はじめての方、ようこそ。再来、応援してくださっている方にありがとうございます。ハクジュと申します。集団ストーカー被害記録と、趣味のファンタジーといろんなジャンル書いてます。ご興味のある方はこちら。
 
ファンタジー過去作品はこちら。お時間のない方は作詞シリーズが短くてお手頃かと思います。

 

 

お礼があります。原園康寛先生、いつも応援ありがとうございます。音③は理屈っぽくて誰も振り返ってくれないと思ってました。嬉しくて泣きます。
 
私は会話文のみの脚本形式と地の文のみの形態は得意ですが、両方をブレンドしなければならない時、多くの凡ミスをやらかします。生暖かい目で見守ってください。
 
前回までの話はこちら。
 
あらすじ。
 
北川澪は二十五歳。“友の会”に騒音で攻撃されていた。会には二十八歳のコーデリア賞学者、高崎真理がいた。
 
ある時、澪の前にハーメルンという救世主が表れた。一方、友の会でも監視団の中にハーメルンを名のる者が現れた。若い彼は帝凪(ミカド・ナギ)、彼は真理たちの悪事を暴きたてたーー。
 
[音④]
 
凪は続けた。
「学者と権力者の利益を考えれば、ターゲットの家をスタジオに変えるくらい、安い買い物だったよね」
真理は理性をかき集めて思考力を取り戻した。状況を覆さなければ。仲間も同じことを考える。監視団の一人が退きかかった。
「動くな」
凪は銃を地面に向けた。
ーーガキンガキン
威嚇のため発砲したつもりのようだか、出来てない。
「あれ?」
凪が戸惑っている。弾詰まりだ。真理はこれを見逃さなかった。
「取り押さえて!」
監視団が動いた。すると内数名が曲芸のように吹っ飛んだ。技をかけたのは同じ団員。真理が目をみはると、大柄な壮年の団員が真顔で言った。
「悪いねえ、真理さん。潜入してるの、凪だけじゃないんだ」
「まさか」
「そのまさかだよ。摘発!」
監視団と監視団が共食いのように取っ組み合いはじめた。凪も参戦する。片方の人数が圧倒的に多く、十五分でかたがついた。
 
終った後、真理は凪が弾詰まりを直せる時間などいくらでもあったことに気がついた。けれど彼は発砲しなかった。凪は説明した。
「三分の二がハーメルンのスパイだったわけさ。あんたたち、何年もかけてターゲットの私生活に潜入するね? だったらおれたちも同じ。何十年もかけて集団ストーカー内部にパイプ作ってるんだよ」
 
監視ルームは制圧された。おそらく外もーー真理は懐から護身用の銃を出して、自分のこめかみにあてた。南無三。
 
しかし次の瞬間、得物ははじきとばされた。凪の射撃によるものだった。
「帝」
「おれのこと、気に入ってた?」
 
真理は右足首に違和感を感じた。そちらを見て悲鳴を上げた。大型ヘビが巻き付いてくる。彼女は気がつくと太ももに仕込んでいた銃でヘビの頭を吹っ飛ばしていた。SPではないが武器を使えないわけではなかった。
 
どうして監視ルームにヘビなんか。彼女が視線をめぐらすと、凪の姿。大型ヘビを首に巻き付けてじゃれあってるのが見えた。彼が真理を振り返る。子供のように笑ったが、瞳が彼女をあざけっていた。
 
彼女の左足に別のヘビが絡みついてきた。凪の声。
「どうせ投降するなら、一口くれないかなあ」
やってるのは凪だ。彼女は逆上して凪の頭を銃で吹っ飛ばしていた。
 
冷静に考えれば、仲間を制圧されているのに一人で抵抗するのは不利だ。制圧されているのにーー真理は辺りを見回した。誰もいない。左足のヘビもいなくなった。辺りには監視ルームの代わりに、東洋の装飾がほどこされた豪奢な寝室が広がっていた。
 
明かりはほとんど無い。オレンジの常夜灯が光っているだけだ。正面に頭から血を流して大の字に倒れた凪がいる。さっきと違うのは彼がアジア系のきらびやかな布を身体に巻き付けていることだ。しかも、女ものではないか?
 
真理には状況が飲み込めなかったが、大勢のハーメルンはいなくなった。彼女は考えた。逃げられるのでは?
 
