以前集計していた国際音楽コンクールの入賞者の国籍別ランキングの続き。

 

【前回記事】

・ショパン国際ピアノコンクール ⇒ こちら

・エリザベート王妃国際音楽コンクール ⇒ こちら

 

ショパンコンクールでは日本は入賞者数ランキングで第3位、エリザベートでは第5位だった。結果を先に書くと、ロン=ティボーは第3位、リーズ第7位、チャイコフスキーコンクール第8位だった。世界的にみても日本人ピアニストは国際コンクールの上位入賞者の常連だ。

 

◆五大コンクールの入賞者数(国籍別)

・ロシア:184人(ソ連128人)
・アメリカ:89人
・フランス:85人

・日本:58人
・ポーランド:28人
・韓国:28人
・中国:26人
・イタリア:24人
・イギリス:22人
・ハンガリー:20人
・ブルガリア:19人
・ドイツ:18人

 

但し、イタリアのブゾーニ国際コンクール、スイスのジュネ―ヴ国際ピアノコンクール、アメリカのヴァンクライバーン国際ピアノコンクールなどの有力コンクールを加えれば、イタリア人、アメリカ人、スイス人のピアニストはもう少し入賞者が増えるだろう。これらのコンクールを加えなかったのは、単純にwikiに国籍情報が無くて集計できなかったためだ。公式サイトからデータを引っ張ってくれば集計できるが、個人でそこまでやる時間がない笑。年代別等でまとめたらさらに面白い分析ができるだろう。上記だとフランス人入賞者が多いが、半数はフランス開催のロンティボーの入賞者である。5大コンクールの開催国出身者が有利になっている点は強調しておきたい。あと、勝手に5大コンクールといっているが、別に定義があるわけではない。

 

国策で育成していたロシアや、移民大国のアメリカはやはり入賞者が多い。フランス勢も健闘しており、フレンチピアニズムの健在ぶりがうかがえる(単にフランスのコンクールのロンティボーの開催数が多いというのもあるが)。一方で、意外にも3B(ベートーヴェン・バッハ・ブラームス)を輩出したドイツ人の入賞が少なかったのが意外である。かつての覇権国のイギリスも驚くほどパッとしない。ブゾーニ・ミケランジェリを輩出したが、その後ビックネームを出していないイタリアだったが、最近は入賞者数がまた増えている。中国は文化大革命後の停滞を経て復活傾向である。入賞者も多いが、人口の母数も多いから当然だ。韓国も国策で育成しているので存在感を増している。韓国の場合、特に男の場合は、とりあえず何かしらのコンクールで入賞して徴兵を逃れたいという思いがあるので必死らしく、見境なく手当たり次第にコンクールを受けまくっており、1人でいくつものコンクールに入賞している - ただ超急激な少子化に直面しておりいまがピークだろう。小国ながらポーランド、ハンガリー、ブルガリアは入賞者が多い。ハンガリーはリストの祖国であり、リスト音楽院があることも影響しているだろう。ポーランドはショパンの祖国だ。ブルガリアが多い理由は知らないので、知っている方がいれば教えてほしい。

 

日本の入賞者数は非西欧圏という点も考えると異常な人数であるが、人口規模はイギリス・イタリアの2倍である点を考えると、そこまで多くはないのかもしれない。しかし、このコンクールの入賞者数はピアニズムの広がりを示していて興味深い。なぜヨーロッパでスペイン人ピアニストは少ないのか、南米ではクラシックピアノ演奏家が少ないのか、一方で非西欧圏の東アジア諸国はなぜクラシック音楽を愛するのか、等さまざまな思考を広げることが出来る。

 

ロン=ティボー国際コンクール

フランス:47人
ソ連:33

日本:28人

米国:12人
韓国:9人
ロシア・ブルガリア:8人
中国・ロシア:7人
ポーランド・ハンガリー・イタリア:6人
チェコスロヴァキア・イギリス・オーストリア:4人
トルコ・ドイツ:3人
キューバ・アルゼンチン・オランダ・ルーマニア:2人
フィリピン・エクアドル・スウェーデン・チェコ・ウクライナ・ラトビア・レバノン・エジプト・ベルギー・ブラジル・スペイン・ポルトガル・ギリシャ・イギリス領インド:1人

 

日本人多過ぎワロタ。やっぱり日本人はフランスが好きなんだと思う。フランスの華やかで美しい文化への憧れは異常に強く、「パリ症候群」なんて言葉も生まれるぐらいだから。ショパンコンクールも日本で人気だが、ショパンのスラヴ的な哀愁が日本人の感性にあっているんだと思う。エリザベートでも日本人入賞者が多かったが、ベルギー南部はフランス語圏である。

 

リーズ国際ピアノコンクール

米国:16人
ソ連:9人
フランス:9人
イギリス・ロシア:8人
イタリア:7人
中国・
日本:6人
韓国:5人
ドイツ:4人
ブラジル・NZ・ハンガリー:3人
カナダ・ウクライナ:2人
台湾・ナイジェリア・ポルトガル・セルビアモンテネグロ・ブルガリア・フィンランド・ウズベキスタン・香港・ラトビア・スイス・スペイン・イスラエル・ルーマニア・アルメニア:1人

 

米国が一番大賀、ソ連とロシアを足すと17人で最多だ。米露が強い。次いでフランス、イギリス、イタリアが続く。意外なのが日本と中国の入賞者数が一緒で、すぐ下に韓国が迫っている。日本の音楽関係の留学先でたしかにイギリスは聞かないので、イギリスのコンクールを受けたいという人がそもそも少ないのだろう。イギリスはかつての覇権国だが、意外にもあまり作曲家で有名な人はおらずせいぜいヘンデル(実は出稼ぎにきたドイツ人)ぐらいだろうか。

 

チャイコフスキーコンクール(ピアノ部門)

ソ連:37人
ロシア:19人
米国:17人
フランス:9人
イギリス:6人
中国・韓国:5人
ウクライナ・ドイツ・ブルガリア・
日本:3人
ベルギー:2人
ベラルーシ・キューバ・ハンガリー・ブラジル・リトアニア・フィリピン・NZ・カナダ:1人

 

入賞者は、ソ連・ロシアが圧倒的に多い。もともとソ連の文化水準の高さをアピールするためのコンクールだから当然だが。そんなコンクールの初代の入賞者は実はアメリカ人のヴァン・クライバーンだったのは有名だ。意外なのが日本人入賞者の少なさだ。日本はピアノ部門で優勝者(上原彩子)を出しているが入賞者はわずか3人にとどまる。しかし、他の部門(ヴァイオリン・声楽・チェロ)もあわせると日本人入賞者数は20人。フランス15人、ドイツ・中国14人、イギリス8人、韓国7人となり、順位はかなり入れ替わる。これは開催時期の問題だったり(開催時期が同じ場合より入賞しやすいコンクールに流れる)、課題曲の問題もあろう。