はかないからこそ ─『桜ほうさら(上)』(宮部みゆき)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

「応(まさ)に恨みは有るべからずに 何事ぞ 長(とこしえ)に別事に向いて円(まど)かなる」

 別れの歌だ。

 ─月が人に恨み心などあるはずもなかろうに、どうしていつも人が別離に悲しんでいる時に限って満月なのだ。

 (宮部みゆき、『桜ほうさら』より)

 

 自分がこんな気持ちで満月を眺めたことはないけれど、でもこの気持ち、分かる気がします。

 

 昨日の朝日新聞「折々のことば」には、いせひでこさんの、次の言葉が紹介されていました。

 

 青空に、修復の可能性を残さないほどにまっすぐな飛行機雲を見ると、悲しくなる。

 (いせひでこ、『旅する絵描き タブローの向こうへ』より)

 

 いずれ欠けていく満月。いずれくずれていく飛行機雲。

 宮部みゆきさんや、いせひでこさんの言葉に惹かれるのは、はかないものへの切なさがそこにあるからでしょうか。

 同じ満月を歌った「この世をば我が世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思えば」という藤原道長の歌もありますが、その力強さよりも、私は切ない方が好きです。