前回の記事は長い長い前置きばかりとなってしまいましたが、今回からはようやく娘の発達障害と低血糖の関係について考えていきたいと思います
*
「低血糖が、しかも症状が出ないレベルの軽い潜在性低血糖でさえも、脳細胞に微少なダメージを与え、それが発達障害の発症(や悪化)の原因となり得る可能性がある」
という事実を前にしての私の一番の関心事は、
「いったいいつ娘に低血糖が起こったのだろう」
ということです。
前回の記事にも赤字で書かせていただきましたように、
生後4ヶ月目で夜は6~8時間眠るようになる
という事実に、私は
「嘘でしょ 赤ちゃんって、そんなに早くから睡眠リズムができるものなの
」
ととても衝撃を受けました。
が、そういえばこれは、
小児科の睡眠障害外来の患者対象年齢が生後6ヶ月から15歳(中学三年生)まで
とされている事実にも合致しています。
確かに娘の定型発達の弟と妹は、生後3ヶ月頃には授乳間隔が長くなり、特に夜は長く続けて眠ってくれるようになっていたことも思い出しました。
娘が赤ちゃんの時、睡眠に関してどんなふうだったかにつきましては、こちらの記事で書かせていただいております。
↓
これをあらためて読み返して見ましたところ、どうやら娘は
早いと生まれて1ヶ月以内に、遅くても生後4ヶ月の時にはすでに睡眠障害を発症していたらしい
ことにあらためて気が付きました。
これまで何度か書かせていただきましたように、睡眠障害は発達障害の早期徴候であると同時に、発症リスクを増加させることが分かっています。
つまり娘は、少なくとも生後4ヶ月までには発達障害の兆候を示していたことになります。
これらの点から、娘の発達障害に低血糖が関与していたと仮定しますと、娘が低血糖状態に陥っていたのはそれよりも前、つまり
胎児期から遅くても生後3~4ヶ月までの間
という可能性が高いと考えられます。
ということで、以下、
「娘に、いつ、どのようにして低血糖が起こったのか」
について、順に考察していきたいと思います。
■カルニチン欠乏による低血糖
娘には、原因は不明ですが、カルニチン欠乏があります。
(*結果などはこちらで公開させていただいています)
カルニチンの最も重要な働きは脂肪酸代謝で、カルニチンが欠乏すると脂肪酸の代謝異常が引き起こされてしまいます。
特に長鎖脂肪酸の酸化は、新生児の生存と正常な発達に非常に重要です。
長鎖脂肪酸は神経の成熟のためにも必要で、幼若期における神経の形成や脳の発達に深く関与していることが分かっています。
(*余談ですが、脳は60%が脂肪でできているのですって(そして残り40%の多くはタンパク質だそうです))
このように、カルニチン欠乏のよる脂質代謝異常そのものが脳にダメージを与える可能性があるわけですが、それについては今は横に置いておきまして・・・
まずはカルニチン欠乏が原因の低血糖にのみ焦点をあてて考えてみたいと思います。
●胎児期~乳児期早期のカルニチンの動態について、分かっていること
カルニチン欠乏症のガイドライン(*こちらです)などを調べて、以下のようなことが分かりました。
・在胎30~33週頃から体内にカルニチンの貯蓄が始まり、胎齢とともに貯蓄量は
上昇する。とはいえ胎児期から新生児期初期のカルニチンの貯蓄量は、成人と
比べると著しく低値である。
・胎児期から生後6ヶ月くらいまでは、体内におけるカルニチン合成能は未熟。
(*ヒトが1日に必要とするカルニチンは、75%が食事から、25%が体内での合成
によって供給されると言われていますが、実際には食事から摂取できない場合でも
100%体内合成でまかなえると言われていること、また体内ではカルニチンの約98
%が筋肉(骨格筋、心筋)に貯蔵され、約1.6%が肝臓と腎臓に分布し、残り約0.6
%がそのまま血液中に存在すること、などにつきましてはこちらなどで触れさせ
ていただいています)
・そのため胎児期のカルニチン濃度は母体から胎盤を通じて供給されるカルニチ
ン量に強く影響され、供給が十分でない場合は簡単に欠乏症に陥る危険性が
ある。
・乳児期も同様で、母乳またはミルクからのカルニチン摂取が非常に重要になる。
・母乳中の総カルニチン含有量は、産後3週頃までは高値で維持されるが、哺乳
量が安定する産後40-50日以降は約1/2まで低下する。
(*これは乳腺の自己調節機能によると推測されているそうです)
・合併症のない低出生体重児および満期産児では、生後2週間までは哺乳量の
増加とともに血中カルニチン値が上昇し、生後6か月以降は離乳開始と体内で
の合成能の上昇とともに成人値に近付いていく。
以上の点をふまえて考えてみました。
↓
