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もう今年が1か月とちょっとで終わると思うと1年が経つのは早い。コロナの流行からよく考えてみるとピアノコンサートにいってなかったので久しぶりに行ってきた。ピアニストは若林顕、場所は東京芸術劇場である。席は間引いてあったのでお客さんは約半分しか入っていないが、人が少ないと音が吸収されないのでよく響く。コロナ鎮静化までしばらくは海外の音楽家が来日できないので、日本人音楽家をみなおす良い機会だと思う。

 

日本は明治時代に西洋音楽を輸入し、ベルリンフィルのコンマスだったユンケルや昭和初期にもブゾーニの高弟のレオ・シロタや、巨匠クロイツァーなどが日本で教えていたというから驚かされる。日本のクラシック音楽文化の礎は先人の地道な積み重ねによって成り立っている。その甲斐もあり、現在、国際ピアノコンクールにおいて日本人は入賞者数では上位でありLINK 1LINK 2LINK 3)、クラシック音楽家の水準はかなり高いといっていい。日本各地に素晴らしいコンサートホールも点在しており、クラシック音楽に親しみやすい環境が整っている。これは先人の努力のたまものである。

 

ちなみに、曲目は次の通りである。

・ラフマニノフ:楽興の時 第1番~第4番
・シューマン:幻想曲ハ長調Op.17
・ラヴェル:水の戯れ
・ショパン:24のプレリュードOp.28(全曲)

 

若林顕さんは著名なブゾーニコンクールとエリザベートコンクールでそれぞれ第2位に入賞経験がある。初めて生で演奏を聴いたが、貫禄ある圧巻の演奏だった。確たる技巧によって非常に安定した演奏でありブレがなく、音の表現力も多彩で、音楽性は驚くほどに高い。軽々弾いているので忘れてしまうが、演奏曲目はかなりの技巧を要する難曲であると思い返すと彼の凄さが分かる。さらには4回のアンコール演奏があったが、粋だったのが、最後の曲。なんと「ムーンリバー」。クラシック音楽なプログラムの後のアンコールのラストが、映画「ティファニーで朝食を」の主題歌とは、ああ、なんと洒落てて素敵なんでしょう。こんな瀟洒なラストってあるのね。ああ、円熟したピアニストってこんなに凄いのね。流行りの音楽家ばかりに人気が集まりやすいが、こうした名ピアニストのコンサートももっと注目が集まるといいと思う。

 

 

現在のファッションビジネスの基礎をつくったのがイタリア生まれフランス育ちのピエール・カルダンといっても過言ではないだろう。ライセンス品による多角化やロゴを隠さずにあえて見せるデザインなどを初めて行ったのだ。もともとは建築家志望だったがファッション界に入りクリスチャン・ディオールの立ち上げに参画後に独立し60~70年代に時代の寵児となった。もとはオートクチュールだったがプレタポルテに事業を拡大し一世を風靡した。まだ人種差別の強い時代に日本人モデルや黒人モデルを起用したり、またディオールのもとにいたわりに女性的な体形を度外視したフォルムや幾何学模様を好むアヴァンギャルドなデザインで注目を集めた。彼に見いだされたモデルが故 松本弘子であった。ちなみに、カルダンのアシスタントをやっていたのがジャン=ポール・ゴルチエであり、彼のアシスタントだったのがマルタン・マルジェラである。

彼のライセンス品販売はブランド価値を毀損したともいえるが、膨大なライセンス契約は彼に莫大な富をもたらし、LVMHなどの巨大ラグジュアリーブランドグループによる買収を逃れたという。現在だと著名ブランドは巨大資本に統合されている。ヴィトン・セリーヌ・ブリガリ・フェンディなどはすべてLVMH、グッチ・バレンシアガ・アレクサンダーマックイーン・ボッテガヴェネタはケリング、カルティエ・ダンヒル・クロエはリシュモンの傘下である。シャネル・エルメスは独自路線をいっており、ロレックスにいたっては上場すらしてないが、カルダンも莫大なライセンス報酬で独自路線を貫けている。ちなみに、ジル・サンダーは自己のブランドをプラダに買収されたが、プラダと方針で対立してジル・サンダー自身はブランドのジル・サンダーからは抜けていたりするのが面白い(プラダはジル・サンダーをすでに売却済み。このラグジュアリーブランドのデザイナーだったジル・サンダーはユニクロを展開するファーストリテイリングと契約しているのが興味深い。ファーストリテイリングはファストファッションのイメージが強いがエルメスのデザイナーだったクリストフ・ルメールとも契約し、ブランド価値を上げている。アパレル業界だとファーストリテイリングは世界第2位の売り上げだ。)。

