娘の試験ショック続きで中途半端なままとなってしまっておりましたが、最後の大きなショックがやってくる前に、何とかこのシリーズを完結させておかなければなりません滝汗


というわけで、ほぼ2ヶ月ぶりとなりますが、放心状態で何も手に付かない状態になる前に、娘の月経と眠気の関係についての考察をまとめておきたいと思います。




これまでの調べてきました結果、

・娘のひどい月経痛は「月経困難症」のためで、
・月経困難症の原因は「プロスタグランジンE2の過剰分泌」で、
・プロスタグランジンE2の仲間に「プロスタグランジンD2」という物質があり、
・プロスタグランジンD2は脳内では睡眠をもたらす「睡眠物質」として作用する。
・プロスタグランジンDは、体のどこかに炎症(月経も炎症の1つ)や痛みがある時に脳内でも産生量が増え、
・それによって月経時に睡眠が誘発される可能性がある。


ことが判明いたしました。


右差しそれらの記事はこちらになります↓

 

 

 

 

 

 

 

ただ 、脳内のプロスタグランジンD2の量が増える理由はそれだけではないことも分かりましたので、今回はそのことについてまとめていきたいと思います。

 

↓ ↓

 

 

 

■脳内におけるプロスタグランジンD2の濃度調整

プロスタグランジンD2は、脳内における主要なプロスタグランジンの1つだそうです。

そのため高度な神経活動が行われている脳において、脳内のプロスタグランジンD2の濃度は厳密に制御されていると考えられています。

たとえば前回の記事の中でちらっと触れさせていただきましたように、プロスタグランジンD2の前駆物質であるプロスタグランジンH2は、脳脊髄液中に出ると速やかに分解されてしまいます。(→そのためプロスタグランジンD2はもっぱら細胞内でのみ合成されます)

しかしプロスタグランジンD2については、酵素などによる不活化(分解)はほとんど行われていないことが分かっているようです。

では、脳内でのプロスタグランジンD2の濃度は、不活化(分解)なくしてどのようにして調整されているのでしょうか?

脳内のプロスタグランディンD2は、くも膜の細胞内で産生され脳脊髄液中に分泌されて脳内を循環した後、いったいどうなっていくのでしょうか?
 

※主な参考文献:

https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-21390042/21390042seika.pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/123/1/123_1_5/_pdf

 

 

 

■血液脳関門(BBB)、血液脳脊髄液関門(BCSFB)とは

 

全身を循環している血液は、当然脳へも送られていきます。
しかし生物にとって最も重要な臓器の1つである脳を守るため、脳には「血液脳関門BBB;Blood-brain barrier)」や「血液脳脊髄液関門BCSFB;Blood-cerebrospinal fluid barrier)」などと呼ばれる障壁が存在します。

これらは必要な物質だけを血液中から選択して脳内に取り込む防護壁(いわゆる関所)であると同時に、脳内で産出された不要な物質を血中に排出する役割も担っています。

 


ちなみにアルコールカフェインニコチンメラトニン抗うつ薬などは血液脳関門を通過します。

 

一方、たとえば睡眠物質であるGABAや、最近"幸せホルモン"として注目されているオキシトシンは、血液脳関門を通過することができません。
(*なので市販されている「GABA配合チョコレート」「オキシトシン点鼻や内服薬」などは本当は効果がないのだそうです)

 


(*この画像はこちらから引用の上改変させていただきました)

 

 

 

■プロスタグランディンD2(PGD2)と「血液脳関門」「血液脳脊髄液関門」の関係

なぜ突然「血液脳関門」「血液脳脊髄液関門」の話が出てきたかといいますと、実は

脳内のプロスタグランジンD2は、これらの関門を介して活性型のまま循環血液中に排出輸送される

ことが分かっているからなのです。


たとえばラットでは、脳内のプロスタグランジンD2の消失半減期(体内に入った物質の量が半分に減るまでの時間)は約15分なのだそうです。(*短っ!ハッ


ところが!!!

