アントワーン・フークア監督、デンゼル・ワシントンクロエ・グレース・モレッツジョニー・スコーティスマートン・ソーカスデヴィッド・ハーバー出演の『イコライザー』。PG12

アメリカのTVドラマ「ザ・シークレット・ハンター」の映画化。





ホームセンターで働くロバート・マッコール(デンゼル・ワシントン)は、行きつけのダイナーで知り合った歌手志望の少女アリーナ(クロエ・グレース・モレッツ)がロシアン・マフィアのスラヴィに無理やり売春させられているのを知る。ついにアリーナが彼らの暴力で大怪我を負い病院に担ぎ込まれるに及んで、ロバートは決意を固め鮮やかな手つきでならず者たちを一掃する。配下を皆殺しにされた新興財閥の総帥プーシキンは、謎の殺人者を見つけだすため元ロシア特殊部隊の男テディ(マートン・ソーカス)を送り込む。


アントワーン・フークア監督の作品は僕はこれまでに『ティアーズ・オブ・ザ・サン』と『キング・アーサー』を観ていますが、同じ監督・主演コンビの『トレーニング デイ』も昨年公開された『エンド・オブ・ホワイトハウス』も未見(“ホワイトハウス”はエメリッヒの方をチョイス)。

10年以上前の作品ばかりということもあるだろうけど、正直これまで観た2本については『ティアーズ・オブ・ザ・サン』はメル・ギブソン主演の『ワンス・アンド・フォーエバー』やニコラス・ケイジ主演の『ウインドトーカーズ』辺りとゴッチャになっちゃってるし、『キング・アーサー』もこれまた『トロイ』や『キングダム・オブ・ヘブン』と脳内で混ざっちゃっててイマイチ印象に残っていないので、ファンの人には申し訳ないですが今回もさして期待してなかった。

でも観ようと思ったのは、クロエ・グレース・モレッツが出てるから。今年劇場で観る彼女の出演作はこれで3本目(過去作の『早熟のアイオワ』は未見)。

またデンゼル・ワシントンの主演映画もかなりご無沙汰で、劇場で観るのは2011年公開の『アンストッパブル』以来3年ぶり。

たまたま観逃してしまっていたけど、それにしてもこの人の安定感はスゴいと思う。

これまでそんなに彼の主演映画を観てないくせにわかったようなこと言うのもなんですが(でも言うけど)、デンゼル・ワシントンの演技、特に顔の表情にはスティーヴ・マックィーンを思い浮かべたりする。

味わいがあるというか、インテリジェンスと野性味が同居していて、真剣な顔が絵になるけど時々見せる笑顔に人間味も感じる。

年齢を重ねてもセクシーな俳優だと思います。

この映画で彼が演じる主人公ロバートはちょっと『マイ・ボディガード』の時のキャラと重なるところがあって、というか、だいたいデンゼル・ワシントンってああいうキャラが多いんだけど(笑)、でも彼の顔に説得力があるから「いつも同じじゃねーかよ」とは思わず、また見入ってしまう。

かつてのスタローンシュワちゃん、あるいはブルース・ウィリスたちのように上半身裸になって筋肉を誇示したり絶対死なないキリング・マシーンぶりを見せつけるのではなくて(いや、今回かなりのマシーンぶりを発揮してますが)、もっと生身の人間っぽい。

そこが最大の魅力なんではないかと。マックィーンもそういう俳優さんだったし。

アクションが地味だとか、長すぎる(132分)とか、クロエちゃんが娼婦役に合ってない、などと否定的な意見もすでにいくつか読んでいたのでかなり期待値を下げて観たんですが…結論からいうと僕はこの映画けっこう好きです。ってゆーか、かなり面白かったよ。長さも感じなかった。

ただし、クロエは前半で病院送りになってしまってあとはラストに出てくるだけなので、デンゼル・ワシントンと一緒に敵と戦ったりはしないし、彼女が全篇出ずっぱりの映画が観たければ『イフ・アイ・ステイ 愛が還る場所』の方をお薦めします。

それにしても、『イフ・アイ・ステイ』と続けて観ると、またしても映画の前半で病院のベッドに寝たきりになる彼女が不憫でならない。おまけに今回は顔をボッコボコにされてるし。

でもあとでまた書くけど、わずかな出演時間で彼女は好演していたし、その姿はしっかりと記憶に残ります。

 
お行儀悪い格好してるけど、ほんとはいい子


では、これ以降ストーリーについて書いていきますので、未見のかたはご注意ください。



まずこれは『エクスペンダブルズ』みたいなドンパチ映画じゃないので、ド派手な銃撃とかカーチェイスとかはありません。もうちょっと地に足が着いてるというか、リアルなんですよね(銃の撃ち合いも格闘場面もちゃんとあるし、サーヴィスショットみたいに終盤で一度だけ大爆発がありますが)。

