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アレクサンダー・ペイン監督、ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキッブ、ステイシー・キーチ出演の『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』。2013年作品。
第86回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞など6部門にノミネート。
第66回カンヌ国際映画祭でブルース・ダーンが男優賞受賞。
アメリカのモンタナ州に住む老人ウディ(ブルース・ダーン)は、「100万ドルが当たったのでお支払いします」というインチキな手紙を真に受けてネブラスカ州まで行こうとする。止めても諦めない父親に業を煮やした息子のデイヴィッド(ウィル・フォーテ)は、老いた父を車に乗せて二人で旅に出る。
2012年公開のアレクサンダー・ペイン監督、ジョージ・クルーニー主演の『ファミリー・ツリー』がなかなか良くて、最新作もアカデミー賞にノミネートされたこともあって、観に行きたいなぁと思っていました。
ここんとこアカデミー賞関連作品をずっと観てきて、少々疲れてますが(観たい作品が多すぎて^_^;)。
ウディを演じるブルース・ダーンについては、ダグラス・トランブル監督の『サイレント・ランニング』(1972)で小さなロボットたちと宇宙船の中で暮らす孤独な主人公や、ジョー・ダンテ監督、トム・ハンクス主演の『メイフィールドの怪人たち』(1989)の、ネェちゃんをはべらせて缶ビールをあおりながら怪しい隣人の家を探ろうとする頭のおかしい元軍人役が記憶に残っている。
『メイフィールド~』には、『ネブラスカ』でブルース・ダーンの兄レイを演じていたランス・ハワードも出演している(ランス・ハワードは映画監督ロン・ハワードの父親、女優ブライス・ダラス・ハワードの祖父。芸能一家ですな)。
『メイフィールドの怪人たち』より。超アグレッシヴなブルース・ダーン
これまでどちらかといえばアッパーなキャラを演じてきた人が、この『ネブラスカ』で見事なまでに老いさらばえてるのを見ると、時の移ろいを激しく感じたりもする。
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ブルース・ダーンと演出中のアレクサンダー・ペイン監督
まぁ、娘のローラ・ダーン(『ジュラシック・パーク』で恐竜に追いかけられ、デヴィッド・リンチの映画でもヒドい目に遭ってる人)もそれなりにいいお年だから、その親父さんが爺ちゃんになるのも無理はないが。
どう考えてもウソなのが丸わかりな「おめでとうございます。あなたは抽選に当たりました」系の手紙を手に旅に出る老人とその息子。
映像はモノクロ。
いかにも単館系・アート系の映画ですが、実際その通りでした。
映画評論家の町山智浩さんによれば、アレクサンダー・ペイン監督はちょっと小津安二郎監督の映画を意識して撮ったそうだけど、言われなきゃわからん(;^_^A
別にストーリーや撮影技法をマネてるわけではないので。
でも小津を敬愛するジム・ジャームッシュやアキ・カウリスマキの作品に通じるものを感じるから、あぁ、そうやって繋がってるのか、と。
ブルース・ダーンが演じる、昔は酒びたりで今はピンボケ気味の無口なじーさんと小津映画のかくしゃくとした好々爺の笠智衆では正反対にも感じられるが、映画を観てるうちに自分自身の親や祖父母のことをふと考えてしまう、という点では共通している。
どんな親も老いていくし、親戚や古い知人たちとの付き合いなど、つまりこういう話は国境を越えて万国共通なのだ。
だから映画を観ていて身につまされもする。
個人的にはよりストーリー性を感じた前作『ファミリー・ツリー』の方が好みではあるけれど、この最新作ではさらに円熟味を増したというか、なんともスモーキーな薫りが(^o^)
特に何か劇的な展開があるわけでもない。
それでも父と子、そして途中から母や兄も合流して家族がともに過ごす数日間はかけがえのないものとなる。
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親の生家を家族で訪ねる、というのもよくあることだ。
亡き父が戦前に建てた、今では朽ち果てた家の中を見つめるウディ。彼がわずかに語るみずからの生い立ち。
