『ISUは奨励していないのでしょう』独占取材でマリニンが明かした『4アクセルはやらない』宣言の真意…4アクセルの基礎点は低すぎる?

 今季のGPシリーズ初戦、スケートアメリカで史上4番目のスコアを獲得して2連覇を果たし、快調なシーズンスタートをきったアメリカのイリア・マリニン。2戦目のフランス杯では、304.68点という高得点を手にしながら総合2位という結果になった

 

  それでもいち早く北京GPファイナルへの切符を手にしたマリニンが、本誌の独占取材に応じた

 

  まずフランス大会を振り返って、どのように感じているか

 

『全体的に、自分の滑りには満足しています。スケートアメリカからの良い流れを保ってSPもフリーも納得のいく演技をし、GPファイナルへ進出するという目標は達成できました』

 

  SPでは 全てのジャンプをクリーンに降りたが、ステップシークエンスでバランスを崩して転倒。それでも僅差で1位になった

 

『少しエキサイトしすぎて、気持ちが先走ってしまったんです。最後まで集中力を失ってはいけないという、良いレッスンを学びました』と転倒の理由を説明して苦笑いをした

 

順位よりも『自分らしい演技をすること』

  フリーはほとんどノーミスで滑り切ったにもかかわらず、圧巻の演技を見せたアダム・シャオ・イム・ファに逆転された。2位に終わったことに関しての悔しさはないのだろうか

 

『悔しいという気持ちは特にありません。アダムは自国開催の大会ですごくプレッシャーがあったと思う。点差もあまりなかったし、彼がとても良い演技をしたことはわかっていました。でもあまり自分にプレッシャーをかけずに、よい演技をしてGPファイナルに行くということに集中していました。もちろん、さらに質の高い演技をすることは可能ですが、目的は達成できたので』

 

  今ではどの大会でも優勝候補とみなされている彼にとって、逆にこの2位という結果によっていつも勝たなくてはというプレッシャーが少し薄れた面もあるのだろうか

 

『実際のところこの試合の場合、特に助けになったと思います。繰り返しになりますが、ここでの目標はGPファイナルに到達することだった。1位になるという順位にこだわりすぎないことで、自分らしい演技をすることに集中できたと思います』

 

今季GPシリーズで4アクセルを“封印”した理由

  2022年9月、レイクプラシッドで開催されたUSインターナショナルクラシックで4アクセルを成功させ、世界で初めて大会でこのジャンプをクリーンに降りた選手としてギネスに登録された。その後スケートアメリカ、GPファイナルなどでもきれいにきめてきた。だが今季はGP初戦のスケートアメリカから、4アクセルはやらないと宣言してきた。その理由はなぜなのか

 

『4アクセルはリスクがとても大きくて、その割には基礎点がそこまで高くないため、この試合で入れるつもりはありません』とSP後の会見で語った

 

『ISUが4アクセルの基礎点を下げた時、選手たちに大きなリスクをとってまでやって欲しくないということなのだろうと受け止めました。確かに体には大きな負担をかけますが、健康で準備できていれば可能です。でも残念ですが、ISUは奨励していないということなのでしょう』

 

  15ポイントだった4アクセルの基礎点が、現在の12.5ポイントに下げられたのは、最近のことではなくて5年前の2018/2019年シーズンからだ。下げられたのはアクセルだけではなく全種の4回転ジャンプで、演技構成点と技術点のバランスを取るためと言われている。昨シーズン、出場したほとんどの試合で4アクセルに挑んだマリニンが、今季は気持ちを変えた理由はなぜなのか

 

『昨シーズンは、名前を刻むために記録に挑戦する気持ちで4アクセルに挑みました。高い質で成功させたら、その価値をもっと高く評価してもらえるかと思っていたんです。でもやってみた結果、そこまでポイントにつながらなかった。失敗すると、クリーンな3アクセルよりも低いポイントになってしまうということを実感して、今季は控えていました』

 