まぁ、デンゼル・ワシントン演じるロバートは超人的なスキルを持ったほぼ無敵のキャラではあるけれど、何しろホームセンターに普通に売ってる物を使って工夫を凝らして闘うわけだから、観る人が観たら満足できるようにできてると思うんですが。

やってることは「必殺仕事人」なんだけど、ああいう「作り物」の面白さを狙った様式美ではなくてヴァイオレンス描写自体はそれなりにエグかったりするし(コルク抜きでアゴ貫通とかグラスで片目潰したり)、敵を一人、また一人と仕留めていく様子をじっくり描いている。

 
売春組織の奴らは瞬殺

 
悪徳警官には排気ガスでお仕置きします


それだけでもアガるんだけど、この映画にはその前にしっかりとタメがあるのだ。多分、上映時間が長くなった理由はそのためだと思う。

見どころは闘いが始まる前の俳優たちの芝居なんだよね。

いきなりただ撃ったり殴ったりするんじゃなくて、そこに至るまでのキャラクターたちの、ちょうど「ビーバップハイスクール」(たとえが古すぎる…^_^;)における互いに“クンロク”入れあうような場面を丁寧に撮っている。

ロバートとロシアン・マフィアのボスのスラヴィ(David Meunier)のやりとりとか、スラヴィを殺されてやってきたニコライが悪徳警官に自分の凶暴さを見せつけるところ、ロバートとニコライの互いの正体のさぐり合い等々。

ケヴィン・スペイシーをさらに凶悪にしたような顔つきのテディ(ニコライ)を演じるマートン・ソーカスはどっかで見たことある人だな、と思ったら『アメイジング・スパイダーマン2』の刑務所の場面に登場するカフカ博士役の人だった。

 


『アメスパ2』では出番も少なくて重要なキャラではなかったけど、この『イコライザー』では素晴らしい存在感でした。

ロシアン・マフィアとか元傭兵という設定自体はありきたりで珍しくもないんだけど、高そうなスーツに身を包んだニコライ役のマートン・ソーカスは、相手の心や行動パターンを見透かすような鋭い視線で威圧する。どのように喋ってどのように振る舞えば人が自分を怖れるのかつねに考えている。

会話の細かい部分も聴き逃さず相手の表情から嘘を見抜くところなど、こういう嫌なタイプの人っているよなぁ、って。

このような周到な演出がされているからこそ、彼は主人公に倒されるためだけに出てくるお馴染みの悪役とは一線を画すキャラクターになっている。

娼婦の一人、マンディ(ヘイリー・ベネット)はアリーナを助けるためか、あるいは巻き添えを食うのを怖れたのか彼女のことを知らないと嘘をついたためにニコライに絞め殺される。




ソーカスが熱演してみせるニコライを見ていたら、この男がどうやって主人公に倒されるのかどんどん期待が高まってくる。


この工具で仕留めます


こういう興奮って、この手のアクション映画ではここしばらく感じてなかったことだ。

この映画、もう一回観たいぐらいだもの。

彼の上にはさらにボスのプーシキン(ロシアの作家と同名。演:ウラジミール・クリッチ)がいるが、実質このニコライこそがこの映画で主人公ロバートの最大の敵。

彼の下にいたスラヴィも、9800ドルを差し出してアリーナを解放するように求めるロバートに向かって言う「それを持って帰って9800回マスかいてろ。終わった頃にはあの女はボロボロになってるからタダでくれてやる」という台詞など、とにかく彼らのやりとりや手下どもの雰囲気など、僕はロシアン・マフィアのことなんか知るわけないけどああいう奴らはほんとに居そうだ、と思わせるものがある。

ロバートが悪徳警官とともに会うロシアン・マフィアの工場でのヤバそうな顔した屈強な男たちなんかもそう。

だからこそ、そんな奴らと対峙して誰からどんなに脅されてもまったくひるまないロバートの鉄のハートと静かなる自信には身震いするほど。

勤めているホームセンターで銃を持った強盗にレジの金と同僚の女性の指輪を奪われると、店に売ってる特大のトンカチ持ってって取り返す。

で、犯人の頭をカチ割ったのであろうそのトンカチの血のりを拭いて、そのまま元に戻すとかw

 
こんなホームセンターはイヤだ。


ちょっと韓国映画のヴァイオレンス描写に通じるものもあるけど、いい感じで残酷描写は抑えてあるのでそういうの苦手な人でもおそらく大丈夫。

ホームセンターの同僚で警備員を目指しているラルフィ(ジョニー・スコーティス)のために彼の減量に協力して、それが終盤の戦いの時のちょっとした伏線になっていたのも楽しい。

