統合失調症は減少しているのか? | kyupinの日記 気が向けば更新

統合失調症は減少しているのか?

最近、うちの病院で新患のしかも初発の統合失調症の人をほとんど診なくなった。新患はうつ状態が最も多い。よく考えると、いつか過去ログに出てくる「3人の女性患者」のうちの1名を診て以来、初発の新患は全く診ていないので、新規発生患者は非常に少なくなっていることが予想できる。

一般に、教科書的には統合失調症の発病率は0.8%くらいと言われている。たぶん、現在の真の発病率は0.4%くらいではないのかしらん?と思ったりする。若い統合失調症の患者さんを全く診ないかというとそうでもなく、例えば措置鑑定とか医療観察法の鑑定で診るので全然いないことはない。しかし、うちのようなタイプの病院にはあまり来ない。

単に操作的に診断すれば、幻聴などの陽性症状が一定の期間続けば、統合失調症と診断して良いため、マギレの人々が入り込んで、結局、従来と同じ0.8%となると言うのはあるかもしれない。これは時々過去ログでも触れているように、広汎性発達障害や、そうとまで呼べない器質性疾患の患者さんが統合失調症に扮装することを言っている。

過去ログでは、「統合失調症の発生率は有史以来あまり変わっていない」などと書いているが、あれはちょっと訂正したい(参考)。実際、減っていることは間違いないからだ。この理由であるが、現在、

内因性の時代は終わりを告げ、器質性の時代に入った。

ことを暗示しているのだと思う。

実は、このことを考えるに、生来性の知的発達障害の人が統合失調症に極めて移行しにくいことが関係しているように思う。うちの大学では、生来性の「知的発達障害」がある場合、いかなる統合失調症的な所見があっても、統合失調症と診断されることは極めて稀であった。1名の精神科医で、生涯に2~3名くらいをそう診断すると言った感じだ。

なぜそうなるかというと、生来性の知的発達障害の人は統合失調症の人に比べ、「人懐っこい」など統合失調症とは対人接触性が根本的に異なることがある。そういった理由で滅多に統合失調症とは診断されないのであった。

現在の子供達は、なにがしか器質性のダメージを受けたまま出生している人が多いんだと思う。だから高い知能で疾病性が低くても広汎性発達障害的な色彩を持つ子供が多くなっているのである。

僕はこれらをすべて広汎性発達障害と呼ぶのはいかがなものか?と言う意見には変わりはないが、治療的にはこの考え方は非常に重要である。彼らは薬に弱い上に、デパケンRで症状が緩和することが多く診られるからである。

僕の文部省に入った友人の話にこれを裏付けるものがある。彼は国立大学を転勤しながらたくさんの入学式や卒業式を見てきたが、かつての入学式や卒業式とは全然雰囲気が違うと言う。一生に1度あるかないかの厳粛な式なのに、そのような感覚とは程遠く、式の途中で携帯のメールを打っていたり、あるいは携帯で電話をしている学生がいる。腹立たしいが、どうせ彼らは聞かないので放置するしかないという。つまり場の空気が読めないのである。これは軽微な器質性所見を反映している。

おそらく、生来性に器質性変化を既に生じている子供が多くいるため、内因性疾患、特に統合失調症を発病しにくくなっているのであろう。

なぜ、最近の子供が器質性ダメージを受けたまま出生しているかだが、環境変化と社会的問題があるような気がしている。

現在、日本では晩婚化が進み、高齢出産が増えていることや不妊症の増加により双子や三つ子など多胎出産が増えていることがある。高学歴の家庭では晩婚化、高齢出産はよく見られるので、広汎性発達障害などの子供がエリートと呼べる家庭にもしばしば見られることもそれを裏付けている。

他、食事の問題。最近も話題になったが、冷凍食品などの異物混入を見てもわかるように食事はかつてほど安全ではなく、これらの化学物質が胎児に影響するのであろう。これらは、既に母親に蓄積されたものも関係するので、高齢出産だとそれまでの母親の蓄積の影響が大きいとは言える。しかも高齢出産だと1名しか生まないことになりやすく、子供全体から見ると相対的に影響を受けた子供は増加する。(しかし、4人兄妹で3番目だけと言う家庭もあり、この要因だけでは片付けられない)

胎児水俣病では、その子を生んだ母親には有機水銀による目立った障害はなかった(もちろん軽微にはあるはずだが)。つまり、母体は自らを守るために子供を犠牲にするようなメカニズムを持つのである(また、第1子を犠牲にし、第2子から健康な子供を生めるようにする生物的な保護作用の1つかもしれない。もちろん、矛盾する家庭もある)。これは有機水銀に限らず、例えばダイオキシンやその他まだ病理的意義がわかっていない化学物質も同様だと思われる。

また、社会がハイテク化したことによる電磁波による影響も関係しているかもしれない。現代風精神疾患が増えた原因として「今の子供は砂遊びとかビー球のような遊びをしないこと」を挙げているのを神田橋先生の書物で読んだことがあるが、全くの慧眼である。

なぜ砂遊びやビー玉が良いかと言うと、テレビゲームなどで遊んでいるより電磁波の影響を受けないことが1つ。これは「IT従事者のうつ状態」で少し触れているが、成人でもハイテク機器は精神の変調を来たしやすいくらいなのに、子供の頃から光源を見続けることが良いはずはない。

