JR西日本は2月19日、大阪万博の開催期間(4月13日~10月13日)の間に、特急「こうのとり」上下4本を谷川駅に臨時停車させること、加古川線の西脇市~谷川間で臨時列車を2往復設定し、加古川線の利用増加に係る実証実験を行うことを公表しました。今回はこの実証実験の内容について、そして加古川線の今後の展望について考察します。
250219_00_press_Kakogawaline_zohatu_Kounotori_rinjiteisya.pdf
1.JR加古川線について
JR加古川線は、加古川駅から厄神駅、粟生駅、西脇市駅などを経て谷川駅までを結ぶ路線です。兵庫県の中部を南北に通っています。 加古川駅でJR山陽本線(神戸線)、粟生駅で北条鉄道・神戸電鉄粟生線と、谷川駅で福知山線とそれぞれ乗り継ぐことができます。
南側の加古川駅~西脇市駅間は一定の利用があり、毎時1本程度列車が設定されているものの、北側の西脇市駅~谷川駅間は特に利用が少なく、平日は1日9往復、土休日は1日8往復しか運行がありません。令和5年度の輸送密度は275と低く、存続が危ぶまれている状況です。
2.加古川線 利用増加に係る実証実験について
加古川線の中でも特に利用の少ない西脇市駅~谷川駅間について、大阪万博開催中に利用増加に向けた実証実験が実施されることになりました。内容は次の2点です。
(1)谷川駅 特急「こうのとり」の一部列車臨時停車
福知山線を走る特急「こうのとり」の一部列車が谷川駅に臨時停車し、加古川線との乗り継ぎ利用を増やす策がとられます。
この特急「こうのとり」の谷川駅臨時停車については、令和6年7月1日~令和7年2月28日にも加古川線の利用促進に係る実証実験として取り組まれており、このときは福知山方面行き2本、大阪方面行き4本が臨時停車していました。
240517_00_press_tanigawaeki_kounotori.pdf
240903_00_press_Tanikawarinjiteishiya.pdf
大阪万博期間中は、福知山方面行きが1本、大阪方面行きが3本停車します。前回の実験と比較すると、今回は午前中の特急「こうのとり3号・10号」は臨時停車せず、通常ダイヤ通り通過となっています。
そもそも、前回の特急「こうのとり」の臨時停車は、加古川線の利用促進にほとんど寄与していません。というのも、臨時停車することにより、加古川線との乗り継ぎが良くなる部分が2例しかなかったためです。詳細は以前の記事をご覧ください。
特急「こうのとり」3号・10号が通過となっても、加古川線との乗り継ぎには影響はないので、通過に変更したとみられます。
(2)加古川線 臨時列車増発
また、万博開催期間中は、西脇市駅~谷川駅間で2往復臨時列車が増発されます。(1)(2)あわせて、加古川線のダイヤについてみてみましょう。
西脇市駅~谷川駅の臨時列車の途中駅の発車時刻、臨時停車する特急「こうのとり」の谷川駅到着時刻は当局の推定なので、1分ほどズレがある可能性があります。予めご了承ください。
<平日>
<土休日>
時刻表中の肌色で示した列車が臨時列車、黄色で示されている特急列車は谷川駅に臨時停車するものです。西脇市駅~谷川駅間は運行本数が少なく、日中時間帯は3時間ほど列車の運行がない時間帯があります。その部分に臨時列車が走ることになります。
谷川駅に臨時停車する特急「こうのとり」との関係を見ると、臨時停車する4本のうち、3本が加古川線との乗り継ぎに寄与していることが分かります。前回の実証実験のときよりは、特急の臨時停車と加古川線の利用促進がリンクしているといえます。
加古川線は加古川駅~谷川駅までを結んでいますが、全線を通して走る列車は1日1往復のみで、他は全て西脇市駅で乗換となります。臨時列車のダイヤをみると、谷川行き2本と谷川13:15発の西脇市行き臨時列車は、西脇市駅での乗り継ぎが良いように、谷川10:53発の西脇市行きについては福知山線との乗り継ぎが良いように考慮されていることが分かります。ただ、どちらも両立させることができないというのが、一つ悩ましい問題としてあります。
3.沿線自治体とJRの意向
今回の臨時列車増発、特急の臨時停車により、西脇市駅~谷川駅間の利用増加を検証するというのが、今回の実証実験の目的です。この実験結果がどうなるかによって、今後の展開は変わっていくと思いますが、もし利用が大して伸びなかった場合、存廃協議が一気に加速することになるでしょう。