ロバートの知人で元CIAのプラマー夫妻を演じているのはビル・プルマンメリッサ・レオ

かつてはアメリカ大統領でありながら戦闘機に乗ってエイリアンと戦ってたビル・プルマンのことはわかったけど、メリッサ・レオって作品によって役柄がガラッと変わるし見た目もわりと見分けがつかなかったりするんで、最後のエンドクレジットで確認するまで彼女だと気づかなかった。

彼らの家に立ち寄ったのはロバートが「協力を頼むためではなくて、(殺しの)許可を得るため」だったんだけど、ちょっと不思議だったのが、スラヴィにボコられて入院していたアリーナはその後どこにいたのか、ということ。

もしも最初の病院に入院したままだったらニコライたちに狙われただろうからどこか別の場所に移したはずだけど、僕が台詞を聞き逃したのかそれとも場面を観逃したのかわかりませんが、その経緯は描かれてなかったような気が。

どうせなら元CIAの夫妻にアリーナの身の安全を託す、というふうにすればよかったのに(この辺あまり自信がないので、もしもちゃんと語られるか描かれていたらゴメンナサイ)。


「人生には大切な日が2つある。自分が生まれた日と、自分が生まれた理由がわかった日だ」 マーク・トウェイン

テリーという名前で売春をさせられていたアリーナはロバートのおかげで自分の本当の名前を取り戻し、ロバートがスラヴィにつき返された9800ドルをもらって夢だった歌手になるための第一歩を踏みだそうとしている。

このラスト、なんとなくマーティン・スコセッシの『タクシードライバー』を思い出す。

『タクドラ』は実はロバート・デ・ニーロ演じるキチ○イが八つ当たりで売春宿を襲撃したら結果的に少女を救うことになって英雄になる、というなかなかトンデモない映画なんだけど、『イコライザー』はあの映画のエンタメ・ヴァージョンといえるだろうか。

ちなみに、クロエ・グレース・モレッツはスコセッシの『ヒューゴの不思議な発明』に出演したのち、キアヌ・リーヴスとともに『タクシードライバー』の一場面を写真で再現している。

キアヌがデ・ニーロが演じたトラヴィスに、クロエは子役時代のジョディ・フォスターが演じた少女娼婦アイリスに扮している。


クロエとキアヌの『タクシードライバー』も面白そう


アイリスもアリーナと同じく偽名を使って売春をしていて、主人公に本当の名前を告げる。そして映画の最後に主人公は少女を解放する。

今回のキャスティングは偶然かもしれないけど、でも僕は以前に別の映画の感想でクロエとジョディ・フォスターについて書いたぐらいだったし、ちょっと不思議な符合ですよね。

恐るべき早熟ぶりを発揮して天才子役と謳われたかつてのジョディと『キック・アス』でこれも世界的に有名になったクロエの二人には、傷ついた少女役に何か共通したものを感じる。

クロエちゃんは二の腕や背中に筋肉がついててけっこうゴツいんだけど(あれは太ってるんじゃなくてアスリート体型なのです!^_^;)、彼女が演じるロシア人の少女アリーナの幸薄い風情にはヒット・ガールのこまっしゃくれた魅力とはまた違った脆さやはかなさがあった。

ギャングや麻薬の売人たち相手に大立ち回りを繰り広げて男たちをバッサバッサと切り刻んでいたヒット・ガールとは対照的に、アリーナは普通の女の子で当然腕力で男にはかなわない。

サディスティックな客に殴られて思わず殴り返してしまったためにスラヴィに見せしめでボコボコにされて赤く腫れた彼女の顔は痛々しく、そしてこちらの方がより現実の世界に近いのだ。

それは単にフィクションの中の約束事ではなくて現実に存在する暴力や搾取の構造を強く連想させる。だからロバートがスラヴィと子分たちを残酷な方法で殺す場面では胸の中で喝采。

誰かがあのクズたちをぶち殺してくれないだろうか、という僕たちの願いがスクリーンの中で叶えられる快感。

ロバートみたいなスーパーエージェントは現実にはいないけれど、そんなキャラクターを説得力が服着てるみたいな俳優のデンゼル・ワシントン(笑)が演じてるからこそ、最高に溜飲が下がるのだ。

このジャンルの中で特に独創的といえるのかどうかはわからないけど、ここんとこアクション映画といえばマーヴェルのスーパーヒーロー物みたいなのばかり観ていたせいもあってか、これはなかなかの良作だと思いましたよ。“イコライザー”というタイトルの意味はよくわかんないけど^_^;

デンゼル・ワシントンの次回作もチェックしよっと。



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