報道ステーションのデタラメでインチキすぎる災害報道の検証
[デジタル大辞泉]によれば、「デタラメ」とは、「根拠がないこと」「首尾一貫しないこと」「いいかげんなこと」を、「インチキ」とは、「ごまかしがあること」「本物でないこと」を指すそうです。テレビ朝日「報道ステーション」の8月11日の災害報道は、まさに大きな誤解を視聴者に与える極めて危惧すべきデタラメでインチキな報道でした。私も「デタラメ」「インチキ」などという、ともすればハシタナイ印象を及ぼす言葉は使いたくないのですが、ホントにまさに言葉の意味通り「デタラメ」で「インチキ」な報道なので、あえて使わせていただきます。
さて、災害というものは基本的に稀に起こる現象であり、日々の生産活動に貢献する事案でもないので、国民の関心が持続しにくい環境にあると同時に、その対応にあたっては専門家の判断にコミットする状況にあります。そして、専門家と国民を結ぶライフラインとなるのが基本的にマスメディアということになり、マスメディアから得られる情報を国民は参考にすることになります。ここで重要なことは、国民が参考とすべきなのは専門家の見解であり、マスメディアの見解ではないということです。錯覚が起こりがちなのですが、制作側のマスメディアが必ずしも専門的な知識を持ち合わせているわけではなく、専門家を介することのない司会者やコメンテイターの独自の「専門的見解」には十分に注意する必要があります。
そもそもマスメディアの最も重要な責務は、ありのままの事実を正確に報道することであると考えます。特に災害報道のように国民の生命に直接的に関わる事案については、主観的な思い込みを排除して客観的な事実に基づくことで、より正確に報道することが求められます。もし事実と異なる内容や間違った知識が視聴者に伝わった場合、視聴者が関連する事案に対して不公正な評価を行うことにもなりかねません。これは風評と呼ばれます。その典型的な例がいわゆる従軍慰安婦問題における朝日新聞の吉田証言のキャンペイン報道であり、海外に伝わった誤報がトリガーとなって、不必要な誤解による国家間の対立が生じると同時に、日本は性奴隷制度の国であるという明らかに実情とは異なるレッテルを世界から貼られてしまいました。
そんな中、冒頭でも述べたように、8月10日に徳島県阿南市で発生した洪水災害に関するテレビ朝日「報道ステーション」の報道(8月11日)は、まさに大きな誤解を視聴者に与える極めて危惧すべきデタラメでインチキな報道でした。この報道では、平素から災害防止に努めていて、この災害でも昼夜を分かたぬ働きで洪水調節を行ったダム管理者が、まるで脳なしの嘘つきのような印象を植え付けられています。この報道のどこがデタラメでインチキであるのか、次のyoutube映像に概略をまとめています。
[報道ステーションのデタラメでインチキすぎる災害報道]
まず、主観的な思い込みを持った素人集団である「ニュースステーション」の制作グループが、専門家のコンサルテイションも受けずに洪水災害の「原因を探る」というのは、極めて傲慢な試みであると考えます。そして最終的な結論とした原因の根拠にしたのは、科学的知見ではなく、なんと地域住民の発言です。地域住民も発言を勝手に根拠にされて困っているのではと心配しています(笑)。
報道ステーションは、デタラメ(根拠がなく、首尾一貫してなく、いいかげん)な「論理」(実際には稚拙な思い込みにすぎません)をベースに、インチキ(ごまかしがあり、本物でない)な「印象報道」によってこの災害を報じています。その骨子は次の通りです。
(1) 洪水災害が起こったのは中学校の2Fに浸水があった30分前に行われた
長安口ダムの放流が原因である。
(2) 長安口ダムが放流するに至ったのは堆砂によって洪水調節機能が損な
われていたからである。
(3) 長安口ダムの堆砂の原因は上流にある砂防ダム(追立ダム)が機能不全
に陥っているからである。
(4) 追立ダムが機能不全に陥ったのは上流にある森林に下草が生えずに土砂
が流出するからである。
素直にこの報道を見れば、(1)(2)(3)は長安口ダムや追立ダムを管理する行政の責任であり、(4)は国産木材を使わなくなった日本の社会構造の責任であると感じる人は少なくないと思います。そしてこのような社会的問題を鋭く指摘する「報道ステーション」は良質な番組であると評価する人も少なからずいることでしょう。
ところが上記(1)~(4)は、実際にはまったく科学的に的を得ていないのです。「報道ステーション」は良質番組であるどころか、地に落ちたよい子ぶりっ子の悪質番組であると言えます。ちなみに今回遠まわしに批判されている行政は、批判の矛先として大衆から共感を簡単に得やすい存在であり、今回のみならず各種社会問題のスケープゴートとして報道ステーションが多用しています。以下、上記(1)~(4)について一つ一つ検証していきます。
洪水の原因は長安口ダムの放流?