ウディの過去は映像では一切描かれず、登場人物たちの会話から想像できるだけだが、それは僕たちが自分の人生の中で親や親戚、自分たちを幼い頃から知る人々から聞かされる話そのものだ。
実の子どもであっても、親については知ってることの方が少ない。
もらえるはずもない100万ドルでウディは「車と空気圧縮機を買いたい」と言う。
「生活費には困っていないのに、どうして」と尋ねるデイヴィッドに、ウディは「何かを残したかった」と答える。
「100万ドルあったら、お父さんを老人ホームに入れるわ」と言う母。
息子の前では「母さんがカトリックだから離婚できなかったんだ」と言う父。
ウディの妻でデイヴィッドの母ケイトは、家族が止めるのも聞かず何かといえば徘徊老人のようにネブラスカに徒歩で向かおうとする夫にほとほと手を焼いているが、しばらく仕事を休んで父親とネブラスカに向かおうとする息子に呆れて「正気なの?」とプリプリする。
認知症気味の老いた父親を連れて一体どうすんだ、と。まぁ当然といえば当然の心配ですが。
デイヴィッドは夫に辛く当たっているように見える母に「父さんにもっと優しくしてあげてよ」と言う。
それでも老夫婦は不仲というわけではない。
この辺りの老夫婦の関係は、毎日のように夫にガミガミ言ってた僕の祖母と「うるせーなぁ」と受け流しながらそんな妻を誰よりも必要としていた祖父のことを思いだす。
ウディとケイトの食堂での注文を巡るやりとりなんかも、やってたなー、じいちゃんばあちゃんたち、と。
そんな祖父母も今はもういない。
ケイトを演じるジューン・スキッブさんがいいんだよなぁ。
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いかにも「お母さん」といった風情で可愛らしい顔のおばあちゃん。
ケイトとウディは同郷で若い頃から一緒に過ごしてきた仲らしく、結婚するずっと前から互いを知っていた。
ド田舎なので、ケイトはウディ以外の男たちからいつも“ブルマの中”を狙われていた。
この知りたくもなかった情報(;^_^A
たしなめる息子の前で、老いた母は何度も自分が若かった頃の貞操の危機について語る。
たわいない会話だけど、母親がいることで父親と息子たちはなんとかもってるところはあるだろう。
ウディの兄のレイの家でも、男たちはただTV観て車の話をしてるだけだ。
なんだかんだ言いつつも母親が家族の絆を繋ぎとめているというのは、多くの家庭にみられることじゃないだろうか。
ユーモラスで元気そうなケイトだが、でも歩く時に足元がヨロヨロしてるところが(演じているジューン・スキッブは現在84歳)、これもここ最近めっきり老け込んだ自分の母親が重なったりして思わず涙ぐんでしまう。
どんな母親だって昔からおばあちゃんだったわけではない。若くて元気だった頃もあるのだ。
それを知ってるからこそ、親の老いを見るのは子どもにとっては辛かったりもする。
この映画でデイヴィッドはメソメソしたりしないし映画自体湿っぽさとは無縁だが、彼が見つめる老いた両親の姿は、観客に誰にでも巡ってくる親との別れを予感させる。
デイヴィッドは父ウディとともに車で目的地の“100万ドル”をくれるという店に向かう途中、リンカーンに立ち寄って岩に彫られた大統領たちの顔を眺めたり、ウディの兄レイの家に顔を出したりする。
このデイヴィッドの伯父の家で同居する二人の中年の息子たちの喋り方から行動すべてが実に「底辺」な感じで、「いそうだよなー、こういうボンクラたち」と思わせる。
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従兄弟のデイヴィッドに「モンタナからここまで車で2日もかかったのか?バックで走ってきたのかよ」としつこく笑うとことか、仕事もせず兄弟の片割れは強姦未遂罪でボランティア活動をさせられていたりと、この見事なまでのホワイトトラッシュぶり(ちなみにそのうちの一人で帽子を被っていない方は『ホーム・アローン』でカルキン君の意地悪な兄貴を演じてたデヴィン・ラトレイ)。
こいつらはウディの「100万ドル」を狙ってひと騒動起こすのだが、もちろん100万ドルなどあるはずがない。
ウディが100万ドルを手に入れたと思い込んだ親戚一同や古くからの知人たちの豹変振りが、人間の愚かさ、浅はかさを浮き彫りにして可笑しくも哀しい。
ウディはデイヴィッドに呟く。「連中の顔を見たか?」。
