アメリカ大統領選が近づいている。日本の天皇家は世界最長の王朝で126代続いている。神話に遡れば2600年、考古学的に遡っても1500年以上の歴史を有する。一方でアメリカは若い国であり、独立宣言から起算して250年も経過しておらず、トランプ大統領は45代目に過ぎない。本書は、そんな米国の大統領を軸に米国の歴史を概観している。
アメリカは英国のピューリタンが移民して建国されたが、自己申告による調査だが、移民ルーツからするとドイツが17%、アフリカ13.6%、英国系12.6%、アイルランド系11.6%、メキシコ系10.9%、イタリア系5.9%であるから、ドイツ系移民が最多である。ドナルド・トランプもドイツ系である。アインシュタインやアドルノのように、第二次世界大戦中にナチスの迫害を恐れたユダヤ系がアメリカに移民したからだと考えられる。ちなみに、NYにある「グッゲンハイム美術館」で有名なグッゲンハイム家もドイツ系ユダヤ人である。
独立宣言の起草者の三代目大統領トーマス・ジェファソンは人気が高い。ナポレオンからルイジアナを購入した実績もある。しかし、混血の黒人奴隷との間に子供をもうけていたことがDNAテストで明らかになっている。米国は黒人差別の歴史は語られるが、ネイティブアメリカンの大虐殺や迫害の歴史は現在ではあまり注目されない。七代目大統領のジャクソンは、チェロキー族を強制移住させ「涙の道」事件を引き起こしているが、歴史的事実としてあまり有名ではない。ジャクソンに続くビューレンはオランダ系で英語が母国語ではないが、移民の国らしい。
日本にペリーが黒船でやってきたのは江戸も末期だが、ペリーに親書を持たせたのは十三代のフィルモアである。西部開拓が盛んで「マニフェストデスティニー」の時代である。ちなみに、黒船といえども江戸には十万人以上の武士がいたので、数百人の米国の陸戦兵に日本が負けるわけがなかったが、幕府首脳が弱腰のため不平等条約にサインすることになったという。開明派の幕府が先進的だったというのはナンセンスで、薩摩・長州などのほうが国際感覚に優れていたという。
有名なリンカーンは十六代大統領であり、有能だったが、妻は史上最悪のファーストレディーだったという。リンカーンは結局、暗殺されている。ちなみに、「ファーストレディー」という語であるが、四代目のマディソンの良妻ドリーの葬儀の際にテイラー大統領が「She will never be forgotten, because she was truly our first lady for a half-century.」といったことに起因するという。
日本人が大好きなハワイだが、そんなハワイを併合したのは二十五代マッキンリー大統領である。ハワイ王国は日本との関係強化でアメリカを牽制することを企図し、皇族山階宮定麿王とハワイ王国カイウラニ王女との縁談もあったが、日本が米国に配慮し及び腰で結局、ハワイは米国に併合されてしまった。日本は外国との政略結婚は朝鮮王朝・満州国で例があるがどちらも良い結末とはいえない。エチオピア皇室の王子と黒田子爵令嬢との縁談もあったが政治的に破断になっている。
日本の「武士道」に感銘を受けたのが、二十六代のセオドア・テディ・ルーズベルト大統領で、「テディベア」の由来になっている。彼はスポーツマンシップの観点から、熊狩りに出かけたが、瀕死の熊は撃てないと仕留めなかったのだ。ルーズベルト大統領の時「桂・タフト協定」が結ばれて朝鮮半島は日本の勢力圏となった。
国際連盟を提唱したのは二十八代ウィルソン大統領だが、根回ししなかったので米国は国際連盟に加盟できず、パリ講和会議で日本の人種差別禁止条項を拒否し、KKKを称賛していた。名門プリンストン大学総長を歴任し、同大の公共政策大学院は「ウッドロウ・ウィルソン・スクール」を冠していたが、彼の人種差別的傾向を踏まえ改名されている。
