りんくのページ へ ◆もくじ1へ (ガラパロ他) 
もくじ2へ(スキビ1)もくじ3へ(スキビ2)
もくじ5(スキビ3)もくじ4へ(いろいろ)
◆もくじ6(ガラパロ2)


ご訪問ありがとうございます。

その前の話 その1  その2 その3 その4 その5

Kierkegaard

深川にある下屋敷に、美しい蒔絵を施した乗り物が、到着しました。

表門で、伺候の挨拶が交わされ、手順に従い、ゆるゆると門をくぐります。

「ようこそいらせまいられました」

「今日は、お招きありがとうございます。姫さまのお点前を楽しみにしておりました」

「おともの方は、こちらへ、冷たいものを用意しております」

「レイノさま、姫さまがお待ちです」

レイノは、案内に従い、中庭の茶室へ向かう。

手入れが丁寧に施された庭は美しかった、池の上にわたる石の橋、池を彩るのは、白や紅、蒼い蓮の花だった。

しばし庭を観賞したのち、亭主である蓮姫の準備が終わったのだろう、茶室へ向かう。

苔むした手水鉢で、レイノは手を洗うと、案内係の腰元がそっと布を渡した。

レイノは、その端正な顔(かんばせ)に見覚えがある気がした。

躙り口から、茶室に入る。

正面に見える床の間に、桔梗の花が飾られていた、掛け軸に目をやると、レイノは息をのんだ、薄墨で描かれた絵は、六条で茶室に不似合とされるものだった。

席に着いたレイノは、蓮姫の流れるような美しい所作に、魅せられた。

「結構なお点前でした」

「ありがとうございます」

レイノは、すっと蓮姫に近づくと手を取り、自分の胸元に引き寄せ、耳元で囁くようにして、問う。

「あなたの名を、教えてもらえますか?」

「まあ、御戯れを、蓮でございます」

「あなたは、蓮姫ではない。おのこよりも、そちの方が良い」

レイノは、姫を押し倒した、身動きできないように、姫の両手を掴み、両足は己の体重で固定した。

「茶室の作法では、ありませんね」

「黙って」

その時、天井から、いくつもの矢が降りてきた。

「む、ん、」

レイノは、殺気を感じ姫をだきしめ、壁にむかって転んだ、槍が畳に突き刺さっていた。

目を離した隙に、姫は、レイノの腕を潜り抜けた。

「一期一会です、レイノさま」

姫は、すっとその場から消えた。

「ほう、掛け軸の見立てか、くっくっ」

レイノが、茶室から表にでるまで、いくつかの仕掛けがあったが、難なくすり抜けた。

「案内いたします」

先ほどの腰元でした。

「あなたが、蓮姫ですね、美しい」

「お褒めにあずかり光栄です、姫は中にいらっしゃいます」

「二人の美しい姫にお会いできて、今日は、いい日だった。姫、婚礼の日を、楽しみにしています」

レイノは、案内は不要というばかりに、手をふりその場を立ち去りました。

「蓮さま」

「キョーコ、大丈夫?何もされていない」

「仕掛けのおかげで助かりました、手の早い若様ですね」

腰元に変装した蓮姫は、普段の姿に戻ったキョーコを抱きしめました。

「キョーコ、彼が、黒だと思う?」

「わかりません、彼が発する気は、妖しげですが、闇色のどす黒さはありません」

「そう」

カナカナと日暮が鳴いた。

つづく その7