楽器演奏とリスパダール(後半) | kyupinの日記 気が向けば更新

楽器演奏とリスパダール(後半)

楽器演奏に、たぶん向精神薬全般はマイナスに働くだろうと思われる。抗精神病薬はなおさら。向精神薬でおそらくプラスと思われる薬物もある。βブロッカーは、社会恐怖、特に上がり症の不安、緊張、手の震えを減少させる。βブロッカーは精神科ではインデラルが有名であるが、日本では精神疾患に正式な適応がない。だから、インデラルは精神科ではあんがい処方されていないと思われる。アメリカではコンビニで普通にインデラルを売っており簡単に買える。インデラルを買うのに処方箋は必要ない。インデラルは日本の市販の風邪薬なみに使われているのかもしれない。

インデラルは、楽器の演奏会の前や会議での発表の直前に服用することで、不安、緊張をやわらげることができる。スポーツの直前でも有効であるが、これはドーピング薬物なので処罰の対象になっている。(参照

楽器演奏や会議での発表前の不安、緊張はその程度が強ければ、現代風には「社会恐怖」と呼ばれる。いわゆる「社会不安障害」である。一般にSSRIは社会不安障害には有効であるが、日本で適応としてはっきり挙げられている薬物はデプロメール(ルボックス)だけである。デプロメールを扱う明治製菓は、社会不安障害に対する営業をけっこう熱心にしているように思う。社会不安障害の不安、緊張感にはデパスやワイパックスなどの抗不安薬も有効であり、まとめるとこんな風になる。

社会恐怖に有効と思われる薬
① SSRI
② インデラル(βブロッカー)
③ 抗不安薬(ソラナックスなど)
④ レスキューレメディ


もともと、レスキューレメディはこんな時(演奏の前や会議に出席の前など)に服用しなさいと推奨されている。レスキューレメディはこの程度の状況なら普通に有効であることの方が多いと思う。

楽器の演奏時に、抗精神病薬を使わざるを得ない場合、最も影響が少ない薬物は何であろうか?

僕は、たぶんセロクエルだと思う。これはEPSの少なさから判断している。長い目で見て、また個人差も多少はあるにしても、絶対的にはセロクエルの選択が最も良いように見える。

この患者さんの場合、セロクエルとルーランを処方していたが、本当ならセロクエルだけの方が望ましい。ルーランが非常に悪いかと言うと、やはりその量によると思う。症状(振戦など)が出ているかどうかにもよる。

非定型精神病薬はリスパダールルーランジプレキサ以外はわりあい良いと思うが、この中でルーランは個人差が大きいと思う。ルーランはリスパダールよりはマシのようにも見えるが、特に統合失調症でない人に使った場合、あんがい副作用が出ることもある。

僕はあるアスペルガー症候群の女性にルーラン1mgを処方しているが、2mgだとほんのわずかに口唇にジスキネジアが出る。本人も気付かないほどだ。しかし彼女の場合、ルーラン1mgだとその副作用が出ないのである。ルーラン1mgが合っているような薬に敏感な人(ここがアスペルガー的)にとって、1mgと2mgでは大違いなのである。

一見、全然症状がないように見える場合でも、筋緊張や動きの滑らかさに影響を与えるので、服用しないで済むならその方が良い。セロクエルでさえ、振戦、アカシジア、ジスキネジアなどの副作用が出現する人もいる。

ある時、ここで挙げた患者さんが少し悪化したように見えた時期があった。彼女の場合、リスパダールが非常に有効なのはわかっていたので、一時リスパダールを併用することにした。リスパダールも少量なら演奏に影響が少ないと思われる。リスパダールでも液剤の方がまだ副作用が出にくいといわれている。結局、少量のリスパダール液により次第に改善した。

本人によれば、リスパダール(1mg)を服用していても演奏には全く影響がないという。少なくとも自覚できる副作用はないらしい。それでも、病状が回復すれば、セロクエルの方がもちろん良いと思われる。

参考
楽器演奏とリスパダール
デプロメールとレスキューレメディ&PMS