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1.はじめに
先般、認知症の高齢者の方がJR東海の線路内で事故にあい、その遺族の監督者責任が最高裁まで争われました(最高裁平成28年3月1日判決)。

このような事故に関する家族の防衛策のひとつは、自動車保険、住宅保険などに付加できる個人賠償責任特約に加入しておくことだろうと思われます。

これは、保険契約者の家族が日常生活で他人にケガなどをさせたり、他人の物を壊したりした場合に、その損害賠償の金額について、保険会社から保険金が支払われる特約です。

また、最近は自転車向けの保険として、この個人賠償責任特約が注目されています。



この個人賠償責任特約が争われた裁判例はあまり多くないようですが、少し興味深い事例が見つかりました。

2.東京地裁平成19年9月14日判決(控訴・控訴棄却)
(1)保険契約の概要
Xはアパート・マンションなどに関するY家財保障共済(ハウスメイト共済、現在は日本少額短期保険株式会社に委託されている。)の共済契約に加入していた。本共済契約には、個人賠償責任保障特別約款(以下「本件特約」という)が付加されていた。そして本件特約にはつぎのような規定があった。(以下の規定は、日本少額短期保険株式会社の「賃貸住宅総合保険2014」より。)

【共済金を支払う場合】


【本件免責条項①】



【本件免責条項②】



(2)事故の概要
XはYの本件家財保障共済契約に平成16年3月に加入した。平成17年2月28日午前0時頃、新宿歌舞伎町の飲食店で飲酒をしていた、XらのグループとAらのグループはささいなことから喧嘩となった。

XとAがもみ合いとなりAの右手がXの顔面にかかり、Aの右手中指がXの口にはいった瞬間にXがこれに噛みつき、二人が横転するもXはこれを離さず噛み切ってしまった。

AはXに対して480万円の損害賠償を請求して訴訟を提起し、裁判上の和解が成立した。これを受けてXがYに対して本件特約に基づいて480万円の支払いを求めたのが本件訴訟である。

(3)主な争点
本判決では、X側の主張の二点が主な争点となりました。

①暴行または殴打による場合であっても本件事故の態様からみて、Xに共済制度を適用しても信義誠実の原則や公序良俗に反するものとはいえない。

②本件Xの行為は故意ではなく過剰防衛であって過失にすぎない。

(4)判旨
裁判所はつぎのように判示し、Xの請求を斥けました。

①について
『しかしながら、(略)上記本件事故の態様が、公益という本件免責条項②の趣旨に照らして「被共済者による暴行に起因する損害賠償責任」に該当しないということはできない。そして、XがAの指を噛み切ったという行為が、(略)反社会性が低いとはいえず、上記判断を覆すには足りない。このように解さなければ、例えば、仮に喧嘩当事者の双方が共済契約を締結していたとすると、被告(=Y)は損害賠償責任を負うに至った双方の当事者に共済金を支払うことになり、共済制度の趣旨に反し、喧嘩による暴行を助長することになりかねないからである。』

②について
『本件免責条項①の「故意」とは、自己の行為により一定の結果が生ずべきことを認識しながらその結果を認容してその行為を敢えてするという心理状態をいうものである。』

『(XがAの指を噛み切ったという行為は)Xが相手方の身体の一部であると認識して噛み続けたことに照らし、少なくともその段階で積極的な加害行為が認められ、相当性を超える行為を認識して行ったものと言わざるを得ないから、故意にあたらないということはできない。』

3.検討
本裁判は保険法施行前の事件であり、旧商法の641条の故意免責と、それを規定した約款をもとに共済金の支払いの可否が争われています。

この旧商法の損害保険に係る641条と生命保険に係る680条の故意免責は、保険法は17条、51条、80条に故意免責の条文を置いています。

この保険法17条などの趣旨は、学説は、①故意の事故招致の誘発は公益に反すること、②故意に保険金請求権の要件を満たすことは信義則に反すること、としています(山下友信・竹濱修・洲崎博史・山本哲生『有斐閣アルマ保険法[第3版補訂版]162』頁、山下友信『保険法』369頁)。

また、判例(最高裁平成14年10月3日等)も同様の趣旨であり、本判決もこの流れをくむものといえます。

最後に、本判決は、『「故意」とは、自己の行為により一定の結果が生ずべきことを認識しながらその結果を認容してその行為を敢えてするという心理状態をいうものである』と述べ、Xにはこの故意はあったとして免責を導いています。

これは、いわゆる「未必の故意」と呼ばれるもので、保険法の裁判例でしばしば登場するものです(西嶋梅治・長谷川仁彦『改訂・増補版 生命保険判例集 続・最新実務判例集』248頁)。

4.余談‐最近の自転車向け保険など
JR東海の最高裁判決の件だけでなく、最近は自転車による事故が社会問題となり、条例で自転車に対して保険への加入を義務付ける自治体も現れています。自転車に関する保険としても、この個人賠償責任特約は有効な対策だろうと思われます。

それを受けて、コンビニ各社などが自転車向け保険を競って勧誘しているようですが、見てみると、傷害保険をベースとした商品がメインのようです。

そのため、事故を起こした本人の入院・手術等も保障するためか、保険料が約3000円/年となっており、約1500円/年の個人賠償責任特約より割高となっているようです。

自転車向け保険を相手方への対人・対物保険と割り切るか、あるいは自分と家族の保障も含めるタイプにするか、自分や家族が既に加入している生命保険、医療保険などを再確認し、ケースバイケースの判断だろうと思われます。

■参考文献
・山下友信・竹濱修・洲崎博史・山本哲生『有斐閣アルマ保険法[第3版補訂版]162』頁
・山下友信『保険法』369頁
・西嶋梅治・長谷川仁彦『改訂・増補版 生命保険判例集 続・最新実務判例集』248頁

■関連するブログ記事
・JR東海高齢者認知症徘徊事故最高裁判決について/監督義務者の責任・夫婦の同居協力扶助義務

・認知症など精神障害者の不法行為に関する親権者・医療機関等の監督義務者の責任について/JR東海事件

保険法 第3版補訂版 (有斐閣アルマ)



保険法



生命保険契約法続・最新実務判例集





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