LGBT票取り込みに躍起 台湾与党 住民投票でNO、なお新法 | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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LGBT票取り込みに躍起 台湾与党
住民投票でNO、なお新法
党内反対派「愚策」「失望」
支持率回復へリベラル急旋回
国民党「重要争点は他にある」 総統選へ虎視眈々


台湾の行政院(内閣)は2月21日、同性婚を合法化する法案を閣議決定し、5月までに施行される見通しだ。昨年11月、民法改正による同性婚容認に反対する住民投票が成立したが、蔡英文政権は同性2人に「婚姻関係」の戸籍登録を認め、財産も民法の夫婦間の規定を準用する踏み込んだ特別法案で乗り切りを図る。来年1月の総統選に向け、リベラル急旋回し、LGBT票取り込みによる支持率回復に躍起になっている蔡政権には党内外で賛否が割れている。(香港・深川耕治)

   台湾では、2月21日、18歳以上の同性カップルの婚姻成立を認める特別法案を行政院院会(閣議)で決定。立法院(国会)で可決されれば、5月24日から施行される見通しだ。
 


アジアでは、タイでも同性婚を認める法案が議会に送られており、成立する可能性があるが、成立時期によっては、台湾がアジア初のケースになる可能性もあり、LGBT団体は歓喜雀躍(じゃくやく)している。

台湾の司法院大法官会議(憲法裁判所に相当)は17年5月24日、「同性婚を認めない現行民法は違憲」との憲法解釈を発表し、2年以内の立法措置を求めていた。しかし、昨年11月、民法改正による同性婚容認に反対する住民投票が成立し、蔡英文政権はタイムリミットである3カ月以内の対応を迫られ、民法改正ではなく、今回の特別法施行を目指す決定を下した。


台湾独立を目指す民進党支持者のコア層の一つであるキリスト教福音派などが「男女間という結婚の前提を失えば、健全な家庭の概念自体が破壊され、崩壊する」として同性婚への猛烈な反対運動を展開していることから、党内保守派に配慮して結婚と同等の権利を保障する形式にとどめるとみられていた。

昨年11月24日に投開票された10件の住民投票では、同性婚の合法化についても、結婚を「男女間」と定める民法の規定への賛否が問われ、賛成が有権者数の4割弱に達し、成立。民法改正による同性婚容認はできなくなった。


しかし、次期総統選へ向けて支持率回復が焦眉の急を要する政権存続の最大課題のため、民法改正はしない一方、焦点だった同性同士の「婚姻」を認める内容に踏み込む、伝統保守の価値観を否定する極めてリベラルな法案となった。

特別法案では、18歳以上の同性2人に「婚姻関係」の戸籍登録を認め、財産承継権や医療行為の同意権などについても民法の総則や債権の条文のほか、配偶者や夫妻、結婚、婚姻に関する民法以外の法律が同性婚に準用される。法案の名称は「司法院釈字第748号解釈施行法」と定められ、「同性婚」という表現を除き、賛成派や反対派への配慮をにじませた。


蔡総統は16年の政権樹立前からLGBT(性的少数者)への差別撤廃、同性婚の合法化を選挙公約に掲げ、台湾独立派のコア層、とくに家庭重視のキリスト教長老派とは真逆の支持層獲得を目指してリベラル路線を打ち出していた。

民進党内部には、性に対する保守派と急進派が混在し、政権発足当初から同性婚の合法化については双方に配慮する形で蔡政権は曖昧な態度を取るスタンスとなり、急進派からは「公約を守れ」「優柔不断」との失望が強まっていく。


蔡総統は2月21日、「同性婚については二年以上の討議を重ね、台湾社会の最大公約数を得て解決する問題だ。不満があっても寛容と相互理解を希望する」と表明。同性婚に一貫して反対している下一代幸福連盟は「行政院の特別法案は昨年の住民投票結果による主流民意に逆行しており、デモ抗議も辞さない」と抗議している。

今回はLGBTの権益団体から「LGBTを特別法の枠内にとじ込めて権利保護が不十分だが、努力が見える」(婚姻平権大平台)と一定評価を受ける一方、保守派から「愚策で失望させられた」との批判が強まり、次期総統選の候補指名で党内保守派が蔡氏支持に回らない動きも出てきた。


蔡氏は来年1月の総統選で再選を目指して出馬する意向を示しているが、支持率は3割程度に低迷し、支持率回復のきっかけに同性婚容認の特別法施行を狙っているとすれば、政争の具ともなりかねない。

同性婚に消極的な国民党は「昨年の住民投票の結果を踏まえ、民法の解釈を安易に変えるわけにはいかない」とし、「総統選では同性婚支持、反対のそれぞれの声は一定の圧力となる。公聴会を開き、住民投票と特別法のバランスを取るべきだ」(国民党の陳学聖立法委員)と見ており、同性婚が総統選の勝敗を決する重要争点とは見ていない。


台湾の最新世論調査結果(2月22~24日、美麗島電子報)によると、総統選での支持率は柯文哲台北市長が37.2%でトップ、朱立倫元新北市長(25.9%)、蔡英文総統(16.8%)の順。もし、野党・国民党で韓国瑜高雄市長が出馬した場合、韓国瑜氏が36.6%でトップ、柯文哲氏(28.2%)、蔡英文氏(18.0%)でいずれも蔡総統は苦戦している。


【2020年台湾総統選の立候補動向】

《民進党(与党)》
蔡英文(総統、前党主席) 頼清徳(前行政院長)
※頼清徳氏の出馬動向次第
3月に第一次の立候補予定者を決め、4月に候補者確定


《国民党(最大野党)》
朱立倫(前新北市長) 呉敦義(党主席) 王金平(元立法院長)
※カギを握るのは韓国瑜(高雄市長)
6月に第一次候補を選抜し、7月に候補者確定


