今回は前回の記事で書かせていただきました、2019年1月に発表された 『自閉症とカルニチン:考えられる関連(Autism and carnitine: A possible link)』 という論文の要点のうち、以下の部分についての説明から始めさせて下さいお願い

 


この部分です:

・ASD児とその両親の遺伝子を調べたある研究では、トリメチルリジンヒドロキシラーゼイプシロン(TMLHE)遺伝子の異常が見つかっている。

・TMLHEはミトコンドリアに存在するトリメチルリジンヒドロキシラーゼ(TMLD)をコードする遺伝子であり、このトリメチルリジンヒドロキシラーゼ(TMLD)はカルニチンの生合成に関与する最初の酵素であることから、ASDの一部(約10-20%)はカルニチン合成障害を持っている可能性があると考えられる。・・・Ⓑ


Ⓑについて

 

カルニチンは1日の必要量の75%が食物から摂取され、25%が生体内で合成されること、 しかしながら1日に必要なカルニチンは肝臓や腎臓、脳で十分な量が合成されるため、敢えて食物やサプリメントから摂取する必要がないことは、2021年4/16の記事で書かせていただきました。

*こちらです↓

 

 

 

カルニチンの生体内での合成過程につきましては、2021年5/6の記事で触れさせていただいています。
が、私自身すっかり忘れておりますので、その時に引用させていただいた図を用いて、Ⓑについて説明したいと思います。

 

(この画像はこちらから引用の上一部改変させていただきました)

 

 

上の図のように、さまざまなタンパク質に含まれる遊離リジンがS-アデノシルメチオニンによって段階的にメチル化(トリメチル化)され、トリメチルリジン(TML)が合成されます。

トリメチルリジンはタンパク質の加水分解によって遊離トリメチルリジンとして放出されたのち、ミトコンドリアに入り、トリメチルリジンヒドロキシラーゼ(TMLD)によってヒドロキシトリメチルリジン(HTML)へと変換されます。

このヒドロキシトリメチルリジンにさらに3段階に酵素が作用して、最終的にカルニチンが生合成されます。


ASD児では、遺伝子の突然変異によりTMLDという最初の酵素に異常があるため、トリメチルリジンからヒドロキシトリメチルリジンへの反応が進みません。

そのため、血液中のトリメチルリジンが高値となる一方、カルニチンなどヒドロキシトリメチルリジン以降の物質は低値となります。


※ちなみに上の図や説明は物質名や酵素名を分かりやすく簡略化したもので、正式にはこちらになるようです↓



(この画像は↓のガイドラインから引用させていただきました)




――あれ?

たしかガイドライン(* 『カルニチン欠乏症の診断・治療指針2018』 )には、

カルニチンの生合成にはγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼ以外に数種類(正確には全部で5種類)の酵素が関与することが分かっていますが、現在のところこれらの酵素の異常によるカルニチン欠乏症は知られていません

 

と書かれていたはずでは・・・??

 

*こちら↓の最後の方で触れさせていただいてます。

 



どういうことでしょううーん??


ガイドラインでは認められてはいませんが、実際にはカルニチン合成に関わる酵素の異常による生合成異常が存在する可能性があり、しかもそれがASD児で認められる、ということでしょうか・・・?
(ちなみに次で紹介させていただく文献にすら、「カルニチン生合成の欠陥によって引き起こされる原発性全身性カルニチン欠乏症の可能性はずっと前に仮定されていましたが、カルニチン生合成の原発性障害はこれまで報告されていません。」との記載がありますアセアセ


というわけで、いったいどういうことかを確認するため、Ⓑの記述のもととなりました論文(*右差しこちらです)を頑張って読んでみました。
(*すみません、頑張ったのは私ではなくグーグル先生ですお願い

その内容をまとめてみますと・・・


・トリメチルリジンヒドロキシラーゼイプシロン(TMLHE)遺伝子は、X染色体の長腕にあり、 カルニチン生合成の最初の酵素であるトリメチルリジンジオキシゲナーゼ(TMLD)をコードしている。
(*X染色体は性染色体で、男性はXYなので1本、女性はXXなので2本持っています)