このプロスタグランジンD2の消失半減期は、薬によってラットの末梢に組織炎を起こさせると 約71%低下する ことが実験によって明らかになっているそうです。

これは、体のどこかに炎症があると、脳内のプロスタグランジンD2の排出が著しく低下するということを示しています。
(炎症だけでなく、ある種の抗生物質など、他にもPGD2の排出速度に影響を与える物質があるそうです。)

 

→ということは、子宮内の炎症である月経時にも、血液脳関門を介した脳からのプロスタグランジンD2排出が低下している可能性がある、と考えられるのではないでしょうか!?

※主な参考文献:

https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-24659072/24659072seika.pdf

 

 


■なぜ娘は月経の1-2日目に過眠症状が悪化するのか:結論

これまでに調べてまいりましたことからたどりつきましたのが、以下の仮説です。

娘は月経困難症なので

子宮の強い炎症とひどい月経痛が起こることによって
(ともに1日目と2日目が最も重い)

脳内のリポカイン型プロスタグランジンD合成酵素の量が大幅に増加し

脳内でプロスタグランジンD2(=睡眠物質)が大量に産生される。

同時に、子宮に強い炎症が存在することによって、血液脳関門や血液脳脊髄液関門からのプロスタグランジンD2の排出が著明に低下し

脳内のプロスタグランジンD2の量がさらに増加するために

非常に眠くなる。

 

 


ただ引っかかっているのは、前回紹介させていただきました"尻尾の先をちょん切られて痛みのあまり眠り込んでしまったマウス"は、遺伝子操作で
「ヒトのリポカイン型プロスタグランジンD合成酵素を大量発現していた」

という点です。

つまり、よほどプロスタグランジンD2の量が多くならない限り、月経によって過眠症状までは起こらない可能性があります。

 


調べてみたのですが、ADHDの人が健常発達の人に比べて"リポカイン型プロスタグランジンD合成酵素の量が多い"、あるいは"脳内のプロスタグランジンD2の量が多い"という研究は見つけることはできませんでした。

 

(※ただし 自閉症の人の脳では造血器型プロスタグランジンD合成酵素(H-PGDS)を発現したミクログリアが増加しており、HPGDSによって過剰産生された炎症メディエーターとしてのプロスタグランジンD2(*リポカイン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)によって産生された催眠作用をもつ方ではなく)が、胎生期の幼弱脳に神経炎症を起こすことによって自閉症発症に関与している、という研究論文は右差しこちら:https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-25461545/25461545seika.pdf にありました。

あと、「妊娠中の母体炎症と胎児の脳発達への影響:プロスタグランジンD2による神経炎症と神経回路構築異常の関連に着目した発達障害の病態基盤の解明」https://researchmap.jp/atsuko-hayata/research_projects/12984254 )という研究の結果がどうなったかもとても気になりますが、まだ論文にはなってないみたいです(?)ぐすん
(*造血器型とリポカイン型プロスタグランジンD合成酵素については前回の記事をご参照下さい)


ちなみに、日本の調査では成人女性の41%が月経に関連して睡眠に変化があり、そのうちの1%は月経前不眠、43%は月経前過眠、51%は月経時過眠、5%は月経時不眠を訴えている、という結果でした。

単純計算ですと日本の成人女性の約20%に月経時過眠が認められることになり、日本の成人の発達障害の有病率が約10%(ADHDだけですと約2.5%)前後であることと併せて考えますと、少なくとも半分は定型発達の女性である可能性が考えられます。
(*月経前不眠、月経前過眠、月経時不眠はエストロゲンなど女性ホルモンのバランス変化で説明できますが、月経時過眠だけは説明がつかないと思われます)

 

これらの点から、月経時過眠が認められるかどうかは、ADHD(など発達障害)の有無ではなく、月経困難症を併発しているかどうかがポイントかもしれません。

 


