$映★画太郎の映画の揺りかご


ティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演の『ダーク・シャドウ』。PG12。



18世紀末、イギリスから新天地アメリカに移住して屋敷を構えたコリンズ家は、街の名前になるほどの名家だった。しかしそこの息子バーナバス(ジョニー・デップ)は召使いのアンジェリーク(エヴァ・グリーン)と関係をもちながら彼女の愛を受け入れなかったためヴァンパイアにされてしまう。ときは移って1972年。200年ぶりによみがえったバーナバスとコリンズ家の子孫たちの奇妙な共同生活がはじまる。


予告篇を観て、なんとなくアダルト版『アダムス・ファミリー』みたいな映画なのかな、と思ったりしていた。

あと、かつてティム・バートン自身が撮った『ビートルジュース』に近いものを想像したり。

『アダムス・ファミリー』(1991)
監督:バリー・ソネンフェルド 出演:ラウル・ジュリア アンジェリカ・ヒューストン クリストファー・ロイド



『ビートルジュース』(1988) 出演:マイケル・キートン アレック・ボールドウィン ジーナ・デイヴィス ウィノナ・ライダー



僕は最近のティム・バートンとジョニデのコラボ映画はちょっと苦手というか正直あまり面白いと思ってなくて、それでも今回は最初から観るつもりでいた。

なぜならクロエ・グレース・モレッツが出てるから。

ただ予告篇では精一杯彼女を映してるけれど、はたして映画本篇にクロエさんの出番がどれだけあるのか、それが問題で。

なんとなくほんとのヒロインはエヴァ・グリーン演じる魔女のアンジェリークか、冒頭から出てくる若い家庭教師ヴィクトリア(ベラ・ヒースコート)っぽいので。

金持ち一家の難しいお年頃の娘、という役柄は先ほどの『アダムス・ファミリー』でクリスティーナ・リッチが演じていたウェンズデーとカブったりもしてて、あの映画でのリッチはわりとキャラが立ってたんでおなじ程度に活躍してくれるならいいんだけどな、と思っていた。

関係ないけど、本篇や予告篇で使われてるT・レックスの“Get It On”を聴くと、井筒和幸監督、ナインティナイン主演の『岸和田少年愚連隊』を思いだす。




どちらも舞台となる時代が1970年代だから、ということだろうけど。

この「DARK SHADOWS」という作品は1960年代後半から70年代前半までアメリカで放映されていたTVドラマなんだそうだけど、日本では未放映だったようで知られていない。

だから映画版がオリジナルTVドラマ版に忠実な作りなのかどうかは知りません。

舞台が72年というのも、オリジナル版の放映されていた時代に合わせたということだろうか。

登場人物たちの衣裳や車、ヒッピーたちの喋り方などがいかにもあの時代っぽくて(ってよく知りませんが)観ていて面白い。

なんでもジョニー・デップ自身、放映当時から主人公のバーナバスというキャラクターがお気に入りで、いつか自分で演じたいと思っていたんだそうで。

それで盟友であるティム・バートンに話をもっていったということらしい。

以下、ネタバレあり。



予告篇で語られている、主人公がヴァンパイアにされてしまう顛末は、映画の冒頭でジョニデのナレーションとともに駆け足で描かれる。

そして20世紀。

バーナバスは掘り起こされて復活するが、ここでの彼の作業員たちへの吸血場面は完全にホラー映画のもので、コメディ色はない。

つづいて彼が200年後の世界で怪訝な顔つきで街の様子をうかがいながらかつての自分の屋敷にむかうシーンは、ジョニー・デップのコミカルな立ち居振る舞いもあって可笑しい。

顔色の悪い織田裕二みたいなご面相のバーナバスはなかなかユニークな存在ではある。

ただ予告篇で予想した、現代によみがえったヴァンパイアがカルチャーギャップによって巻き起こす騒動を描いたドタバタ・ホラー・コメディを期待して観ると、どうもモヤモヤとしてしまって。

たしかにジャンルとしては「ホラー・コメディ」なんだろうけど、コメディとしてはたいして笑えないし。

かといってホラー、というかかつての怪奇映画の雰囲気も雰囲気以上のものではないので、たとえば『スリーピー・ホロウ』のときのような首チョンパの連打や『スウィーニー・トッド』の脳ミソぶちまけ系の残酷描写があるわけでもない。

肝腎のクロエたんについては、彼女がはじめて登場するあたりはなかなか良くて、『ヒューゴの不思議な発明』ではけっして見せなかったあのふてぶてしい態度や憎まれ口が出てくると、やはり彼女にはこういう役柄が合ってるよなぁ、とあらためて思わせられる。

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母親役のミシェル・ファイファーヘレナ・ボナム=カーターたちが喋ってる後ろで踊っている姿なんかもカワイイ。

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ムッチムチの太ももとかラブラブ

もう主人公と魔女のくだりとか別にいらないから彼女をメインにすえて描いてほしかったぐらい。

しかし、アンジェリークとバーナバスの「私を愛して」「やだ」の応酬が延々つづくうちに、クロエ演じる反抗娘キャロリンも次第に脇に追いやられて目立たなくなっていく。

だんだん顔が研ナオコ化してきてるミシェル・ファイファーはさすが存在感はあるんだけど、描き込みが浅くてこの人がなにを考えているのかもよくわからない。

同様にキャロリンの従弟のデヴィッド(ガリヴァー・マグラス)も、母親を亡くして父親からもほっておかれていろいろ問題を抱えているのだが、いまいちその描写が淡白で印象に残らない。

