ガノタなモノづくりママの日常 -23ページ目

「なんで鉄は、すぐ錆びてしまうん…」第3話

またも鉄子は泣きつかれて眠ってしまった。

やがて遠くから耳をつんざくような騒音が聞こえてきて、それがだんだん大きくなってきたとき目を覚ました。

「着いたみたいだね。ここは加工工場って言うんだ」
「え?か・こ・う・こ・う・じょー?なんなの?」
「僕たちはこれから、人間の思ったとおりの形になるために削られたり焼かれたりするんだよ。そういうことをする場所が、加工工場って言うんだ」
「削るとか焼くとか…もうやだ…。こわいよ…」
「鉄鉱石だった僕たちは、人間に見つかってしまったときにその後の運命が決まってしまったようなものなんだよねぇー」
「ああ、そうなんですね…」

鉄子はふと、生まれ育ったふるさとの風景や仲間たちのことを思い出した。
みんなは今どうしているんだろう?
今のあたしの、こんなギンギラギンな姿を見たらなんて思うだろう?
帰りたいよ…。酸素に触れたいよ…。

それにしても鉄郎はもの知りである。
どうしてこんなに人間との関わりを知っているんだろう?

「僕は、一回倉庫から出されてここに来たことがあるんだよね。その時ちょっとだけビニールを外されて酸素に触れられたよ。でも人間の都合で、また倉庫に帰されたんだ。その時、はずれたビニールの隙間から人間の手が僕に直接触れて、そこだけこんなふうなアザができちゃったんだ」
鉄郎の目が促すほうへ目をやると、そこに赤茶色の丸い斑点が見えた。

「なんだか、なつかしい感じのアザだね」
「僕もそう思ってるんだ」

それからどのくらい経っただろう。
加工工場の奥から「ごろごろごろごろ」、と音をさせて、人間が何かを運んできた。

「あれが製品っていうヤツだよ。僕たちも、加工されてあんなふうに形が変わるんだよ。すごいね人間は。自分たちに必要なものの形を計算して絵を描いて、そのとおりに僕たちの形を変えてしまうんだから」
「…うん」

人間はその製品にも、何かの記号や番号をつけて呼んでいるらしい。それは今の自分に付けられたものとは違って、その製品だけの特別な名前のようである。

鉄子と鉄郎の前を「製品」が通りかかった。
鉄子は製品の表情を見ておどろいた。
「この子、すごく息苦しそう…」

そしてそんな鉄子の心配に気づくはずもない人間は、「製品」を素手でせっせと持ち運びする。
「そんなふうに触ったら、鉄郎君みたいにアザだらけになっちゃうのに…」
「ああ、たぶんあの子はもうその心配はないよ」
「どうして?」
「あの子は、人間の都合で、これまで持っていた自分の性質を変えられてしまったステンレスだからさ。僕らとは身分が違う。本人はひどくかわいそうだけどね」
「ステンレス?」
「ステイン・レス・スチール。人間はそう呼んでる。意味は錆びない鉄ということらしいね」
「…ふーん」

鉄子は、改めて人間の力のすごさをかみ締めていた。

「あたしはもうあきらめるしかないの?帰りたいよ…おかあさん」
(ノД`)シクシク

つづく

「なんで鉄は、すぐ錆びてしまうん…」 第2話

その後、鉄子は何日眠っていたかわからない。
日も射さないし雨も降らない、風も吹かない大きな部屋に閉じ込められていたから、時間の流れがわからなかったらしい。
その広くて暗い部屋に、ちょっとした光がもれてきたはずみで、鉄子は目を覚ました。

あたりを見回すと、自分と同じようにあきらめ切った顔をして寝ている銀色の塊が大勢いる。ふと隣を向いたら相手も鉄子を見ていた。
「こんにちは。あたし鉄子」
「ちーっす。ぼくは鉄郎」
「ねーねー、ここはどこなの?」
「倉庫。ここでぼくたちは、再び人間に運び出される日を待っているんだ」
「え!今度はどこに連れて行かれるの?今度はどんな目に遭わされるの?」
「行き先はいろいろ。どんな目に遭うかもいろいろ。わかんないね」
「ああ、そうですか」

さらに光がたくさん入ってきて、何人かの人間がやってきて、ちょっと騒がしくなってきた。
「誰かを連れて行くのかな…」
そう思った直後、人間と目が合ってしまった。そしてその時の人間の様子から、自分になにか記号のような番号のようなものが付いていることを知ったのである。
「あたし、鉄子なんですけど…」
そんな訴えが人間の耳に入るはずもない。
人間は自分たちがわかりやすいように、鉄子も鉄郎もひっくるめて、似たような性質の物に、エスなんとかの何番といった名前をつけるらしい。
じつに理不尽である。

「いよいよ、ぼくたちの番みたいだ」
「えっ!」

そして人間たちは、鉄子と鉄郎を倉庫から運び出した。
「いやだ!もう痛いのや熱いのはいやだー!おかーさーん!!」
ヽ(`Д´)ノウワァァァン!!


つづく

「なんで鉄は、すぐ錆びてしまうん…」 第1話

ふとひらめいて他の場所でこれを書いたら、なんとなくウケたのでこちらでも載せようと思います。

(注意1)こどものための物語です。
(注意2)おはなしの登場人物、設定はすべてフィクションですw


鉄子はずっと還りたかった。
鉄鉱石だった頃の、あの、のんびりとした気ままな生活に。
ぶさいくだって汚くたっていい。見た目が悪くたって誰も笑わない。
仲間みんながそうだから。

ところがある日、鉄子は採掘業者によって仲間から引き離されることに。
どうやら鉄子は、他の鉄鉱石にくらべてちょっとだけ見栄えが良く、高品質に見えたらしい。

「いやだ!いやだ!あたしはこのままがいいの!いやだーーー!おかーさーん!」

そんな鉄鉱石の懸命の抵抗が、人間に聞こえるはずはない。
鉄子は連れ出され運ばれ、その後、製鉄という憂き目に遭う。

いままで酸化していることが当たり前でそれがとっても心地よかったのに、強制的に酸素を奪われて、銀色の塊に変化してゆく。
「こんな姿はいやだ…酸素吸いたい…酸素がほしいよ」

そんな鉄鉱石の悲痛な叫びが、人間に聞こえるはずはない。

製鉄されたあと、酸素と接触しないようにビニールで何重にも覆われ、切なくて悲しくて泣き疲れた鉄子は眠りについてしまった。


つづく