報道ステーションの報道を見る限り、ダムの管理者が放流したから洪水になったかのような印象を受ける方も多いかと思います。本当にそうなのか以下に検証します。まず、次のグラフは洪水災害が発生した前後の長安口ダムの貯水位と貯水池の流入量と放流量を示したものです。
(クリック拡大)
長安口ダムのような洪水調節用のダムでは、大雨が予想される場合、事前に貯水を放流して雨を多量に貯水できるよう備えます。今回も予備放流水位(最低水位)をも下回る万全の水位で大雨に備えていました。そして大雨が降り、8月10日0時17分にダム貯水池への流入量が2500m3を超えると予定通り貯水を開始し、4時20分に異常洪水時防災操作開始水位を超えると、ダム越流時の鉄砲水の発生を防止しながら貯水を続行する異常洪水時防災操作を開始しました。ここで、間違えてはならないこととして、ダムというものは洪水調整にあたって、流入量をすべて貯水することはしないで、流入量の一部を貯水して残りを放流します。これは、その後のさらなる天候の悪化を見据えつつ、ダムの貯水の限界を超えた時に一気に放流量が増えて鉄砲水が下流を襲わないようにするためです。したがって、貯水を開始したと言っても流入量が増えていけば放流量も増えていきます。それでもダムが存在しない場合よりも河川の水量を減らすことができ、洪水を軽減できるわけです。上のグラフにおいては、赤い線と緑の線の差がダムに貯水される量ということになります。報道ステーションのナレーションで「ダムの放流は阿南市の中学校で水が2階に達するおよそ30分前だった」というのは明らかな間違いであり、上のグラフに見られるように放流はすでに前々日から行われていました。それでは、報道ステーションが言う「放流」とは何なのか考えてみると、加茂谷中学校の2階に浸水があったのは10日午前8時ころとされているので10日午前7時半ころの状況を示していることになります。このころダムで何があったかと言えば、放流量がほぼ最大となった時間と一致します。つまり、放流量の最大値をもってダムの放流があったかのような報道となっています。このことは報道ステーション自体がまったくダムの洪水調整に関する知識がないことを露呈しています。さらに、この放流によって30分後に中学校の2階に水が浸水してしまったような印象を与えていますが、ダムと中学校は河川沿いに50kmも離れていて、たとえ、一般的な滝の流速をはるかに超えるような6m/sという凄いスピードの流れがあったとしても到達するのに2時間半もかかることになります。もし30分で中学校に流れが到達していたとしたら、それは広島の土石流に匹敵するスピードであり、世界でも稀な史上最悪の水害となっていたものと考えられます。このことから、報道ステーションの報道が科学的な考察を欠いたとんでもないデマ報道であり、すでにこの段階で破綻していることがわかります。このような二重三重にもわたる稚拙な誤りによって、寝食を忘れて徹夜で作業していたダム管理者の制御が悪いかのような印象報道が行われていることは許されるべきものではないと考えます。むしろダム管理者は、ダムの洪水調節能力を超える1秒間に5700トンという戦後最大の流入量が記録されたときにも1秒間に300~400トンという見事な洪水調整を行っていました。その結果として、洪水は発生したものの鉄砲水を発生させることなく、死者も出ませんでした。もちろん、今回の洪水はダムのせいではなく、ダムの貯水容量を遥かに上回る流入を発生させた明らかに雨量のせいです。5700トン/秒という河川流量に対して、300~400トン/秒というダムの貯水能力はあまりにも低すぎるのも事実です。ただし、もしダムがなければ被害はもっと大きくなったと考えられます。もし河川流量をさらに減らしたいのであれば、新しいダムの建設が必要となります。「ダムはムダ」なるスローガンでダム建設に対して批判し続けた報道ステーションは、今回の大洪水を教訓として、何の科学的根拠もなかった自らのデマゴーグをもう一度検証すべきであると考えます。
長安口ダムの放流は堆砂による洪水調節機能の不全のため?
