「なんで鉄は、すぐ錆びてしまうん…」第3話
またも鉄子は泣きつかれて眠ってしまった。
やがて遠くから耳をつんざくような騒音が聞こえてきて、それがだんだん大きくなってきたとき目を覚ました。
「着いたみたいだね。ここは加工工場って言うんだ」
「え?か・こ・う・こ・う・じょー?なんなの?」
「僕たちはこれから、人間の思ったとおりの形になるために削られたり焼かれたりするんだよ。そういうことをする場所が、加工工場って言うんだ」
「削るとか焼くとか…もうやだ…。こわいよ…」
「鉄鉱石だった僕たちは、人間に見つかってしまったときにその後の運命が決まってしまったようなものなんだよねぇー」
「ああ、そうなんですね…」
鉄子はふと、生まれ育ったふるさとの風景や仲間たちのことを思い出した。
みんなは今どうしているんだろう?
今のあたしの、こんなギンギラギンな姿を見たらなんて思うだろう?
帰りたいよ…。酸素に触れたいよ…。
それにしても鉄郎はもの知りである。
どうしてこんなに人間との関わりを知っているんだろう?
「僕は、一回倉庫から出されてここに来たことがあるんだよね。その時ちょっとだけビニールを外されて酸素に触れられたよ。でも人間の都合で、また倉庫に帰されたんだ。その時、はずれたビニールの隙間から人間の手が僕に直接触れて、そこだけこんなふうなアザができちゃったんだ」
鉄郎の目が促すほうへ目をやると、そこに赤茶色の丸い斑点が見えた。
「なんだか、なつかしい感じのアザだね」
「僕もそう思ってるんだ」
それからどのくらい経っただろう。
加工工場の奥から「ごろごろごろごろ」、と音をさせて、人間が何かを運んできた。
「あれが製品っていうヤツだよ。僕たちも、加工されてあんなふうに形が変わるんだよ。すごいね人間は。自分たちに必要なものの形を計算して絵を描いて、そのとおりに僕たちの形を変えてしまうんだから」
「…うん」
人間はその製品にも、何かの記号や番号をつけて呼んでいるらしい。それは今の自分に付けられたものとは違って、その製品だけの特別な名前のようである。
鉄子と鉄郎の前を「製品」が通りかかった。
鉄子は製品の表情を見ておどろいた。
「この子、すごく息苦しそう…」
そしてそんな鉄子の心配に気づくはずもない人間は、「製品」を素手でせっせと持ち運びする。
「そんなふうに触ったら、鉄郎君みたいにアザだらけになっちゃうのに…」
「ああ、たぶんあの子はもうその心配はないよ」
「どうして?」
「あの子は、人間の都合で、これまで持っていた自分の性質を変えられてしまったステンレスだからさ。僕らとは身分が違う。本人はひどくかわいそうだけどね」
「ステンレス?」
「ステイン・レス・スチール。人間はそう呼んでる。意味は錆びない鉄ということらしいね」
「…ふーん」
鉄子は、改めて人間の力のすごさをかみ締めていた。
「あたしはもうあきらめるしかないの?帰りたいよ…おかあさん」
(ノД`)シクシク
つづく
やがて遠くから耳をつんざくような騒音が聞こえてきて、それがだんだん大きくなってきたとき目を覚ました。
「着いたみたいだね。ここは加工工場って言うんだ」
「え?か・こ・う・こ・う・じょー?なんなの?」
「僕たちはこれから、人間の思ったとおりの形になるために削られたり焼かれたりするんだよ。そういうことをする場所が、加工工場って言うんだ」
「削るとか焼くとか…もうやだ…。こわいよ…」
「鉄鉱石だった僕たちは、人間に見つかってしまったときにその後の運命が決まってしまったようなものなんだよねぇー」
「ああ、そうなんですね…」
鉄子はふと、生まれ育ったふるさとの風景や仲間たちのことを思い出した。
みんなは今どうしているんだろう?
今のあたしの、こんなギンギラギンな姿を見たらなんて思うだろう?
帰りたいよ…。酸素に触れたいよ…。
それにしても鉄郎はもの知りである。
どうしてこんなに人間との関わりを知っているんだろう?
「僕は、一回倉庫から出されてここに来たことがあるんだよね。その時ちょっとだけビニールを外されて酸素に触れられたよ。でも人間の都合で、また倉庫に帰されたんだ。その時、はずれたビニールの隙間から人間の手が僕に直接触れて、そこだけこんなふうなアザができちゃったんだ」
鉄郎の目が促すほうへ目をやると、そこに赤茶色の丸い斑点が見えた。
「なんだか、なつかしい感じのアザだね」
「僕もそう思ってるんだ」
それからどのくらい経っただろう。
加工工場の奥から「ごろごろごろごろ」、と音をさせて、人間が何かを運んできた。
「あれが製品っていうヤツだよ。僕たちも、加工されてあんなふうに形が変わるんだよ。すごいね人間は。自分たちに必要なものの形を計算して絵を描いて、そのとおりに僕たちの形を変えてしまうんだから」
「…うん」
人間はその製品にも、何かの記号や番号をつけて呼んでいるらしい。それは今の自分に付けられたものとは違って、その製品だけの特別な名前のようである。
鉄子と鉄郎の前を「製品」が通りかかった。
鉄子は製品の表情を見ておどろいた。
「この子、すごく息苦しそう…」
そしてそんな鉄子の心配に気づくはずもない人間は、「製品」を素手でせっせと持ち運びする。
「そんなふうに触ったら、鉄郎君みたいにアザだらけになっちゃうのに…」
「ああ、たぶんあの子はもうその心配はないよ」
「どうして?」
「あの子は、人間の都合で、これまで持っていた自分の性質を変えられてしまったステンレスだからさ。僕らとは身分が違う。本人はひどくかわいそうだけどね」
「ステンレス?」
「ステイン・レス・スチール。人間はそう呼んでる。意味は錆びない鉄ということらしいね」
「…ふーん」
鉄子は、改めて人間の力のすごさをかみ締めていた。
「あたしはもうあきらめるしかないの?帰りたいよ…おかあさん」
(ノД`)シクシク
つづく