R・J・カトラー監督、クロエ・グレース・モレッツジェイミー・ブラックリーミレイユ・イーノスジョシュア・レナードジェイコブ・デイヴィーズリアナ・リベラトステイシー・キーチ出演の『イフ・アイ・ステイ 愛が還る場所』。PG12

原作はゲイル・フォアマン著「ミアの選択」。



パンク・ロック好きの両親と弟と一緒にオレゴン州ポートランドで暮らす17歳のミア(クロエ・グレース・モレッツ)は、プロのチェロ奏者になるために日々演奏にいそしんでいた。同じ高校の生徒でロック・ミュージシャンのアダム(ジェイミー・ブラックリー)はそんなミアに惹かれ、彼女をクラシックのコンサートに誘う。やがてふたりは付き合い始める。ある雪の日、父親の運転で家族とともに車で祖父母の家に向かっていたミアは事故に遭い…。


2012年日本公開の『HICK ルリ13歳の旅』、2013年公開の『キャリー』に続いてクロエ・グレース・モレッツ単独主演映画の3本目。

作品の存在自体は知ってたけど、映画館やTVでも予告篇を目にすることはなくてひっそりと公開が始まったので、危うく気づかないところでした。

地味めな内容とはいえ、なんとももったいない。

だってなかなか良質な作品だったもの。

昨年の『キャリー』はあの有名ホラーの再映画化ということもあってけっこう宣伝されてたけど、その出来についてはいろいろ疑問に感じるところがあったし世間の評判もあまり思わしくなかった。

だけど今回のこの映画はクロエちゃんのこれまでの主演映画の中では一番良かったと思うし、個人的には『キック・アス』と『モールス』に次ぐくらいに好きです。

正直『HICK』も『キャリー』もほぼクロエのPV作品といってもよかったけど(2本とも好きな人はゴメンナサイ)、今回の『イフ・アイ・ステイ』は別段彼女のファンというんじゃなくても1本の映画として普通に楽しめると思う。

まぎれもなく彼女の代表作の1本になるはず。

いや、全篇「クロエを愛でる映画」であることには変わりないし、あまりハードル上げちゃうと「それほどでもなかった」と言われかねませんが。

出演者は主演のクロエを除けば僕が知ってたのは祖父役のステイシー・キーチ(つい最近『ネブラスカ』で意地悪な爺さんを演じていた)ぐらいでけっして大作ではないし、日本でもほぼ同じストーリーでリメイクが可能なぐらいの規模の映画。

僕は逆にそこにちょっと親近感をおぼえたんですが。

映画館に来てたのはその多くが女性、あるいはカップルでした。

クロエ・グレース・モレッツというティーン女優は僕みたいに普段から「クロエた~ん(^ε^)」とか言ってるキモいおっさんファンもいる一方で、女性の中にも「クロエちゃん好き!」って人がけっこういて、だから映画館に観にきてた大半の女性はもともと彼女のファンだったのかもしれないけれど。

もうね、全篇に渡ってクロエちゃんが彼氏とチュッチュチュッチュしまくります。

 


現在NHKで放映中の朝の連続テレビ小説「マッサン」のマッサンとエリーをはるかに凌ぐほどのイチャコラぶりを披露。映画のほとんどは彼らのリア充カップルの描写に費やされる。

「初めてなの…」って台詞もあるよ。みんなもだえろ!w エロはないけどね(^o^)

エロもヴァイオレンスもないのにPG12(12歳以上鑑賞可)なのは、未成年の飲酒の描写があるからだとか。

チェリストを目指して名門ジュリアード音楽院の入学試験を受けるヒロインとバンド活動が順風満帆なミュージシャンの彼氏との恋、それを温かく見守る家族や親友。これ以上ないぐらい幸福な日々。

ちなみにミアが憧れているヨーヨー・マもジュリアード出身。

インタヴュー映像のクロエ本人の言によれば、チェロをまともに演奏できるようになるまで15年はかかるらしく、彼女も7ヵ月もの間練習したのだが劇中でミアが披露しているチェロの演奏のほとんどはスタントダブルなんだそうな。