 

ライセンス契約は有名ブランドにとって「打ち出の小槌」であるが、ブランド価値の毀損を招くという「諸刃の剣」でもある。日本でもタオル等に有名ブランドのロゴがついていたりするが、ほとんどが日本企業がロゴやブランド名のライセンス契約を結んで製造している日本製である(子供ながらにこのイブサンローランのロゴはなんだと思っていた笑)。

 

ライセンス品で有名どころだったのは、三陽商会が英国のバーバリーとライセンス契約を結んでバーバリー・ブラックレーベルとブルーレーベルだったが、数年前にライセンス契約を切られてしまい、独自のクレストブリッジにブランド名を変更したりしている。日本で人気のポール・スミスも、日本で主流なのはオンワード樫山のライセンス品である。以前、英国のヴィヴィアン・ウエストウッドのドキュメンタリー映画「ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス」をみていたら、息子が「(母は反対だったけど)日本企業とライセンス契約を結んだから母はこれで安泰だ」というシーンがあり、一方で母親はライセンス品のすべてのデザインをチェックすると意気込んでいて、ブランドの維持は大変だなと感じた。こうした海外ブランドが日本企業とライセンス契約を結んでくれるのは商社の営業力のおかげだろうし、日本は巨大市場だからなんだろう(一人当たりGDP3万米ドル超かつ人口1憶超の大国は米国と日本しかない)。


本作はカルダンに迫ったドキュメンタリーであるが、本人へのインタビューも多く、また日本とのゆかりも感じられて興味深く観られた。いまでこそあまり日本ではカルダンは知名度が高くないと思うが、ファッション界の生きる伝説である。ファッションに興味ある人にはおすすめの一本だ。

 

3.7 / 5.0

前回のヒラリー vs トランプでもそうだったが世論調査が間違えたという見解が多い。Newsweekも「クリントン当選を予想していた世論調査は何を間違えたのか」なる記事を書いていたりする。今回の選挙でも世論調査と違う結果が出るとコメンテーターが驚きのコメントを出すが、逆に世論調査で結果が予測できるという論調に私は驚かされる。

 

世論調査はあくまで全数調査ではなく、一部のサンプリングから全体を予測しているに過ぎない。正確な調査のために全数調査をすればいいという人もいるだろうが、みそ汁の味見をするときに全部飲み干す人がいるだろうか。一部から全体の味はだいたいわかるものだ。それに全数調査は手間暇がかかるので、一部のサンプリングから全体を予測することが経済合理的である。ただ、全数を調査するわけではないので当然、誤差が出てくる。サンプルサイズをいかほどにするのかは統計学上、標準誤差・信頼係数をどの程度とするのかによって変わるが、適切なサンプリングをしているのであれば、日本の場合はサンプルサイズは1000人以上あれば、信頼にたる調査結果といえる。2000~3000人のほうがいいじゃないかと考える人もいるが、生じる誤差は1000人と2000~3000人ではほとんど大差ないので、コスト的に1000人程度に抑える場合が多い。サンプリングの手法も重要で、例えば固定電話へ昼間に架電すれば一軒家の主婦層が多いだろうし、一方でネット調査の場合は高齢者のサンプルが少なくなる。一部のサンプルから全体を予測するのが合理的とはいえ、誤差はつきものなのである。世論調査が不正確なのではなく、世論調査の解釈が不適切なのである。

 

それにこうした選挙では組織票の問題や心理的な効果の問題もある。日本では公明党のような宗教団体を母体とする政党は選挙に強い。組織の構成員は使命感により、天候やメディア報道に左右されずに特定の政党に投票してくれる。一方で特に支持政党がないような浮動票は、雨だと得票率は下がるし、メディアに左右されやすい。私が某有名政治家のところでインターンしていたとき、その政治家の参謀は週刊誌に「XX氏は劣勢」と書かせていた。「逆境に負けずに頑張ります」という同情票を取るためだ。こうした大衆心理の掌握の天才は小池百合子だ。日本でも参院選の東京選挙区で都連の全面バックアップを受けた大本命の保坂三蔵は落選し、同選挙区で、知名度でも劣りメディア報道でも大劣勢が報じられた丸川珠代に同情票が殺到して当選したことが個人的に記憶に残っている。「予言の自己成就」もあれば「予言の自己破壊」もあるのだ。

