【解説】保険業法改正に伴う保険業法施行規則および監督指針の一部の改正について | なか2656のブログ

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1.はじめに
平成26年(2014年)5月に、「保険業法等の一部を改正する法律」が成立しました。これにより改正された保険業法は、平成28年5月29日に施行される予定です。(以下、改正された保険業法を「改正保険業法」とします。)


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この保険業法の改正を受けて、平成27年2月18日に、保険業法の改正に伴う保険業法施行規則(以下、「施行規則」とします)および「保険会社向けの総合的な監督指針」(以下、「監督指針」とします)の改正案(以下それぞれ、「施行規則案」および「監督指針案」とします)が、金融庁のウェブサイトでプレスリリースとして公開され、パブリックコメントの手続きに付されました。

・平成26年改正保険業法(2年以内施行)に係る政府令・監督指針案の公表について|金融庁サイト

・施行規則案の新旧対照表(PDF)
・監督指針案の新旧対照表(PDF)

そこで、このブログ記事では、今回の保険業法の改正の大きな柱である、「意向把握義務」、「情報提供義務」、「保険募集人等の体制整備義務」、「募集関連行為」などについて、施行規則案および監督指針案の面から改正点をみてみたいと思います。

とくに影響が大きいと思われる、来店型保険ショップなど乗合い型保険代理店の部分について、重点的に見てみたいと思います。

2.意向把握義務について
(1)意向把握義務の創設
現行の保険業法においては、保険会社として、さらなるわかりすい情報提供を行うために、お客さま(保険契約者になろうとする者)から保険契約の申込書をいただく際までに、保険会社は普通保険約款とともに、「ご契約のしおり」だけでなく、「契約概要」「注意喚起情報」(保険業法300条1項1号、監督指針Ⅱ-4-2-2-(3)②)をお渡ししたうえで、さらに「意向確認書」を交付し、保険会社の保存用の書面に押印をいただく取扱が行われています(保険業法97条、監督指針Ⅱ-4-2-2(5)②)。

この意向確認書とは、お客さまが保険募集人から推奨された保険商品の内容が自らのニーズに合致しているかどうかを確認したうえで、自己の責任で購入するか否かの判断を行うための手段として平成19年から導入された制度です。

しかし、今回の保険業法の改正のため金融庁に設置された「保険商品・サービスの在り方に関するワーキンググループ」(座長:洲崎博史氏 京都大学大学院法学研究科教授)において、意向確認書が導入された効果を十分発揮していないとの議論がなされました。

そのため、改正保険業法においては、保険業法の条文の本体に、保険会社等により強い、お客さまのニーズ(意向)の把握および当該ニーズに合った保険プランの提案等を義務付ける規定を明文化することになりました(意向把握義務・改正保険業法294条の2)。

意向把握義務のおおまかなプロセスはつぎのとおりです。


この改正保険業法294条の2を受けて、監督指針案Ⅱ-4-2-2(3)は、冒頭でまず、「保険会社又は保険募集人は、法第 294 条の 2 の規定に基づき、顧客の意向を把握し、これに沿った保険契約の締結等の提案、当該保険契約の内容の説明及び保険契約の締結等に際して、顧客の意向と当該保険契約の内容が合致していることを顧客が確認する機会の提供を行っているか。」と規定します。

(2)意向把握・確認の「方法」
そして監督指針改正案は、「意向把握・確認の方法(監督指針改正案Ⅱ-4-2-2(3)①)として、「意向『把握』型のパターン」(同Ⅱ-4-2-2(3)①ア)と、「意向『推定』型のパターン」(同Ⅱ-4-2-2(3)①イ)の2つのパターンに場合分けして規定しています。

そして保険会社や保険代理店等は、取り扱う商品や募集形体を踏まえたうえで、創意工夫に基づき、以下の方法、あるいはこれと同等の方法により、意向把握・確認を行うよう規定されています。

「意向『把握』型」のごくおおざっぱなイメージとしては、たとえば一昔前に後発組の会社であるソニー生命が新しいビジネスモデルとして開始して成功した、保険や税務・社会保障などに詳しいファイナンシャル・プランナー(FP)が、お客さまの家庭を訪問し、お客さまの人生設計などの話をじっくり聞いて、話し合い、それに基づいて、当時まだめずらしかったノートパソコンを用いて保険商品のプランを提案する手法は、「意向『把握』型のパターン」でしょう。

