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1.ライフネット生命の「auの生命ほけん」の「セット割引」が11月末に販売停止
最近の新聞記事につぎのような興味深いものがありました。

KDDI(au)はライフネット生命の保険を扱う代理店ですが、auのスマホ・携帯電話の利用者がライフネット生命の医療保険や定期保険に加入すると、「セット割引」として通信料を月々200円安くしてきたそうです。

ところが、KDDIおよびライフネット生命は、この取り扱いを11月末で取りやめることとし、その代わりに、ライフネット生命は12月より金融庁から認可を受けた新商品の「還付金付き『auの生命ほけん』」の販売を開始するそうです。

そしてこの新しい保険の内容としては、保険契約から月々、200円の還付金を支払い、月々の携帯電話等の通信料から差し引いて請求を行う取り扱いにするとのことです。

KDDIはこの制度の変更について、「通信料の割引が、保険業法の禁止する保険料の割引と誤認される恐れがあったため」と説明しているそうです。
(「au、保険契約者向け「セット割」撤回 11月末で」日本経済新聞2016年6月17日付参照)

・プレスリリース|ライフネット生命保険 還付金付き「auの生命ほけん」を発売|ライフネット生命保険

・プレスリリース|還付金付き「auの生命ほけん」の提供について|KDDI


(auサイトより)

2.特別利益の提供の禁止・保険業法300条1項5号
KDDIが説明するように、保険業法300条1項5号は、保険会社、保険募集人やKDDIなどの保険代理店が保険の募集にあたって、保険料の割引、割戻しなどの特別の利益を提供することを禁止しています。

保険業法

第300条  保険会社等…保険募集人…は、保険契約の締結又は保険募集に関して、次に掲げる行為…をしてはならない。
 保険契約者又は被保険者に対して、保険料の割引、割戻しその他特別の利益の提供を約し、又は提供する行為


このように保険業法は保険の募集にあたって、保険料の割引・割戻を行うことを禁止しています。今回のKDDIとライフネット生命の「auの生命ほけん」は、この保険業法300条1項5号に抵触しないかが問題となったものです。

3.特別利益の提供禁止の趣旨
そもそも保険業法300条1項5号の規定の趣旨は、特定の保険契約者にのみ特別の利益を与えると、保険契約者間の平等性・公平性が損なわれるから禁止されると説明されています。

また、保険会社間の競争で過剰な保険料の割引等が行われると、保険業の健全な発展が阻害されるおそれがあります。

さらに、保険商品は金融庁の許認可により保険料の料率が規定されているものですが、特別利益の提供は、この保険料の料率の許認可制度を骨抜きとしかねないものでもあるため、禁止されています(錦野裕宗・稲田行祐『保険業法の読み方[改訂版]』133頁、石田満『保険業法2009』640頁)。

今回の「auの生命ほけん」をみると、auの携帯電話・スマホに加入している利用者がこの生命保険に加入すると、毎月200円、通信料が割引となる仕組みとなっています。

保険業法300条1項は、「保険契約の締結又は保険募集に関して」と規定していますが、これは保険募集に直接的に付随する行為だけでなく、広い概念であり、たとえば、事後的な謝礼や、あるいは、提供する利益が実質的には新たな保険契約の締結を勧誘するために提供されているとみられかねない場合をも含むと解されています(中原健夫・山本啓太・関秀忠・岡本大毅『保険業務のコンプライアンス[第3版]』168頁)。

「auの生命ほけん」において、月々、携帯電話等の通信料が200円割引となっていることは、事後的な謝礼、あるいは、そのような特典があるという事実をPRして新たな顧客を勧誘していることであるとも思われます。したがって、この200円のセット割引は、保険業法300条1項は、「保険契約の締結又は保険募集に関して」に該当するものと思われます。

4.どのような行為が特別利益の提供にあたるか
この点、どのような行為が特別利益の提供にあたるかについて、保険業法300条1項5号に関して、金融庁の「保険会社向けの総合的な監督指針」II -4-2-2(7)(以下「監督指針」という)はつぎのようにさらに細目を定めています。

保険会社向けの総合的な監督指針II -4-2-2

(7)法第300条第1項第5号関係

保険会社等が、保険契約の締結又は保険募集に関し、保険契約者又は被保険者に対して、各種のサービスや物品を提供する場合においては、以下のような点に留意して、「特別利益の提供」に該当しないものとなっているか。

ア. 当該サービス等の経済的価値及び内容が、社会相当性を超えるものとなっていないか。

イ. 当該サービス等が、換金性の程度と使途の範囲等に照らして、実質的に保険料の割引・割戻しに該当するものとなっていないか。

ウ. 当該サービス等の提供が、保険契約者間の公平性を著しく阻害するものとなっていないか。なお、保険会社は、当該サービス等の提供を通じ、他業禁止に反する行為を行っていないかについても留意する。

(注)保険会社等が、保険契約者又は被保険者に対し、保険契約の締結によりポイントを付与し、当該ポイントに応じた生活関連の割引サービス等を提供している例があるが、その際、ポイントに応じてキャッシュバックを行うことは、保険料の割引・割戻しに該当し、法第4 条第2 項各号に掲げる書類に基づいて行う場合を除き、禁止されていることに留意する。


