楽器演奏とリスパダール(前半) | kyupinの日記 気が向けば更新

楽器演奏とリスパダール(前半)

実家に帰った時、短い時間だけ高校時代の友人に会った。彼の奥さんはピアノの先生で大学で非常勤講師をしているらしい。帰省の際に会った時、ピアノの話題が出ることもある。彼女には僕の結婚式の時に演奏をしてもらっている。

彼女によれば、ある人がピアノを演奏していると、その音を聴いているだけでどこまでレッスンを受けたかがわかるという。(例えば、バイエルまでとか?)稀に出現する天才的なピアニストは、早い時期にハイレベルまで達成できるということなのだろう。9歳くらいで始め10年くらい経って19歳頃には世界的なレベルに達する人もいるという。こういうのを聞くとやはり素質が重要のように見える。

話は変わるが、例えば音楽系の学校ではメンタルヘルスなどの問題を抱える学生が多いという。あくまで相対的なものであるが。そういう論文も実際に出ている。音楽をやっているから精神疾患に罹患したのか、あるいはそういう人々が音楽などの芸術系の学校を嗜好する傾向があるかは微妙だ。(これもニワトリとタマゴの問題

僕は、元々そういうタイプの学生が音楽に限らず芸術系の学部を嗜好するような気がしている。ピアノやバイオリンを演奏することが、精神面にマイナスになるような感じがしないからだ。あるいは、過酷なレッスンやライバル争いのような人間臭いことが悪いのかもしれない。本人に対する周囲の期待やプレッシャーのようなものが有害である可能性もある。いわゆるプレッシャーで押しつぶされるパターン。

ある女性患者さんは、子供の頃からある楽器を習っていて、その後、偶然精神疾患に罹患して僕の治療を受けた。今は社会復帰も果たしており長く仕事もしている。たぶん彼女の精神疾患の履歴は一般人には見抜けないと思う。(参照1参照2

ある日、診察中に演奏会の話が出たことがある。彼女は、あるジャズなどが演奏の出来るスタジオ風のレストランで楽器の演奏をすることになったという。だから最近は毎日練習していると話していた。

その時、僕は手拍子に「僕もその日に行って見ましょう」と言ってしまった。その後それが非常にまずいことと思い始め、結局、次回の受診時にやはり僕は行かないと伝えた。

行かないことに決めた理由だが、精神科医と患者さんの関係はそういうのは避けた方が良いと思うから。もしその演奏会に僕が行ったなら、彼女の友人も幾人か来ているわけで、「あの人は誰なんだ?」ということになりかねない。僕は診察中でもプライベートにあまり踏み込まないタイプなので、日常、どんな風に生活しているのかあんがい知らない。そういう自分が、そういう時に限ってでしゃばるのはちょっとおかしいと思う。

それと、まあそういうのもないと思うけど、僕が近くで見ていると、あがって演奏を失敗するかもしれないでしょ。あらゆる面で良いことがない。急に行かないとか言われると本人が落胆するかもしれないので、上のような話をして納得してもらったのである。

精神科医は患者さんの風か空気のような存在でなくてはならないと思っている。

(前半終わり)

参考
楽器演奏とリスパダール(後半)