(ソニー生命サイトより)

あるいは最近、躍進著しい、「ほけんの窓口」などの、デパートなどに店舗を構える来店型保険ショップ(乗合い型保険代理店)が、これも複数回、数時間にわたりお客さまと面談したうえで、保険商品の提案を行う手法をとっているのは、これも「意向『把握』型のパターン」でしょう。

一方、従来からの、多くの保険会社の2人1組の営業職員が割り当てられた住宅街を一軒一軒、訪問し、玄関の呼び鈴を押し、ごくまれにドアを開けてくれるお客さまに対して、さかさず保険商品の保険提案書やパンフレットなどを差し出す伝統的な営業スタイルは、「意向『推定』型のパターン」といえるでしょう。(完全に余談ですが、保険業界では、このような「義理と人情とプレゼント」による営業スタイルを、半ば自虐的に、略して"GNP"と呼んでいます。)

(3)「意向『把握』型のパターン」(監督指針改正案Ⅱ-4-2-2(3)①ア)
「意向『把握』型のパターン」(監督指針改正案Ⅱ-4-2-2(3)①ア)について、監督指針改正案は、まず営業職員などがお客さまと面談をはじめるにあたって、アンケート等により、意向を把握し、その意向に沿った個別プランを作成し、お客さまの意向とどのように対応しているのか関係性をわかりやすく説明すると規定されています。

その後、最終的なお客さまの意向が確定した段階において、その意向と営業職員側が当初把握した主なお客さまの意向を比較し、両者が相違している場合には、その箇所や相違点が生じた経緯を確認についてわかりやすく説明すると規定されています。

そして、契約締結前の段階において、顧客の最終的な意向と契約の申込を行おうとする保険契約の内容が合致しているかどうか確認(=「意向確認」)すると規定されています。

(4)「意向『推定』型のパターン」(同Ⅱ-4-2-2(3)①イ)
つぎに、「意向『推定』型のパターン」(同Ⅱ-4-2-2(3)①イ)について、監督指針改正案は、まず営業職員などがお客さまと面談をはじめるにあたって、例えば、性別や年齢等の顧客属性や生活環境等に基づきお客さまの意向を推定したうえで、保険金額や保険料を含めた個別プランの作成・提案を行う都度、保険設計書等の顧客に交付する書類の目立つ場所に、保険会社または保険代理店、営業職員等が推定(把握)した顧客の意向と個別プランの関係性をわかりやすく記載のうえ説明すると規定します。

また、最終的なお客さまの意向が確定した段階において、その意向と、保険会社等が事前に把握した主なお客さまの意向との比較を記載したうえで、両者が相違している場合には、その対応箇所や相違点及びその相違が生じた経緯について、わかりやすく説明すると規定します。

そして最後に、契約締結前の段階において、お客さまの最終的な意向と契約の申込みを行おうとする保険契約の内容が合致しているかどうかを確認(=「意向確認」)すると規定しています。

(5)折衝記録を作成し保管することの重要性
なお、このように今回の保険業法の改正により新設された、この「意向把握義務」においては、たとえば最終的にお客さまの意向が確定した段階で、そのプランと保険会社側が当初把握した意向との違いを比較し説明しなければならないなど、保険会社・保険代理店側は、お客さまとのやり取りの内容をしっかりと記録しておくことが大前提となります。

保険会社・保険代理店などにとって、これらのお客さまとのやり取りや面談の模様を折衝記録としてしっかりと残す体制を構築することを法令上求められることは、保険会社等にとって、今後、大変な業務上の負荷が発生することになります。

しかし、保険会社等がお客さまとの面談などの折衝記録をしっかりとつけて保管しておけば、万が一、そのお客さまからの苦情の申出民事訴訟の提起等があった場合、そのような折衝記録があれば、保険会社などの側としては、それらを証拠(エビデンス)として示し、自社の保険募集の適切性を裏付ける証拠とすることができるので、その結果、自社を守ることができます。

逆に、もし折衝記録のような証拠を保険会社などの側が持っていないと、民事訴訟や金融ADRなどで、保険会社などの側が立証責任を尽くせず、敗訴してしまうリスクがあります(吉田桂公『一問一答改正保険業法早わかり』25頁)。