 

日本はメディア報道をみてもとにかくメディアは統計リテラシーがない。個人的には社会科学系の学部では、基礎的な経済学・統計学ぐらいは必修にすべきだと思っている。AO推薦で入口で選抜しない以上、入学後の教育を強化すべきだし、ついてこれない人は退学させるべきだ。一昔前のように大学は頑張ったから、大学時代は遊ぶという図式は成り立たない。もはや大学名が学力を担保しない以上、「学歴」から「学習歴」が重要になる。社会人も時代についていくために様々な分野を継続的に学ぶべきだ。リカレント教育も日本で普及すればいいと思う。以前、古館伊知郎がテレビで「パワポって専門家ならわかるのでしょうか」といっていて衝撃だった(IT系のニュースをさんざん報道してきてパワーポイントを知らない!?)。そんな時勢において、統計リテラシーの欠片もないコメンテーターの意見を聞いていると、とても悲しくなってくる。

 

ただ以上の話は統計学的な厳密性はないので、深く知りたいのであれば専門書を読んでほしい。ただ一般人には高度な統計数学は不要だ。入門としては次の本が分かりやすい。

 

 

 

 

 

 

アメリカ大統領選が近づいている。日本の天皇家は世界最長の王朝で126代続いている。神話に遡れば2600年、考古学的に遡っても1500年以上の歴史を有する。一方でアメリカは若い国であり、独立宣言から起算して250年も経過しておらず、トランプ大統領は45代目に過ぎない。本書は、そんな米国の大統領を軸に米国の歴史を概観している。

 

アメリカは英国のピューリタンが移民して建国されたが、自己申告による調査だが、移民ルーツからするとドイツが17%、アフリカ13.6%、英国系12.6%、アイルランド系11.6%、メキシコ系10.9%、イタリア系5.9%であるから、ドイツ系移民が最多である。ドナルド・トランプもドイツ系である。アインシュタインやアドルノのように、第二次世界大戦中にナチスの迫害を恐れたユダヤ系がアメリカに移民したからだと考えられる。ちなみに、NYにある「グッゲンハイム美術館」で有名なグッゲンハイム家もドイツ系ユダヤ人である。

 

独立宣言の起草者の三代目大統領トーマス・ジェファソンは人気が高い。ナポレオンからルイジアナを購入した実績もある。しかし、混血の黒人奴隷との間に子供をもうけていたことがDNAテストで明らかになっている。米国は黒人差別の歴史は語られるが、ネイティブアメリカンの大虐殺や迫害の歴史は現在ではあまり注目されない。七代目大統領のジャクソンは、チェロキー族を強制移住させ「涙の道」事件を引き起こしているが、歴史的事実としてあまり有名ではない。ジャクソンに続くビューレンはオランダ系で英語が母国語ではないが、移民の国らしい。

 

日本にペリーが黒船でやってきたのは江戸も末期だが、ペリーに親書を持たせたのは十三代のフィルモアである。西部開拓が盛んで「マニフェストデスティニー」の時代である。ちなみに、黒船といえども江戸には十万人以上の武士がいたので、数百人の米国の陸戦兵に日本が負けるわけがなかったが、幕府首脳が弱腰のため不平等条約にサインすることになったという。開明派の幕府が先進的だったというのはナンセンスで、薩摩・長州などのほうが国際感覚に優れていたという。

 

有名なリンカーンは十六代大統領であり、有能だったが、妻は史上最悪のファーストレディーだったという。リンカーンは結局、暗殺されている。ちなみに、「ファーストレディー」という語であるが、四代目のマディソンの良妻ドリーの葬儀の際にテイラー大統領が「She will never be forgotten, because she was truly our first lady for a half-century.」といったことに起因するという。

 

日本人が大好きなハワイだが、そんなハワイを併合したのは二十五代マッキンリー大統領である。ハワイ王国は日本との関係強化でアメリカを牽制することを企図し、皇族山階宮定麿王とハワイ王国カイウラニ王女との縁談もあったが、日本が米国に配慮し及び腰で結局、ハワイは米国に併合されてしまった。日本は外国との政略結婚は朝鮮王朝・満州国で例があるがどちらも良い結末とはいえない。エチオピア皇室の王子と黒田子爵令嬢との縁談もあったが政治的に破断になっている。

 

