リスパダール | kyupinの日記 気が向けば更新

リスパダール

一般名:リスペリドン

薬物プロフィール

日本で初めて発売されたSDA。ヤンセンファーマにより開発されている。長く世界で売り上げ1位であったが、現在は売り上げではジプレキサ、セロクエルに抜かれている。ただ、薬価がこれらの薬より安いため処方箋数ではトップに並ぶくらいはあると思う。日本での発売時期は1996年で、他の非定型抗精神病薬に比べて断然早かった。

剤型は1、2、3mgの錠剤、細粒、液剤がある。液剤は、0.5、1、2mgの3種類の分包がある。分包はよく工夫されており、簡単にしかも正確に服薬でき、しかも不潔にならない。味は少し苦味がある。液剤は従来はボトルに入っていて(これは今でもあるが)、注射器などで吸い取って服用させていたが、分包が発売されて便利になった。液剤の難点は薬価が高いこと。1.5倍くらいならまだわかる。3倍もするのはなぜ? 錠剤に比べて差がありすぎる。リスパダールの錠剤は従来それほど高くなかった。しかしある時薬価が突如上がり、現在は2mg錠で90円弱。非定型抗精神病薬にしては安いと言ったところ。

リスパダールは非定型抗精神病薬にしてはハロペリドール的な薬物で、陽性症状に対する効果も大きいが、量が増えると容易に錐体外路症状が出現する。最初発売された時は12mgまで処方できるような感じであったが、現在、添付書には原則6mgとされている。実際は病状に応じて12mgまで使えるわけだが。

当時、ヤンセンにモニターみたいな仕事を頼まれて長期に経過を追ったことがあった。(3年ほど) この時、僕は最高量としては2名だけだが、14mgまで処方している。その2名は、12mgよりは14mgの方が明らかに良かったことを記憶している。リスパダールは原則12mgまでの処方だが、医師の裁量によりもう少し多くの量が処方できると思われる。保険でこれが削られるかどうかは県により異なっていて、厳しい県ではもちろん12mgを超えると減点対象になる。リスパダールは比較的安価なので、少しなら12mgを超えても許される県がむしろ多いかもしれない。僕はリスパダールは多くの人に処方しているが、12mgを超えて処方することはもう6年以上ない。薬価が少し上がった理由は、おそらく最高量の扱いの変更からくる。現在は最高量が6mgになったため相対的に1mgの価値が上がり、薬価も上げられたと思われる。

リスパダールが発売された当初、最も驚いたのは、これを服用した時に悪化する人が随分といたことである。それまで精神科薬物を服用して元の精神症状を悪化させる可能性がある薬物は限られていた。添付書類を見るとわかるが、たいていの抗精神病薬の副作用として精神面の変調は記載してある。しかしそんな副作用は実際はあまりないのだ。警戒しなくてはいけなかったのは、クロフェクトン、オーラップ、PZCなどの賦活系の薬物。それ以外の薬物はあまり注意しなくても良かった。しかしリスパダールを処方すると、本来の症状を悪化させうるので、変更の時に決断が必要だった。

ある患者さんは、ある時、血だらけで来院した。痒いからと言いカッターナイフで肌を切り刻んでいた。もともとそんな風な患者ではないのに、リスパダールを使っただけでこれだ。こんな風な事態は非定型抗精神病薬を使う限り、基本的に覚悟しておかないといけない。何度か痛い目にあうと、次第にリスパダールは使い辛くなる。しかしよい薬であるのは間違いないので、徐々に新規の処方を再開しリスパダールを処方する人数が多くなっていった。

リスパダールはセロクエルやジプレキサに比べD2受容体に対する親和性が大きい(バインドも強い)ので、陽性症状への効果がかなり期待できる。強い5-HT2A遮断作用は錐体外路症状の副作用を軽減するが、D2受容体に対する作用が強すぎて、リスパダールを大量に使えば従来型の薬物と同様な副作用が出現する。陰性症状対する効果も、発売当時はびっくりするほど効果がある人がいたので、新時代の薬物である実感が持てたものだ。あまり喋らずいつもじっとしている人がはきはき喋るようになったり。その後、ジプレキサやセロクエルが発売されると、その不安定ぶりを見るにつけ、いかにリスパダールが安定した薬物であったか、あらためて思い知った。ジプレキサやセロクエルに比べると、リスパダールは非常にタイトな薬物で効果に隙がない。

リスパダールは換算表ではセレネースの倍の力価があると言われる。

セレネース2mg=リスパダール1mg

なのである。ただ、この換算値だが、調査者により少し差異があり、

セレネース2mg=リスパダール1.5mg

という人もいる。2:1なら、リスパダー12mgがセレネース24mgなわけで、まぁそのくらいかなと思ったりするが、実は、現在はセレネース24mgという処方があまりないのである。実感が持てる人が少ないに違いない。

リスパダールの血中半減期は4.3-4.7hrとやや短い印象であるが、その変化体9OH-RISは14.6-15.5とやや長い。変化体は脳内クリアランスも長期であると言われており、そのあたりが安定した効果の理由かもしれない。リスパダールは1日1回投与が可能であるが、副作用の関係で、1日2~3回の処方もけっこう多いのでないかと思う。僕の場合、1日1~3回投与までさまざまな人がいる。過去ログを参照してほしいが、リスパダールの欠点は高プロラクチン血症と肥満を来たすことである。特に高プロラクチン血症の欠点は大きい。肥満は来たすがセロクエルやジプレキサと違い糖尿病に禁忌ではない。

リスパダールは非定型の中では最も陽性症状に効果が高いと思われる。

リスパダール> ルーラン≧ ジプレキサ ≫ セロクエル

しかし、リスパダール以降の非定型に比べ、陰性症状の効果はやや弱い。

ジプレキサ≧ ルーラン≧ セロクエル ≧ リスパダール

この点で、リスパダールは最もセレネース的なSDAなのである。リスパダールは、現在多く処方されているが、新しいSDAが発売されるたびに処方数が減る運命にある。リスパダールは、新しい抗精神病薬の中では過渡的な薬物なのかもしれない。