(6)意向把握・確認の「対象」(監督指針改正案Ⅱ-4-2-2(3)②)
つぎに、監督指針改正案は「意向把握・確認の対象」(監督指針改正案Ⅱ-4-2-2(3)②)として、保険会社や保険代理店などが意向把握・確認をするべき「対象」について規定しています。

(a)第一分野および第三分野の保険商品について
第一分野および第三分野の保険商品(生命保険および医療保険など)については、つぎのように規定しています。
「(ア) どのような分野の保障を望んでいるか。
(死亡した場合の遺族保障、医療保障、医療保障のうちガンなどの特定疾病に備えるための保障、傷害に備えるための保障、介護保障、老後生活資金の準備、資産運用など)
(イ) 貯蓄部分を必要としているか。
(ウ) 保障期間、保険料、保険金額に関する範囲の希望、優先する事項がある場合はその旨」

(b)第二分野の保険商品について
第二分野の保険商品(損害保険)については、つぎのように規定しています。
「(ア) どのような分野の補償を望んでいるか。
(自動車保険、火災保険などの保険の種類)
(イ) 顧客が求める主な補償内容
・ 自動車保険については、若年運転者不担保特約、運転者限定特約、車両保険の有無など
・ 火災保険については、保険の目的、地震保険の付保の有無など
・ 海外旅行傷害保険については、保険の目的、渡航者、渡航先、渡航期間など
・ 保険期間が1年以下の傷害保険については、保険の目的など
(ウ) 補償期間、保険料、保険金額に関する範囲の希望、優先する事項がある場合はその旨」

■損保分野ついて、より詳しくはこちらをご参照ください。
・【解説】保険業法改正と銀行窓販・損保分野の意向把握義務・非公開金融情報等について

3.情報提供義務について
現行の保険業法は、たとえば300条1項1号が、保険募集人等が、重要事項をお客さまに告げずに保険募集を行うことを禁止するなど、「〇〇してはならない」という趣旨の「禁止」型の規定により、あるべき保険募集のあり方を定めていました。

しかし、改正保険業法は、保険募集人などに対してより積極的情報提供義務付ける明文規定を置くこととしました(改正保険業法294条1項)。

この改正保険業法294条1項を詳しく説明する、監督指針案Ⅱ-4-2-2(2)は、つぎのように規定しています。

「(2)法第 294 条、第 300 条の 2 関係(情報提供義務)
① 保険会社又は保険募集人は、保険契約の締結又は保険募集等に関し、保険契約の種類及び性質等を踏まえ、保険契約の内容その他保険契約者等に参考となるべき情報の提供を適正に行っているか。

② 書面の交付又はこれに代替する電磁的方法により、情報の提供を行うにあたっては、顧客が保険商品の内容を理解するために必要な情報(以下、「契約概要」という。)と顧客に対して注意喚起すべき情報(以下、「注意喚起情報」という。)について、記載しているか。」

つまり、この点に関しては、現行の監督指針が、保険業法300条などを根拠として、保険会社に対して、「契約概要」および「注意喚起情報」を書面またはこれに替わる電磁的方法により提供することを求めていたわけですが、改正後の監督指針案も、改正保険業法294条1項の定める情報提供義務の内容として、「契約概要」および「注意喚起情報」の提供で足りるということを明らかにしています。

ただし、「ほけんの窓口」などに代表される、来店型保険ショップなどの乗合い型保険代理店は注意が必要です。

監督指針案Ⅱ-4-2-9 「保険募集人の体制整備義務」(法第 294 条の 3 関係)は、来店型保険ショップなどの乗合い代理店がとるべき体制整備の一環として、複数の保険会社の商品を提案する場合のお客さまへの説明に関して、非常に細かい規定を置いています。

まず、その(4)は、「公正・中立」という宣伝文句に関連して、「保険会社のために保険契約の締結の代理・媒介を行う立場を誤解させるような表示を行っていないか。」という規定を置き、来店型保険ショップなどの乗合い型保険代理店が「公平・中立」などのキャッチコピーを安易に使わないように牽制しています。

また、来店型保険ショップなどの乗合い型保険代理店は、取り扱っている複数の保険会社の保険商品を比較しつつ、保険プランを提案する手法を一般的にとっています。そして来店型保険ショップ独自の比較資料などを作成し、募集に用いられているともいわれています。

この点、監督指針案Ⅱ-4-2-9(5)は、「顧客の意向に基づき比較可能な商品の概要を明示し、顧客の求めに応じて商品内容を説明しているか」(①)、そして、「商品特性や保険料水準などの客観的な基準や理由等について、説明を行っているか」(②)と規定しています。

