(10)最も幸せな日
ゴールをして数歩歩いた後、振り返って深々とお辞儀をします。この大会を運営してくれた皆さん、ボランティアスタッフの皆さん、そして沿道から温かい声援で最後まで背中を強く押
してくださった熊本の皆さんに、心からの感謝を込めて。それから動線に従って前に進みます。フィニッシャータオルをいただき、計測チップを外してもらい、完走メダルをかけていただき、水やバナナをいただきます。
それから味噌汁をいただいてから、完走証を受け取りに行きます。こうした遠征大会で完走証の即日交付というのは、実はあまり好きではありません。持って帰る間に折れ曲がったりすることがあるからです。
ところが驚きました。プリントアウトされた完走証とともに、そのケースを渡されます。自立させることができる完走証ケースです。これまでこのようなケースももらえた大会というのは初めてです。私はとても感激しました。
そして荷物を受け取り、更衣室に行きました。ゆっくり着替えをしていると、マラソン小僧さんから電話が入りました。そして更衣室で合流します。マラソン小僧さんは私の数分後にゴールしていました。やはり私が失速していたらとらえられていたようです。
着替えを終えた私たちは腹ごしらえをすることにしました。最高気温は15度まで上がると思っていたら、結局9.9度にとどまったようで、寒く感じます。走った後は温かい汁物がいいですね。ということで、更衣室のすぐ近くにあった味千ラーメンのテントに並ぼうとしました。ところがなんと、今並んでいる人で品切れだとか。やはり人気がありますね。
でも食べ物のテントはまだまだたくさんあります。
どんなものがあるかと一通り見てみると、長い行列ができているテントがあります。とりあえず並んでみました。ならんでから前の方を見ると、「だご汁」と書いてあります。これは大正解ですね。今回、飽田地区でだご汁も提供してくれるエイドがあるという記事を読んで楽しみにしていたのですが、とうとう発見できませんでした。だご汁を食べられないまま終わるのかと思っていただけに、走った後で食べられるのは大変嬉しかったです。
ようやく私の番が回ってくるというところで、電話がかかってきました。今日の熊本城マラソンの様子を、朝8時から17時までの9時間生放送で伝えている、熊本シティエフエムからです。放送の中で電話をつなぐと言ってましたが、素晴らしいタイミングでの電話です(笑)。私はジェスチャーで「だご汁1つ」と伝え、お金を払い、受け取りました。そのまま片手にだご汁を持った状態で電話を続け、その模様がオンエアされていたようです。電話を終えた後、ようやくだご汁にありつけました。
その後、マラソン小僧さんと別れ、私は会場内をブラブラしました。
当初は、レース後に本妙寺へ行き、合計で400段を超える石段を登って加藤清正公の立像を見ようと思っていたのですが、熊本シティエフエムを訪ねて挨拶をすることにして、体をいじめるのはやめました(笑)。
痛む足をゆっくりと運びながら、熊本シティエフエムに向かいます。そしてFacebookや電話では何度かやりとりをしてきた特番の総合進行の村上さんともご挨拶をしました。それから今度はスタジオに入れてもらって、またしゃべらせてもらいました。
それからホテルまでゆっくり歩いて帰ります。大浴場があることが決め手となって選んだホテルです。まずはゆっくり温泉につかって、走った疲れを癒します。入浴後は熊本最後の夜を楽しむために夜の街に繰り出すつもりでした。でも右足親指の爪の痛みが増してきて、歩きたくありません。ホテルの1階にあるレストランでも郷土料理を味わえます。こちらで済ませることにしました。
まずはもちろん、完走のご褒美に生ビールです。
それから肥後まんぷく御膳を注文します。
馬刺し、刺身盛り合わせ、辛子れんこん、一文字ぐるぐる、馬すじの煮込み、馬コロッケ、豚の角煮揚げだし豆腐を添えて、ということで、これにご飯、味噌汁、野菜サラダ、漬け物はおかわり自由となっています。馬肉は食わず嫌いの奥さんが一緒だったら頼みづらいメニューですが、ようやく馬刺しにありつけました。
料理が来る前にビールは空いてしまい、次に頼んだのはやはり球磨焼酎です。数ある中から桜の里というのを選んでみました。
レース前、そしてレース中も調子が悪かった胃ですが、走り終えたらすこぶる快調です(笑)。いったいあれはなんだったのでしょう。走って温泉に入って美味しい酒と美味しい料理。最高の夜を過ごすことができました。
それというのも、やはり熊本の皆さんの温かい声援のおかげです。日本各地を走ってみると、その応援の空気が地域によって微妙に違います。熊本はどうだったかと問われると、私は迷わず「温かかった」と応えます。その温かさが強い追い風となって背中を押してくれたからこそ、私は最後までペースを落とさず走り切れました。この温かい応援がなかったら、最後まで走り切れたかどうかもわかりません。
スタートからゴールまでで、今日は何回「ありがとう」と言ったのでしょうか。おそらく100や200ではきかないでしょう。何百回言ったかわかりません。すなおに「ありがとう」という言葉を自然と出せる、そんな温かい応援に包まれて走りきることができました。
『ありがとうと言える人生は幸せな人生だ』というのは、私の持論のひとつです。
第2回熊本城マラソン。実に多くの方々から、拍手や声援を受けました。ハイタッチの手も次々と伸びてきて、可能な限りその手に触れてきました。その都度「ありがとう」と答えた私。おそらくこれまでの人生の中で、「ありがとう」と最もたくさん言った日だと思います。私の人生において最も幸せな日でした。(第2部 おわり)
(1)空気を読めない
(2)流れに乗った
(3)イーブンペース
(4)カメラン全開
(5)快調に中間点通過
(6)足が重くなってきた
(7)余裕がなくなってきた
(8)意識も薄れていった
(9)最後までハイタッチ