プロのチェロ奏者の顔の部分をクロエの映像に差し替えているという。

映画観てて指さばきが見事すぎて「すげぇ巧いなぁ」と驚いたんだけど、こんなところに高度なVFXが使用されてたとは(この“顔の差し替え”のテクニックについては、『ブラック・スワン』の感想をご参照ください)^_^;


ミアとアダムは互いの進路のことでちょっとモメたり仲直りしたりといろいろあるものの、そこで描かれる恋愛模様はどこにでもあるもので、いきなり作り物めいた事件が起こったり三角関係に陥ってとか、そういう余計な仕掛けはない。

だから山がなくて退屈、という人もいるかもしれないが。

むしろ、その「なんでもない日常」がどれほどかけがえのないものだったのか、ということがひしひしと感じられてくる、そんな作品でした。




では、これ以降ストーリーについて書いていきますので、未見のかたはご注意ください。



主人公ミアは幼い頃にチェロに魅せられて以来、クラシック一筋。

社交的で友人も多い両親は元ロッカーでその影響で弟のテディもイギー・ポップが好きだったりして、ミア一人だけがちょっと浮いている。

でも家族は彼女に対して理解があり、父デニー(ジョシュア・レナード)はテディが生まれる前にバンド活動に見切りをつけて教師になった。

一家は特別裕福というわけではないが、ミアの音楽活動を全面的に応援している。

ここで見えてくるのは、親から愛されている子どもの姿。

それが誰もが得られるものでないことは、この映画を観ている僕たちが一番よく知っている。

一方で、ミアと出会って惹かれあい恋人になるアダムはそういう家族の愛情というものに恵まれなかったことがミアとの会話からわかる。彼の父親は客として訪れた店で働いている息子にすら気づかなかった。

ミアの両親はざっくばらんな人々でしかも性的にもおおらからしく、奥手気味のミアがアダムと付き合い始めると心配するどころか喜んで後押しする。

それは父と母の出会いが幸福なものだったからだろう。恋愛に肯定的なのだ。

ある意味、ミアのこの両親は「理想の親」として描かれていて、普通は誰にでもある「親」として、また「夫婦」としてめんどくさい面は劇中ではまったくといっていいほど触れられない。

パンク・ロックが好きで恋愛経験も豊富、娘が男と付き合うのも積極的に応援するが、実際にはとても常識的な親でもある。

…そんなよくできた親なんているか?とも思ってしまうが^_^;いや、いるのかもしれませんが。


学校が雪で休校になって祖父母の家に向かう途中にミアの家族の乗った車は事故に遭い、ふと気づくと彼女は一人雪の中に倒れていた。

救急隊員が慌ただしく行き来しているが、誰もミアのことを気にも留めず、声をかけても答えもしない。

そして車の近くで隊員たちに救急措置をされている自分自身の姿を見た時、ミアはどうやら自分が自分自身の身体から抜け出してしまったことを知る。

救急車で自分の身体とともに病院に向かうミア。

 


以降は昏睡状態の中で幽体離脱したミアが、自分は「生き延びるか」それとも「死を選ぶのか」決定するまでが描かれ、その合間合間に回想シーンが挟まれる。


アダムとのデートや初めてのキス。最初はアダムがやっているバンドのメンバーとなかなか打ち解けられなかったミアは、ハロウィンで思い切って大胆な扮装をしてみたら意外と楽しめちゃったり、またアダムはミアの家族からも歓迎されて、やがてふたりは結ばれる。

甘酸っぱいですぞ(^o^)