そしてⅡ-4-2-9(5)(注2)は、来店型保険ショップなどが比較資料を作成する際は、その資料は、「正確」なものでなければならないものとされています。

さらに、監督指針案Ⅱ-4-2-9(5)②につけられた、(注1)、(注2)がとくに重要であると思われます。

(注 1) 形式的には客観的な商品の絞込みや提示・推奨を装いながら、実質的には、例えば保険代理店の受け取る手数料水準の高い商品に誘導するために商品の絞込みや提示・推奨を行うことのないよう留意する。」

(注 2) 自らが勧める商品の優位性を示すために他の商品との比較を行う場合には、当該他の商品についても、その全体像や特性について正確に顧客に示すとともに自らが勧める商品の優位性の根拠を説明するなど、顧客が保険契約の契約内容について、正確な判断を行うに必要な事項を包括的に示す必要がある点に留意する(法第 300 条第 1 項第 6 号、Ⅱ-4-2-2(10)②参照)。」

うえで監督指針案Ⅱ-4-2-9(4)が指摘している「公平・中立」とならんで、この(注1)が指摘している代理店の手数料の問題も、一般の消費者があまり知らない、来店型保険ショップなど、乗合い保険代理店の問題点のひとつであろうと思われます。

つまり、言うまでもなく、来店型保険ショップは善意の無料のボランティア団体ではまったく無いのであって複数の保険会社の保険の媒介をして、保険契約が成立したら、その保険会社から報酬の代理店手数料を得ることにより事業を営んでいます。

そのため、来店型保険ショップなどが、自社にとって、報酬の代理店手数料のより高い保険会社の保険商品をお客さまに提案するのは、営利企業として当然のことです。

しかし、来店型保険ショップが自社にとって利益が最も高い保険プランを、それがあたかも客観的に保険商品を選んだ結果、お客さまにベストな保険プランであるかのごとく提案することは虚偽です。また、来店型保険ショップが安易に「公平・中立」などの看板を掲げることも正しくありません。

そのような意味で、保険業法の改正法の施行後は、来店型保険ショップなどは、とくにこの監督指針案Ⅱ-4-2-9(5)②の(注1)(注2)を遵守するよう注意が必要だと思われます。

金融庁の今回の保険業法改正における問題意識の大きなひとつのポイントは、これまで野放し状態であった、来店型保険ショップに保険業法の網をかぶせることでした。金融庁はとくに来店型保険ショップの今後の動向を注視しているものと思われます。

4.体制整備義務について
(1)保険業法の改正
現行の保険業法は300条において、主に営業職員を名宛人として、保険募集における禁止行為を定め、あるべき保険募集の姿を規定するとともに、同100条の2の2が、保険会社を名宛人として、「顧客の利益の保護のための体制整備」を講じなければならないと規定していました。

このように、保険業法は2つの面から、あるべき保険募集のあり方を規定していたといえますが、近年躍進著しい「ほけんの窓口」などの来店型保険ショップなどの乗合い型保険代理店は、この「体制整備義務」の対象外となっており、「保険商品・サービスの在り方に関するワーキンググループ」においてもその問題点が大きく指摘されていました。

そこで、改正保険業法294条の3第1項は、保険募集人(=乗合い型保険代理店)および保険仲立人に対して、①保険募集人等が顧客に対して適切に情報提供を行うことを確保するための重要事項説明、②保険募集人等が保険募集の業務に関連して取得した顧客情報を適正に取り扱うこと、③委託事業の的確な遂行を確保すること、の3つの義務を課すこととしました。

また、同法は、保険募集人(=乗合い型保険代理店)のみに係る体制整備義務として、④乗合代理店の比較販売における比較情報の提供を確保するための体制整備義務、⑤フランチャイズ業務の体制整備義務の2つを課すこととしました。

(2)意向把握・意向確認
このような改正保険業法294条の3第1項を受けて、監督指針案Ⅱ-4-2-9(3)④は、保険会社および保険募集人(=乗合い型保険代理店)は、保険募集における意向把握にあたり、「顧客が保険商品を適切に選択・購入することを可能とするため、そのプロセス等を社内規則等で定めるとともに、所属する保険募集人に対して適切な教育・管理・指導を実施」することを規定しています。

