現代の摂食障害(前半) | kyupinの日記 気が向けば更新

現代の摂食障害(前半)

いつも不思議に思うのは、ある精神疾患の辺縁にあるような摂食障害は90%くらいの確率で治癒してしまうこと。これくらいの頻度だと、「摂食障害という精神疾患?」が真に存在しているのかどうかさえ疑わしい。

ある精神症状(精神疾患)があり、その疾患の随伴症状として過食・嘔吐があったとしても、元の疾患が良くなってくるか、あるいはほぼ治癒状態に至ると、ほとんど一緒に良くなってしまう。このブログでもそのようなことが何回か出てくる。

例えばPTSDの場合、この疾患?自体は、たぶん500年前にも存在していたと思われる。なぜなら、戦争や虐殺などが絶えることなく起っていたから。PTSDは人間の本能というか心のメカニズムに深く関係している。また、アスペルガー症候群にしても1000年前もあったに違いない。診断名がなかっただけだ。今日的な不適応があったかどうかはわからないけど。それに対し、摂食障害はたぶん100年前にはほぼ存在していなかったと思われる。もし世界的な大飢饉が到来したら、なくなってしまうような疾患?と思っている。本来なかった疾患で、僕が実は存在しないのではないか?と疑いを持つことも理解できるだろう。

今、僕が診ている患者さんの中で、摂食障害が未だ治っていない人が2名だけいる。この2名は統合失調症ではない。僕の場合、基本的に摂食障害のことがわかっていないので、「摂食障害」と直接対峙せざるを得ないケースは治療が難しいと思っている。たいていの場合、メインの精神疾患があり、辺縁的な摂食障害なら、他のことをガチャガチャやっているうちに良くなってしまうのである。

この2名のうちの1名はごく軽度の知的発達障害を伴っている。彼女は治療しているうちに、なぜか過食・嘔吐が出現してきた。もともと来た時はなかった。初診時、不適応、抑うつ、緊張病症候群などが前景であったが、統合失調症でもボーダーラインでもなかった。今は精神症状全般かなりよくなっていて、デイケアにも時々参加している。過食は量的には酷いものではないが、嘔吐もあるので、僕が初診で診た時以来、20kg以上体重が減少している。それでも標準体重からはちょっと超えている。過食・嘔吐が出てきて、かえって体重が正常に近づいたなんてちょっと笑ってしまうのだけど。

この患者さんは、以前の病院でもう社会生活は難しい(つまり一生退院できないくらいに言われた)とダメの烙印を押されていたらしい。僕はそうは思わなかった。まだ若い人だったし。ダメそうに見えても「それはやってみないとわからない」という感覚だからだ。初診以降2回にわたり1年以上入院していた。今はアパートで単身生活していて彼氏もいる。

しかし、以前1回アパートに出して大失敗し、僕は大恥をかいているのである。一度、大恥をかいたのにもかかわらず2回目にトライし、2回目はうまくいった。もし2回目が失敗しても、きっと3回目にトライしていたと思う。重い統合失調症ならまだしも、こういうタイプの患者さんで社会生活できないなんて・・という感覚。もしここの読者の人たちが彼女を見たら、たぶん普通の人と見分けがつかないと思うよ。

この人、来た時より、すごく美人になったと思う。やはり、体重って容姿にすごく影響するんだね。この人をみていると、よくそう思う。この人は、過食、嘔吐が出てきたから、他の症状が良くなったようにも思うのよね。いや、なんとなく。

わかりやすい現代的な症状になったので、古典的な症状が消失したというか。人間の精神って不思議なメカニズムになっていると思う。

(前半終わり)