エリスロポエチン | kyupinの日記 気が向けば更新

エリスロポエチン

エリスロポエチンは今ではエポジンという名前で商品化されている。中外製薬の超大型商品である。2007年3月期決算の国内医薬品の売上高ランキングでは5位にランキングされ、売上高も634億ほどになっている。 実は、この「エリスロポエチン」は僕が学生時代、解剖学の口頭試問の問題だった。当時、解剖学は1解剖、2解剖、3解剖・・と分かれており、これは組織学の問題だった。この問題はもちろん事前の予想をはずした意外性のある問題で、できたかどうかは内緒だ。

エポジンは腎臓が悪くなったときに起こる貧血に対し処方される。

「腎臓が悪くなると腎臓が分泌しているエリスロポエチンというタンパク質の量が減少し貧血を起こす。エリスロポエチンは、赤血球をつくる骨髄細胞のエリスロポエチン受容体を刺激し、赤血球の産生を増加させる。」

あの組織学の口頭試問は、こういう風に答えれば正解だったのである。

現在の中外製薬のエポジンは、ヒトのエリスロポエチン遺伝子を導入した細胞を用いてエリスロポエチンを発現させ、これをもとに注射製剤としている。

話は変わるが、このエリスロポエチンを貧血でもない普通の人に使うと、赤血球数が増加し酸素供給を増やすことが可能で、ドーピング薬物でもあるのである。このように元々体の中にあるものを使うドーピングの場合、捕捉が難しい薬物もあるのではないかと思う。

一般の人はドーピングといえば、すぐに筋肉増強剤などを思い浮かべるかもしれない。実は、このような酸素供給を間接的に増やすものや、不安、緊張を抑えるセルシンやインデラル(βブロッカー)もドーピング薬物とされているのである。向精神薬は、なんとなくスポーツにマイナスになりそうに見えるが、競技によればそうでもない。例えば、冬のオリンピックのバイアスロンは、距離スキーと射撃を組み合わせた競技であるが、事前にインデラルを服用すると、おそらくかなり有利になる。

ある選手がインタビューか何かで言っていたのだが、ずっと全力でスキーを滑って来るが、射撃の前は少しスピードを緩め呼吸を整えるのだという。心拍数を下げるためだ。そうしないと、射撃時、呼吸、心拍数が速すぎて体が揺れ、射撃の成績が悪くなるのである。インデラルは、脈拍数を下げる上に不安・緊張に対し効果があるので、おそらく競技成績にプラスに作用する。

このバイアスロンの選手たちだが、僕の感覚では、あまりにもかっこ良すぎる。昔は東ドイツの選手が非常に強かったが、今でもドイツは強豪国のひとつだ。冬のオリンピックでは特に楽しみにしている競技なのである。サッカーの横浜Fマリノスのファンタジスタ、山瀬功治選手は北海道の出身だが、彼の父親はバイアスロンの選手だったらしい。

セルシンなどのベンゾジアゼピンは筋弛緩作用が競技にマイナスになりそうだが、夏のオリンピックのアーチェリーや射撃にはおそらくプラスになるだろう。不安、緊張による微妙な手の震えが軽減するからである。

話は戻るが、この組織の口頭試問をした解剖学の教授は、いつもニコニコしていて、それは優しい先生だった。全然、出席を取らなかったし。(←重要)

この口頭試験の時も、学生があまり答えられない中、あまりとやかく言わず、「プロフェッショナルになれ」などと言ってみんなを激励された。

まだ僕たちは3年生(専門過程の1年生)であり、医学を学び始めたばかりだった。あの時の「プロフェッショナルになれ」と言う言葉は、当時の僕たちにはちょっと漠然としていたと思う。

今なら、どういう意味かよくわかるのだけど。