また、「意向把握に用いた帳票等(例えば、アンケートや設計書等)を保存するなどの措置を講じているか」とも規定しています。

うえで、苦情リスク・訴訟リスクの観点から、折衝記録を残すことの重要性を書きました。これが監督指針に明記されたことにより、今後は、これが体制整備義務のひとつ、つまり保険業法上の法的義務ということになります。

(3)顧客の個人情報の管理
監督指針案Ⅱ-4-2-9(2)は、保険募集人(=乗合い型保険代理人)の規模や業務特性に応じて、外部委託先を含む顧客の個人情報の情報管理に務めなければならないとしています。そして、その基準は、保険会社について定める、Ⅱ-4-5に準じるとしています。

来店型保険ショップなど乗合い型保険代理店なども、現在も、法律上の要件を満たせば、個人情報保護法や金融庁の個人情報保護に関するガイドラインなどに基づく情報管理の義務を負うのは当然です。

しかし、保険業法の面においては、現行法上は、保険業法施行規則53条の8が個人顧客情報の安全管理措置について定めるのですが、その対象は保険会社となっており、乗合い型保険代理店はその対象外となっていました。

しかし、改正保険業法の施行後は、来店型保険ショップなど乗合い型保険代理店なども、保険業法の面からも、個人情報保護の義務を負うことになります。

(4)募集関連行為に関する留意点
保険募集人(=乗合い型保険代理人)が募集関連行為を募集関連行為従事者に行わせるにあたっての留意点については、監督指針案Ⅱ-4-2-1(2)を参照するものとするという規定がおかれました(監督指針案Ⅱ-4-2-1(2)について、詳しくは後述)。

(5)フランチャイズ事業(保険募集人指導事業)
改正保険業法294条の3第1項は、保険代理店がフランチャイズ方式を採用している場合には、本部代理店(フランチャイザー・保険募集人)に対して、自ら行う保険募集に係る体制整備義務だけでなく、傘下の保険代理店(フランチャイジー・指導対象保険募集人)に対する教育・管理・指導についても、適切に行うための体制整備を求める規定を設けました。

この条文を受けて、施行規則案227条の15は、本部代理店、傘下の保険代理店に対する指導ための「実施方針」の適正な策定および当該実施方針に基づく適切な指導を求めています(施行規則案227条の15第1項1号)。

また、傘下の保険代理店における保険募集の業務の実施状況を定期的に、または必要に応じて確認することにより、傘下の保険代理店が保険募集の業務を的確に遂行しているかを検証し、必要に応じて改善させる等の措置を講じるよう求めています(施行規則案227条の15第1項2号)。

そして、監督指針案Ⅱ-4-2-9(7)は、施行規則案227条の15を受けて、この保険募集人指導事業にあたっては、「たとえば一定の知識・経験を有する者を配置しているか」と規定しています。

(6)監督指針Ⅱ-4-2-1 からⅡ-4-2-7の適用
監督指針案Ⅱ-4-2-9(8)は、「上記のほか、保険募集人による保険募集管理態勢については、保険募集人の規模や業務特性に応じて、Ⅱ-4-2-1 からⅡ-4-2-7 に準じて扱うものとする。」と規定しています。

とくに、今回の改正で、保険募集における禁止行為を列挙した保険業法300条1項各号および、保険会社に対する保険募集に対する取り組みを定めた同100条の2を細かく規定した保険業法施行規則53条以下を網羅する、監督指針Ⅱ-4-2-2が来店型保険ショップなどの乗合い型保険代理店にも直接適用となることは注意が必要です。

(7)立入検査、業務改善命令、業務停止命令、登録の取消
監督指針案Ⅱ-4-2-9(9)は、乗合い型保険代理人の体制整備に問題があると認めるときは、金融庁は報告の徴求立入検査を行い(保険業法305条)、業務改善命令(同306条)や、業務停止命令・登録の取消(同307条)を行うことがあると規定しています。

(8)大規模な乗合い保険代理店の帳簿書類の備付け義務・事業報告書の提出義務
改正保険業法303条は、乗合い保険代理店に関して、「その規模が大きいものとして内閣府令で定めるもの」として「特定保険募集人」という定義を新設しました。

この特定保険募集人の基準に関して、施行規則案236条の2は、所属保険会社等の数が15以上または、一事業年度において2つ以上の所属保険会社等から受け取った手数料、報酬などの額の総額が10億円以上であると規定しました。

