体重の減量のテクニック | kyupinの日記 気が向けば更新

体重の減量のテクニック

このブログのずっと以前のエントリでは、体重の推移に触れていない記事が多い。これは精神症状の改善などを主に書くことが多かったからだ(ただでさえ、無駄に長いのに更に長くなるというのもあった)。

今までに精神科関係の書物で、特に減量について詳しく触れているものはほとんどないと思う。今回のエントリでは簡単にだが、減量についての考え方について紹介したい。(エントリの題名は大げさ過ぎ)

僕はうちの病院に転院してきた患者さんだけでなく、他病院でも診察をしており、結果的にだが、うまく減量できた経験が多い。これは過去ログにもある。

自分の病院で新患で診た場合は、強烈に体重を増やしてしまうようなぬるいことはあまりしない。これはリスパダールを基本的に使わないことも大きいと思っている(全く処方しないわけではないが)。

精神症状が深刻な場合、全体量が一時的に増えることもあるが、そういう時でさえ体重の大きな増加はないことの方が多い。これは一見、不思議に思えるが、そのような悪化時には興奮や幻覚妄想のために消費エネルギーが大きく意外にバランスが取れているんだと思う。体重が増えるのはむしろ回復の時期である。一時的に大量に使ったとしても、最終的には体重変化を考慮した処方に変更していく。(参考

基本的に体重が増えやすい薬物群とそうでもないものがあるが、他に、本人に本当にフィットしているかどうかとか、向精神薬の総量も関係している。どんな薬物でも絶対的な量が多ければ体重増加しやすい(参考)。

ところが、大量処方でもジスキネジアやジストニアでガクガクになっているような人はガリガリに痩せていたりする。このような病態ではあまりにも無駄なエネルギーを消費しているので肥えるに肥えられないのだと思う。

非定型精神病薬で体重増加を来たしやすいもの。
ジプレキサ
リスパダール
セロクエル(上記2剤ほどではない)


非定型で中立と思われるもの(時に減少)
ルーラン
エビリファイ
ロナセン


定型抗精神病薬で体重増加を来たしやすいもの
コントミン
ドグマチール
ロドピン
プロピタン
クロフェクトン?
ニューレプチル? 他。


定型で少量ならそれほどではないが、大量ならば体重が増えることがあるもの
セレネース
トロペロン
インプロメン


特に体重増加を来たしやすい抗うつ剤
トリプタノール

体重が増えることもよく目撃する抗うつ薬
他のすべての3環系、4環系抗うつ剤、パキシル
(これらは個人差があるが、全然と言って良いほど増えない人もいることに注意)


体重にさほど影響がない抗うつ剤
ジェイゾロフト
デプロメール(ルボックス)


こういう風に見て来ると、統合失調症系の患者さんでは、抗精神病薬の総量、つまりコントミン換算値を下げる方針が最も体重の減量には重要である。また定型や非定型でも体重が増えないタイプのものに変更していくのが良いと思われる。

統合失調症系の人で肥満に悩む人たちの処方は、近年ではいかにリスパダールを減量するかが重要である。人によればたった0.5㎎処方しているだけでも相当に増える人がいるからである。(参考

しかし1㎎~2㎎程度では、リスパダールでもあまり体重に影響がない人もいる。こういう人なら、リスパダールを使っていても体重に関してだけなら問題ないと思われる(リスパダールについては、あらゆる点で少量で処方しないと意味がないと思う)。

統合失調症系の処方変更では、重要な薬物はデパケンRだと思われる。本来、デパケンRは体重が増えてもおかしくはないが、爆発的に増えるような薬物ではないし、デパケンRを追加することで定型抗精神病薬のコントミン換算値を下げることができる。この点で非常に有用な薬物だと思われる。デパケンRの併用でリスパダールが減量できるなら、その方がずっと良い。

実は、僕はジプレキサのために爆発的な体重増加を来たした患者さんを持ったことがほとんどない。なぜかわからないのだが。(僕はジプレキサの処方例数がとても多い)

ジプレキサは一般には大きな体重増加を来たしておかしくはない薬物である。ジプレキサはリスパダールと同様あまり用量依存性がなく、少量でも増える人は増える。しかし20㎎と5㎎が同じかと言えば、同じとは言えない。特に日本人では。特に院内では大量のジプレキサの処方が稀なので、爆発的な体重増加の人がいないような気がする。

