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私の記事の紹介です。内容の振れ幅が大きいのでご興味を持たれた方はこちらをどうぞ。

前回までの創作はこちら。

あらすじ。
醍醐直美は24歳。季節は年末、診察の日だった。彼女はロビーで病院構成員の排出する異常な騒音に苦しんでいた。

そこへ、ハーメルン隊員が現れた。直美が知らない内に騒音計で病院側の攻撃の証拠を取っていたという。

登場キャラクター、組織

醍醐直美……24歳。ADHDで統合失調の診断を受け、精神科はるひの丘病院にかかっている。

ハーメルン……主に福祉を扱い、武力を持ち、憲法に擁護されている組織。

若鷺仁(ワカサギ・ジン)
帝凪(ミカド・ナギ)
……ともにハーメルン隊員。


【ロビー2−1】

 凪ははるひの丘病院正面玄関から次々と運び込まれる音楽機材を受付前に誘導した。早くもバンドメンバーと追っかけ隊が到着する。凪はメンバーと機材設置の指揮をとった。被害者から目を離すつもりはないので直美にも手伝ってもらう。その後、メンバーは調弦をはじめた。
 追っかけ隊が極端に小規模なのは、しぼらないとハーメルン第三部隊屋内班の管理下に置けないからだ。抽選で選ばれた女性軍団は意中の人のため、これでもかと華やかなファッションで集まった。
 「どういうことですか、ここは病院ですよ」
 病院受付代表の小山が凪の元に抗議しにやって来た。TVの音声で直美を苦しめた女性だ。名札を見ると受付以外に兼任している役職があるようだ。凪はチラリと直美を見た。固まっている。凪は直美の手をそっと握るとすぐ離し、小山にさらりと答えた。
 「知ってますよ」
 「出て行ってください」
 「嫌です」
 「警察を呼びますよ」
 「どうぞ? ハーメルンは警察より上ですよ?」
 凪は小山が直美にしたように、あやすように微笑した。案の定、小山の勘に触ったようだ。怒った彼女も魅力的。彼女は食い下がった。
 「患者さんのご迷惑です」
 「そんなことない。この病院、朝からずっと75デシベル以上でしたよ」
 「わけのわからないこと言って」
 「ではわかってもらいます。電気屋の騒音と同じ爆音だったと言ってるのです」
 ハーメルン隊員は言葉遣いはそれなりの教育を受けている。凪は地が出てボスや隊長に叱られることがあるだけだ。小山は凪の物言いに心外といった様子。
 「そんな根も葉もない」
 「騒音計で時間と数値の証拠も取ってます。十回計りましたが、醍醐直美さんの周辺は常に電気屋レベル」
 「それはたまたま」
 「十回連続のたまたまなんてない。直美さんに対する攻撃です」
 「偶然です!」
 かみついてきた小山は気位の高い飼い犬のようだった。
 「偶然? では悪意はなかったのですね?」
 「当たり前じゃないですか」
 「それは良かった。涼子さん」
 「はーい、ハーメルン報道部です! みなさん、こっち向いて」
 追っかけ隊の中からハーメルン女性隊員、舵涼子が楽器の前に飛び出して来た。小山は目をむいた。
 涼子は小山と同年代の美魔女だが、小山のようなキツさがなく、ハーメルンの中にもファンが多かった。涼子の持っているカメラに周囲が騒然とする。涼子は笑顔で被写体に接近した。
 「ほらほら、笑ってー」
 「何するんですか!」
 とっさに顔をかくしたのは小山も例外ではなかった。病院構成員全員が顔色を変え、カメラからの見えない光線であぶられているかのように顔を押さえて悶絶した。涼子は満面の笑みでたずねた。
 「あら、一人残らずカメラ嫌いなんて偶然、あるんですか? 興味深いですね。視聴者のみなさん、ここがはるひの丘病院です!」
 涼子は実況し始めた。
 「ご覧下さい! 病院構成員全員が残らず顔を隠します。まるで組織みたいです! ハーメルンが一般人の顔を公開するわけがないのに不思議ですね。追いかけてみましょう!」
 涼子が更に病院構成員に接近を試みると、涼子一人を相手に彼らは狂ったように逃げまどい始めた。
 「うふふふふふふ、モザイクかけてあげますよ。それでもダメージなんですか? お待ちなさいお待ちなさい」
 涼子が追いかける。何故だか一番輝いている。

 はるひの丘病院、患者の優子は腹筋を割って身体を絞ることを至上の悦びとしていた。やり過ぎてドクターストップがかかっているが、それでもやめるつもりはない。ある日、突如として降りかかった悲劇に絶望していた。
 彼女は仲間と一緒にハーメルンのカメラから逃げまどい、病院の正面玄関を飛び出した。そして周辺をハーメルン機動隊が固めていることにドギモを抜かれる。拡声器の声。
 「はるひの丘病院構成員に告ぐ。集団ストーカーの証拠映像はおさえた。投降して捜査に協力しなさい」
 優子たちは悲鳴をあげて病院内に逆戻りした。全員パニックに陥る。優子は叫んだ。
 「どうしろって言うの。私、何にもしてないのに」
 待ち構えていたハーメルン報道部の女がカメラをかざして来た。
 「あら、何もしてないならハーメルンに協力して問題ないでしょう。ほらほらお姉さん、こっち見て笑って! どうして協力したくないんですか?」
 優子は理不尽に泣きたくなった。端正込めて腹筋を割ってきたのに。神は腹筋を知らないのだ。
 「犯人にする気なんだ!」
 「本当の犯人もそう言って一般人に紛れるでしょうね。でも一般人って実はそういうこと言わないんですよ。不思議ですね!」
 優子は泣き叫んだ。
 「お姉さん、笑って!」
 報道部の女は一番輝いていた。

【関連記事】

ハーメルンが登場する前作はこちら。ファンタジーです。

だいごなおみ先生については「山の王様②」の後書きで説明しています。

失礼いたします。ご覧くださった方に感謝。