「応(まさ)に恨みは有るべからずに 何事ぞ 長(とこしえ)に別事に向いて円(まど)かなる」
別れの歌だ。
─月が人に恨み心などあるはずもなかろうに、どうしていつも人が別離に悲しんでいる時に限って満月なのだ。
(宮部みゆき、『桜ほうさら』より)
自分がこんな気持ちで満月を眺めたことはないけれど、でもこの気持ち、分かる気がします。
昨日の朝日新聞「折々のことば」には、いせひでこさんの、次の言葉が紹介されていました。
青空に、修復の可能性を残さないほどにまっすぐな飛行機雲を見ると、悲しくなる。
(いせひでこ、『旅する絵描き タブローの向こうへ』より)
いずれ欠けていく満月。いずれくずれていく飛行機雲。
宮部みゆきさんや、いせひでこさんの言葉に惹かれるのは、はかないものへの切なさがそこにあるからでしょうか。
同じ満月を歌った「この世をば我が世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思えば」という藤原道長の歌もありますが、その力強さよりも、私は切ない方が好きです。