加古川線の西脇市駅~谷川駅間の利用促進については、兵庫県や沿線自治体、JR西日本などで構成する「JR加古川線(西脇市ー谷川間)維持・利用促進ワーキングチーム」がこれまで継続的に協議し、取り組みを行っています。令和6年度にも7月16日に、加古川線の利用促進について協議がなされました。議事要旨(議事録)は以下のリンクからご覧ください。(ぜひ、全文を読んでみてください)
Microsoft Word - 0815 第1回JR加古川線WT会議議事要旨
議事要旨をみると、沿線自治体の首長は、イベント等を活用して利用促進を図り、加古川線を存続させていきたいというスタンスです。一方、JR西日本は非常に厳しい見方を示していることが読み取れます。JR西日本の発言をみてみましょう。
「加古川線リレーマルシェでは多くの方が動員されて、そこに行かれているのは事実であるが、翌日以降の利用は普段通りといったことが現実である。お出かけ、買い物、旅行、通学等、車を移動手段として使われているのが大半であるというのが、この沿線の実態ではないか」
「この路線は、鉄道というインフラ装置に対して、ご利用が余りにも少ないというところが問題だ」
「列車が走るところというのはバラストを敷いて、その上にレールを敷いて線路がある。さらに踏切、信号機、橋梁、駅舎と様々な施設があって、またそれも安全のために、日々、職員が定期的に点検をしたり、保守してメンテナンスをしている。それだけ維持に労力をかけながらも、ご利用が鉄道としては少なすぎる状況である」
上表をみても、他の近畿地方の輸送密度が低い路線と比較して輸送密度や収支率が突出して低いことが分かります。加古川線は電化路線であり、架線設備や地上の電気設備についての維持管理費用もかかるため、そのせいで収支率が上がらず、また金銭的にも人的にもコストが増大しているとみられます。このような背景もあり、JR西日本は加古川線の西脇市~谷川間について、早急に存廃協議(というより廃線に向けた動き)を進めたいという意向を明確にしてきています。
7月16日の協議の場では、JR西日本は沿線自治体に対してさらなる畳みかけをしています。
「現在展開中のアフターDCや加古川線100周年の取組、そして来年の大阪・関西万博などが、誘客機会の最大のチャンスというのであれば、そのチャンスを経てもなお、利用の増加に向けた勢いが認められない場合には、加古川線(西脇市~谷川)あり方議論の開始にぜひ応じていただきたいと切に願っている。いかがでしょうか?」
「一方で、先ほどから『万博』というキーワードが出ているが、来年4月から10月まで、大阪・関西万博が開催されるが、その閉幕時期において、加古川線の利用の増加に向けた勢いが認められない場合には、いわゆる存廃の前提を置かずに、地域にふさわしい公共交通のあり方議論を開始することに、西脇市、丹波市同市長がご同意いただけたと私は受け止めました」
沿線自治体は、「JRと一緒に競技しながらいろいろな取り組みをして加古川線を存続させたい」というスタンスを貫き、存廃議論についての話はかわす姿勢をとっていましたが、最終的には「万博閉幕時に利用増加が認められなかった場合は、存廃協議を開始する」ということで決着しました。議事要旨にやりとりも残っており、沿線自治体はこれ以上存廃協議について話をそらすことはできないでしょう。そのため、今回の加古川線の臨時列車増発と、谷川駅臨時停車の実証実験は、加古川線の存続のためのラストチャンスになるというわけです。
4.まとめと今後の展望
いかがでしたでしょうか。JR西日本は、加古川線の西脇市~谷川間については廃線にしたいという意向をはっきりと示しています。万博閉幕時に利用が増えていない場合は、存廃協議の場に沿線自治体は立たざるを得ないでしょう。
西脇市・丹波市は、「ひとまず、今回の実証実験期間に利用者が増えるよう頑張って取り組む」というスタンスを示しています。それも大事だとは思いますが、今後の作戦を考えるときにきているようにも思います。
もし鉄道を存続させる場合、沿線自治体は一定の費用負担を求められることになるでしょう。運行経費を補助するのか、はたまた上下分離方式を導入し、インフラ部分は自治体が費用を出して管理するのか。
鉄道を廃線にする場合、代替交通としてどういう形がふさわしいのか。廃線を受け入れる代わりに何か交換条件を出すのか(例えば、加古川~西脇市間の増便など)。
存続する場合、廃止する場合、どちらの場合においても今後の展開を予測し、沿線自治体が一方的に不利にならないよう、JR西日本と交渉する準備を今から始めておいても遅くはないだろうと考えます。
JR西日本から「最後通告」を出されてしまった加古川線。存続の芽は出るでしょうかー。