この時代を精一杯生きる ─『日本人の誇り』(藤原正彦)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 過去の出来事を、当時の視点でなく、現代の視点で批判したり否定したりするのは無意味なことです。原始の時代から19世紀までの人類社会を、人間の平等すらなかったひどい時代だと否定してみても、何も生まれないのと同様です。

 ・・・人間はその時代のルールで精一杯生きるしかなく、未来のルールで生きる訳にはいきません。

 (藤原正彦、『日本人の誇り』より)

 

 歴史についての考え方は、いろいろな方が、それぞれの立場でおっしゃっていますので、私は言及しません。

 ただ、そのような難しい問題ではなく、自分のこれまでを振り返っても、例えば、

「子どもの頃は、つまらないことで泣いたり落ち込んだりしていたものだ。」

「あの頃自分を悩ませていたことなんて、今の自分からすれば、取るに足らないことだ。」

などと考えたりしますが、あの頃は、あの頃なりに必死であり、自分が抱えていた出来事も、当時の感覚で言えば、重大事件なのでした。そして、そのような昔の自分を否定してしまうと、自分のこれまでの人生の重みがなくなってしまうようにも感じます。

 先の読めない時代に生きる私たち。未来社会がどうなっているかを予測しながら生きることも大切ですが、まずは、今のルールの中で精一杯生きること。これまでの自分を大事にしながら。