4アクセルの基礎点は低すぎるのか? マリニンの意見

  実際のところ、昨シーズンのGPエスポ―大会ではマリニンは4アクセルの着氷で片手をついて減点を受け、このジャンプで獲得したポイントは8.75だった。同じ大会で2位だった佐藤駿がきれいにきめた3アクセルは、9.26を得ている

 

  3ルッツと3アクセルの基礎点の差は2.1ポイントもあるのに、4ルッツと4アクセルの基礎点の点差は1ポイントしかないのは理屈に合わないという声は、関係者の間からも少なくない。現在のところ、世界で彼のみがクリーンに成功させた超高難度の技なのである

 

『このスポーツをプッシュして進化させ、他の選手にもインスピレーションを与えることができれば良いなと思っていたのですが、ジャッジの評価をもらえなければリスクをおかす価値はありません』

 

  だがここで2位に終わったことで、再び4アクセルに挑むモチベーションができたのではないだろうか

 

『そうですね。これは以前から計画していたことですが、おそらくGPファイナルでは、自分をプッシュして再び4アクセルに挑戦して、どこまで行けるのか挑戦してみたいと思います』

 

  おそらく世界チャンピオン宇野昌磨など、強豪たちが顔を揃えるGPファイナルでは、再び4アクセルを見せてくれる予定なのだという

 

『ファイナルまでの数週間、ジャンプの構成だけではなく、全ての技をパーフェクトに調整し、表現面も磨いてマキシマムのポイントを獲得できるようにしていきたいと思っています』

 

自分ならではのユニークなスタイルを探して

  今季はSPでシェイリーン・ボーン振付によるフラメンコに挑戦するなど、表現面にもこれまで以上に力を入れてきた

 

『自分ならではのユニークなスタイルを探して、その個性をプログラムで表現したいと思っています。得意なことを最大限に強調し、同時にちょっと苦手な部分、あまり得意ではないことも上達させていきたいです』

 

  あまり得意でないこととは、何を指しているのだろうか

 

『たとえば基本的なスケーティング技術など。たとえすごくプレッシャーを感じた時でも、もっときれいに滑れるように努力していきます』

 

高校卒業、現在は地元の大学に通う

  今年の初夏に高校を卒業して、現在は地元の大学に通っている

 

『スケートに集中するために、現在はごくわずかなクラスのみをとっています。将来的にはもっと単位を増やしていく予定です』

 

  とっているクラスの一つに、コンテンポラリーダンスがあるという

 

正式に基礎からダンスを学ぶのはこれが初めての体験で、すごく楽しんでいます。体の柔軟性や、コーディネーションが以前よりも上達してきました。フロアで色々なウォームアップやストレッチ、即興的な動きなどもやります。すごくスケートにも役に立っていると思います』

 

明かした“両親への感謝”

  今季の最終目標は、世界タイトルを取ることだというマリニン。では長期的な目標はなんなのだろうか

 

『体の健康に気を付けながら、次のオリンピックに出場して成功したキャリアを築くことです。そしてたくさんの記録を作ること』

 

  今年の12月で19歳になるマリニンは、2026年ミラノオリンピックでは21歳になっている。どのくらいスケートを続けていく予定なのだろうか

 

『それは今の自分には予想することは、難しいです』と苦笑する

 

『引退する前にどのくらい記録を作れるか、様子をみながら続けていきます』

 

  母は初代四大陸チャンピオンのタチアナ・マリニナ、父のローマン・スコルニアコフは元ウズベキスタンチャンピオン。バージニアでコーチをしていた両親に、幼少期からリンクに連れて行かれた

 

『トップスケーターだった両親がこのスポーツを選んでくれて、子どもの時からやらせてくれた。いつも僕のためにそこにいてサポートしてくれたこと、そして朝早く起きてリンクに運転していって指導してくれたこと、本当に感謝しています』

 

  この両親の血を受け継ぐマリニンが、この先どのように進化していくのか楽しみだ