このように監督指針は、大きく分けて、ア.経済的価値の社会的相当性、イ.使途・換金性、ウ.公平性、の3点を重視しています。

5.「auの生命ほけん」を考える
そこで、「auの生命ほけん」についてみてみると、まず、ア.経済的価値の社会的相当性に関しては、付与されるポイントが500円から1000円程度であれば、相当であるといえるとされています(錦野裕宗・稲田行祐・『保険業法の読み方[改訂版]』133頁)。

この点、「auの生命ほけん」はライフネット生命のプレスリリースなどを読むと、月々200円の通信料の割引を最長60か月行う制度であるとされています。つまり、最大、12000円の割引を保険代理店たるKDDIが行う仕組みだったわけです。

500円から1000円が許容される限度とされているところ、12000円という利益の提供はかなり大きな金額で、監督指針II -4-2-2(7)ア に違反しているとみられるおそれがあります。

つぎに、イ.使途・換金性に関しては、交付されるポイントが金銭と交換しやすいものであったり、実質的には金銭と同じ経済的価値を有する場合は、保険業法300条1項5項に抵触する可能性があるとされています(錦野・稲田・前掲133頁)。

この点、「auの生命ほけん」は、月々200円を通信料から割引しており、これは金銭そのものの利益を提供しているので、完全に監督指針に違反しています。

さらに、ウ.公平性は、すべての保険契約者に対して行われるものであれば、特別利益の提供にあたらないとされています(錦野・稲田・前掲133頁)。

冒頭にリンクを引用したKDDIのプレスリリースによると、今回問題となった、「auの生命ほけん」は、ライフネット生命が販売している定期保険や医療保険と同一の商品を、「au定期ほけん」、「au医療ほけん」などと名称だけ変えて販売しているとのことです。

すると、ライフネット生命が販売している、たとえば定期保険について、月々200円実質的な割引が提供されるauユーザーの保険契約者集団と、そうでない保険契約者集団が発生してしまっており、これは不公平であり、この点も監督指針違反です。

このようにみてみると、やはりライフネット生命およびKDDIの「auの生命ほけん」は、保険業法300条1項5項および監督指針II -4-2-2(7)に違反しており、募集人としての登録取消し等の罰則を定める同法307条が適用される可能性があります。

また、ライフネット生命等が保険業法が定める認可申請書類である事業方法書等の基礎書類に基づかないで、保険料の割引・割戻などの特別利益の提供の禁止行為にあたる保険募集を行わせた場合、あるいはそれを黙認していた場合は、保険会社は事業方法書等の基礎書類に定める事項の変更の認可(保険業法123条)を受けていなかったことになり、この点からも罰則を受けることになります(同333条1項40号)。

そして、もし今回の問題をライフネット生命やKDDIが漫然と放置していたら、金融庁が業務改善命令や業務停止命令を発出したかもしれません(保険業法132条)。

なお、うえでみてきたように、特別利益の提供は保険業法が禁止するところですが、しかし、2.でみたとおり、特別利益の提供を禁止する趣旨のひとつは、保険商品を金融庁の認可制とすることで「保険料の料率の許認可制度を骨抜き」にすることを防止することにあり、また、金融庁の許認可制とすることで、保険契約者間の平等性・公平性や、保険会社の過当競争の防止を図ることにありました。

そのため、保険料の割引であっても、金融庁の認可を受けて事業方法書に根拠のあるものは、保険業法の禁止する特別利益の提供にはあたりません(保険業法300条2項、石田満『保険業法2009』640頁)。

したがって、今回、ライフネット生命が問題解決のために、新しい保険商品として「還付金付き『auの生命保険』」の認可を金融庁から受けたのは、妥当な対応であったと思われます。

(ただ、どうでもいい話ですが、保険会社のはずのライフネットのプレスリリースの内容が軽薄なのに対して、保険代理店のKDDIのプレスリリースのほうが非常にしっかりしているのは不思議です。)

6.他の生命保険会社のポイント制度
以前、このブログでも取り上げたとおり、ライフネット生命以外にも、多くの生命保険会社が保険契約に関連してポイント制度を行っている例は多い状況です。

・保険会社が保険契約者等にポイントを交付することは保険業法上許されるのか?/特別利益の提供

個人的には、紹介の保険契約が成立した際や、年一回のアフターフォロー等の際に付与されるポイントの値が他の会社に比べてずいぶん大きく、かつ、その貯まったポイントで交換できるものに、使途・換金性の高いJAL・ANAのマイルなどが含まれている日本生命は、大丈夫なのだろうかと思います。(もちろんライフネット生命のように、保険商品の内容にポイント制度も含めて金融庁から事業方法書等の認可を得ているのであれば問題ないわけですが。)

■参考文献
・錦野裕宗・稲田行祐『保険業法の読み方[改訂版]』133頁
・中原健夫・山本啓太・関秀忠・岡本大毅『保険業務のコンプライアンス[第3版]』168頁
・石田満『保険業法2009』640頁


保険業法の読み方 改訂版: 実務上の主要論点 一問一答



保険業務のコンプライアンス(第3版)



保険業法2015 補訂版





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