つまり、この基準に該当する来店型保険ショップなどの乗合い型保険代理店は、「特定保険募集人」として、つぎにあげるような、帳簿書類の備付けと、事業報告書の作成・提出の義務を負うことになります。

まず、改正保険業法303条は、特定保険募集人は、その事業所ごとに、帳簿書類を備え、保険契約者ごとに保険契約の締結の年月日その他の内閣府令で定める事項を記載し、これを保管しなければならないと規定しています。

つぎに、同法304条は、特定保険募集人または保険仲立人は、事業年度ごとに年に1回事業報告書を作成し、内閣総理大臣(の委託を受けた金融庁長官)に提出しなければならないと規定しました。

そして、施行規則案238条は、事業報告書は別紙様式第25号の2によると規定しています。

この様式によると、乗合い型保険代理店は、取扱い保険会社名、保険会社ごとの取扱い商品数、各事業年度ごとの契約件数、保険料の金額と割合、募集手数料(=保険会社から支払われる報酬手数料)の金額と割合、苦情の発生件数の状況、フランチャイジーに対する教育・管理・指導の状況などを事業報告書に記載して報告することとなっています。


5.保険募集と募集関連行為
監督指針案Ⅱ-4-2-1(2)は、「募集関連行為」という興味深い定義規定を新設しました。

これは具体的には、保険会社の社内で、お客さまからの問い合わせを受けて、保険商品のパンフレットなどの資料を封筒に入れて発送するだけの業務を行っている従業員の業務などが該当すると思われます。

この点、Ⅱ-4-2-1(2)の(注1)は、「募集関連行為とは、例えば、保険商品の推奨・説明を行わず契約見込客の情報を保険会社又は保険募集人に提供するだけの行為や、比較サイト等の商品情報の提供を主たる目的としたサービスのうち保険会社又は保険募集人からの情報を転載するにとどまるもの」と例示しています。

金融庁がこの監督指針案Ⅱ-4-2-1(2)を新設した趣旨は、保険募集人だけでなく、保険会社および乗合い型保険代理店が募集関連行為に従事する者(募集関連行為従事者)が不適切な行為を行っていないか監督するようにというという趣旨です。

保険会社等の現実的な問題として、もし今回新設されたⅡ-4-2-1(2)により、従来、募集関連行為従事者であると実務上解されていた職種が、募集人であると解されるとすると大変です。なぜなら、保険募集人は保険募集人の資格試験に合格して、登録を受ける必要があります(保険業法276条以下)。そして、保険会社等は保険募集人を管理・監督しなければなりません。従業員本人も保険会社等も大変です。


監督指針案Ⅱ-4-2-1(2)は募集関連行為従事者の具体例として、つぎの4類型をあげています。

「ア. 保険会社又は保険募集人の指示を受けて行う商品案内チラシの単なる配布
イ. コールセンターのオペレーターが行う、事務的な連絡の受付や事務手続き等についての説明
ウ. 金融商品説明会における、一般的な保険商品の仕組み、活用法等についての説明
エ. 保険会社又は保険募集人の広告を掲載する行為」

これは保険会社の実務上の取扱にほぼ一致する考え方であると思われ、影響は少ないと思われます。

ただし、監督指針案は、つぎのような行為は、保険募集に該当するとしています。
「ア. として特定の保険会社の商品(群)のみを見込み客に対して積極的に紹介して、保険会社又は保険募集人などから報酬を得る行為
イ. 比較サイト等の商品情報の提供を主たる目的としたサービスを提供する者が、保険会社又は保険募集人などから報酬を得て、具体的な保険商品の推奨・説明を行う行為」

そのうえで、監督指針案は、つぎのような3つの規定を置いています。
「① 募集関連行為従事者において、保険募集行為又は特別利益の提供等の募集規制の潜脱につながる行為が行われていないか。

② 募集関連行為従事者が運営する比較サイト等の商品情報の提供を主たる目的としたサービスにおいて、誤った商品説明や特定商品の不適切な評価など、保険募集人が募集行為を行う際に顧客の正しい商品理解を妨げるおそれのある行為を行っていないか。