恐慌から米国経済を救ったケインズ理論にもづく「ニューディール政策」を実施したのはフランクリン・ルーズベルト大統領(三十二代)であるが、二十六代のセオドア・テディ・ルーズベルト大統領の遠い親戚である。ルーズベルト家はもともとオランダ系の名門一族である。次代がトルーマン大統領であるが、先代の政策を継ぎ「フェアディール政策」を実施した。彼が正規の大学教育を受けていない最後の大統領である。以後、半世紀以上、米国大統領は大学教育を受けた高学歴が占めているから、なんだかんだと高学歴社会のアメリカらしい。過激なトランプ大統領もペンシルバニア大卒のアイビーリーガーで、前大統領のオバマはコロンビアからハーバード、その前の息子ブッシュはイェールからハーバード、その前のクリントンもジョージタウンからイェールであり、その前のパパ・ブッシュはイェールで、五代にわたってアイビーリーガーが続いている。
米国はWASP(白人・アングロサクソン・プロテスタント)が強いが、例外がケネディで、彼は初のアイルランド系で、かつ最初で最後のカトリック教徒である。国防長官はマクナマラだったが、彼のシステム分析による政策は大失敗に終わった。奥さんのジャクリーン・ケネディは名門女子大ヴァッサー大・スミス大・フランス留学を経て名門ジョージ・ワシントン大学で学位を得ている才女で、ケネディ暗殺後にギリシャの海運王オナシスと再婚している。ジョージ・ワシントン大学はワシントンD.C.にあり、初代大統領の名に由来しており、ダレス元国務長官・パウエル元国務長官・フーヴァー元FBI長官を輩出しているが、日本のお隣韓国の初代大統領の李承晩も同大学出身である。
沖縄返還を決めて、金ドル交換停止をして「ニクソンショック」を起こしたニクソン大統領は三十七代目。彼のブレインだったキッシンジャーと中国に接近した。あまりキッシンジャーは日本があまり好きではなく、周恩来に日本の米軍基地について聞かれると、米国が抑制しないと日本が暴走して中国にマイナスだといったらしい。結局、ニクソンは「ウォーターゲート事件」で失脚している。
ノーベル平和賞を受賞した米国大統領は4人で、セオドア・ルーズベルト(二十六代)、ウィルソン(二十八代)、オバマ(四十四代)であるが、実は三十九代のカーターも受賞している。時代が映画俳優から政界入りしたレーガンであるが、小さな政府を信奉し、「レーガノミックス」を提唱したが格差社会を拡大させた。
四十二代大統領はクリントンであるが、現在では奥さんのヒラリーのほうが有名だろう。夫婦で弁護士であり、クリントン大統領の不倫問題では献身的に支えて好感度を上げ、大統領選にも出馬したがまさかのトランプに敗北している。
四十三代大統領は息子ブッシュであるが、米国大統領初のMBAホールダー(ハーバード大)である。イェールではパパ・ブッシュと同じく秘密結社「スカル・アンド・ボーンズ」に所属していた。ちなみに、民主党側のケリーもイェールで同秘密結社に所属していた。パパブッシュはサウジアラビアに米軍を駐留させて中東を反米化させたが、息子ブッシュはさらに「イラク戦争」を起こして中東を大混乱に陥れ、反米化を確定的なものにした。
現大統領の先代のオバマ大統領は、初のアフリカ系大統領であるが、露骨にリベラルな政策を繰り返した。あまり実績はないのにノーベル平和賞を受賞してしまった。メディア映りは良いが、プライベートな関係では各国首脳とのコネクションもなく外交力も弱かった。オバマからトランプ大統領になり、オバマ政権の実績はちゃぶ台返しにあっている。
四十六代を選ぶ大統領選が近いが、支持率ではバイデン氏が優勢なようだ。デラウェア大からシラキュース大ロースクールを経て弁護士になり政界入りしている。当選すればケネディ以来のアイルランド系カトリックかつ、久しぶりの非アイビーリーガーの大統領になる。
ちなみに、オバマも弁護士であるし、クリントン・フォード・ニクソン・ルーズベルトなども弁護士である。歴代大統領のうち6割が弁護士と言えばその割に驚かされるが、アメリカではロースクールさえ卒業すれば8~9割が司法試験にパスでき、全米で約140万人の弁護士がいるので母数が多いというのが理由だろう。日本はもともと旧司法試験は2~3%の合格率で、現在でも3割程度、弁護士が増えたといっても4万人に過ぎない。
全大統領から米国史を復習できて勉強になった。