元財務官僚であり前IMF副専務理事であった篠原尚之氏が、日銀が掲げる2%の物価目標についてロイターのインタビューに応じ、その内容が昨日掲載されていました。
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発言の内容が、いかにも元財務官僚というものでした。
質的・量的金融緩和政策について、資産価格効果などで企業収益は好転し消費などにも一定の成果があったが道半ばで、実質金利低下を通じた設備投資への波及効果が期待ほどではなかったと言っています。
前半部分はその通りですが、後半部分については正しいとは言えません。金融緩和によって円安が進み、それによって海外に行っていた製造拠点を国内回帰する動きが加速しています。大手製造メーカーは、1ドル120円より円安になると国内生産の方が収益的に上回るという判断をしています。
但し、設備投資というのは中長期的な視点で判断するものであり、一度海外に移したものを円安になったからといってすぐに国内に戻すことはできません。更に、新たに国内に設備投資をするまでにも時間がかかります。
また、消費税率8%への引上げにより再び需要不足の状態になってきています。需要がなければ、設備投資をして生産能力を上げても製品が売れないのですから、設備投資が思ったように伸びないことになります。
篠原氏は、2%の物価目標については尊重していますが、期限にこだわる必要はないと指摘しています。一定の期限を設けて何でもやるとすれば副作用が大きくなるので、中長期的に目指すべき目標だと言っています。
一定の期限を設けて何でもやると副作用が大きくなるということは確かです。2年で物価を2%上げるというのは、ほぼ不可能な状態になっています。しかし、期限を設けなければダラダラとデフレの状態を放置することになります。
デフレが続けば、それだけ日本経済の低迷が長引くということになり、全く危機感が欠如している発言といえます。例えば、10年間で物価を2%上昇させるとなると、1年間では僅か0.22%の物価上昇で達成することになります。やはり、一定の期限を設定することは不可欠なはずです。
2%の目標達成時期については、2017年より後ずれして当分の間は難しいと見通しているようです。また、追加緩和を行うとすれば、実態経済が予想以上に下振れした時だと強調していました。
物価上昇の鈍化と景気悪化は、消費税率の8%への引上げが大きく影響しています。消費税率引き上げ後のGDPは、予想以上に下振れしている状態が続いていますので、篠原氏は日銀に追加緩和を要求するべきではないでしょうか。
また、順調に進んでいたデフレ脱却が腰折れしたのは消費税率の引上げです。消費税率引上げはデフレを進める効果がありますので、消費税率を5%に戻せば景気も上向き物価上昇してデフレ脱却に近づきます。消費税率引上げについて何も言及しないのは、さすが元財務官僚ですね。
マクロ的には円安は若干のプラスで、輸出企業にはプラスでも消費者にとっては輸入物価上昇で景気回復が実感できないマイナス面があり、主体によって異なる影響に注意が必要だと言っています。
主体によって影響が異なるということは、ある意味ではそうですが、国全体としてはプラスになります。円安によって輸出企業の売上が増えたり、海外に向けられていた投資が国内に向けられれば、それだけGDPが増加します。
国全体のGDPが増加すれば、それだけ多くの人の所得が増えることになります。ただ、円安になったからといって、すぐにそのような状態になるわけではなく、一定の時間を要することになります。
普通の企業は昇給は年に1回しかありませんし、月給は一度上げると中々下げられないので、単年度の業績が良かったからといって簡単に月給を上げることはできません。景気が継続して上向き、人手不足の状態になった後に、やっと給料が上がるようになります。
円安になったからといって多くの人に恩恵が行き渡るまでには、年単位の時間がかかります。オセロのように一斉に裏返るというものではありません。
篠原氏は、物価として日銀がコアCPIを採用していることには何も言っていませんが、これも大きな問題です。物価指数には以下のように幾つかの種類があります。
CPI
消費者物価指数の総合指数
コアCPI
CPIから台風や気象状況によって大きく変動する生鮮食品を除いた指数
コアコアCPI
コアCPIから為替レートなどによって変動する輸入食品やエネルギーを除いた指数
日銀では物価の指標としてコアCPIを採用していますが、日本を除くほとんどの国では物価目標を設定するときの指標としてコアコアCPIを使用します。なぜなら、気象状況や為替など一時的な影響をできるだけ排除するためです。
実際に、原油価格が急落したことがコアCPIの下落に大きな影響を与えています。逆に、原油価格が高騰すればコアCPIが上昇しますので、それによって2%の物価上昇目標が達成されてしまうことも考えられます。しかし、それではデフレを脱却したことにはなりませんので、それで金融緩和をやめてしまえばデフレに逆戻りすることも十分考えられます。
篠原氏の主張していることを聞くと、日本をデフレの状態にしておきたいという思惑があることが分かります。そして、デフレ脱却と景気回復を阻む消費税率引上げに全く言及しないのは、まさに財務省の考えを投影した人物だというのを示唆しています。
こういう人物が存在していることが、日本の失われた20年を作り上げてきたのではないでしょうか。そして、今後も日本経済を低迷させる努力を続けようとしています。
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