団体保険における被保険者の勧誘を一般に加入勧奨と呼びます。この点、金融庁のパブコメにおいては、加入勧奨とは、「保険契約者である団体が、その構成員に対して当該保険に加入するかどうかの勧誘(意思確認)を行う場合」と定義していました。
(平成18年2月28日付「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改正に関するパブコメの回答26頁36番、錦野裕宗・稲田行祐『銀行等代理店のための改正保険業法ハンドブック』62頁)
そして従来の保険業法下においては、この団体保険の加入勧奨は保険募集上の規制に服さないとされてきました。ところが平成26年に改正され本年から施行された保険業法においてはこの点に変更がなされています。
2.改正保険業法における意向把握義務・情報提供義務
改正保険業法の意向把握義務(保険業法294条の2)および情報提供義務(同294条1項)の規定はその適用場面をいずれも「(保険募集人(=保険会社、保険募集人等))自らが締結した若しくは保険募集を行った団体保険に係る保険契約に加入することを勧誘する行為その他の当該保険契約に加入させるための行為」を含んでいます。
つまり、保険契約者である団体がその構成員に対して加入勧奨を行う場合には、保険募集人等には意向把握義務・情報提供義務がおよぶことになります。
3.意向把握義務および情報提供義務の適用除外
(1)適応除外
ただし、保険業法は、団体とその構成員との間に一定の密接な関係があることにより、当該団体から当該加入しようとする者に対して必要な情報が適切に提供されることが期待できると認められるときには、意向把握義務および情報提供義務を適用除外としています。
つまり、①「当該団体保険に係る保険契約者又は当該保険契約者と内閣府令で定める特殊の関係のある者が当該加入させるための行為を行う場合」であって、②「当該保険契約者から当該団体保険に係る保険契約に加入する者に対して必要な情報が適切に提供されることが期待できると認められるときとして内閣府令で定めるときにおける当該加入させるための行為」については適応除外として、保険募集人等は意向把握義務および情報提供義務を負わないとしています(保険業法294条1項)。
(2)特殊関係者
まず①の要件について、改正保険業法施行規則227条の2第1項は、「特殊の関係のある者は、団体保険に係る保険契約者から当該団体保険に係る保険契約に加入させるための行為の委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)を受けた者その他これに準ずる者(当該団体保険に係る保険契約の締結又は保険募集を行った者を除く。)とする。」と規定しています。
そして、金融庁のパブコメ結果回答は、この特殊関係者について、“保険契約者である団体内の人事部・総務部等の社員・職員等は該当せず”、“労働者派遣契約に基づき外部から当該保険契約者である団体に派遣された者等が該当する”としています。(パブコメ20番、23番)
・金融庁の平成27年5月27年付パブコメ結果「「平成26年改正保険業法(2年以内施行)に係る政府令・監督指針案」に関するパブリックコメントの結果等について」
(3)適用除外となる団体
②の適用除外となる団体については、保険業法施行規則227条の2第2項1号から15号までに規定が置かれましたが、バスケット条項となっている同15号が実務上影響が大きいと思われます。
上であげた平成27年5月27日付の金融庁のパブコメ結果は、この施行規則227条の2第2項15号に含まれる団体をつぎのように示しています。(パブコメ28~30番)
○被用者団体(同一企業体又は同一官公庁に所属する者の団体)
○職域組合団体(同一企業体又は同一官公庁に所属する者によって組織された労働組合、協同組合、互助会、単独設立の厚生年金基金、共済組合等の所属員の団体)
○連合設立の厚生年金基金の団体
○共済組合の団体(地方職員共済組合、公立学校共済組合、警察共済組合、都職員共済組合、市町村職員共済組合、都市職員共済組合、農林漁業団体職員共済組合、私立学校教職員共済の所属員の団体)
○「親子関係の企業体」の職域による団体(「親子関係の企業体」に所属する者によって組織された単一の労働組合、協同組合、互助会等の所属員の団体)
○「親子関係の企業体」における子の企業体に所属する者の団体
○協同組合の団体
○商工会等の団体
○同一業種の団体
○連鎖化事業の団体
○総合設立の厚生年金基金の団体
○下請業者団体
○特定同業者団体
○議員団体
○職域組合団体(同一企業体又は同一官公庁に所属する者によって組織された労働組合、協同組合、互助会、単独設立の厚生年金基金、共済組合等の所属員の団体)
○連合設立の厚生年金基金の団体
○共済組合の団体(地方職員共済組合、公立学校共済組合、警察共済組合、都職員共済組合、市町村職員共済組合、都市職員共済組合、農林漁業団体職員共済組合、私立学校教職員共済の所属員の団体)
○「親子関係の企業体」の職域による団体(「親子関係の企業体」に所属する者によって組織された単一の労働組合、協同組合、互助会等の所属員の団体)
○「親子関係の企業体」における子の企業体に所属する者の団体
○協同組合の団体
○商工会等の団体
○同一業種の団体
○連鎖化事業の団体
○総合設立の厚生年金基金の団体
○下請業者団体
○特定同業者団体
○議員団体
(4)注意すべき点
なお、この施行規則227条の2第2項のいずれにも該当せず、保険募集人等の意向把握義務・情報提供義務が適応除外されない団体のケースとして、金融庁パブコメには「カード会社や銀行等の金融機関が契約者となりその会員や預金者等が被保険者となる団体保険」があげられています(金融庁パブコメ28番)。
また、この施行規則227条の2第2項15号に該当する団体の総合福祉団体定期保険等であったとしても、意向把握義務・情報提供義務とは別の問題として、保険法38条による被保険者同意のための被保険者への事前の情報提供は必要である旨を金融庁パブコメは注意を促しています(金融庁パブコメ58番)。
4.体制整備義務
保険業法は保険会社に対して、「その業務に係る重要な事項の顧客への説明、(略)における当該業務の的確な遂行その他の健全かつ適切な運営を確保するための措置を講じなければならない」という体制整備義務(保険業法100条の2)を置いていますが、今回の法改正で団体保険に関する体制整備義務も明文化がなされました(同施行規則53条1項4号)。
それを受けて、金融庁の監督指針も「規則第227条の2第2項に定める団体保険について、保険契約者である団体が被保険者となる者に対して加入勧奨を行う場合は、上記ア.からカ.に規定する内容について、保険会社又は保険募集人が顧客に対して行うのと同程度の情報の提供及び説明が適切に行われることを確保するための措置が講じられているか。」という条文を新設しています(監督指針Ⅱ-4-2-2(2)⑩キ)。
施行規則227条の2第2項15号に該当する総合福祉団体定期保険や団体定期保険Bグループ等の団体保険契約等であっても、保険会社側は情報提供義務・体制整備義務の観点から留意が必要です。
■参考文献
・錦野裕宗・稲田行祐『銀行等代理店のための改正保険業法ハンドブック』62頁
・吉田桂公『一問一答改正保険業法早わかり』36頁
法律・法学 ブログランキングへ
にほんブログ村