あと、もう1つはこれらの砂遊び、ビー球、あるいは広場で相撲を取るなどが「脳の成熟にプラスになっている」ことがある。また、テレビゲームはパズルなどのように頭を使うものがあるが、きっとそこまで脳の成熟を促さないんだと思う。ひきこもりの人は1日中テレビゲームをしていても、それで治りはしないから(テレビゲームはそう悪くはないのかもしれないが、治療的ではないのであろう)。かつてはパズル的ゲームはキャップや積木などアナログの世界であった。あれは三次元的であるし、指や手を使うのがたぶん良いのであろう。この点がたぶん治療的なのである。神田橋先生の言わんとした文脈はたぶん後者であろう。

実は、僕たちが子供の頃は既に食事はかなり有害物質が入る状況になっていた。チクロは野放しだったし、駄菓子屋に行きジュースなどを飲むと、口の中が紫になるなど合成着色料、甘味料の規制は今よりずっと緩かったのである。

しかしかつてはひきこもりは全然と言って良いほどいなかった。これは社会的なものもあるが、多少成熟が遅れ気味でもそれを促すような子供の社会環境があったことが大きい。今は、もう少し複雑なホルモン製剤や抗生物質なども増えているので、より多因子になってきているし、地球温暖化もなにがしか悪い影響をもたらしているような気がする。

この食事やハイテク機器の有害性について、日本社会の企業の利害にも関係しているので、そこまで大きな声で言いにくいような状況はある。日本は資源がなく、これら日本社会に利益をもたらす企業活動を容易に阻むことができる社会環境ではないからである。これは水俣病が発生した時、なかなか有機水銀が原因であることを認めようとしなかったことでもわかる。一般に「その有害説を証明してみろ」と言われると非常に難しいと思うし、あまりにも因子が多すぎて証明は無理なものなのだと思う。

だいたい不特定多数の食事中の有害物質といってもあまりにも漠然としている。おそらく有機水銀とダイオキシンは悪いと思うが、ブロイラーなどの成長を促進するホルモンも相当に凶だと思われる。しょこたんが胸を大きくするために鶏肉をたくさん摂る作戦をとったという話があるが、あれはかなりの危険行為だと思った。しかし、彼女のコメント欄に、

それはいけないです!


と僕が突然書いてもバカとしか思われないであろう。いつだったか、あるモデルの女の子がテレビで言っていたが、ミスコンテストが終わった後、落選した女の子からとんでもない暴言(「殺す」とか)を浴びせられ、恐怖感を感じたと言う。このようなこともこれに関係しているような気がした。

広汎性発達障害や器質性疾患は生来性のものなのに、電磁波や食事などの後天的要因を言うのはおかしいと言う意見もあるかもしれない。僕も最初はそんな風に思っていた。しかし、どうも成長の過程で摂っている有害物質もその後の精神面の変化に影響している様に個人的には見えるのである。それは元々脆弱な器質性背景に更におかしなものを摂ることで、顕在発症(成人してからの社会的破綻など)しているように見える人もいるから。(偏食するから余計に悪いのだが、結局何が悪いかが明確でないので、この偏食が悪いと言うのもおかしなものだ。)

このように、後天的な化学物質がトリガーを引くように見える精神面の影響を「共鳴」と呼びたい。

既に日本社会は取り返しが付かない状況になっていると思う。少子化に加え、将来にわたって十分に働ける子供の数が減っているからである。日本の株が上がらないはずだ。

かつて、この「内因性の正体」のテーマで「ペスト」の話をしているが、なんだろな?の世界だったと思う。西欧人は肉を食べる習慣が長いので、元々肉の脂身などに蓄積する有害物質への耐性?が日本人とは異なっているのである。だから、同じような食事をしても日本人ほどの影響を来たさない。(もちろん影響はすると思われるが・・)体格が良いことも相対的な影響を緩和している。これは向精神薬の忍容性などの相違をみてもわかる。

だからアジアでも先進国、つまり日本、韓国、台湾などが非常にこの影響を受け易いとは言える。体格や食文化が似ているからである。中国は沿岸部の都会はそうでもないかもしれないが、国土が広く、田舎では日本のかつてのような「成熟を促す」環境が残っている。だから、中国と日本は違うと言えば違う。たぶん北朝鮮では、日本のような発達障害や器質性障害の人はかなり少ないような気がする。確かめられないが。

韓国で地下鉄で灯油を撒いて大火災になり大変な人々が亡くなった事件があるが、あれは犯人の希死念慮が原因になっており、周りの人やその家族がどのような悲惨な目にあうか配慮していないことが1つの大きな背景となっている。その点で、あの事件は器質的だと思う。

もし日本で銃が解禁されていたら、東京の山の手線や新宿や渋谷は危なくて遊びに行けないと思う。通り魔事件の犯人は間違いなく銃を使うと思うから。だいたいその前に、日本の自殺者も今よりずっと増えているはずだ。

銃が安易に手に入らない社会に感謝すべきだ。日本人とアメリカ人は違うのである。

上のような考察から、このような器質性疾患(広汎性発達障害なども含む)の治療法は2つか3つあると思われる。1つは薬物療法であるが、これはむしろ対症療法的である。また、行動療法的にも良いものが存在していることが想像できる。それは療育的ともいえるが、結局は、脳の成熟を促す作戦を取れば良いのだろう。いつかその方法についてアップするつもりだが、たぶんなかなかしないと思う。皆はそう感じないと思うが、僕にとって広汎性発達障害に関わるエントリはアップするだけで凄くストレスになるのである。

少なくとも言えることは、広汎性発達障害など現代風器質性疾患は、いわば国民病であり、親のせいではないのである。

参考
しょこたんのブログ
ALWAYS 三丁目の夕日
ワイケレ・アウトレットで銃を売っていた
ハメルンチャルメラ
Fall On Me(R.E.M.)
地球上の大量絶滅
満月を見上げると、いつもウサギさんがいる
遺伝子と疾病
徒然なるままに浪費癖とギャンブル癖を考える