《無党派》
柯文哲(台北市長)
6月に出馬是非を説明


2020年1月、台湾総統選挙の投開票



【台湾の同性婚に関する動き】

1986年 男性の同性愛者・祁家威さんが男性との正式な結婚請求を求め、同性婚の法制化を請願したが、台湾政府は拒絶


2000年 祁家威さんが同性婚を認める憲法解釈を求めたが、司法当局は最終的に不受理


2006年 民進党の蕭美琴立法委員(国会議員)が「同性婚姻法」草案を提出したが通過せず

2011年 男性の同性愛者・陳敬学さんが高治瑋さんとの同性婚を台北高等行政法院に行政訴訟したが、2013年に敗訴


2013年 台湾伴侶権益推動連盟が同性婚を含む多元成家立法草案を準備し、婚姻平権法が議会を通過


2014年 台湾立法院(国会)の委員会で婚姻平権法案が初めて審議される。東アジア諸国で初

2016年10月 同性愛者の台湾大学法学部講師・畢安生さんが飛び降り自殺、関心集める


2016年11月 民進党の尤美女立法委員らが婚姻平権の民法修正案を提出


2016年12月26日 台湾立法院で4つの婚姻平権法案を審査。尤美女立法委員が提出した民法修正案が台湾史上、初めて同性婚法案として通過


2017年3月24日 同性婚に関する憲法解釈が法廷で討論され、生放送される


2017年5月24日 司法院大法官会議(憲法裁判所に相当)は「同性婚を認めない現行民法は違憲」との憲法解釈を発表。2年以内での結論を出すことを政府各機関に要求


2018年11月25日 住民投票で同性婚の合法化について結婚を「男女間」と定める民法の規定への賛否が問われ、賛成が有権者数の4割弱に達し、成立。民法改正による同性婚容認はできなくなる

2018年11月29日 台湾行政院(内閣)は住民投票結果を尊重し、同性婚の権益保障を特別法による最終解決へ


2019年2月21日 台湾行政院(内閣)で同性婚を容認する「司法院釋字第748号解釋施行法」草案を閣議決定。5月にもアジア初の同性婚を認める法案が施行される見通し

 


 

 


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同性婚を認める米国最高裁判決をきっかけに中華圏では同性婚の合法化をめぐり、賛否が先鋭化しつつある。とくに2016年5月に発足した台湾の蔡英文政権は総統選で蔡氏が同性婚容認を掲げたため、与党・民進党の立法委員(国会議員)らが性的少数者(LGBT)による同性婚推進派の意向を反映する形で合法化に向けた法案準備を本格化させている。香港でも同性愛差別撤廃条例案の制定の動きが強まり、中国でも性の乱れを抑止できず、欧米型の同性婚推進や性交避妊教育の推進が市民権を得始めている。(香港・深川耕治)

同性婚を認めている国は22カ国、同性カップルの権利を保障する制度を持つ国・地域は29カ国・地域。アジアでは台湾以外にタイ、ベトナムも国会での法案審議が準備されつつある。

同性婚が認められる国・地域は以下の通り。

オランダ、ベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、ポルトガル、アイスランド、デンマーク、フランス、南アフリカ、アルゼンチン、カナダ、ニュージーランド、ウルグアイ、イギリス、ブラジル、米国、メキシコ、ルクセンブルク、アイルランド、グリーンランド(デンマーク自治領)、エストニア、コロンビア、フィンランド(2017年より)

登録パートナーシップなどを持つ国・地域は以下の通り。


フィンランド、グリーンランド、ドイツ、ルクセンブルク、イタリア、サンマリノ、アンドラ、スロベニア、スイス、リヒテンシュタイン、チェコ、アイルランド、コロンビア、ベネズエラ、エクアドル、オーストラリア、イスラエル、ハンガリー、オーストリア、クロアチア、ギリシャ、マン諸島(英王室属領)、ジャージー諸島(英王室属領)、ジブラルタル(英国領)、マルタ、エストニア


※デンマーク、スウェーデン、ノルウェーにおいては登録パートナーシップ制度にあるカップルが同制度にとどまることは可能だが、新規にパートナーシップを登録することは不可。


アジアではこれまで同性婚が認められた国ないが、タイ、台湾あるいはベトナムにおいて法案が可決されればアジア初となる。

写真は香港での同性愛差別撤廃条例を通過させるための民主派デモ。



中国共産党一党独裁に反対し、民主化を求めるデモのはずが、2014年7月1日の民主化要求デモでは、先頭に同性愛差別撤廃を求める巨大なレインボー旗が広がり、民主化デモを完全に乗っ取る形になったため、同デモに毎年参加していた、同性愛に反対するカトリック香港教区の陳日君枢機卿らは2016年のデモに参加することを取りやめた。


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(1)

反対派の宗教団体の結束どこまで


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(2)

香港民主化デモ、スタッフの9割が同性愛者


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(3)

警戒する中国当局、家庭崩壊は党の崩壊に直結


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(4)

香港NPO「明光社」の傳丹梅副総幹事に聞く(上)

婚姻の4条件崩す恐れ


連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(5)

香港NPO「明光社」の傳丹梅副総幹事に聞く(下)

乗っ取られた香港の民主化運動

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(6)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(上)

説得力欠く同性愛の遺伝要因説

 

連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(7)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(中)

「差別撤廃」に潜む伝統価値根絶  



連載ルポ・中華圏に浸透する同性婚(8)

香港の精神科医・康貴華氏に聞く(下)

転向の意志尊重しない同性愛団体  

 


連載 中華圏に浸透する同性婚