躁うつ病は減っているのか? | kyupinの日記 気が向けば更新

躁うつ病は減っているのか?

これはパラドックス的であり、バカみたいなタイトルだが、あえてこれを選んだ。

過去ログで生来性にファジーな器質性障害を帯びた人たちが増えているので、統合失調症は発症しにくくなっているのではないか?と書いている(参考)。統合失調症は、もう軽症化の話が言われ始めて長いが、軽症化どころか統合失調症そのものが減っていると思う。

もしそうなら、同じ内因性疾患、躁うつ病はどうなのか?と言う問題である。

最近の論文的には双極性障害は「かなり増えている」ことになっている。これは双極2型が意識され始めたことと、未成年の人の双極性障害も診断され始めたことも無関係ではない。

僕は内因性と呼べる躁うつ病は減っていると思う。その理由は統合失調症と同じだ。

躁うつ病は本来、珍しい精神疾患なのである。少なくともずっと以前はそうであった。一般に躁うつ病は統合失調症よりも発症年齢は遅く、もし16歳くらいで双極性と言える病状が見られる場合、果たして躁うつ病と診断して良いのか?などと長時間議論されるほどであった。(どこで議論されるかと言えば、症例検討会)

こういう場合、結局、躁うつ病と診断されることはほぼなかった。この年齢で躁うつ病になることは難しいのである。

しかし最近は何も考えず操作的に診断すると、双極性障害が増加しているようには見える。これは表現形としての双極性障害を呈する患者さんが増えていることに他ならない。状態像としての「双極性障害」が増えているため、正体が見えないのが現実である。躁うつ病は内因性疾患なので、ここ数十年で急に増加したり、発症年齢帯が変化するのはちょっと変だとは言える。

過去ログで書いたように、何らかの原因による器質性疾患の人たちが「双極性障害」の病態を呈することが診断的に紛れをもたらしていることが想像できる。

この器質性の人たちだが、希死念慮を伴ううつ状態だったり(参考)、双極2型の双極性障害に見えることもある。また幻覚妄想状態を呈し、統合失調症と見間違うような場合もある。

この双極2型も、単に「古典的双極1型の軽度のもの」つまり量的な差だけに留まらないことが多い。つまり躁状態の出現パターンの特殊性、例えばラピッドサイクラーなどである。

ラピッドサイクラーは定義的には「年間に4回以上」などと言っているので、今風に言えば、ずいぶんゆったりしている。

最近の2型双極性障害でラピッドサイクラー?の人は、「躁うつ」を数えていくと、「年間、何回プチ躁転したのか数え切れない」などと笑うに笑えないことも見られる。また奇妙なことに、躁状態がたった1日半だけ続いてうつ転する人がいる。このような人は、きっとラピッドサイクラーではないんだと思う。もちろん双極性障害でもない。

双極性障害と呼べるある種の秩序がないからである。これはたぶん内因性とはほとんど関係がなく、器質性疾患の双極性障害の擬態みたいなものだ。

このような人はたいていの場合、双極性障害らしい病前性格も持たない。また、デパケンRの有効率が高く、本来、器質性疾患に相性が悪いリーマスは合わない確率が高い(参考)。また発達障害の人たちと同様、かなり薬にも弱く、抗精神病薬などを投与するとEPSやジストニアなどの副作用が出やすい。デパケンRですら副作用で飲めないということもある。

このようなリズム感のない双極性障害モドキの人たちは、なだらかに現代風うつ状態、つまり新型あるいは「非定型うつ病」などに繋がっている。

この辺りはきっと器質性に由来するある種のスペクトラムになっているんだと思う。つまり、ストレス下ではうつ状態を呈しているのに、状況が一変し過ごしやすい環境に置かれると、はしゃげる人たちである。

彼らは本来、器質性なので双極性障害の病態である必然性がない。

だから、治療がうまくいけば完治する可能性を秘めていると言える。(服薬すら必要でなくなると言う意味)

この擬態の双極性障害と真の双極性障害は区別すべきなのであろうか?

それが容易なら良いけど、少なくとも統合失調症のように簡単には区別できない。病前性格の差を持って診断を分けるのもなんだかな~と思うからだ。

元々、現代社会では状態像をもって診断するようになっているので、個人的には擬態の双極性障害も双極性障害としても仕方がないと思う。僕が1人でキャンキャン吼えていても仕方がないとは言える。(しかし、統合失調症はそうは思わない。双極性障害は譲れるが、統合失調症は譲れない。)

上にも書いているが、このような精神疾患の見方は非常に治療に応用が効くし、プラクティカルではあると言える。

ここで、問題。

ウェールズの人たちはどのように考えたら良いのだろう。ウェールズの性格の人たちは健康な人ももちろん多いと思うが、もし精神疾患になったら、双極性障害、統合失調症、べったりとした浮上が難しいうつ状態などになりうる。

ウェールズの人たちは今までに書いてきたような生来性にダメージを脳に受けているような器質性疾患と言い難い性格である。つまり社会へのかかわり方が根本的に異なっているし、むしろ躁うつ病的な性格の1面を持ち合わせており、その点で「内因性」的だ。

たぶん、ウェールズの性格の人は紀元前からいたはずで、最近急激に増えたかと言うと、いくらか増えてはいるとは思うが、急激とは言い難い。ウェールズの人たちは、器質性の内容の点で新しいタイプの人たちとは異なるのである。

つまり、脳への直接の器質性要因ではなく、むしろ身体的なものから来る器質性が多いようには見える。リウマチ、バセドー病の家系など免疫疾患を背景としていることも多い。その点では近年はアトピーなどが増えているので、身体的にも環境ホルモンなど謎の有害物質が絡んでいる可能性も否定できない。だから、50年前よりは増えているかもしれないと思う。

器質性という点だけ見れば、いわゆる広汎性発達障害および漠然とした器質性疾患の人とウェールズの人は、作用点が異なっており、ねじれの位置にあると言える。同じとはいえないし、今後もたぶん同じにはならない。

薬物の点で言えば、平均するとウェールズの人は薬に繊細な人が多い。しかし極端に悪くなり保護室に入るくらいになると結構忍容性が高くなる人も稀ではない。ここが広汎性発達障害や器質性疾患系の人と異なっており、内因性的だ。

しかし、やがて改善すると急速に副作用が出てくるのである。悪い時はリーマスで良かったのに、維持療法はリーマスでは副作用が多すぎて他の薬の方が良いと言う場合もある。

ウェールズの人たちは、ずっと苦しんでいたのに急激に落ち着き、薬も必要でなくなり完治に至る人たちがいる。

これは内因に身体因(器質因)が加わりうつ状態なり、重い精神病なり呈していても、身体的なものが改善すればすべてが解決するのかもしれない。あるいは、身体因と脳のかかわり方が変化すると完治する可能性があると言える(参考)。その点で、古典的躁うつ病や統合失調症とは異なっている。

タイトルの結論を言えば、躁うつ病は実は減っているのだが、状態像的には増えているのである。やはり増えているで仕方がない。

参考
統合失調症は減少しているのか?
徒然なるままに浪費癖とギャンブル癖を考える
自閉症スペクトラムは実は3次元になっている?
急速交代型
ウェールズ生まれの
ウェールズタイプの統合失調症の寛解
デパケンR
人間の秘めたるエネルギーと治癒の謎
徒然なるままに浪費癖とギャンブル癖を考える