日本の「武士道」に感銘を受けたのが、二十六代のセオドア・テディ・ルーズベルト大統領で、「テディベア」の由来になっている。彼はスポーツマンシップの観点から、熊狩りに出かけたが、瀕死の熊は撃てないと仕留めなかったのだ。ルーズベルト大統領の時「桂・タフト協定」が結ばれて朝鮮半島は日本の勢力圏となった。

 

国際連盟を提唱したのは二十八代ウィルソン大統領だが、根回ししなかったので米国は国際連盟に加盟できず、パリ講和会議で日本の人種差別禁止条項を拒否し、KKKを称賛していた。名門プリンストン大学総長を歴任し、同大の公共政策大学院は「ウッドロウ・ウィルソン・スクール」を冠していたが、彼の人種差別的傾向を踏まえ改名されている。

 

恐慌から米国経済を救ったケインズ理論にもづく「ニューディール政策」を実施したのはフランクリン・ルーズベルト大統領(三十二代)であるが、二十六代のセオドア・テディ・ルーズベルト大統領の遠い親戚である。ルーズベルト家はもともとオランダ系の名門一族である。次代がトルーマン大統領であるが、先代の政策を継ぎ「フェアディール政策」を実施した。彼が正規の大学教育を受けていない最後の大統領である。以後、半世紀以上、米国大統領は大学教育を受けた高学歴が占めているから、なんだかんだと高学歴社会のアメリカらしい。過激なトランプ大統領もペンシルバニア大卒のアイビーリーガーで、前大統領のオバマはコロンビアからハーバード、その前の息子ブッシュはイェールからハーバード、その前のクリントンもジョージタウンからイェールであり、その前のパパ・ブッシュはイェールで、五代にわたってアイビーリーガーが続いている。

 

米国はWASP(白人・アングロサクソン・プロテスタント)が強いが、例外がケネディで、彼は初のアイルランド系で、かつ最初で最後のカトリック教徒である。国防長官はマクナマラだったが、彼のシステム分析による政策は大失敗に終わった。奥さんのジャクリーン・ケネディは名門女子大ヴァッサー大・スミス大・フランス留学を経て名門ジョージ・ワシントン大学で学位を得ている才女で、ケネディ暗殺後にギリシャの海運王オナシスと再婚している。ジョージ・ワシントン大学はワシントンD.C.にあり、初代大統領の名に由来しており、ダレス元国務長官・パウエル元国務長官・フーヴァー元FBI長官を輩出しているが、日本のお隣韓国の初代大統領の李承晩も同大学出身である。

 

沖縄返還を決めて、金ドル交換停止をして「ニクソンショック」を起こしたニクソン大統領は三十七代目。彼のブレインだったキッシンジャーと中国に接近した。あまりキッシンジャーは日本があまり好きではなく、周恩来に日本の米軍基地について聞かれると、米国が抑制しないと日本が暴走して中国にマイナスだといったらしい。結局、ニクソンは「ウォーターゲート事件」で失脚している。

 

ノーベル平和賞を受賞した米国大統領は4人で、セオドア・ルーズベルト(二十六代)、ウィルソン(二十八代)、オバマ(四十四代)であるが、実は三十九代のカーターも受賞している。時代が映画俳優から政界入りしたレーガンであるが、小さな政府を信奉し、「レーガノミックス」を提唱したが格差社会を拡大させた。

 

四十二代大統領はクリントンであるが、現在では奥さんのヒラリーのほうが有名だろう。夫婦で弁護士であり、クリントン大統領の不倫問題では献身的に支えて好感度を上げ、大統領選にも出馬したがまさかのトランプに敗北している。

 

四十三代大統領は息子ブッシュであるが、米国大統領初のMBAホールダー(ハーバード大)である。イェールではパパ・ブッシュと同じく秘密結社「スカル・アンド・ボーンズ」に所属していた。ちなみに、民主党側のケリーもイェールで同秘密結社に所属していた。パパブッシュはサウジアラビアに米軍を駐留させて中東を反米化させたが、息子ブッシュはさらに「イラク戦争」を起こして中東を大混乱に陥れ、反米化を確定的なものにした。

 

現大統領の先代のオバマ大統領は、初のアフリカ系大統領であるが、露骨にリベラルな政策を繰り返した。あまり実績はないのにノーベル平和賞を受賞してしまった。メディア映りは良いが、プライベートな関係では各国首脳とのコネクションもなく外交力も弱かった。オバマからトランプ大統領になり、オバマ政権の実績はちゃぶ台返しにあっている。

 