ミアはニューヨークのジュリアード学院を目指すことにするが、アダムは馴染み深い地元を拠点にバンド活動をしたいと考えている。

遠距離恋愛に否定的なアダムと、離れていてもやっていけると考えるミアの間で次第にわだかまりが生じる。


祖父母や親友のキム、そしてアダムたち何人もの親族や友人知人が病院を訪れるが、そこでミアは母が事故で即死したことを知る。また父も手術中に亡くなり、最後の希望だった弟のテディまでもが息を引き取ってしまう。

両親と弟を失なったミアは絶望し、容態が急変。

一家の事故の知らせを聞いたアダムが駆けつけるが、家族以外は面会謝絶のため彼はミアの顔を見ることができない。

アダムはミアと別れたことを心から後悔していた。


これは、主人公のミアが恋人や家族、親友など多くの人々にいかに愛されてきたのかを実感する映画である。

それは愛されるということ、また人を愛するということについて考えるきっかけにもなってくれる。

ミアの父親デニーは、自分のドラムセットを売って娘のために高価なチェロを買い、ロックの道をきっぱり諦めて教師になった。一切の後悔はなかった。

そのことをミアはジュリアードの試験のあとに祖父から教えられる。

祖父は自分の息子には伝えられなかった祝福の言葉をミアに贈る。

デニーがその後事故で亡くなってしまうことを知っている観客には、これは本当に切ない場面だ。

デニーはミアに対して多くを語らなかったが、行動でその愛を示した。

父の娘への愛。そして老いた父の息子への愛。

またミアには母という最高の相談相手がいた。

いつだって母キャット(ミレイユ・イーノス)は娘の背中を押してくれた。

アダムと別れて落ち込む娘に母は優しく励ましの言葉をかける。

こんなふうに親子の間で愛情を交わせたらどんなにいいだろう。

そしてミアのように家族の愛に恵まれなかったアダムは、ベッドで昏睡するミアに「戻ってきてくれたら自分もニューヨークですべてを君に捧げたい」と涙ながらに言うのだ。

まだミアとアダムが別れる前、家でみんなが集まってバーベキューをしながら、やがてアダムがギターを弾き始め、ミアがチェロで加わる。みんなで合唱。




Best Day



この幸福なひととき。

それはもう二度と戻ってはこないけれど、確かにあの時ミアは生きる喜びを全身で感じていたのだろう。

眠り続ける孫娘に祖父が語りかける。

生き延びてくれ。でもお前が望むのなら、逝ってもいいんだ。

この場面は祖父役のステイシー・キーチの静かな熱演にホロッときました。

けっして号泣させようというんではない、そのさじ加減が実にいい。


映画を観終って、同じ回を観ていたカップルの彼氏の方が「最後は死んでしまってもよかった気がする」と言っていた。

そういう結末でも感動的だったかもしれないけど、これはミアが最後に還ってくるからこそいいんだと思う。

家族を失なった彼女がこれから孤独を味わわねばならないだろうことは劇中でも言及されている。

でも、彼女には還る場所があった。待っていてくれる人たちがいた。

ミアが還ってこられたのは、彼女を愛する人たちがいたからだ。

私たちはいつ何時大切な存在を失なうかもしれない。

あるいはいつか必ずそういう日が来る。

その時、ミアのような心境になるかもしれない。

そしてそんな時に自分をこの世界に引き止めてくれるのは、愛された記憶、愛されている実感だ。

幽体離脱というスーパーナチュラルな表現を用いながらも、これは今生きているその瞬間、男女や親子の愛、人と人の絆を描いた物語でした。



クロエ・グレース・モレッツ出演作品感想:
『リピート 許されざる者』
『(500)日のサマー』
『クロエ・グレース・モレッツ ジャックと天空の巨人』(2010)
『キック・アス』
『グレッグのダメ日記』
『モールス』
『ヒューゴの不思議な発明』
『キリング・フィールズ 失踪地帯』
『ダーク・シャドウ』
『HICK ルリ13歳の旅』
『キャリー』
『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』
『イコライザー』
『ネイバーズ2』
『アラサー女子の恋愛事情』
『トムとジェリー』
『シャドウ・イン・クラウド』



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