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Kierkegaard
(何も言えない・・・しくしく)

『紫苑』

「マヤ・・・どこだ・・・」

真澄は、以前マヤに案内された洞窟へ向かった、だが、目印となる木が分からない・・・

あれからひと月も経っていないのに、植生の変化など考えられなかった。

真澄は、コテージに戻ると、手がかりを求め室内をくまなく捜索した。

老人の書斎にあった書類などは全て持ち出されていた、ブーツの足跡からどこかの軍隊のようだが、ふとバルコニーの桟を見ると、顔料の一部が、真澄は匂いを嗅いだ。

「A海軍?」

連中の狙いは、おそらく洞窟のあの物体だろう、だが、彼らもまた行きあぐねているはずだ、入り口はわからない。

その時鳥が鳴いた・・・

あれは、マヤの友達のルル?

真澄は、鳴き声に誘われるように外へ出た、一羽の鳥が真澄を誘う。

「ついて来いと言っているのか?」

真澄は、鳥を追いかけた、マヤへの道しるべだから・・・

追いかける先にマヤは、いる、真澄は確信した。

***

そこは、紫の楽園だった・・・紫の花が咲き乱れ、紫の鳥が集い・・・泉のほとりに、マヤは横たわっていた。

真澄は駆け寄り、抱き上げ、意識を確かめた。

「温かい・・眠っているだけ・・・マヤ、マヤ、起きて」

マヤのまつ毛が震え、ゆっくりと瞼が開く、その黒い瞳に真澄が映る。

「マ、マスミ・・・おじいが・・・」

少女の瞳から涙が止めどもなく流れる、真澄はその涙を己が唇で吸う、抱きしめる腕から震えがなくなるまでそうした。

「ゆっくり話して」

真澄が問うとマヤは、ゆっくりと自分の目で見た事実を伝えた。

ルルの力で島に降り立ち、おじいのコテージに向かうと、大きな男の人たちが十数人でコテージから荷物を運び出すところだった。

「おじい!」

少女が叫ぶと、おじいが叫んだ。

「逃げろ!」

マヤは、それでもおじいの元へ駆け寄ろうとしたとき、ルルが少女を連れ出したのだ。

「怖かったね、俺が源造さんを助ける、だから一緒に島をでよう」

「だめ・・島からでたら、だめなの」

「マヤ・・・」

少女とずっと一緒に・・・でも・・・少女はこの島を出ては生きてはいけないのだ・・・

真澄は抱きしめる腕の力を強めた、自分がどれほど想っているのか、少女に知ってもらいたくて・・・

つづく その19