僕の場合、ジプレキサで体重が増えることより、むしろ患者さんに過食が出現して気色が悪くて中止することの方が多い。精神症状の方を重視しているのである。

もし、ジプレキサを5㎎服用していて、プラス20kgクラスの体重増加を来たした場合、それはなんとか他の抗精神病薬を見つけ、できれば中止した方が良いと思われる。そういう人は、真にジプレキサが合っているとは言えないからだ。また、そういう風に増えるタイプの人は、頑張ってダイエットで減量することも困難だからである。メタボリックが持続するとやがて体を壊す。

僕の患者さんで、最近、ジプレキサ15㎎処方するようになった人が2人だけいる。ある女性患者さんは前薬がエビリファイだったこともあり、体重が1~2kgだけ増えた。こういうのを診ても、合っていればそれほど問題にならないのがわかる。

また、リスパダール8㎎の人のエントリで出てきた男性患者さんは、今はジプレキサ15㎎で落ち着いているが、最近は一段と調子が良くなって来ている。毎朝、ランニングをしているらしい。彼に聞くとリスパダールの時から比べると、6~8kgぐらい減って行ったり来たりしているという。こういうのを診てもやはり薬は相性なんだと思う。

また、拒食が著しい患者さんが入院した際に、食欲を出すのと体重を増加させるために、ジプレキサを1.25㎎だけ追加処方したことがある(この人はきわめて興味深い経過だったのでいつかはアップする予定だ)。彼女は最初はさっぱり食欲が出なかったが、次第に他の薬物のせいもあろうが、食欲が出て、38kgから45kgまで増量に成功している。(彼女は今もジプレキサを服用しているが、その後体重は2kgくらい減少し、43kg程度で維持している。特にダイエットはしていない)

問題は、やはり抗うつ剤なんだと思う。例えばトリプタノールの場合、体重が増えることの方が多いが、全然変わらない人たちもいる。トリプタノールは最強の抗うつ剤なので、もしこの薬で安定してきたら、少しトリプタノールを減量しノリトレンを追加し、もし概ね良いなら、ノリトレンに全面変更するのが良い。この変更のために数kg減量できる人がいる。

過去ログで出てきた人で、トリプタノール150mgを処方していた男性患者さんはこの1年くらいでノリトレン100㎎に変更と減量を行っている。彼によれば4kgくらい体重が減ったという。当初、効果が少し落ちたかな?と感じたが、ある薬を追加したために、以前より精神症状が大きく改善している。(詳細は「内因性の正体」を参照)。彼によれば、月曜日の憂鬱がかなり良くなり、休日の過ごし方もかなり質が良くなったと話していた。

うつ状態系の人では、もし可能ならやはりSSRIに変更する方が体重増加が少なくてよい。パキシルとジェイゾロフトの関係については過去ログに詳しい。

抗うつ剤で問題なのはやはりもう少し曖昧な薬物、アンプリット、ノリトレン、アモキサン、アナフラニール、トフラニールなどの評価であろう。

僕はアンプリットを使って著しい体重増加を来たした人が全然いないものの、少しだけ増加した人もいることはいる。アンプリットは比較的マシな薬物に入ると思われる。ノリトレンはトリプタノールほどではないが増える人もいる。このあたりは個人差も大きく、絶対値ではどうと断言はできない感じ。精神症状の改善の程度や仕事の内容も大きく関係するからである。

旧来の抗うつ剤では大本営発表では、レスリンとアモキサンはあまり体重が増えない薬とされている。僕は、レスリン、アモキサン、アナフラニール、トフラニール、アンプリットなどの薬物は体重変化があまり来ない薬だと思う。もちろん、私はこの薬で随分増えたという人もいるだろうが、それは個人差である。処方する方の印象ではそうなのである。

いつだったか、過去ログで、ベンゾジアゼピン系の眠剤を服用しない代わりにヒベルナを処方するような方法を紹介したことがある。ヒベルナは抗ヒスタミン作用により抗精神病薬の薬物性パーキンソン症状を軽減する作用を持つが、体重増加を来たす薬物である。抗ヒスタミン作用は2パターンで体重増加を来たす。

本来、ヒスタミンは脳内では覚醒状態の維持、食行動の抑制、記憶学習機能に影響を及ぼしているため、これを遮断すると食欲が増加し、昼間も眠くなる。眠剤として使われるのはこの作用を利用している。また、眠さから活動が減り(脳内の活動も低下)その結果消費カロリーが減少する。脳はあんがい消費エネルギーが大きいのである。

宴も酣ではございますが、書き出すとキリがないので、このあたりで終わりにします。突然ですが・・(デパケンRやリーマスも書けよと言いたい)