四十六代を選ぶ大統領選が近いが、支持率ではバイデン氏が優勢なようだ。デラウェア大からシラキュース大ロースクールを経て弁護士になり政界入りしている。当選すればケネディ以来のアイルランド系カトリックかつ、久しぶりの非アイビーリーガーの大統領になる。

 

ちなみに、オバマも弁護士であるし、クリントン・フォード・ニクソン・ルーズベルトなども弁護士である。歴代大統領のうち6割が弁護士と言えばその割に驚かされるが、アメリカではロースクールさえ卒業すれば8~9割が司法試験にパスでき、全米で約140万人の弁護士がいるので母数が多いというのが理由だろう。日本はもともと旧司法試験は2~3%の合格率で、現在でも3割程度、弁護士が増えたといっても4万人に過ぎない。

 

全大統領から米国史を復習できて勉強になった。

 

 

コロナで在宅勤務が増え、通勤を気にせずに住む場所を選べるようになったという言説が最近は強い。一方でたしかにオフィス需要は減退しているが、都心不動産への需要は減退していないそうだ。たしかに通勤に関係なくとも、東京都心には最先端の文化施設があり、様々な催し物があり、在宅勤務が普及したため都心に住む必要性はなくなったが、それでも都心に住む楽しみは消滅していないのだ。

 

マスコミはここぞとばかりに地方回帰を報道しているが、そのメディア関係者は地方移住したかといえばNOだろう。たしかに職場に徒歩でいけるほど近くある必要はないが、都心に十数分ぐらいでいける土地への需要は減退しない。レベルの高い小中高も都心にあるので子育て世帯も都心に住むメリットは大きい。本書は2016年発売であるが、東京に住むことのあれこれをまとめている。薄い新書なのでサラりと読めるが、若干薄くて物足りなさがないわけではない。

 

東京は「西高東低」である。池袋・新宿・渋谷という副都心は西に偏っており、吉祥寺・中目黒・恵比寿・自由が丘などの人気スポットや、東急東横線・東急田園都市線・中央線などの人気路線も西側に偏っている。なぜ西側が栄えているかといえば、東側には江戸川・隅田川があったので鉄道の延伸がしにくかったからだという。西側は早くに路線が整備され、ホワイトカラーの新中流階級が住むエリアとなった一方で、東北から集団就職してきた貧しい若者は上野に到着し、東側に住み着いた。ゆえに「西高東低」の構図が出来上がったのだ。

 

最近だと地方回帰の報道が多いが、それは地方自治体が人口減少に歯止めをかけようとPR合戦を繰り広げており、その多額のマネーが広告・報道業界に流れ込んでいるからだという。たしかに地方移住は増えてはいるが、大きなトレンドにはなっていないのが現実である。コロナ禍においても同様で、転入超過が緩和されたとはいえ転入超過は継続している。

 

それに通信技術の発達で都心に住む必要性はなくなるという予想は約40年前のトフラー「第三の波」にはじまり枚挙にいとまがないが、これまで外れ続けた。いまはコロナ禍で一時的に在宅勤務が普及しているがどの程度続くかは分からない。結局、職場でもニューメンバーのOJTをどうするのか、人間関係の構築をどうするのかなどの問題が顕在化しつつある。ゆくゆくは会社の一体性や情報セキュリティなどの問題も起きてくると思う。

 

それに人間の脳はface to faceのコミュニケーションに最適化されており、画面越しのコミュニケーションにはやはり若干の違和感がある。イノベーションも農村では起きない。自然に囲まれているのは快適だが、イノベーションは、人と人との予期せぬ出会いやコミュニケーション、新しい文化との接触、五感での体験によって生じるものだ。

 

たしかに通信技術の発達により都心に住む必要性はないが、だかといって農村に住む必要性もない。住宅コストに見合うだけのメリットがあるのであれば都心に住み続けるものだ。東京都心部にある多様な文化施設、豊富な飲食店、日夜開催されるイベントなどを楽しむために、相応の住宅費を支払うことは不合理だろうか?私はそう思わない。

 

本書が発売された2016年は都心六区への集中が続いていた時期であるが、たしかに通勤の必要性がなくなったのでそこまでの職住近接は不要であるがゆえに、これからは都心六区の周辺の区や東京市部、千葉埼玉神奈川のうち東京近接エリアに人口集中は分散するとは思う。コロナでたしかにホワイトカラーの住む場所は自由になったが、だからこそ純粋に街の魅力を比較して都心に住む価値が見直されてくると思う。