③ 募集関連行為従事者において、個人情報の第三者への提供に係る顧客同意の取得などの手続が個人情報の保護に関する法律等に基づき、適切に行われているか。」

さらに、つぎのような規定が置かれていることにも注意が必要です。

「また、募集関連行為従事者への支払手数料の設定について、慎重な対応を行っているか。
(注) 例えば、保険募集人が、高額な紹介料やインセンティブ報酬を払って募集関連行為従事者から見込み客の紹介を受ける場合、一般的にそのような報酬体系は募集関連行為従事者が本来行うことができない具体的な保険商品の推奨・説明を行う蓋然性を高めると考えられることに留意する。」

この点は、これも一昔前は存在しなかった、「価格.com保険」などのウェブサイトのように、保険募集そのものをしているわけではないものの、保険商品の保険料などの比較ができて、消費者の保険加入の入り口となっている比較サイトや、いわゆる「保険マッチングサイト」と呼ばれる保険のマッチング業務をインターネット上で行っている事業者などが想定されます。

これらの一昔前までなかったチャネルも、金融庁の「保険商品・サービスの在り方に関するワーキンググループ」で、保険業法の対象とすべきだと、大きく議論の対象となったポイントでした。

これらの事業者に対して、改正保険業法は、294条1項で情報提供義務の対象とするとともに、来店型保険ショップ等の保険代理店などにも体制整備義務を課すことにともない、その取引先や業務委託先に対しても報告徴求や立入検査などを行うこととしました(改正法305条2項、3項)。

監督指針案Ⅱ-4-2-1(2)の(注)は、このような事業者へ支払われる手数料やインセンティブ報酬があまりに高額すぎる場合は、その事業者の行っている行為は募集関連行為でなく、募集行為であると推測され、保険業法276条以下の潜脱であると注意喚起を行うものです。

6.直接支払いサービス
なお、施行規則案53条の12の2および監督指針案Ⅱ-4-2-8にごくさりげなく、「直接支払いサービス」に関する規定が新設されているのもなかなか興味ぶかい事柄です。

それまでの商法の保険の部分を改正し、約100年ぶりに、平成22年4月保険法が施行されました。

保険業法は金融庁が生損保の保険会社等を監督するための行政法上の法律であるのに対して、保険法は、保険会社(保険者)と保険契約者等との民事上の間の関係を規定する、私法上の法令です。

その法制審議会保険法部会(座長:山下友信・東京大学教授)の議論の過程では、たとえば生命保険契約の保険給付を金銭の支払いに限るのではなく、介護施設への入所権や葬儀サービスの提供などの現物給付をも認めてよいのではないか、との議論もなされました。

しかし、法制定段階では、現物給付が行われるとした場合、保険契約者の保護のための監督規制が十分になされていないことなどを理由として、生命保険契約および傷害疾病定額保険契約の定義(保険法2条1号)の部分には、現物給付は含まれないものとされました(損害保険契約については含まれる)。

もっとも、このことは、現物給付を対象とした生命保険契約および傷害疾病定額保険契約は保険法の定める保険契約にあたらないというにとどまり、そのような契約の締結を保険法が禁止しているわけではないとされています(萩本修『一問一答保険法』31頁)。

このような保険法制定における経緯を踏まえ、保険法施行から5年を経過して、施行規則案および監督指針案にさりげなく「直接支払いサービス」の条項が置かれることとなったのは、なかなか意義深いものがあります。

今後、生命保険会社各社が、創意工夫を凝らして、魅力的な保険商品や現物給付プランを提供することが望まれます。

施行規則案53条の12の2および監督指針案Ⅱ-4-2-8の各規定は、お客さまが保険給付の方法として現物給付つまり直接支払いサービスを選択した場合に、不利益をこうむらないように、保険関係者保護のための様々な規定が用意されています。

■直接支払いサービスについて詳しくはこちらをご参照ください。
・「直接支払いサービス」が保険業法に明文化/保険業法施行規則53条の12の2等

■参考文献
・足立格「保険業法施行規則・保険監督指針の改正と保険窓販業務への影響」『銀行法務21』785号2015号4月号24頁
・吉田桂公『一問一答改正保険業法早わかり』25頁
・細田浩史「保険業法等の一部を改正する法律の概要」『金融法務事情』2014年8月10日号124頁
・萩本修『一問一答保険法』31頁

銀行等代理店のための改正保険業法ハンドブック



銀行法務21 2015年 04 月号 [雑誌]



一問一答 改正保険業法早わかり -保険募集・販売ルール&態勢整備への対応策



保険業務のコンプライアンス(第3版)



保険法 第3版補訂版 (有斐閣アルマ)





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