『海苔と卵と朝めし』。向田邦子さんの、食いしん坊エッセイ。取り上げられている料理は、この題名が表すとおり、ごく日常的なものがほとんどです。
例えば、こんな話。
17、8年前のクリスマスイブのこと、向田さんは、会社も、自分自身も、家族もうまくいっていませんでした。それでも、家族のために、小さなクリスマス・ケーキを買い、電車に乗り、帰途についていました。疲れた向田さんは、そのまま眠り込んでしまいました。
目を覚ますと、終点に近いせいか、乗客は酔っ払って眠っている2、3人だけ。ふと向かいの網棚を見ると、向田さんの手にしているケーキの5倍はありそうな、大きなクリスマス・ケーキの箱が。しかも、同じ店の包み紙。近くには誰もいません。明らかに置き忘れです。
一瞬、「取り替えようか・・・」と思ったときに、電車は駅に着き、向田さんは、網棚のケーキをそのままに降車しました。そして、人気のない暗いホームに立った向田さんは、遠ざかっていく電車を見送りながら、声を立てて笑ってしまいました。
サンタ・クロースだかキリスト様だか知らないが、神様も味なことをなさる。仕事も恋も家庭も、どれを取っても八方塞がりのオールドミスの、小さいクリスマス・ケーキを哀れんで、ちょっとした余興をしてみせて下すったのかも知れない。
ビールの酔いも手伝って、私は笑いながら、
「メリイ・クリスマス」
といってみた。不意に涙が溢れた。
(向田邦子、『海苔と卵と朝めし』より)
人に自慢できる料理でもなく、行列のできるお店のレポでもない、小さなクリスマス・ケーキの話。それでもここには向田さんの笑ってしまうような、そしてほろりとくるような思い出が込められています。何を食べたか、ではなく、誰との、どんな思い出を添えられているかが大事なんだと気付かされます。
さて、私の思い出の食卓は、こちら。

私の県のB級グルメ・「骨付鶏(ほねつきどり)」。
我が家の息子、娘の誕生日は、いつもこのB級グルメでお祝いをします。高級ディナーを食べに行くのでもなく、人を招くのでもない。毎年の、家族だけのささやかなお祝いです。
明日、9月30日は、娘の18回目の誕生日。
私とアメブロのつき合いも、この日をもって満1歳。
豪華なお祝いじゃないけれど、たいした記事でもないけれど、1年1年に、1日1日に、大切な思いが込められています。