ウディは頭がハッキリしているのか、それともボケてるのかよくわからない。まるでその両方を行き来しているようだ。
早速ウディにたかる親戚や知人たち。
この時の妻ケイトの「くたばっちまえ(Fuck yourself)!」という啖呵が実に小気味よい。
いざという時に頼れるオカンである。
一方では40前の息子のことを「子どもの頃のあなたは天使みたいだった」といまだに言ってたりして親バカぶりもしっかり発揮。
たしかにデイヴィッド役のウィル・フォーテはイケメンのナイスガイだけど、でも普段はこういうことやってる人www
デイヴィッドはけっしてダメ人間ではないし両親に対しても十分よくできた息子だが、40近くて独身で2年一緒に暮らして別れたばかりの元カノのノエル(ミッシー・ドーティ)に未練がある。
そのノエルさんの体型がまた…^_^;
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おまけにデイヴィッドがこの元カノとのセックスの話とかしだすもんだから、観てるこっちは「やめろよ」と(;^_^A
こういう場面があるから、デイヴィッドにも等身大の人間としての共感が湧いてくるんだけど。
父親のウディの方はといえば、相変わらずボケてんだか正気なんだか判然としない。
この老いたとーちゃんの「どーでもよくなってる感じ」がなんともいえない。
息子が別れた彼女の話をしても上の空だし、やはりデイヴィッドの希望でネブラスカに向かう途中、ラシュモア山に寄って有名な岩に彫られた大統領たちの胸像を見ても「リンカーンには耳がない。彫ってた人間が途中で飽きたんだ」と退屈そうに語る。
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その、ほとんどのことには興味がなくどうでもよくなってしまったように見えるウディが唯一目の色を変えるのが、この「100万ドル当選」なのだ。
朝鮮戦争で辛い経験をして、しかしそのことについては語らず、ただバカ正直に生きてきたウディ。
友人のエド・ピグラム(ステイシー・キーチ)に騙され皆に馬鹿にされても、ウディはそういう人々のことを悪しざまに言うことはない。
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![](https://stat.ameba.jp/user_images/20140330/07/ei-gataro-movie-cradle/39/99/j/t02200143_0600039012891530599.jpg?caw=800)
映画の中で、ウディが故郷の人々から受けた仕打ちについて恨みがましいことを言うことは一度もない。
何かに愚直なまでに耐えてきた人、あるいは人を憎んだり疑ったりあれこれと策を弄することができない不器用な人。
ウディの親族や古い友人たちにも言い分はあるかもしれない。
ウディが酒で失敗してその尻拭いをした、というのがそれだが、ケイトは「みんなにはそれ以上のお返しをしてきた」と夫をかばう。
これだけ見ると、田舎の親戚や古い知人たちはろくでもない輩ばかりにも思えるが、中にはそうでない人々もいる。
デイヴィッドと兄のロス(ボブ・オデンカーク)が空気圧縮機を盗む家の老夫婦や、最後までウディが100万ドルを手に入れたと信じたままの人の良さそうな老人、いつも道路の前で椅子に座ってバスが通るのを眺めているおじさん、そしてウディの昔の恋人など。
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世の中にはいけ好かない奴らもいるけど、そうでない普通の人々もいる。それらが等価に描かれている。
それでも最後にウディが新車を運転している姿をエドが「信じられない」という表情で見送る場面には溜飲が下がる。
最後にウディが手に入れた車と空気圧縮機は息子にプレゼントされたものだが、ともに過ごしたこの数日間は100万ドル以上の価値がある父から息子への贈り物でもあったのだろう。
そして観客からすれば、父親のことをここまで思いやることができる息子の存在こそが、ウディがその人生で成し遂げた大いなる成果だ。
人生はしばしば滑稽で哀しく、だけど捨てたもんじゃないこともある。
ささやかな物語だけど、胸に沁みる作品でしたよ。
僕も近々、おじいちゃんとおばあちゃんのお墓参りに行ってきます。
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