これまで3回にわたり、娘のひどい月経痛と、月経の1日目と2日目に限って悪化する強烈な眠気(*あのモディオダールでさえ太刀打ちできないほどのアセアセの関係について、調べてまいりました。
 

 

 

 



その結果、

娘のひどい月経痛は「月経困難症」のためで、
月経困難症の原因は「プロスタグランジンE2の過剰分泌」で、
プロスタグランジンE2の仲間に「プロスタグランジンD2」という物質があり
プロスタグランジンD2は脳内では睡眠をもたらす「睡眠物質」として作用する

ということが分かりました。



それをもとに、

「だったら、月経の時にプロスタグランジンD2の過剰分泌が起こるのであれば、娘の月経1~2日目の過眠症悪化の説明がつくのでは!?

と考えて調べてみたのですが、月経とプロスタグランジンD2の関係が直接書かれているものは、私の低いサーチ力では見つけることができませんでした。


そのため、続いて

「だったら、実際に脳内でプロスタグランジンD2の産生が増えるのは、どんな時?

について調べてみましたところ、もしかしたら月経時の過眠症状を説明できるのでは・・・?と思われますことがらに行き当たりましたので、今回まとめておきたいと思います。






■プロスタグランジンD合成酵素は2種類ある

上の2つめの記事で触れさせていただきましたが、プロスタグランジンD2やプロスタグランジンE2は、下図のようにプロスタグランジンH2から合成されます。

(この画像はこちらから引用の上改変させていただきました)


このうち、プロスタグランジンD2が合成される過程には プロスタグランジンD合成酵素PGDS;Prostaglandin-D Synthase)という酵素が関わっています。


このプロスタグランジンD合成酵素は、哺乳動物においては  造血器型(H-PGDS)リポカイン型(L-PGDS)の2種類があるそうです。


造血器型プロスタグランジンD合成酵素(H-PGDS)は、末梢組織の肥満細胞やTh2リンパ球に分布し、血管拡張、気管支収縮、血小板凝集阻害など、アレルギーや炎症反応のメディエーターとして働きます。


もう一方のリポカイン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)は、中枢神経系(=脳と脊髄)や雄性生殖器、心臓に局在しています。

そして中枢神経においては、睡眠誘発、痛み応答の調節、体温低下、黄体ホルモン分泌抑制などの作用を示すといわれています。

(*つまりどちらの酵素によって産生されたかによって、同じプロスタグランジンD2でも作用が異なる、というわけなのですねびっくり

 

※主な参考文献: https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/123/1/123_1_5/_pdf

 

 

■脳内のリポカイン型プロスタグランジンD合成酵素の存在場所と働き

脳に存在するリポカイン型プロスタグランジンD合成酵素は、上の3つめの記事中でも触れさせていただきましたように、脳と脊髄を取り囲んでいるクモ膜(軟膜、と書いてある文献もあり)の細胞で主に合成され、脳脊髄液中に分泌されます。
(*ほかに脈絡叢やオリゴデンドログリア細胞でも産生されるそうですが・・・ムズショックもやもや


(この画像はこちらから引用の上改変させていただきました)

 

 

このように、リポカイン型PGD合成酵素は、クモ膜(や軟膜)の細胞内と、脳脊髄液中の両方に存在しています。

ですがプロスタグランジンDの合成に関わるのは、このうちクモ膜(や軟膜)の細胞内にある合成酵素だけのようです。

なぜなら材料となるプロスタグランジンH2が細胞内にしか存在しないからで(※プロスタグランジンH2は細胞外に出ると速やかに分解されてしまうのだそうです)、したがって脳脊髄液中に分泌されたリポカイン型プロスタグランジンD合成酵素は、プロスタグランジンD2の合成酵素としては働きません。

では脳脊髄液の中にあるリポカイン型プロスタグランジンD合成酵素がどのような役割を担っているかについては、まだ完全に明らかにはなっていないそうです。
ただ、このリポカイン型プロスタグランジンD合成酵素のタンパク質は、脳脊髄液中の総タンパク質の10%をも占めていて、アルブミンに次いで2番目に多いのだそうです。
現時点で分かっているのは、脂溶性物質の輸送などを行う多機能タンパク質として働いているらしいことくらいのようですが、実際にはもっと多岐にわたる重要な役目を果たしている可能性があると推測されているようです。

※主な参考文献:

https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj1944/112/6/112_6_343/_pdf/-char/ja

https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-21390042/21390042seika.pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/123/1/123_1_5/_pdf

 

 

■どんな時にプロスタグランジンD2の合成が増えるのか

最初に紹介させていただきました3つの記事のうちの2番目でも触れさせていただきましたように、一連のプロスタグランジンの合成反応は、

"組織の損傷など種々の刺激により、細胞膜のリン脂質からホスホリパーゼA2という酵素によってアラキドン酸が遊離される"

