■結婚したいけど、できない状況

ある日、
アルフレッド・アドラーのところに
40代の男性が来ました。

その男性は、
自分は親せきと結婚したいのだが
それを何とかしたい
、とのこと。

それを聞いたアドラー
次のように感じたそうです。

「親せきと結婚したいことは、
それが実際でも空想でも
一般的に異性を怖れていることを
示している。

近親相姦は他者の血が混じることに
勇気を使うという共通認識の
対極にあるからである。」


そう感じたアドラー
異性についての悲しい体験を
注意深く聞き続けます。

すると、
彼は第一子であり、
弟が誕生した際に
親の寵愛をすべて弟に
持って行かれた、という
喪失感を感じた経験があること、

そして、
母親が弟を厚遇して
彼を軽く扱ったために
母親に拒絶されたと感じた経験
があることがわかりました。

幼い頃に女性に冷遇された経験から
その後も女性とのやりとりに
課題を抱えてきて、
その課題を今まで
避け続けてきたのでしょう。

アドラーは、これについて
彼は生きている間は
異性に近づかないという警告を
自分に与えている
、と言っています。

やがて彼が
社会的に結婚するのが
当然の年齢となり、
結婚しないと社会的に孤立する怖れから
なんとか結婚したいのですが、
相手が普通の女性だと本当に
結婚できてしまうので困ります。

「結婚できるけど、しない」
となると都合が悪い
のです。

だから、
「結婚したいけど、できない」
という状況をととのえないと
まわりの人に自分をよく
見せることができないわけです。

そこで思いついたのが
「親せきと結婚すること」です。

親せきと結婚したいと言えば
親も周囲も反対するでしょう。

そうなれば堂々と自分は
「結婚したいけど、できない」
という状況を示すことが
できるようになり好都合です。

「異性には近づきたくない」と
「結婚したいけど、できない」の状況の
どちらもが同時に実現できる
わけです。

最後にアドラー
このときの自分の役割について
次のように示して、
この件の説明を終えています。

「私の役割は、
彼に親せきと結婚しないよう助言し、
親せきと結婚したいと感じるのは
神経症の症状であると示す
賢いカウンセラーだった。」


■二律背反の欲に気づける自分

二律背反する欲求があると
事態が複雑になる傾向があります。

例えば、
「ありのままの自分でいたい」と
「他者によく見られたい」とか、

「おなか一杯食べたい」と
「ダイエット成功させたい」とか、

「よい仕事をしたい」と
「仕事で疲れたくない」とか、

「海外旅行したい」と
「出費をなるべく抑えたい」とか、

「恋人とずっと一緒にいたい」と
「一人でやすらぐ時間が欲しい」とか。

そうしてどちらも同時に
実現させようとすると
どうしても無理が生じます。

その「無理」という溝を
埋めて平らにすることに
よく利用されるのが、
神経症(心の病)です。

「ありのままの自分でいたい」が
強くなりすぎると
傍若無人な振る舞いを
する人になってしまいます。

「他者によく見られたい、けど、
ありのままの自分でしかいられない」
という状況をととのえるなら、
自分の衝動を抑える方法がなくて
どうすることもできない

ということにしてしまえば
溝を埋められます。

逆に「他者によく見られたい」が
強くなりすぎるとすごく消極的な
人になります。

ありのままの自分でいたい、けど、
他者の目が気になって
どうしてもできないように
心に鎖がかかっているのです

ということにしてしまえば
溝を埋められます。

アドラー
こうして神経症的な方法で
溝を埋めることを
「生きるのに役に立たない道」
と言っています。

「生きるのに役に立たない道」は
強度が強まると、
暴力とか自傷とか犯罪とかに
なる道です。

なので、この道を使うことは
おすすめできません。

おすすめなのは
「生きるのに役に立つ道」
使うことです。

生きるのに役に立つ道は
溝を埋める方法を
他者貢献の活動によって
貢献感を得る方法
にすることです。

「ありのままの自分でいたい」と
「他者によく見られたい」の中にある
他者貢献を見つけて
実際に貢献活動をしてみることです。

そこで貢献感を得られたときに
溝は埋まっていきます。

例えば、
ありのままの自分でいると
誰がうれしいのか。

他者によく見られたいことは
どうしたら実現するのか、
実現すると誰が喜ぶのか。

こんな感じで見ていくことです。

他者貢献をするためには
自分の関心を他者の関心事に
向けること
です。

すなわち、
自分の利益や損失ばかりを
気にする心ではなく、
他者や自分の属する共同体の
利益や損失は何だろう?と
気にする心になることです。

観察して
見つけて
やってみたら
ダメだった、ということは
よくあります。

だからまずは
よく観察することだけを始めて
すぐに実行しないこと
です。

よく観察するうちに
「なるほど、先日はAと見えたけど
今はBの方が効果的に見えるぞ。」
なんて具体的・現実的になっていきます。

そうしてそれが
確信に至ったときに
10%くらいの達成率を目指して
やってみることで
今までとの違いを生み出せます。

もし二律背反する欲求を見つけたら
それはしあわせを増やせる好機です。

首が回らなくなるような
切羽詰まるような
横車を押すような
感覚になったら
「生きるのに役立たない道」を
使っているかもしれません。

意識して
「生きるのに役立つ道」を使う、
すなわち、そこに他者貢献を
見出そうとしてみること
です。

その他者には
内なる自分も入ります。





お読みいただき、
ありがとうございます。

プロコーチ10年目、常楽でした。



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