男性の自閉症患者において、このトリメチルリジンヒドロキシラーゼイプシロン(TMLHE)遺伝子のエクソン2の欠失が認められた。(*男性に限定した理由については、「PCR分析ではヘテロ接合の女性(=2本のX染色体のうち1本のみにTMLHE遺伝子のエクソン2の欠失がある女性)の欠失を確実に検出できず、男性のみに焦点を合わせたため」との記載がありました

・この遺伝子異常があると、トリメチルリジンジオキシゲナーゼ(TMLD)が作られず欠損するため、トリメチルリジンから先のカルニチン合成が進まなくなってしまう。
・その結果、血漿および尿中の基質つまりトリメチルリジン(TML)が正常の数倍に増加し、中間体のヒドロキシトリメチルリジン(HTML)とγ-ブチロベタイン(γBB)は欠如~大幅に低下する。(*この現象は先天性代謝異常症の特徴の1つだそうです)
・以上より(HTML+γBB)/TML比は有意に低くなることから、この値はトリメチルリジンジオキシゲナーゼ(TMLD)活性の優れた指標になり得ると考えられる。
・カルニチン生合成の欠陥によって引き起こされる原発性全身性カルニチン欠乏症の可能性は約100年前から仮定されていたが、最近になって、これまで説明されていなかったTMLHE欠損症という先天性代謝異常症が存在することが明らかになった。
・TMLHE欠損症はヨーロッパ系の男性では350人に1人という驚くべき頻度で認められる。
・このようにTHML欠損症は男性の先天性代謝異常として非常に一般的だが、成人の大多数は表現型的には正常。
・TMLHE欠損症は自閉症の全症例の約1%未満で認められる。
・具体的には:自閉症の全体的な頻度を100分の1と仮定すると、自閉症の男女比は4:1で、正常な男性のTMLHE欠損症の頻度は350分の1。また男性自閉症患者でのTMLHE欠損症の頻度は250分の1または150分の1であるが、孤発例(=家族歴のない自閉症患者)では320人に1人と正常男性と比べて差はなかったものの、男性-男性の多重自閉症家族からの発端者(=父親も自閉症である男性の自閉症患者)ではその2.82倍と有意に頻度が高かった。

・他のさまざまなデータから、TMLHE欠損症は、発語がなく知能指数(IQ)が低いなどの重度の自閉症よりも、より軽症のアスペルガーなどの自閉症において弱い危険因子である可能性が示唆されている。