報道ステーションの報道を見る限り、ダムに多量の土砂がたまって水が貯められなかったからダムが放流したかのような印象を受けます。そんなことはありません。堆砂(土砂の堆積)は河川の流速が遅くなったときに生じる現象でダム貯水池では多かれ少なかれ必ず起こる現象です。ダムは建設時から予め堆砂量を予測していて、その影響が及ぶ範囲内では水を利用しません。放水をおこなうために水を吸う穴(放水口)も、その土砂の堆積の想定標高よりも高い位置にあります。なので、ダムの機能に問題が出るまでまだ240万m3の猶予がある現在の長安口ダムの洪水調節機能は、まったく正常な状態にあると言えます。まるで報道ステーションの報道は、賞味期限が近い食物は普通に食べることができないと言っているようなもので、猶予が少なくなったから洪水調節機能が損なわれているような印象を与える報道はまったく破綻していると言えます。なお、ダムのアセットとしての法定耐用年数は80年とされていますが、竣工後60年が経過する長安口ダムは、上流に崩壊が多発する最悪の土砂堆積環境下でむしろ頑張っていると言えます。
長安口ダムの堆砂の原因は上流の砂防ダムの機能不全のため?
報道ステーションの報道を見る限り、長安口ダムの堆砂の原因は上流にある砂防ダムが機能不全に陥っているからであるかのような印象を受けますが、それも間違いです。砂防ダムである追立ダムの存在によって、堆砂量は追立ダムがない場合よりも明らかに軽減されていると言えます。それは砂防ダムがもともと土砂をためるダムであるからです。
砂防ダムは、広島土砂災害などに見られる土石流を軽減する方法として設置されているダムで、英語でもSabo damと表現されるように日本で発達した防災インフラです。まずこのダムが一体どう言ったメカニズムで土砂災害に寄与するのかを説明したいと思います。
山間の急傾斜地における川や沢は、上流にある山の斜面の崩壊によって生じた土砂が土石流となって流下する時の通り道となります。また、その川や沢の水流はそのすぐ横の斜面を削り、斜面崩壊を引き起こし、さらにその斜面崩壊によってより不安定となった斜面がまた崩壊するというプロセスを繰り返します(下図参照)。このプロセスこそ、理科や社会で勉強する「河川による浸食作用」という、地質学的には極ありふれたものであり、これによって最終的には平野が形成されることになります。
河川の浸食のメカニズム
前の記事でも指摘しましたが、広島土砂災害で最も被害が大きかった安佐南区八木周辺の被災地はもともと崖錘堆積物、つまり崖崩れや土石流によってできた土砂の上に造成された土地です。この土砂の堆積はたかだか過去1万年程度の間に実際に生じたものであり、活断層によるハザードの発生確率に比べれば格段に高い発生頻度の現象であると言えます。よく被災地に住むお年寄りのTVインタビューで「こんな災害は初めて」と言っている姿を映すステレオタイプの報道を目にしますが、人間の一生はたかだか多くとも100年程度の時間スケールであり、そのお年寄りの言葉を持って安全とは言えないことはもちろんのこと、むしろ無用な安心感をその手の報道によって植え付けられる可能性があります。また、気候変動によるトリガー効果ばかりが大々的に叫ばれていますが、この現象は過去に普通に起きているむしろありふれた現象とも言えます。砂防ダムとは、このような河川の一連の侵食作用に起因する災害の対策として設置されるもので、下図のようなメカニズムによって河川側方の斜面の安定性を確保すると同時に土石流を抑制する構造です。
砂防ダムによる土石流抑止のメカニズム
斜面崩壊が多発してその崩壊土砂が常時多量に流出するような河川に砂防ダムを設置すると、ダムの上流側に次第に土砂が溜まって行きます。するとその土砂が河川の下部をカヴァーして側方への侵食を抑制し、側方の斜面は安定することになります。つまり側方の斜面から新たな崩壊土砂が生じにくくなることになります。また急な流れがほぼ水平な流れになるため、この区間では土石流が流下する際に土砂に作用する重力加速度がゼロとなり、川の底面の摩擦力で土砂の運動を抑えてストップさせる仕組みになっています。ダムという名前なので、ダムの堤体によって土砂を止めるような印象がありますが、基本的には堤体までの緩やかな勾配の区間で土砂の動きを止めるメカニズムになっています。
つまり、追立ダムは機能不全の砂防ダムというよりは、むしろしっかりと機能している砂防ダムであると言えます。報道ステーションのレポーター(山口豊氏)が「ダムの上の部分が周囲から流れ出てきた土砂によって埋まってしまいました。現在では砂防ダムとしての機能は有していません。」と高らかに言っているのは、もうお笑いとしかいえない大誤報です(笑)。このようなインチキ報道によって、番組視聴者は実際にはしっかり機能している砂防ダムがあたかもムダなダムであるかのような知識をもつことになります。そして、実際には「土砂が堆積して正常に機能している」砂防ダムに守られている人たちが、「土砂が堆積して正常に機能していない」という誤った風評によって不安に思うケースもあるかと思います。砂防ダム管理者の名誉が傷ついたことも事実です。
私は、この報道ステーションの誤報の原因は、Wikipediaにおける誤った記述に影響された可能性があるのではと推測しています。実は[Wikipedia 長安口ダム]の記述において「極度の堆砂によってダムとしての機能を喪失した」とする追立ダムの記述があります。これは明らかな間違いなのですが、報道ステーションのレポーターの発言はこの記述と酷似したフレーズと言えます。もしWikipediaの記述を信じて砂防ダムに関する勉強を怠ったとすれば、それはジャーナリズムの死に値します。
(Wikipediaから引用)
砂防ダムの機能不全は森林からの土砂流出のため?