●果たして胎児期~新生児期の娘はカルニチンが欠乏していたのか
私自身にはカルニチン欠乏がないことは、こちらの記事で紹介させていただきました。
ということは、少なくとも胎児期は、娘の血中カルニチン濃度は正常だったはずです。
出生後も、娘のカルニチンの吸収能力に問題がなければ、カルニチン欠乏は起こっていないはずです。
(*ふと思いましたが、カルニチン製剤を服用している状態で今カルニチン濃度を測ってみて正常なら、カルニチンの吸収障害はないって言えるのでしょうかね)
※ちなみに:
娘のカルニチン合成能力の有無が問題になってくるのは生後6ヶ月以降ですが、それよりも前に睡眠障害を発症していたことから、今回は合成能力の障害がある可能性についてはスルーしたいと思います。
ただ問題なのは、"脳内のカルニチン濃度" です。
脳脊髄液中のカルニチン濃度は血液中の10〜15分の1とされ、この量は、脳内での合成量と血液脳関門(BBB)を通過してくる量によると言われています。
(*全身性カルニチン欠乏症には一般的にはASDが認められないのは、脳を含む体内での合成能は保たれているかららしいことは、こちらで触れさせていただきました)
体内でのカルニチン合成能が上昇してくるのは生後6ヶ月以降であることから、それ以前はおそらく脳内での合成能もとても低いと推測されます。
(*カルニチンはミトコンドリア機能を維持するためにとても重要なので、脳内での合成能のみもっと早く発達する可能性ももしかしたらあり得るかもですが、今は脳内も体内どこでも合成能は同じと考えるとします)
そうなりますと、胎児期の脳内のカルニチン濃度を決定する一番の要素は
カルニチンの血液脳関門(BBB)の通過量
だと考えられます。
(*血液脳関門(BBB)につきましてはこちらをご参照下さい)
カルニチンが血液脳関門(BBB)を通過する輸送については、ほとんど知られていません。
が、トランスポーターの欠陥により、全身の血液中から脳内へとカルニチン(やその前駆物質)を輸送することができない場合がありそうなこと、このトランスポーターの異常によるカルニチン(やその前駆物質)の血液脳関門(BBB)通過障害がASDなど発達障害を引き起こす原因の1つという説があること、などにつきましては、こちらの記事で触れさせていただきました通りです。
ですので、もし娘にこのトランスポーターの異常があれば、胎盤を通じて受け取る血液中のカルニチンは足りていても、脳内では欠乏している可能性があるのでは・・・ と思ったのですが。
そもそもこの血液脳関門(BBB)は、
「脳形成過程(胎児期や新生児期)では形成が不完全である」
とい一般には考えられているようです。
つまり、胎児期から生後3年くらいまでの乳幼児期は血液脳関門(BBB)が未完成あるいは未熟であるため、必要な物質だけを血液中から選択して脳内に取り込む防護壁(いわゆる関所)としての役割は果たしておらず、薬物やウイルスなどの異物が血液中で高濃度になると簡単に脳内に入ってしまうのだそうです。
つまり娘が発達障害で仮に血液脳関門(BBB)のカルニチントランスポーターに欠陥があったとしても、少なくとも胎児期や3歳くらいまでは、血液中のカルニチンはBBBを素通りして脳内まで届いていた可能性があるわけです。
一方で、血液脳関門(BBB)は脳発達過程での早い時期に形成されている、との報告もあるようです。
しかもトランスポーターの種類によっては、活性が成人期よりも高いという報告まであるらしく・・・
それによりますと、発達過程における血液脳関門(BBB)は、成人期とくらべて特徴的な機能を有することにより関門を通過しやすくなる薬物や毒物がある可能性、および脳神経細胞側の薬物・毒物に対する感受性が変化している状態である可能性が指摘されているようです。
(*『血液脳関門に関する最新の知見』(Organ Biology VOL.20 NO.1 2013より) )
ただこの説が正しいとしましても、胎児期におけるカルニチンの血液脳関門(BBB)の通過しやすさがどうなのか、脳神経細胞側の感受性がどうなのかは、全くの不明です。
が、ここは「血液脳関門(BBB)は3歳くらいまでは未熟」という定説に従うといたしますと、やはり
・胎児期の娘がカルニチン欠乏になる可能性は低いのでは
・ということは、脂肪酸代謝障害などによるダメージはもちろん、カルニチン欠乏による低血糖が原因での脳ダメージは心配しなくてよいのでは
と考える方が妥当では・・・? という結論に達しました。
(*ホントにそれでいいのかどうかは不明ですけれども)
・・・予定外に長くなってしまいましたので、続きは次回とさせて下さい