その時、凪がむっくり起き上がった。
「噂どおりの美貌だ。でも涼子さんも負けてないぜ」
額に風穴があいているのに言うのだ。真理は恐怖にかられて何発も打った。弾切れするまで打った。凪は蜂の巣になって倒れたがやはり涼しそうに上体を起こした。
 
違法な薬でもやってるのかとあやしくなるような、なまめかしい笑い方をしている。彼の髪がうなりをあげてどっと伸び、床に流れ落ちた。見えなくなった彼の顔がもう一度のぞくと、確かに凪なのだか、官能的な唇も、くびれた腰も、あでやかな胸も、女のものになっていた。
 
真理は夢なら罪を暴かれたのも夢かと思った。しかし、寝室に真理の声が流れた。
ーー一度“ヘルメットで防御出来るんじゃないか”と希望を持たせるのが効果的なのーー
ICレコーダーの音声だ。
「この」
真理は凪を睨み付けた。やはり彼はハーメルンだ。
 
真理は薄暗い足下に鉄パイプが転がっていることに気がついた。贅沢な寝室に似つかわしくないと思ったが拾い上げた。次は下半身に三たびヘビがまとわりついたと思った。しかし振り返ると凪だった。
 
凪を彼といったらいいのか、彼女といったらいいのかーー、いつの間に真理の背面に回ったのかわからない。凪は両膝をついた祈りのような姿勢で、両手を真理にからみつけてきた。凪の手が真理の胴体をゾロゾロ這い上がってくる。人間じゃない。
 
真理は足技で凪を蹴飛ばした。間髪入れずに鉄パイプで彼の頭を吹っ飛ばした。暗くて視界が狭いため、凪は闇にのまれて見えなくなった。
 
真理は確実に凪の頭蓋骨を潰したと思った。しかし、次に何かが天井から降ってきて真理におぶさりかかった。真理は悲鳴を上げた。相手が凪だったことで更に恐怖をあおられた。
 
真理は凪をひっぺ返すように投げ飛ばした。次に自分の腰に重みを感じて触れてみると、全長50センチあまりの斧が下がっていた。
 
仰向けに倒れた凪が上体を起こした。真理は迷わなかった。斧を振り上げ、凪の上半身を肩から心臓まで、バッサリ両断した。確実に背骨を切断したはずだ。でも凪は、笑っていた。
 
真理は豪奢な寝室がどこだかわかった。東洋の古代君主が、毎晩襲って来る女食人鬼と死闘を繰り広げた舞台だ。
 
真理が斧のつかから手を放せない中腰でいると、食人鬼の青ざめた両手がスルスル伸びて、真理の首をとらえた。真理は相手が男の凪であることに気がついた。流れる長髪も、豊満な胸も、もはや無い。
 
凪は真理を自分の間近に引き寄せた。
「おもしろかったよ。さよなら」
彼の唇が彼女の口をふさいだ。彼は彼女をついばんで顔を離した。途端に真理は炎に包まれた。ガソリンをかけられたわけでもないのに、なんという燃え上がり方。真理は絶叫していた。
 
転げ回りそうになるのだが、凪の両手が火の鳥を面白がるように彼女の首をつかまえていた。彼の、狂った好奇心に彩られた眼が真理を見てる。炎は彼には燃え移らなかった。
 
「凪、終ったか」
「うん、あっけないね。みぞおち一発」
ハーメルン第三部隊長は凪に指示を出した。
「じゃあ彼女連れて来てくれ。撤収だ」
「了解」
凪は気を失った真理を担ぎ上げ、監視ルームを後にした。
 
後日、大柄でいつも目立つ壮年、第三部隊長、搭吉郎はハーメルンの若き女ボス、命(ミコト)と話し合った。終えると挨拶して彼女の部屋を出る。休憩に煎餅を食べていたら、彼女が執務室から職員の詰め所へと出てきた。やはり納得がいかないのだろう。
「凪、何か知ってる?」
「知りませんよ?」
彼女は相手の返事に弱って頭をかいていた。
「おかしいなー。隊長も知らないって言うし」
「僕はホシに暴力を振るって怒られる時が365日満載ですが、女性にはしません」
凪は悪意のない口調で子供っぽく反論した。命がむきになる。
「その問題だらけの素行から言って、疑われるの、当たり前でしょ!」
「信じてください!」
「じゃあ、素行を直せ!」
「おれの澄んだ眼を見てよ!」
「ええい、タメ口すな!」
搭吉郎が姉弟ライクな喧嘩に割って入ろうか考えた時だ。
「ボス、どうしたんですか」
搭吉郎より先に涼子が入った。命は説明した。
「高崎真理が半身不随になってしまって」
「医者は何と言ってますか」
「外傷なし。精神的なショックが原因とか言ってます」
涼子は落ち着きはらっていた。
「じゃあそうなのではないですか? 弱い人だったんです」
命は肩を落とした。
「しかし、急な話でこちらもやりにくくて」
「お察しします。がんばってください」
「はい」
涼子は変な所で不器用だった。命は悪意ゼロの相手にさらりとひどいことを言われ、しょんぼり背中を丸めた。トボトボ執務室に帰ってゆく。搭吉郎はボスを見送って憎めないキャラだと思った。
(終わり。vol.163「音⑤」のエピローグに続く)
 
 
[後書き]
 
終わりと書いてありますが、実はもっと後日のギャグエピローグがあります。もーちょっと語りたい後書きもあります。
 
しかし、現在書きにくい私生活が続いております。エピローグまで書けるか不透明な状況で、休めば解決するというものでもありません。発表できるの今しかないと思って、大筋の終わりまで③④と立て続けに書きました。
 
生きてたらエピローグ書きます。ここまで読んでくださった方に感謝。