ことによってスタートします。


そして興味深いことに、その組織の損傷や炎症などの刺激が体の末梢で起こっているにもかかわらず、脳内での各種のプロスタグランジン合成酵素の量も増えることが明らかになっています。
(*ここでいう"末梢"とは脳と脊髄以外のことです)


つまりプロスタグランジンD2も、組織の損傷や炎症などが体のどこかで起こると、脳内のリポカイン型プロスタグランジンD合成酵素の量が増え、それによって脳内で合成されるプロスタグランジンD2の量も増加する、というわけです。


現実に、ヒトのリポカイン型プロスタグランジンD合成酵素を遺伝子に組み込んで大量発現させたマウスねずみにおいて、こんな現象が認められることが書かれていました。

↓ ↓ ↓ ↓


研究でマウスの遺伝子を解析する時、尻尾の末端を切断するのだそうです。
するとその痛み刺激により、ヒトリポカイン型プロスタグランジンD合成酵素を遺伝子に組み込まれたマウスねずみでは、刺激後3時間をピークとして5時間にわたり脳内のプロスタグランジンD2濃度の上昇をともなう睡眠発作ぐぅぐぅが認められたのですってポーンポーンポーンハッハッハッ

(※ここまでの主な参考文献:

https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-24659072/24659072seika.pdf

https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11680642/
 

 

つまり、体の末梢(=脳と脊髄以外)の 傷、痛み刺激、炎症 などにより、脳内のリポカイン型プロスタグランジンD2が増加し、実際に眠りに落ちることが実証されているのですクラッカー
 

 


ちなみに"炎症"とは、

「生体組織に何らかの有害な刺激を起こす物質(起炎物質)が作用したときに生体が示す局所の反応であり、生体防御反応の一過程」

だそうで、

起炎物質には 外傷、打撲、病原体侵入(感染)、化学物質刺激など があり、

発赤・熱感・腫脹・疼痛 を「炎症の4主徴」と呼ぶそうです。



さて、ここで『月経』ですが。

月経困難症である娘、月経時の「痛み」は相当強いです。

また調べてみますと、そもそも月経とは子宮内膜の剥離と出血を伴う現象であり、子宮内に"傷 (外傷)"ができているといえます。

そしてこの時、子宮内では"炎症"が起きているのだそうです。
(※子宮内膜症(=子宮内膜が子宮内以外の場所、例えば卵巣や子宮の表面、腹膜などにできてしまう病気で、器質性(続発性)月経困難症の主な原因の1つだそうです。(右差し上の1つめの記事にちらっと出てきます))がひどくなるとお腹の中で癒着ができてしまうのは、月経が"炎症"だからなのだそうです)
※参考サイト:

 




――ということは。


痛み刺激で睡眠発作を起こすマウスは、ヒトのリポカイン型プロスタグランジンD合成酵素を"大量"発現していました。


これがもし"大量"ではなく"通常~少ない量"でも睡眠が起こるのかどうかについてまでは、書かれていませんでした。

ですが"大量"ではない場合でも、おそらく脳内のプロスタグランジンD2は増加していて、ただその量が、覚醒状態に打ち勝って睡眠を引き起こすほどの力には足りないだけなのでは――?、と推測しています。(*←私が勝手に、ですがゲラゲラ


というのも、

「生理の出血量💉と痛みガーンと眠気ぐぅぐぅは比例してる気がする」

と言っていた娘の言葉を思い出したからです。



月経困難症で、普通の人より出血量も月経痛もひどい娘です。

月経困難症の人は子宮内膜が厚く、その分はがれ落ちる粘膜も出血量も多いそうです。
ということは炎症も強く起こっていると考えられます。

また子宮内膜が厚い分、産生されるプロスタグランジンE2の量も多く、その結果子宮収縮が強くなり、過度な月経痛が引き起こされます。


つまり、

娘は月経困難症なので

子宮の強い炎症とひどい月経痛が起こることによって

脳内のリポカイン型プロスタグランジンD合成酵素の量が大幅に増加し

脳内でプロスタグランジンD2が大量に産生されて

眠くなる

という構図が成り立つ、という可能性は・・・考えられなくもないのではないでしょうか?滝汗あせる
 

 

 

 



「月経」といえば「女性ホルモン」なのに、その女性ホルモンでは娘の月経1-2日目の過眠症状の悪化をうまく説明することはできませんでした。
 

 

 

 

ですが尻尾をちょん切られて痛さのあまり眠り込んだという可哀想なマウスさんねずみの姿を想像した時、そこに娘の姿がぴたりと重なって、「このプロスタグランジンD2説ならありえるのでは!?」なんて思ってしまったのです。

 

 


そして、どうやら脳内のプロスタグランジンD2の量が増加する機序は、今回の産生増加以外にもう1つありそうなので――

次回はそのことについてまとめてみたいと思います。