・TMLHEの欠乏は、TMLの毒性蓄積、またはHTMLやTMABAやγBBやカルニチンなど下流代謝物の欠乏のいずれかによって有害な影響を及ぼす可能性がある。

・自閉症ではミトコンドリアの機能異常が広く認められており、このミトコンドリア機能障害のいくつかはカルニチンの欠乏が原因と考えられている。実際に自閉症では低カルニチン血症の報告があることから、現時点での最も魅力的な仮説は、TMLHE欠損症は自閉症(ASD)発症のリスクであるが、このリスクは、 妊娠中または授乳中の母親のカルニチン摂取や、出生から生後数年までのカルニチンの食事摂取によって変化する、というものであり、さらなる研究が待たれる。
・興味深いのは、全身性カルニチン欠乏症(SCD)の子どもに自閉症は一般的には認められていないが、自閉症の子どもでカルニチン欠乏を伴う症例は報告されている点である。
(*全身性カルニチン欠乏症(SCD)につきましては右差しこちらの最後の方で触れさせていただいてます)
・自閉症の神経学的基礎と海馬ニューロンおよびプルキンエ細胞におけるトリメチルリジンヒドロキシラーゼイプシロン(TMLHE)の顕著な発現を考えると、自閉症の症状は脳のカルニチン欠乏に続発する可能性がある。
・全身性カルニチン欠乏症の病態生理は、TMLHE欠損症とは大きく異なっている。全身性カルニチン欠乏症では、OCTN2というカルニチントランスポーターの機能に異常があるため、腸管からのカルニチンの吸収が上手くいかない。そのため血中カルニチン値は低いものの、脳や他の場所でカルニチンを合成する能力は損なわれていない
(*ちなみにOCTN2は腸管のほか肝臓や筋肉、腎臓、脳にも存在し、それらの臓器へのカルニチン輸送に重要な役割を果たしています)
・一方、TMLHE欠損症は、食餌摂取量によっては血中カルニチンは正常または正常低値となる可能性はあるものの、脳の神経細胞はカルニチンを合成できず、血液脳関門(BBB)を通過してくるカルニチン量あるいはカルニチンの前物質であるγ-ブチロベタイン(γBB)量に完全に依存することになるため、脳内はカルニチン欠乏に陥りやすいと考えられる。
・血液脳関門(BBB)を通過する輸送についてはほとんど知られていないが、脳脊髄液中のカルニチン濃度は血漿中の10〜15分の1であるため、この輸送が制限要因となる可能性がある。
(*OCTN2以外のトランスポーター、ということでしょうか・・・? あるいは次回まとめさせていただく予定のに関係?? ちなみにカルニチンの前駆物質であるγBBを脳内に輸送するトランスポーターはまだ不明と記述されていました。)
・自閉症の発症リスクが乳児期のカルニチン摂取量に影響される場合、TMLHE欠乏症に関連する自閉症のリスクは、菜食の頻度が高く、肉や牛肉の摂取量が少ない国(たとえば中国、インド、韓国など)で高くなる可能性がある。(*娘の離乳食はまさにそれでしたが・・・ガーン
・現在、TMLHE欠損症の有無にかかわらず、自閉症の乳児の脳脊髄液中のカルニチン代謝物の研究と、自閉症の乳児へのカルニチンまたはγBB補給による治療の2つの臨床調査が開始されており、結果が待たれる。



・・・簡単にまとめようと思いましたのに、何だかとても長くなってしまいましたあせる


要するに、

・TMLHE欠損症はミトコンドリアの機能障害を引き起こす可能性のある

 新たな先天性代謝異常であり、
・脳内のカルニチン欠乏によりASDを発症させるリスクがある。
・ただしASDを発症するかどうかは、胎児期や乳児期に食事からのカルニチンが

 十分供給されているかどうかによって左右される可能性がある。

ということのようです。



この論文はASDについての研究でしたが、前々回の⑬の記事で紹介させていただきました論文によりますと、ADHDにおいてもASDと同じ機序が認められうるとのことです。




・・・なるほど。

 

このような、

これまで知られていなかった先天性代謝異常症がカルニチン欠乏の、ひいてはASDやADHDの原因または発症要因である可能性もあるわけですねひらめき電球
 

 

 

驚きましたのは、全身性カルニチン欠乏症(SDC)では一般的にはASDが認められないということです。

つまり重要なのは血中のカルニチン量ではなく、脳内のカルニチン量ということです。


娘のカルニチンやアシルカルニチンの値は血液で測定したものですので、脳内の状況がどうなっているかは分かりません。
全身性カルニチン欠乏症(SDC)と同じように、脳内では正常に合成されていて、カルニチンが欠乏していない可能性もあります。

 

 

また、娘にこのTMLHE欠損症があるかどうかは、

血漿および尿中のトリメチルリジン(TML)とヒドロキシトリメチルリジン(HTML)とγ-ブチロベタイン(γBB)の値を調べ、(HTML+γBB)/TML比を求めれば、はっきりする


ようです。

 

ただこの検査は一般病院では無理で、大学などの研究施設でしか不可能みたいです(たぶん)チーン
 

 



――以上より、娘個人のカルニチン欠乏の原因に近付くことはできませんでしたが、発達障害のカルニチン欠乏には、まだ確立されていない先天性代謝異常症などが一因として関わっていそうなことが分かり、気持ち的には一段落できました。



本当は今回で終わらせる予定でしたが・・・
次回、最後にⓒについて調べてみたいと思います。