ゾンビ映画の歴史をちょっとだけ考えてみる件 | KURI of the DEAD

ゾンビ映画の歴史をちょっとだけ考えてみる件

いわゆる「ホラー映画」というものがこの世に現れたのは、1895年であるといわれている。
かのトーマス・エジソンが発明した「キネトスコープ」の改良版を使用した『スコットランド女王メアリーの処刑』という作品がホラー映
画の起源とされている。エジソンは発明の父と呼ばれているが、ホラー映画の父でもあるのだ。たぶん。


だがこの作品は、十数秒の短い映像で「映画」と呼ぶには程遠いものであったといえる。
最初に「ホラー映画」としての評価を受けたのは、ドイツの作品『カリガリ博士 』(1920年)。あっと驚くラストは、後のホラー映画に多大な影響を与えた。


さて、ゾンビ映画のはじまりはというと、1932年の『ホワイト・ゾンビ 』であろう。『魔人ドラキュラ』(1931年)でホラー俳優の地位を築いたベラ・ルゴシを起用し話題となった。
ホワイト・ゾンビ 』の成功により、各社次々とゾンビ映画を製作し世に送り出したが、やはりドラキュラやフランケンシュタインの怪物
に比べるとややインパクトが弱く、ホラー映画の1ジャンルとしての地位を築くことはできずにいた。


この時代のゾンビとは、いわゆるブードゥー・ゾンビであり、ブードゥー教を基盤とした呪術によるゾンビが大半を占めていたようだ。


時が経ち、鳴かず飛ばずのゾンビ映画に新たな可能性を生み出そうとしたのかどうかは知らないが、今までのゾンビ映画とは一線を画し、科学やSFといった当時の流行テーマを取り入れたゾンビ映画が生まれた。その代表的な作品が『プラン9・フロム・アウタースペース』(1958年)であろう。


そして1968年、ゾンビ映画の歴史に転換期が訪れる。それは、生物の進化でいえば突然変異ともいうべきものかもしれない。
これまでのゾンビ映画の要素を踏襲しつつも、まったく新たな解釈を加え、現在まで続く「ゾンビ」像を確立した作品が生まれた。それが
ジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 』である。ゾンビをモンスターとして扱ってはいるが、怪しげな世界観の中にのみ存在していたゾンビを現実的世界に登場させた。いわゆるモダン・ゾンビの誕生である。


ロメロが定義づけたゾンビの概念とは、以前に『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 』のレビュー記事でも述べたが、大まかに言うと(1)人を喰い、咬まれた者もゾンビと化す、(2)一度死んで蘇った死体なので動きは遅い、(3)頭を破壊しなければ倒せない、の3点である。
人を喰うとかゾンビの頭を破壊するといった設定は、残酷描写の可能性を広めたといえる。以降、このロメロ作品に賛同・追従・パクリな
どで、次々と映画製作者がゾンビ映画というテーマに飛びつくこととなる。


この時期『エルゾンビ/落ち武者のえじき』(1971年)、『悪魔の墓場 』(1974年)など数々の傑作ゾンビ映画が製作された。以前紹介した、学生が撮った自主映画『死体と遊ぶな子供たち 』(1973年)が世に出たのもこの頃である。


そんな中、ジョージ・A・ロメロは、ゾンビ映画をさらに高いレベルに進化させた。『ゾンビ 』(1978年)である。巨大ショッピングモールを舞台に、突如として現れたゾンビの大群と生き残りをかけた人間たちとの闘いを描いたこの作品は、世界中でヒットを飛ばした。
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 』同様、現実的世界に現れた非現実的な状況をドキュメンタリー風タッチの独特な世界観で描き、多
くの観客の支持を得た。


サスペリア 』(1977年)、『デモンズ 』(1985年)などのダリオ・アルジェントや『死霊のえじき 』(1985年)、『ドーン・オブ・ザ・デッ 』(2004年)などのトム・サヴィーニなど、ホラー映画に欠かせない製作者などの協力を得て作られた映画史に残る傑作である。


ゾンビ 』に見られる残酷描写を踏襲して、さらに残酷の境地へと発展させた作品として、ルチオ・フルチの『サンゲリア 』(1979年)、『ビヨンド 』(1981年)などが挙げられる。
また残酷描写の極みとして、ある意味コミカルな要素も取り入れた『死霊のはらわた 』(1982年)、『死霊のしたたり 』(1985年)などの
傑作もこの時代である。

完全なコメディ・ホラーとして『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 』の続編という触れ込みで登場した傑作『バタリアン 』(1985年)の存在も忘れることはできない。

1970年代後半から1980年代にかけて、世界中で一大ゾンビ映画ブームが訪れたといえよう。


以降、残念ながらこの時代の傑作たちを超えるゾンビ映画の登場はほとんど見られない。『バタリアン・リターンズ 』(1993年)『デモンズ'95』(1994年)など、評価の高い作品はいくつかあったが、センセーショナルさに欠けることは否定できない。
さらに『ブレインデッド 』(1992年)の登場によって、ある意味この分野の限界を垣間見た気がする。少なくとも、人体破壊をはじめとす
る残酷描写についてはネタ切れ状態である。


しかし『ブレイン・デッド 』以降の90年代。ゾンビ映画にわずかながら進化の兆しが見られたように思う。ゾンビ映画の歴史からして、賛否両論分かれることは当然のことであるが、進化のポイントとして2点挙げられる。
1点目は、ロメロが確立したゾンビの定義に反する「素早いゾンビ」の登場である。猛ダッシュである。これは逃げられない。代表作としては『28日後 ...』(2002年)『ドーン・オブ・ザ・デッド 』など。

両作とも、スピード感あふれるアクションシーンとスタイリッシュな映像表現で、新感覚ホラーとして話題を呼んだ。



2点目は、手法はさまざまであるがゾンビの発生・増殖に「ウィルス性の感染」を採用したことである。医療やバイオの技術が飛躍的に発展した現在において、この発想は当然生まれてくるものではあるが。
代表作としては『バイオ・ハザード 』(2002年)『デイ・オブ・ザ・デッド 』(2008年)など。

これがある意味、表現の幅を広げることを可能にした結果、製作者にとっては都合がいいが、観る側には設定のあいまいさと安易なストーリー展開を感じさせているような気がする。個人的には「ゾンビ」の存在を軽視しているようにも思う。


このわずかな進化が、今後のホラー映画にいい影響を及ぼすのかどうかは、もうしばらく見守る必要があるだろう。


一方で、モダン・ゾンビの開祖ロメロも久しぶりに『ランド・オブ・ザ・デッド 』でゾンビ映画のメガホンをとった。この後、新3部作とも呼ぶべき『ダイアリー・オブ・ザ・デッド 』『アイランド・オブ・ザ・デッド(仮)』へと続くのである。


しょうもない便乗作品やリメイク、続編は今なお乱立しているが、新たな可能性を模索する途中段階であると認識して今後に期待したい。

ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 』『ゾンビ 』のような映画界の突然変異の登場に。



●過去に紹介した関連作品・記事
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド
ゾンビ
死体と遊ぶな子供たち
サスペリア

デモンズ
死霊のえじき
ドーン・オブ・ザ・デッド
サンゲリア
ビヨンド
死霊のはらわた
死霊のしたたり
バタリアン
バタリアン・リターンズ
ブレインデッド
28日後 ...』
バイオ・ハザード
デイ・オブ・ザ・デッド
ランド・オブ・ザ・デッド

ダイアリー・オブ・ザ・デッド

カリガリ博士

悪魔の墓場

ホワイト・ゾンビ




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