ジプレキサ | kyupinの日記 気が向けば更新

ジプレキサ

一般名:オランザピン


薬物プロフィール

非定型抗精神病薬の1つ。日本で抗精神病薬が発売されるようになって、ジプレキサほど精神病の治療に質的な面で貢献した薬剤はないだろう。それほどの傑出した薬剤と思われる。少なくとも僕はそう思っている。この薬物はもともとクロザピン(本邦未発売)を改良してできた薬物であり、クロザピンの重大な血液系の有害作用が出現しない。クロザピンは、通常の抗精神病薬では治療困難なケースで有効な場合があり、将来的には日本でも発売になるかもしれない。


ジプレキサは、幻覚妄想など陽性症状に有効であり賦活作用も持ち合わせているので、この薬剤が合う人にはこれほど良い薬はないと言えるだろう。最初、ジプレキサが発売になった時、あまりにうまくいかないので、しばらく処方を控えたほどであった。合う人には合うが、合わない人には全然合わない。どのようなことになるかと言うと、幻覚妄想が賦活し病状が悪化する。ひどい精神運動興奮や昏迷を来たしうる。何人の患者さんが、この薬で保護室に入らないといけなくなったことか。従来の抗精神病薬は副作用は出ても、本来の病状を悪化させてしまう薬物は非常に限られていた。以前は、クロフェクトンなどが病状を悪化させることがあった。クロフェクトンで何度か病状を悪化させると、いい加減使うのが嫌になる。しかしこのクロフェクトンも使いようで、合う人にはとても良い薬物ではあるのだ。


従来の抗精神病薬は副作用が酷いとか、効果が足りないから中止するパターンが多かったが、非定型抗精神病薬が出現以降、病状悪化のために中止するというパターンが生じた。リスパダールでも病状を悪化させることがあり、何度かこういうことがあると使い辛くなったものだが、なんだかんだ言ってリスパダールは極めてセレネース的な薬剤なのである。対照的に、ジプレキサは賦活作用も強いのか酷い悪化をきたし、時に、けっこう長患いになる。ある僕の患者さんは、その後始末に1年を要した。2ヶ月は保護室に入っていたと思う。ある時、とてもじゃないが電撃療法でないと切り抜けられないと思ったことがあったが、結局そうせずゆっくり治療をすることを選んだ。現在はとても良くなっているので、それによる後遺症はない。現在の治療薬はトロペロン(15mg)なのである。僕の患者さんだけで、数ヶ月クラスの病状悪化を来たした人は最低5~6名はいるんじゃないだろうか?


それでもなおジプレキサは、試してみる価値がある薬剤なのである。特に良いのは、自然な治り方であること。表情も明るくなるし病前に出来ていて発病後できなくなったようなことでもけっこう回復する場合がある。たいていの薬物は、単に病気の対症療法っぽく見えるのに対し、ジプレキサは根本治療的に作用するように見える。ある研究によると、ジプレキサは統合失調症発病後の脳の神経細胞の脱落をかなり抑えるという。僕は思うが、ジプレキサで治療した場合、10年後の結果が相当違うような気がする。治療のクオリティが高いのである。最初、病状の時期というか、ステージ的に合わないことがあるのかもしれないと思ったことがあった。つまり、病状が悪い時に処方すると悪くなったように見えるのではないかと。しかし、失敗する人は何度でも同じように失敗するのである。2回失敗すると、さすがに永久的に禁忌とした。ジプレキサは、普通、抗パーキンソン薬の必要もないし、単剤で、しかも1~2錠、1日1回服用するだけでいいのが良い。ジプレキサの血中半減期は29時間程度と言われている。(脳内クリアランスははっきりわかっていない)この薬で合うと、錠数的にあまり薬を飲まなくて良いのである。


ジプレキサは、肥満や高脂血症などの副作用があり、その点は現代的ではない。肥満は、ハンパじゃなく増えることがあり、これが一部の患者さんに嫌われるところである。僕は真に合っている人は肥満の副作用すらないように見える。むしろ体重が減るのである。あの人はとてもジプレキサが合っていると言える人は、体重増加もない。ただ、体重増加があっても精神的にはかなり良い人もいる。


またジプレキサは高血糖を来たすことがあり糖尿病には禁忌になっている。当初、高血糖をきたすことは知られていたが、その副作用が軽視されていた。糖尿病は禁忌でなかった。その後、急激な高血糖で死亡者が出るに至り、禁忌に変更された。(アメリカでは禁忌ではない。体格や人種による差と思われる) これは、医師からすれば大きな制約である。なぜなら、統合失調症の人は糖尿病の合併率が高いからである。その後セロクエルも肥満、高血糖の副作用があるため、同様に禁忌とされた。注意して処方できるなら良いが、最初から禁忌で使えないとなると、これは非常に困る。ジプレキサやセロクエル使用者は、定期的に血糖検査を行い、常に監視しておかないといけない。高血糖はずっと問題がなくても突然、生じることがある。


一般に向精神薬は既に海外で発売されていて、その後日本で発売になった場合、常用量、最高量とも海外より低く設定されていることが多い。ジプレキサに限れば、そのかかわる酵素の関係から、日本人でも減量しなくても良いように言われていた。(人種差があまりないということ) しかし臨床上、たくさんは服用する必要がない患者さんがわりといる。うちの病院では、外来でデイケアに参加しているような程度の人は5mgで問題ない人が多い。一時15mg程度服用していても、その後、減量が可能である。うちの病院の患者さんの場合、20mg必要な人はそれだけで解決しないケースの方がむしろ多い。他の薬物も併用してやっとコントロールしている。本当は、ある程度効果がある場合は、30~40mgくらい使わせてほしいと思う。医師の感覚では、40mgくらい服用すれば、きっとうまくいくと思うことがある。しかし、地域により差があるかもしれないが、20mgを超えて処方すると保険で通らないのである。(ジプレキサが高価なためチェックが厳しい) あと、普通の薬剤は徐々に漸増することを推奨されているが、ジプレキサに関しては最初にドンと最高量の20mgくらいを処方することを推奨されている。このやり方の方が良いんだそうだ。このあたりも普通の薬物と違う。


ジプレキサは安定して治療を続けていると、半年くらいして更に病状が改善することがある。ある患者さんはもう服用し始めて、3年くらい経つが、今でも少しずつ良くなり続けている。体重も当初から比べ8kgくらい減っている。不思議なことに、うちのデイケアのメンバーさんのうち、ジプレキサ単剤の人はすべて体重がかなり減っている。うちの病院で僕の処方に関して言えば、ジプレキサは相当に処方数が多い。(セロクエルが一番多い時期があったが、ここ1年で逆転した) しかし15mgとか20mgはあんがい多くはないんだな。外来患者さんで状態が良好の人は5mgが多く、時々10mgがいるくらい。1mgだけ処方している人も相当にいる。ジプレキサ1mgは、セレネースで言えば、0.75mg程度になる。ジプレキサは非定型抗精神病薬の中でも、陽性症状、陰性症状とも治療効果の高い極めてバランスのとれた薬物といえるだろう。