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1.第一生命、薬局の日本調剤と提携
2017年2月19日付の日経新聞につぎのような記事が掲載されていました。

第一生命保険と調剤薬局2位の日本調剤が保険商品の販売や開発で業務提携する。薬局の店頭で医療保険などを取り扱うほか、服薬と疾病の改善をめぐる因果関係を膨大なデータから探り、保険商品の開発につなげる。
(略)

まず5月から首都圏の6店舗で始め、保険販売の資格を持つ人がいる30店舗弱にまで広げる計画だ。
(後略)
(「第一生命、薬局で保険販売 日本調剤と提携」日本経済新聞2017年2月19日付)

・「第一生命、薬局で保険販売 日本調剤と提携」日本経済新聞2017年2月19日付



2.日本調剤の店頭での保険の募集について
日本調剤が同社の薬局の店頭で第一生命グループの保険商品の募集をするにあたり、既存の顧客の個人情報を使うことは、製薬業と保険業と目的が異なり目的外利用となり、あらかじめ本人の同意が必要です(個人情報保護法16条)。

同時に、かりに日本調剤が第一生命グループに見込み客をリスト化するためなどに自社の顧客データを提供することは、第三者提供となり、これも顧客本人の事前の同意が必要となります(同23条)。(記事によると日本調剤の顧客は年330万人(来店客)とされています。)

なお、医療データは要配慮個人情報(センシティブ情報)なので、オプトアウト方式による同意の取得は認められません(同23条2項かっこ書)。

さらに、ここで気になるのは調剤薬局と顧客(患者)との力関係です。患者は薬剤師から薬をいただく立場なので、医者ほどでないにしても、薬剤師から一定の圧力を受けやすい立場にあります。

この点、似たケースとして、保険の販売に関しては、「銀行窓販の弊害防止措置」という規制が保険業法施行規則212条2項以下(保険会社向けの総合的な監督指針II -4-2-6)に規定されています。

例えば、銀行など金融機関が持つ顧客の個人情報は「非公開金融情報」と呼ばれますが、あらかじめ顧客本人の同意なく銀行等の担当者がこの非公開金融情報を保険の勧誘に利用することは禁じられています(施行規則212条2項、施行規則212条の2第2項1号)。

また、融資をする銀行等の担当者と保険の募集をする担当者は別人でなければならないとする「担当者分離」の弊害防止措置も規定されています(施行規則212条3項3号、施行規則212条の2第3項3号)。(中原健夫・山本啓太・ 関秀忠・岡本大毅『保険業務のコンプライアンス 第3版』224頁)

昨年ごろより既にauやNTTドコモなどの携帯電話業が保険の乗合代理店になっていますが、本事例の日本調剤のように調剤薬局が保険の乗合代理店になるということは、より銀行に近い、保険契約者等に対して圧力募集をしやすい地位にある代理店が登場するということなのではないでしょうか。金融庁など監督官庁は早急に法規制などを準備すべきと思われます。

3.保険新商品の開発のための日本調剤から第一生命グループへの医療データの提供
記事によると、保険新商品の開発のために、日本調剤が持つ医療データを第一生命グループに提供するとあります。現行法下で生データの提供で行うのであれば、日本調剤において目的外の第三者提供にあたるので、やはり患者本人の同意が必要となります。

5月30日の改正個人情報保護法施工後に医療データの授受を行うのであれば、おそらく両社は医療データを匿名加工情報として授受することになると思われます(個人情報保護法36条1項)。

この場合、日本調剤は本人の同意の取得は不要なかわりに、個人情報保護委員会規則の定めに従い個人情報を加工し、当該匿名加工情報に含まれる個人情報の項目を公表しなければなりません。また第三者提供をするときはこれも個人情報保護委員会規則が定める事項を公表しなければなりません。(宇賀克也『個人情報保護法の逐条解説 第5版』229頁)

第一生命グループおよび日本調剤の経営陣達はフィンテック(Fintech)の時代の流れを先取りする考えでこの記事のような取組を行うのでしょう。

しかし一方、自分の医療情報というデリケートなセンシティブ情報を、自分の調剤以外に使ってほしくないと思う患者・顧客は多いと思われます。今後、発生するであろう大規模なクレームの嵐を第一生命グループおよび日本調剤はどう対応してゆくのか疑問です。法律が改正されたとしても多くの国民・市民の心の面持ちが変わるわけではないのですから。

4.薬局という場における保険募集の妥当性
なお、生命保険の告知制度との関係で、保険代理店が調剤薬局ということの固有の問題も考えられます。

薬局の薬剤師で保険募集人の資格を持つ者は、薬局のデータベースや患者から提示される処方箋・薬手帳、患者との問答などにより、目の前の患者が現在、傷病中であり、かつもしデータがあればその患者の既往症を知ることができます。

第一生命グループは引受条件緩和型の生命保険などを提供するようですが、しかし日本調剤の保険募集人たる薬剤師は、保険の募集にあたっては、患者(顧客)に病歴などに関して事実をありのままに告知してもらうよう説明する姿勢が求められます。

しかしそれを怠り、もし日本調剤の保険募集人が顧客に、例えば「血糖値が高いですが、正常値の値で告知すればいいですよ」等と虚偽告知の教唆した場合(保険業法300条1項2号)、あるいは、保険募集人たる薬剤師が顧客の既往症を知っているが、顧客に「既往症なし」と書くよう説明する告知妨害・不告知教唆(保険業法300条1項3号)などは、いずれも保険業法が禁止する保険募集上の事故であり、罰則で禁止されています(317条の2第7号)。

もしこのような行為をしてしまった場合、日本調剤や委託元の第一生命は金融庁から指導や行政処分を受ける可能性があります(保険業法施行規則第 227 条の 11、保険業法127条、監督指針Ⅲ-2-15)。(中原・山本・ 関・岡本・前揚158頁、340頁)

また、行政上の問題と別に、保険法上(民事上)の問題として、募集人の告知妨害などが認められた場合には、一定の場合を除き、保険会社側は告知義務違反を理由として保険契約を解除することができません(保険法28条2項2号・3号、同55条2項1号など)。

このように街中の通常の場所に比べて、薬局を保険の乗合代理店とすることは行政上、民事上、保険募集事故が発生するおそれの高い、法的リスクが高いと考えられます。このような場所で保険募集を行おうとしている日本調剤と第一生命の判断には疑問が残ります。

■関連するブログ記事
・FinTech・ビッグデータと生命保険と法令/第一生命と日立の事例から

・フィンテック(FinTech)と生命保険・損害保険・保険業界/個人情報保護法・保険業法の観点から

個人情報保護法の逐条解説 第5版 -- 個人情報保護法・行政機関個人情報保護法・独立行政法人等個人情報保護法



保険業務のコンプライアンス(第3版)



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