とはいえ、月経中は日常生活が送れなくなるほど(娘で言うならあのモディオダールが効かなくなるくらい)眠くなる、というほどまで、いわゆる月経時過眠が重症だという話はあまり聞かない気がします。
(*生理中に眠くなると言う知り合いは何人かいますが、せいぜい授業中や仕事中に眠くなる程度で、とても起きていられないと言っている人はいなかったと思います)

 

 

ではなぜ娘の場合はそこまで眠くなるのでしょうか。

 


これまで調べてきました内容、そして娘の治療体験や、ここを訪れて下さっている方々のブログを拝見していて、発達障害(主にADHD)に認められる過眠症には

 

・コンサータなどADHDの薬がある程度有効な軽めの過眠症
・コンサータなどADHDの薬では歯が立たない重度の過眠症(モディオダールが必要)

 

があるように感じています。



それらがただの眠気の程度や当事者本人の感じ方の違いでないとしたら、その差はいったなぜ!? ・・・と考えていて、もしかしたらADHDの人に見られる過眠症には

・前者はいわゆる発達障害関連過眠症・・・つまりADHDの部分症状としての過眠症
・後者はADHDとナルコレプシーの合併・・・つまりナルコレプシーと同じ遺伝子変異もあわせ持っているADHD(*これにつきましては↓で触れさせていただいてます)

 

 

の2種類が少なくともあるのでは・・・?

(*ADHDもナルコレプシーも関与してる遺伝子変異が複数~たくさんあると今のところ言われているので、個人差が大きくてそんな簡単なものではないと思いますが、とりあえず臨床像では、ということでアセアセあせる

 

 

――などと考えてしまいました。

ちょっと飛躍しすぎですけどゲラゲラ
 

 


仮にこの仮説が成り立つとしましたら、娘は限りなく後者に近い(というかほぼ後者そのもの)ように思えますが、いずれにしてもADHDで過眠症状を伴っている人の場合は、脳内の睡眠・覚醒バランスは、常に

睡眠系>>覚醒系 (後者の場合は睡眠系>>>>覚醒系

という状態に傾いていると思われます。


ただでさえそんな状態なので、強力な睡眠物質であるプロスタグランディンD2の量が脳内で少しでも増えようものなら――

尻尾を切られた痛みで眠り込んでしまったラットほど大量でなかったとしても、普段より少し多くなっただけで簡単に

睡眠系>>>>覚醒系 (後者の場合は睡眠系>>>>>>覚醒系

というバランス状態に陥ってしまう可能性があるのではないでしょうか!?

 


つまり、

・月経困難症のない人よりもある人の方が、
・定型発達発達の人よりも発達障害で過眠症もちの人の方が、
・発達障害で過眠症もちの人のうち、過眠症状が軽いより重い人の方が、

月経時により眠くなる傾向にあるのでは!? 

 

 

――というのが私の勝手な想像です。
 

 


それを確かめようと思いましたら、

・定型発達で月経困難症のある人とない人
・ADHDで月経困難症のある人とない人
・過眠症を伴うADHDで月経困難症のある人とない人
・月経困難症のADHDでもともと過眠症のある人とない人

のそれぞれで、月経中過眠が認められる割合がどのくらい違うのかのデータを見つけることができたらなぁ・・・と思います。



以上、またしても自己満足だけのシリーズになってしまいましたが、長い間モヤモヤもやもやもやもやしておりました

『娘の過眠症状が月経1-2日目に悪くなる理由』

が自分なりに理解できましたので、ひとまずスッキリいたしましたにやり合格花火お祝い


 

要するに:

 

・ADHDとともに生まれ持った体質(ナルコレプシー)なので、仕方がない!
・月経中なるべく痛くならないようにすることが大切!(・・・ピル(LEP)と消炎鎮痛剤で)
・試験など大事な日は、重ならないようピル(LEP)で月経をずらすしかない!

 

と覚悟を決めて、頑張って付き合っていくしかないということのようです(*娘が、ですが)えーん

 

 

 

 

*長い間お付き合い下さり、ありがとうございましたキラキラ