はじめての方、ようこそ。再来、応援してくださっている方にありがとうございます。ハクジュと申します。集団ストーカー被害記録と、趣味のファンタジーといろんなジャンル書いてます。ご興味のある方はこちら。
 
ファンタジー過去作品はこちら。お時間のない方は作詞シリーズが短くてお手頃かと思います。

 

 

ファンタジー書きました。ヒロインの名前はアスリート選手のものではありません。私の恩師の名です。ただし、正確な漢字は覚えていません。
 
[山の王様①]
 
「醍醐直美」
「どうして汚いんだ」
空地では手に手に棍棒を持った人々が彼女を殴りつけていた。
「きれいになる努力もしないで」
「許さない」
直美は人間に化けた妖狐だ。人里で病んでしまい、反撃の仕方を忘れてしまった。自信と同時に妖力を失い、常に人々から憎まれていた。
 
近くでカラスが民家からくすねた生肉を散らかして昼食をとっていた。責める人間がいないことに増長し、更なる戦利品を探しに飛び立つ者もいた。
 
空にはどんよりと悪意がたれこめ、風が塵を舞い上げて直美をせせら笑い、野の花は陰口に色めき立っていた。
 
旅の男は村の住人が総出で若い女性を攻撃しているのに遭遇した。彼ら中に入って、一人に声をかけた。
「余は山の王様、暁光(ギョウコウ)じゃ。そなたは何という?」
「何だ、王様か。おれは与一」
「彼女、死んでしまうよ」
「こいつは妖狐だ。何やっても死なないんだよ」
暁光はそこについてまず安心した。
「彼女は何か悪いことをしたのか?」
与一は棍棒を下ろしていまいましそうに答えた。
「直美はな、人を幸せにしようとしないんだ。きれいに生まれたくせに勝手に汚くなりやがって、努力しない最低女だよ」
暁光は不思議に思った。
「きれいな女性は努力して人を幸せにしないといけないのか?」
口々に答える声があった。
「当たり前じゃないか。彼女は持っていた。おれたちは持たざる者だ」
「ちくしょう、あんなに恵まれていながら」
「そうだ、勝手に不幸ヅラしやがって。勝手に! 笑え、〇ズ!」
与一も罵って直美の背中を蹴飛ばした。暁光はもっと不思議になった。
「彼女が笑ったら、そなた憎むじゃろ?」
「当たり前じゃないか。全部直美が悪いんだ」
人々は一致団結して棍棒を振るった。与一も熱夢の世界に溶けていった。
「みんなに愛されて。おれなんか愛されたこともないのに」
「愛されたくせに」
「愛されたくせに」
「感謝の仕方を教えてやる」
「ははははは! 祭り、祭りい! 痛みの教育してやろうぜ」
 
直美は与一に話しかけた若い男を見て、相手が一人増えたと思った。新参者は持ち手の方がうねった変わった棍棒を持っている。ある時それをかざしてくるりと回した。
 
途端に加害者達は子犬の大きさに縮んでしまった。異能者は悲鳴を上げる小人の群れを棍棒で脅かして追っ払ってしまった。直美が棍棒と思った物は異能者の杖だった。
「大丈夫だったか。余は山の王様、暁光じゃ」
彼は直美の前にしゃがんで地面に杖を置き、笑いかけてきた。彼女は上体を起こし彼を牽制するため睨んだ。しかし彼はそのことに頓着しなかった。
「そなたは左目がとれておるのか。もったいないのう」彼はしげしげと見つめてきた。「もったいないのう。どうして醜いのだ?」
彼女は彼が憎くなった。しゃしゃり出てきた偽善者に言ってやった。「金がないからだよ」
「なるほど、そうか」彼は両手で水をすくうような形を作った。するとそこから金の破片が溢れ出し、みるみる地面にこぼれた。「全部やろう。余は山の神に祝福されておるのじゃ。これでそなたはきれいになる」
彼は彼女に期待の目を向けてきた。二分経った。彼は首をかしげた。
「どうしてきれいにならないのだ?」
「憎いからだ」
彼女の返事に彼は眉根をよせた。不服そうに口も尖らせた。
「余は鈍いのじゃ。金がないからというのは嘘じゃったのか? 言いたいことははっきり言ってくれないと困る」
「あっち行きな」
彼はあきらめなかった。
「憎いならそなたを傷つけた人間から目玉を取ってきてやろう。それをつければ元どおりじゃ」
「そんな汚らわしい目玉、要らない」
「よし、じゃあ余の片目をやる」暁光ははりきって提案した。「余は山の神に祝福されておるのじゃ。取っても取っても目玉なんて生えてくるから」
彼女は立ち上がると彼に背中を向けた。
「まって」
その手を取られて彼女が振り返る。追いすがってきた彼は、もう片手で懐から何かを出した。まんじゅうだ。
「おやつなら良いじゃろ」
彼は返事を聞かずに彼女の顔に甘味をはりつけた。
 
彼女はまんじゅうが潰れて悲惨なことになると思ったが、甘味はなくなり、視界がパッと広くなった。彼女が自分の手で顔を確認すると左目が元どおりついていた。彼は言った。
「きれいか汚いかはさておき、無いと不便だったじゃろ?」
彼女は彼の異能に形のわからない恐怖を覚えた。咄嗟に口から火を吹いた。
「あっちゃっちゃっちゃ」
彼は服から火を消すために転がり回った。その隙に彼女は逃げ出した。背後から彼の声。
「待って直美」