前回のヒラリー vs トランプでもそうだったが世論調査が間違えたという見解が多い。Newsweekも「クリントン当選を予想していた世論調査は何を間違えたのか」なる記事を書いていたりする。今回の選挙でも世論調査と違う結果が出るとコメンテーターが驚きのコメントを出すが、逆に世論調査で結果が予測できるという論調に私は驚かされる。

 

世論調査はあくまで全数調査ではなく、一部のサンプリングから全体を予測しているに過ぎない。正確な調査のために全数調査をすればいいという人もいるだろうが、みそ汁の味見をするときに全部飲み干す人がいるだろうか。一部から全体の味はだいたいわかるものだ。それに全数調査は手間暇がかかるので、一部のサンプリングから全体を予測することが経済合理的である。ただ、全数を調査するわけではないので当然、誤差が出てくる。サンプルサイズをいかほどにするのかは統計学上、標準誤差・信頼係数をどの程度とするのかによって変わるが、適切なサンプリングをしているのであれば、日本の場合はサンプルサイズは1000人以上あれば、信頼にたる調査結果といえる。2000~3000人のほうがいいじゃないかと考える人もいるが、生じる誤差は1000人と2000~3000人ではほとんど大差ないので、コスト的に1000人程度に抑える場合が多い。サンプリングの手法も重要で、例えば固定電話へ昼間に架電すれば一軒家の主婦層が多いだろうし、一方でネット調査の場合は高齢者のサンプルが少なくなる。一部のサンプルから全体を予測するのが合理的とはいえ、誤差はつきものなのである。世論調査が不正確なのではなく、世論調査の解釈が不適切なのである。

 

それにこうした選挙では組織票の問題や心理的な効果の問題もある。日本では公明党のような宗教団体を母体とする政党は選挙に強い。組織の構成員は使命感により、天候やメディア報道に左右されずに特定の政党に投票してくれる。一方で特に支持政党がないような浮動票は、雨だと得票率は下がるし、メディアに左右されやすい。私が某有名政治家のところでインターンしていたとき、その政治家の参謀は週刊誌に「XX氏は劣勢」と書かせていた。「逆境に負けずに頑張ります」という同情票を取るためだ。こうした大衆心理の掌握の天才は小池百合子だ。日本でも参院選の東京選挙区で都連の全面バックアップを受けた大本命の保坂三蔵は落選し、同選挙区で、知名度でも劣りメディア報道でも大劣勢が報じられた丸川珠代に同情票が殺到して当選したことが個人的に記憶に残っている。「予言の自己成就」もあれば「予言の自己破壊」もあるのだ。

 

日本はメディア報道をみてもとにかくメディアは統計リテラシーがない。個人的には社会科学系の学部では、基礎的な経済学・統計学ぐらいは必修にすべきだと思っている。AO推薦で入口で選抜しない以上、入学後の教育を強化すべきだし、ついてこれない人は退学させるべきだ。一昔前のように大学は頑張ったから、大学時代は遊ぶという図式は成り立たない。もはや大学名が学力を担保しない以上、「学歴」から「学習歴」が重要になる。社会人も時代についていくために様々な分野を継続的に学ぶべきだ。リカレント教育も日本で普及すればいいと思う。以前、古館伊知郎がテレビで「パワポって専門家ならわかるのでしょうか」といっていて衝撃だった(IT系のニュースをさんざん報道してきてパワーポイントを知らない!?)。そんな時勢において、統計リテラシーの欠片もないコメンテーターの意見を聞いていると、とても悲しくなってくる。

 

ただ以上の話は統計学的な厳密性はないので、深く知りたいのであれば専門書を読んでほしい。ただ一般人には高度な統計数学は不要だ。入門としては次の本が分かりやすい。