ヴィクトリアは家庭教師なのにキャロリンとのからみがほとんどないし。

彼らにかぎらず登場人物たちは「とりあえず出してる」といった感じでどれもおざなりな描き方しかされていない。

クリストファー・リーの漁師のボスとか、ほんとなんのために出てきたのかまったくわからない(そりゃ彼は元ドラキュラ俳優だが)。

ティム・バートンは主要キャラクターであるコリンズ家の人々にすらまったく興味がなかったのではないか、と思ってしまうほど。

あきらかに重要なキャラクターであるはずのヴィクトリアが後半空気になってしまうのにはあっけにとられた。

まだ『アダムス・ファミリー』の方がよっぽどキャラクターたちに対するリスペクトがあった。

とにかく呆然としてしまったのは、2時間近いこの映画にはバーナバスと彼にまとわりつくアンジェリークのどーでもいい恋バナ以外に「お話」がないこと。

この200年前の悲恋はその理由からしてしょーもないのだが、それはいかなる笑いにも転化しないし、かといって本気でメロドラマが描かれるわけでもない。

いったい僕ら観客はなにを観せられていたのだろうか。

笑わせたいのか怖がらせたいのか、それとも感動させたいのか。

どれもが中途半端なのでとにかくモヤモヤしてしまう。

これはほんとにプロが書いたシナリオか?

ジョニー・デップに「萌える」映画として愉しめる人ならいいかもしれないが(バーナバスはたしかに憎めないキャラではあるので)、やはりここまで「なにもない」とさすがに「なにが描きたかったのかぜんぜんわからない」としかいえない。

『ビートルジュース』もそうだし『マーズ・アタック!』などでもティム・バートンは「くだらなくて面白い映画」をこれまでにも撮ってるから、別に中身がカラッポだからつまらない、ということではない。

ハラハラさせてくれたり笑わせてくれたり、とにかく感情を揺さぶってくれるなら「なにが描きたかったのか」なんてわかんなくたってかまわないし満足だ。

でもこの映画は僕にとってはそうではなかった、ということです。

今回もまたヘレナ・ボナム=カーターが殺されているが、自分の映画のなかで毎度のように伴侶(正式に結婚はしていないが、ふたりのあいだには子どもがいる)を殺しつづける監督というのはなんなのだろう。

これがティム・バートン流の愛情表現なのだろうか。

バーナバスはヤリチン男でそれは彼自身認めているのだが、しかしまったく反省の色はなく、彼に愛されようとするアンジェリークのことは「お前は私を所有しようとしている」と頑なに拒む。

でもヤることはちゃっかりヤる。

そのくせ恋人のジョゼットへの愛についてなんのためらいもなく語るのだ。

ジョニー・デップのコント一歩手前の演技で笑わせられてなんとなく流してしまいがちだが、こうやって書き連ねてみるとけっこう最低の男である。

でもどうやらバーナバスのなかでは彼自身のこういった行動は矛盾していないらしい。

彼にとってアンジェリークはめんどくさい女以外の何者でもない。

だから彼女は最初から最後まで悪役としてあつかわれる。

アンジェリークはバーナバスの両親を殺して、おまけに時を越えて赤ん坊だったキャロリンにも細工をする。

なのに彼女には「悪役」として支持したくなるカッコ良さよりも、なにか作り手から見放されたような哀れさしか感じられなかった。

演じるエヴァ・グリーンが何度も見せる不敵な笑みは魅力的なのにもかかわらず。

そこには『バットマン リターンズ』でティム・バートンが悪役たちに対して注いだような愛情はない。

彼女がバーナバスにかまってもらいたくて必死に悪ぶってみればみるほど、なおさら虚しさが増してくる。

それはバートンの前作『アリス・イン・ワンダーランド』の赤の女王(ヘレナ・ボナム=カーター)の描き方にも感じたことだ。

一方で、この映画ではバーナバスが自分の身勝手さを思い知らされたり反省することはない。

多分、こういう男は現実にもいるんだろうけど。

あるいは、そういう男には「めんどくさい女」はこう見える、という話なのかもしれないが。

よーするに、めんどくさい女はさっさと捨てて本命の娘といっしょになろう、ってことですか?

いつのまにか人生の勝ち組になってしまったバートン自身のいまの本音だったりして。

やはりティム・バートンは世のなかに恨みをもったり、かなわぬ恋に胸を痛めたりする者の気持ちを忘れてしまったようだ。

だから彼の最近の作品はどれも僕の心に響かない。

というか、それ以前に単純にストーリーの体をなしていないんじゃないかと思うんですが。

そもそも主人公バーナバスの痴話ゲンカのせいでコリンズ家の人々は大変な迷惑をこうむり、屋敷は燃えて一家はバラバラになるのだが、そのことについてのフォローもない。

それが黒い笑いを生むわけでもない。

だからなにが描きたかったのかわからない。

ティム・バートンの映画は昔から「壊れている」といわれてきてそれが魅力でもあったんだけど、僕には彼の最近の作品はただ単に「ヘタクソ」、もしくは「なげやり」な映画にしか思えないのだ。

一時期、僕にとって彼はつねに新作を心待ちにしている監督だったのだが、どうやらそういう時代はほんとうに過ぎ去ってしまったらしい。

映画館で観終わったカップルのカノジョの方がジョニー・デップの別の新作のポスター見て「これ観たい~」というと、カレシが「もう勘弁してくれ(;°皿°)」と答えていた。

キャロリンを演じるクロエ・グレース・モレッツの起用の理由はよくわかりましたよ。

ティム・バートンはきっと『モールス』観たんだろうな、って。

今度は彼女を主役にして撮ってくれたら、またティム・バートンの作品を観に行こうと思います。



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