紫雲膏って、ほんとに肌にいいの?
こんにちは。橋本です。
紫雲膏(しうんこう)という、漢方の軟膏。
塗り薬や保湿剤として使われていますが、美肌にも効果が期待されるとして、人気が高まっています。
でも、紫雲膏ってほんとに肌に効果があるんでしょうか?
紫雲膏とは
そもそも、紫雲膏とは何か。
紫雲膏は、漢方として使われる、濃い紫色が特徴的な軟膏です。
漢方なので、中国から来たものと思われがちですが、紫雲膏は、江戸時代の名外科医、華岡青洲(はなおか・せいしゅう)が考案した軟膏です。
昔から、やけど、傷、あかぎれ、しもやけ、あせもなど、様々な皮膚の症状に広く使われていたようです。
現在の保険適用は、やけどや痔などの治療に限られ、乾燥肌やアトピーの治療には、保険が効きません。
で、「紫雲膏の何が効くのか」ということですが。
紫雲膏の中身は、
を混ぜ合わせたものです。
その中でも「紫根」が、文字通り、紫雲膏を独特の「濃い紫色」にさせています。
紫根は、ムラサキという植物の根を乾燥させて生薬にしたものです。
ムラサキは、絶滅危惧種であるため、現在流通しているものは、種類の違うセイヨウムラサキを代用品として栽培したものが多いようです。
そして、この「紫根」に、抗炎症、抗菌、保湿作用があるとされているため、肌にいいといわれているわけです。
で、実際には、この作用がどれくらいのものなのか、おおまかにみていきます。
保湿効果
紫根のエキスを配合した乳液で、保湿効果を検証した臨床試験が、1つあります。
20代の女性30人が、28日間、毎日2回乳液をつけたところ、肌の保湿機能、バリア機能が改善したと報告されています 1) 。
ただし、ランダム化比較試験でないので、紫根のエキスそのものが、肌の保湿機能、バリア機能を改善させたのかは、この報告からはわかりません。
炎症をおさえる作用
紫根のエキスが、皮膚の炎症反応をおさえることも、複数の研究で報告されています 2, 3) 。
しかし今のところ、報告されているのは、培養細胞や動物実験でのデータにとどまっています。
実際の人間の皮膚に対して、どれだけ炎症をおさえる効果があるのかは、まだ明らかになっていません。
アトピーの治療では?
アトピー患者に紫雲膏を塗ったグループ。
それとワセリンを塗ったグループを比較すると、紫雲膏のほうで、皮膚表面の黄色ブドウ球菌がより減少したという報告があります 4) 。
アトピーでは、黄色ブドウ球菌が症状を悪化させる可能性も指摘されています。
そのため、紫雲膏を塗れば、黄色ブドウ球菌が減り、アトピーがよくなるのではないか、というわけですね。
しかし、まだ今のところ、黄色ブドウ球菌がどれだけアトピーに影響を与えているかは、はっきりしていません。
ですから、この結果だけを見て、紫雲膏がアトピーに効果がある、悪化を予防するとまではいえません。
また、「紫雲膏がアトピーを改善するか」を検証した臨床試験で有効性を認めた報告があるものの 5) 、ランダム化比較試験は、まだおこなわれていません。
とはいっても、それだけで紫雲膏がアトピーに効果がないとは言い切れず、今後、効果が証明されるかもしれません。
今現在のところは、はっきりとした効果は検証されていないわけです。
もし、紫雲膏を使うなら、症状のコントロールを期待するような治療の柱にするよりも、補助的なスキンケアとして試す。
アトピーが悪化しないことを確認しながら使うのが、無難だと思われます。
安全性
紫雲膏は、豚の油を使っているため、独特のにおいがあります。
なので、これに「アレルギーが出ることがあるのではないか?」と思うのですが、豚の油によるかぶれの報告は、とくに見当たりません。
紫雲膏にかぶれた症例では、紫根やミツロウ 6) 、ゴマ油 7) といった成分にかぶれていたと思われるケースが報告されています。
紫雲膏にかぶれることは、まれだと思われますが、皮膚の状態が悪い場合は、かぶれないか、様子をみながら使うのがベストです。
参考文献:
1) Chang MJ, et al: Cosmetic formulations containing Lithospermum erythrorhizon root extract show moisturizing effects on human skin. Arch Dermatol Res. 300(6): 317-23, 2008.
2) Ishida T, Sakaguchi I: Protection of human keratinocytes from UVB-induced inflammation using root extract of Lithospermum erythrorhizon. Biol Pharm Bull. 30(5): 928-34, 2007.
3) Kim EK, et al: Lithospermi radix extract inhibits histamine release and production of inflammatory cytokine in mast cells. Biosci Biotechnol Biochem. 71(12): 2886-2892, 2007.
4) Higaki S, et al: Efficacy of Shiunko for the treatment of atopic dermatitis. J Int Med Res. 27(3): 143-147, 1999.
5) 大熊 守也: アトピー性皮膚炎の顔面・首皮疹に対する紫雲膏の効果. 和漢医薬学会大会要旨集 13: 81, 1996.
6) 夏秋 優, ほか: 紫雲膏, 太乙膏による接触皮膚炎の1例. 日本東洋医学雑誌 51(2), 255-259, 2000.
7) 久保容二郎: アトピー性皮膚炎の自家療法(紫雲膏,プロポリス等)で生じた接触皮膚炎. 皮膚病診療 26(8): 983-986, 2004.