『存在』という川崎洋さんの詩は魚の名前から始まる。<「魚」と言うな/シビレエイと言えブリと言え>。「樹木」というな。「鳥」というな・・・。
終わりの二行が重い。<「二人死亡」と言うな/太郎と花子が死んだと言え>。一人ひとりに、歩んできた人生があり、これから歩むはずだった人生がある。この二行を伝えるために、川崎さんは筆をとったのだろう。
(読売新聞、「編集手帳」(2017年3月29日)より)
今日の朝刊の1面には、台風19号により、亡くなられた方が74人と伝えられていました。でも、数字からは見えない思いがその背景にあります。
・・・2016年2月に父が亡くなってから、母はつえをついて歩くこともあった。「僕もおふくろも、お互い強情っぱりだった」。ここ数年は疎遠になり、ほとんど連絡を取らず、墓参りのために帰省しても顔を出さなかった。今年6月に戻ったときも、家の外から明かりがついているのを確認しただけ。「おふくろ、生きてるな」。それが「母の気配」を感じた最後だった。
(毎日新聞(2019年10月16日)より)
74人のご遺族やご友人一人ひとりに、こんなに悲しい思い、伝えきれなかった思いが残されていることをいたみ、心よりご冥福をお祈りいたします。