まず砂防ダムは機能不全に陥ってないのでこの論理は最初から破綻しています。ここで100歩譲って、土砂が溜まった理由は上流の森林に下草が生えずに土砂が流出するからという点については可能性はあります。表面水の流れによって表面の土砂が流出する可能性はありますし、植生のカヴァーが斜面保護に役立つとする文献や実際の工法も存在するように下草が斜面の安定性に寄与するということには一定の合理性はあります。ただし、住民が混同しているように、森林の保水力の低下が大洪水の原因になったというのは明らかに合理性が低いと言えます。日本学術会議の答申(平成13年)では「森林は中小洪水においては洪水緩和機能を発揮するが、大洪水においては顕著な効果は期待できない。」としていて、このことは川辺川における国交省とダム反対グループとの共同調査によって実証されています。森林には保水力がありますが、大洪水時には飽和状態となっているため多くの降雨は河川に流れ込み、河川の流量調節にはほとんど影響しないことが判明しています。つまり、報道ステーションがアリバイ的な根拠としているダムの放流と保水力の低下が洪水の原因という住民の発言は合理性を持たないことがわかります。
報道ステーションでは、あまりにもグダグダなこの報道の結論として、コメンテイター(恵村順一郎朝日新聞論説委員)と司会者(富川悠太氏)が次のような会話をしています。
コメンテイター「自治体では防災に詳しい職員の方が減っています。自治体は普段から防災に詳しい職員の方を育てていき、どこにどんな危険があるのか知識と経験を蓄積していくあるいは受け継いでいくことが重要だと思います」
司会者「知識や経験が少ないならば地元の人に話を聞いていただいてどこを気をつければいいのかというのをしっかりと把握していただきたいですね。」
コメンテイター「そういうのをどんどんハザードマップに反映していくことが大事ですね」
まるで自治体が防災に詳しくなくて住民が詳しいような印象を与える会話ですが、まったく合理性がありません。まず、今回の映像で住民の発言は明らかに間違っています。具体的なデータを持たずに思い込みで発言している住民の話を防災に役立てることほど危険なことはありません。住民の助言とは裏腹に何らかの災害が発生した時にいったい誰が責任をとるのか?報道ステーションの司会者とコメンテイターの発言は極めて無責任であるかと思います。人間の命をどう考えているのか大いに疑問です。もともとコメンテイター自体が砂防ダムのメカニズムを理解していないことからわかるように、防災というものを明らかに軽く見て、勉強もせずに発言しているものと考えられます。素直に番組を観れば「自分たち(報道ステーション)や住民は防災についてよく理解しているが、ダムの管理者や自治体は理解していない。わからなかったら自分たちや住民が教えてやる。」ととれる発言内容は、傲慢そのものです。むしろ報道ステーションや住民は、防災についてダムの管理者や自治体に学ぶべきであると考えます。そして報道ステーションは今回の誤報について、名誉を傷つけたダムの管理者と誤った知識を与えた視聴者に謝罪すべきであると考えます。
そもそも、朝日新聞もそうなのですが、報道ステーションは、行政を批判することこそジャーナリズムであるかのように思いこんでいる節が随所に見受けられます。今回の報道と同じように、事実関係には目を向けようとせずに、自らが最初に設定した結論を達成するために取材をするという明らかに「結論ありきの報道」を展開している事例が散見されます。そして正しくない結論を無理に導こうとするために今回のようにデタラメな論理に基づくインチキな印象報道が生まれるものと考えます。朝日新聞の慰安婦報道のような大きな誤報が訂正されずにいたのは、このような小さな誤報がほとんど指摘されることはなくスルーされてきた土壌が遠因になっているものと考えます。私のような一ブロガーが、洪水調節ダムや砂防ダムの名誉回復に努めたところでマスメディアの影響の前には蟻のような力しか持つことができないのが残念で仕方がありませんが、誤りは誤りとしてしっかりと記録していきたいと思います。