振り返った。
「偽名だ。おれはハーメルンの帝凪(ミカド・ナギ)」
vol.160「音③」に続く)